秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語   作:メトロポリスパパ

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函館から上陸した知波単とアンツィオは陸路でYB地点に向かっていた。
アンツィオのトラックが国道を走っていると・・・。


【To the land of promise】①

午前二時・・・。

 

聖グロリアーナとサンダース、黒森峰、プラウダ、継続は上陸を果たし、YB地点にて分散待機していた。

 

聖グロリアーナは野営の準備を終えた所である。

ローズヒップはクルセイダー隊隊員を集めて指示を出していた。

 

「集まりましたでございますわね。ダージリン様からの指示でございますが。バニラ、申し訳ありませんが継続が参戦するそうなので、貴女達もサポートへまわっていただきますわ。クランベリー、ラベンダー、そしてバニラは各校の待機場所へ荷物を届けてきて頂戴でございますのよ」

 

「かしこまりました」

 

車長三人は乗員と共に三台のトラックに乗り込み各校の待機場所へ向かって行った。

 

知波単学園K2機関車

 

知波単学園も上陸を果たし降車地点に向けて全速力で移動中であった。

うつらうつらしている西に誰かが呼びかける。

 

「西隊長!」

 

西はビクッとして顔を上げる。

 

「おお・・・玉田か、すまない。どうした?」

 

「は!現在の我々の進軍状況でありますが、1時間程遅れている状況であります。聖グロより進軍状況の確認の連絡がありましたので、そうお伝え致しました」

 

「そうか・・・ギリギリだな・・・玉田、機関士に出来るだけ急いでくれと伝えてもらえるか?頑張ってもらっているのだろうが、よろしく頼む」

 

「は!かしこまりました!」

 

K2機関車機関室

 

機関車道の機関士、長野原が受話器に向かって怒鳴るように応答している。

長野原が受話器を置き機関助手に指示を出す。

 

「相生!もっと蒸気を上げんか!」

 

「うおー!知波単魂ーーーー!」

 

機関助手の相生は気合の声を上げながら窯に石炭を放り込んでいた。

 

 

アンツィオ高校 フィアット Spa38

 

街灯も無い真っ暗な国道をトコトコと走っていた。

月は雲に隠れて辺りは漆黒の闇が覆っている。

 

「ドゥーチェ・・・真っ暗ですね・・・」

 

「そ・・・そうだな・・・・」

 

余りの暗さにアンチョビとカルパッチョは不安な気持ちになっていた。

 

「ちょっと、ライト消してみましょうか?」

 

ぺパロ二がヘッドライトを消すと、まるで目を瞑ったような真っ黒い暗闇である。

 

「ひやー!」

 

「うお!ライトをつけろ!」

 

ペパロ二はヘラヘラ笑いながらライトを点ける。

 

「いや~すんげー暗かったっすね~姐さん。背筋がゾクゾクしますね」

 

アンチョビはぺパロ二の肩をガシッっと掴み言う。

 

「おい!そういうのはやめろ・・・」

 

アンチョビの目がマジである。

 

「ドゥーチェ、後ろから車が付いて来てますよ。地元の車じゃないでしょうか」

 

カルパッチョがすこし安心したように言った。

 

「よし、心強い。先行させて付いて行こう」

 

ハザードを点滅させて左に寄り後方車に道を譲ると、その車はバビューンと右側を追い抜きあっという間に視界から消えそうになる。

 

「速えー!」

 

「おい~!置いて行くなよー!」

 

「あっという間に置いて行かれましたね・・・」

 

「ぺパロ二!追いかけろ!」

 

「いや無理っすー!もう全開っすよ姐さん!燃料もあんま無いですし・・・」

 

「これだったら後ろに付いていてもらったほうが良かったですね・・・」

 

また辺りは漆黒に包まれる。

不安な気持ちになりながら走行していると遠くのほうで誰かがカンテラをグルグルと回しているのが見えた。

 

「あれ、何でしょうね姐さん。なんか自分達に向けてるみたいっすけど・・・」

 

非常に不安を掻き立てられるシチュエーションである。

 

「ぺパロ二、止まらずに確認するようにゆっくり近づけ・・・」

 

「了解っす」

 

トラックを徐行させ、ゆっくり確認しながら近づくと女性が数人、手を振りながらカンテラを回している。

サンダースと似たようなタンクジャケットを着ているが少し違う感じである。

人である事を確認してホッとしたアンチョビはトラックを止めさせる。

ぺパロ二が首を捻りながら言う。

 

「なんでしょうね?あいつら」

 

その女性の内の一人が、道路を横断しこちらに向かって走ってくる。

 

ぺパロ二がウインドウを開けると。

 

「突然御停めして申し訳ありません。とりあえずあの広場へ」

 

誘導に従いトラックを広場に停めると、その横に整列するように彼女達が並ぶ。

アンツィオの三人はトラックから降りると、その内の二人が一歩前に出て話し出す。

 

「突然御停めして申し訳ない、アンツィオ高校のドゥーチェアンチョビと副隊長のぺパロ二さんとカルパッチョさんですね?我々はメイプル高校戦車道の者です。私は隊長のルーニー、そして隣に居るのが副隊長のトゥーニーです」

 

「初めまして。副隊長のトゥーニーです」

 

小声でぺパロ二が言う。

 

「こいつら、私達になんの用なんですかね?」

 

「さあな、ま、取って食われる訳ではないだろう」

 

アンチョビはそう言い、一歩前に出て話し出す。

 

「そうだ、私がアンツィオ高校戦車道隊長ドゥーチェアンチョビだ。メイプル高校のルーニーとやら、一体如何様な用事で我々を引き留めたのだ?」

 

ルーニーはアンチョビの目を見ながら話し出す。

 

「あの無線・・・我々も聞いていました。恐らく、他の高校もみんな聞いていたと思います」

 

