秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
継続高校学園艦
アキとミッコは甲板の柵にもたれ掛かりながら海を見ていた。
遠くには佐渡ヶ島が見える。
「アキー!」
アキが振り向くと戦車道隊員のヨウコであった。
酷く疲れた表情でアキの元にやって来たヨウコ。
「はぁー、疲れた〜。アキ、隊長はどこに行ったか知らない?」
アキが答える。
「え?いつもの橋の上には居ないの?」
「居なかったよ。戦車倉庫やテントも見に行ったんだけど居なくてさ」
アキはミッコを見るが、ミッコは首を横に振る。
アキはすまなそうに答える。
「ごめんヨウコ、私達も分からないよ」
ヨウコは溜め息を吐き、肩をすくめながら言う。
「まあ、いつもの事なんだけどさ、携帯電話位持ってほしいよな〜。まあ船はあるから外には行ってないだろうから、その内ヒョコッと現れるさ」
アキは苦笑いをしながらヨウコに聞いた。
「ははは・・・ところでヨウコ、ミカに何の用なの?」
「ああ、聖グロが電信で暗号文を送ってきたんだけど、サンダースからも隊長宛にメールで同じ文が送られて来たんだよね〜。サンダースのは多分無線の周波数と秘匿コードらしい数字も書いてあるんだけど、意味がわかんなくてさ。どうしようかと思ってね」
「そうなんだ、暗号文はなんて書いてあったの?」
「これなんだけどさ」
ヨウコは紙切れをポケットから取り出してアキに渡した。
ミッコもアキの後ろから紙切れを覗き込む。
「ヒガシノカゼアメオオアライノテンキセイロウナレドモナミタカシ・・・なにこれ?」
「だろ?訳わかんなくてさ。もし隊長に会ったらさ聞いといてくんない?その紙は持ってていいから」
「うん、わかった」
そう言うとヨウコはもと来た道を戻って行った。
アキとミッコは紙切れを見ながら首をひねり考える。
「ねえミッコ、何かわかる?」
「いや〜・・・大洗としか・・・」
アキはハッとする。
「大洗って、あの大洗の事じゃないかな?大洗女子学園の」
ミッコも、お〜、と頷く。
アキが続けて話す。
「無線の周波数とコードも書いてあるから連絡してこいって事じゃないかな?・・・ねえミッコ、今から無線室に行かない?」
ミッコは驚きながら
「え!でもミカに聞かなくていいの?」
「連絡がつかないミカが悪いんだよ。いこ!」
アキはミッコの手を引っ張り無線室に向かった。
継続高校学園艦無線室
アキは無線機の周波数を合わせコードを入力している。
ミッコは心配そうに言った。
「アキ、ヤバイって。ミカに聞いた方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよ。どんな話か聞いてみるだけだから」
アキはそう言うとPTTボタンを押して話し出した。
「こちら継続高校戦車道 隊員のアキです。応答願います」
「了解、こちら聖グロリアーナ無線室。アキ様ですね、オレンジぺコ様にお繋ぎいたしますのでしばらくお待ちください」
ミッコはハラハラしながらアキを見るが、アキはワクワクしているように見えた。
「お待たせ致しました。初めまして、オレンジペコです。継続高校のアキ様ですね?お噂はかねがね聞いております」
「こちらこそ初めまして、オレンジペコさん。あの、電信を見て連絡したんですけど・・・大洗に何かあったんですか?」
「はい・・・先日、大洗女子学園の試合が決定しました。この試合に勝てば今度こそ大洗の廃校は撤回されます」
アキとミッコは顔を見合わせる。
「オレンジペコさん、対戦相手は何処ですか?」
「対戦相手は、大学選抜です・・・車両数は30両」
え?!と驚くミッコとアキ。
アキは恐る恐る聞いてみる。
「あの、オレンジペコさん。大洗は確か8両しか無かったと思うんだけど・・・」
「はい、大洗は文科省より30対8の試合を取り付け、これを受けました。しかしこれは大洗には余りにも不利です。私達は文科省の理不尽な廃校宣言と、この試合に納得する事はできません。ですので高校側からも有志を呼び掛け大洗に増援を出す事に致しました。既に黒森峰、聖グロリアーナ、サンダース、プラウダ、知波単、アンツィオが参戦を表明しています」
ミッコはあたふたしながらアキに言う。
「アキ、やばいって!これ受けなきゃいけない感じになってるよ!」
アキはしばし間を置きPTTボタンを握る。
「オレンジペコさん、実はこの事はうちの隊長にはまだ話してなくて、私が勝手に連絡したの。隊長が今行方不明で・・・でも、探し出して聞いてみるから少し、待ってもらえませんか?」
少し間が空きペコが答える。
「そうですか・・・はい、構いません。強制ではありませんので。ご連絡いただけただけでも、私は嬉しいです。本日正午よりダージリン様より今回の作戦に関してのブリーフィングを行います。傍受していただけるだけでも構いませんのでお待ちしております。それと、参戦に必要な書類はもしもの為にメールで送らせていただきますね。後最後に、この事は出来るだけ内密にお願い致します」
「うん、わかったよ!行けるかどうかは分からないけど・・・・ミカに必ず伝えるから!オレンジペコさん」
「はい、ありがとうございます。そちらの隊長のミカ様は以前、黒森峰の頃のみほさんと死闘と言えるような試合を演じたと聞いております。私個人としては是非参加していただきたいのですが・・・・いえ、これは私の我が儘ですね・・・申し訳ありません。ではアキさん、お待ちしておりますね」
「了解」
アキはマイクを置き、時計を見る・・・9時50分
アキはミッコに言う。
「もう二時間しかない・・・ミッコ!ミカを探すよ!二手に分かれよう!」
「え!探すって、どこ探すのさ?!」
「そんなの自分で考えて!」
そう言うと無線室の出口で二人は左右に分かれて駆け出して行った。
継続高校学園艦 艦橋展望台
チューリップハットを被り、その上からヘッドセットを付けた女性が手すりに座りカンテレを奏でている。
足元には小さなアンテナの付いた箱が有り、そこから線が出ていてヘッドセットにつながっている。
その女性は、晴れ渡った空を見上げポツリと言った。
「風の・・・流れが変わった・・・アキ、大げさに考えすぎないよう、気をつけることだよ」
チューリップハットを被った女性、継続高校戦車道隊長 ミカはそう言うと手すりを降り、箱を抱えて展望台を降りて行った。
アキとミッコは他の戦車道隊員にも声を掛け、ほうぼうを探し回っているがミカは見つからないでいた。
「ふ~・・・アキ、見つかった?」
「だめ、見つからないよ・・・もう11時だよ。どうしよう・・・」
「おーーーい!」
大きな声で呼ばれたので振り向くとヨウコであった。
「今、BT-42が左舷側のクレーンの方に向かって行ったのを見たって人が居たぞ!多分ユルモに載せるんじゃないか?」
「ヨウコそれ本当?!近いね!ありがとう!行ってみる!」
アキとミッコは二人で駆けて行った。
左舷側クレーンに到着する二人。
クレーンの先にはBTを乗せたユルモが吊るされていた。
アキはクレーンの操作室に目をやると、そこにはミカが居た。
ミカはニッコリ微笑みアキを見つめる。
「あー!居たー!」
二人は階段を駆け上がり操作室に入ると、アキは半分怒ったように言った。
「ミカ!探したんだよ!」
ミカは微笑みながら言う。
「どうしたんだいアキ?」
アキは今までの出来事を説明した。
ミカはそれを聞いてゆっくりとカンテレを奏でながら話し出した。
「それで、アキはどうしたいんだい?」
アキはハッとする。
「あれ?わたし、どうしたいんだろう?」
「大切なのは、自分のしたいことを自分で知ってるってことだよ」
アキは自問自答するようにミカに言った。
「わたしは、興味本位で無線連絡して大洗の事を知ったけど・・・その時、一緒に戦いたいと思って・・・でも・・・なんて言うのかな?もっと大事な・・・守りたいって言うか・・・もう!わかんないよ!」
ミカはサッキヤルヴェン・ポルッカを弾きながら諭すように言った。
「もし、大洗がこの試合に勝ったら、他の学校が廃校になるだけじゃないのかな?そして、もし大洗が負けたら、アキはどうするんだい?」
「う・・・なんでそんな事いうの?ミ、ミカはどうするの?参戦するの?」
ミカはふふふと笑い言った。
「さあ、行こうか。風は北に吹いているよ」
「えー!どうするの?!参戦するの?しないの?」
「運命のドアも玄関のドアも開ける鍵穴は小さいものだよ」
アキはプンスカしながら言った。
「もう!わかんないよ!メールだけ印刷してくるからすこし待ってて!」
アキはメールを印刷して戻って来た。
ミカ、アキ、ミッコはユルモに乗り込み、ヨウコに海原に降ろしてもらい北に向けて旅立った。
次回
【Seven Stars】
よろしくお願いします。