「あの無線?聖グロの秘匿無線の事か?」

 

「はい、同盟校のサンダースよりメールが送られて来たのを確認し傍受していました。今回の大洗の一件で、私はプライドを文科省に踏みにじられたような、そんな気になりました。私達のやっている戦車道はそんな軽い物なのか?と・・・。そんな中、無線で各校が参戦を表明していくのを聞き、私は歓喜しました。そうだ!私達の戦車道は役人達が思っているようなそんな軽い物ではないと!」

 

思いのたけをぶつけるルーニーの話を聞き、腕組みをしてニヤリとするアンチョビ。

ぺパロ二、カルパッチョも互いを見てニヤッとする。

ルーニーが話を続ける。

 

「しかし・・・我々メイプル高校は、今年の大会にも出られないような弱小校・・・それに参戦を表明した高校は機材、人、それぞれを鑑みて現在最強の高校選抜だと思います。我々はそんな最強の布陣に参戦を表明する勇気も無く・・・それでも何かお役に立ちたいと、せめて補給だけでもと思い、YB地点に隊員を派遣しお手伝いをさせて頂いております。アンツィオと知波単は現在移動中との事で、ここで待たせていただきました」

 

話を聞いたアンチョビは表情が柔らかくなる。

 

「そうだったのか・・・ルーニー、その気持ちしかと受け止めた。補給も有り難く頂くぞ」

 

「分かりました、ありがとうございますアンチョビさん。トラックの燃料はガソリンでよろしいですか?CV33も

ガソリンでしょうか?」

 

「ああ、両方ガソリンだ」

 

「トゥーニー、トラックにガソリンの補給だ。後、トラックに載せられるだけガソリンを載せて差し上げろ」

 

「了解しました」

 

トゥーニーは隊員達と共に作業に取り掛かる。

ルーニーはアンチョビに質問をする。

 

「アンチョビさん、お聞きしたい事が有るのですがよろしいですか?」

 

「なんだ?言ってみてくれ」

 

「大洗の隊長、西住みほさんとは一体どんな方なんですか?たしかに今回の大洗の件で我々は戦車道をバカにされた気になりました。しかし、それだけでこれだけの高校が集まるものなのか・・・。西住みほさんの、あの戦い・・・車両も我々と大差ないような無名の大洗女子学園が、サンダース、アンツィオ、プラウダ、黒森峰とぶつかり勝ち、優勝まで導いた。まさに軍神と呼べるような・・・少し畏怖も感じる、そんな人に見えるのですが・・・」

 

「フフフ・・・はははは!それは違うなルーニー」

 

笑い出したアンチョビにきょとんとするルーニー。

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ、あいつらは、良い奴らだ。西住みほも仲間思いな良い奴だぞ。一度戦えば分かる。我々も大洗との試合で僅差で負けてしまったが、とてもいい試合だった。だから・・・我々はここに居る」

 

ぺパロ二、カルパッチョも頷く。

肩の力が抜けたのか表情が柔らかくなるルーニー。

 

「そうなんですね・・・あなた達三人を見ていると、西住みほさんがどんな方なのか分かった気がします」

 

「そうか?機会が有れば一度、大洗と試合をしてみるといい。すぐに分かる筈だ、あいつらとの試合は楽しいとな。本気で熱くなれる。そして、うちともな」

 

「是非、大洗と試合をしてみたいです!もちろんアンツィオとも・・・しかし・・・」

 

「ああ、分かっている。ルーニー、見ていてくれ。この大洗対大学選抜の試合、絶対に負けない、いや、勝つ!」

 

「はい、この試合、この目に焼け付けさせていただきます!」

 

補給が終わり、トラックの横に並ぶメイプル高校の隊員とアンツィオの三人。

 

「ルーニー、ありがとう。おかげで助かった。実を言うと、我々も予算がカツカツでな、燃料もギリギリだったんだ、これで目一杯戦える」

 

「こちらこそ、お役に立てて光栄です。御武運を」

 

隊長の二人は握手を交わしアンツィオ流の抱擁をする。

 

「必ず応援に行きますのでがんばってください!」

 

「大学選抜なんかぶっ潰してやるっす!」

 

「ありがとうございました。大洗に私の友達が居るので必ず伝えます」

 

副隊長のトゥーニーもぺパロ二、カルパッチョと握手と抱擁をした。

 

「あ、そうだ!忘れていました。聖グロより預かり物が有ります」

 

トゥーニーが紙袋を持って来てアンチョビに手渡した。

アンチョビが袋を開けると、そこには大洗の制服が入っていた。

 

「お?大洗の制服だな。どれどれ?」

 

上着をあてがってみるアンチョビ。

 

「どうだ?似合うか?」

 

「あひゃひゃひゃ!なんかやらっしいっす!」

 

「なんだとぺパロ二!おまえも合わせてみろ!」

 

「どうっすか?」

 

「ぷっふ!」

 

「ぷっふ!ってなんなんすか?!」

 

「はははは」

 

その様子をみて笑うカルパッチョとメイプルの面々であった。

アンツィオの三人はトラックに乗り込み、メイプル高校の隊員が見送る中、YB地点の待機場所へ向かい出発した。

ぺパロ二が話し出す。

 

「いい奴らでしたね、あいつら」

 

「ああ、そうだな」

 

「メイプルシロップも沢山頂きました」

 

「そうか、クアトロフォルマッジにかけると美味いんだこれが」

 

「食わしてやりたいっすね、あいつらに・・・」

 

「ああ、大洗のやつらにも、メイプルのやつらにもな・・・急ぐぞぺパロ二」

 

「了解っす!」

 

雲がはれ、月明かりが照らし出した国道をひた走るフィアットであった。




次回
【To the land of promise】②
お楽しみに。
ペースをあげます!

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