秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
大洗の試合を知り何を思う。
アンツィオ高校学園艦
寮の自室で机に向かい自習をしている戦車道隊長のアンチョビ。
そこへ携帯電話に着信が入り、画面を見る。
電話の主はカルパッチョであった。
「アンチョビだ。どうした?カルパッチョ」
「ドゥーチェ・・・お知らせしたい事が」
また様子がおかしいな・・・。
アンチョビはそう思いながら聞く。
「どうした?言ってみろ」
「はい・・・大洗の試合が決定したと、先程たかちゃんから・・・」
「なに!試合だと?!どういうことだ?」
「この試合に勝てば、今度は間違いなく廃校は撤回されるそうです・・・」
「マジか!!やったじゃないか!」
しかし・・・どうもカルパッチョに元気が無い。
「どうした?カルパッチョ。何かまだあるのか?」
「はい・・・実は、その試合の対戦相手なのですが・・・大学選抜だそうで、車両数は30両だと・・・」
「な!!・・・30両だと?!両軍合わせてではなく、30両づつか?!」
「・・・はい」
大洗の戦車は8両・・・30対8・・・いくらフラッグ戦と言えど30対8は無謀すぎる。
しかも相手は大学選抜・・・。
「カルパッチョ、それは誰が決めたんだ?」
「はい、角谷生徒会長さんが文科省と取り決めてきたそうで、文科省の提示したのがこの試合だそうです・・・」
大きく息を吐き、間を置きアンチョビが話し出す。
「大洗としては、どんな無茶な提示でも飲まなければいけないだろう、廃校が懸かっているからな・・・」
「しかし!これはあんまりです!役人の人たちはそこまでして大洗を潰したいのですか?!」
珍しく声を荒げるカルパッチョであるが、無理も無い、親友が大洗に居るのだから・・・。
だが、それを優しくアンチョビが諭す。
「落ち着けカルパッチョ、この提示を文科省から引き出した杏は流石としか言いようがない。これが無ければとっくに大洗は廃校だ」
「そう・・・ですが・・・」
アンチョビはしばし考えた後、カルパッチョに言う。
「カルパッチョ、明日8時に隊長室に来い。ぺパロ二にも来るように伝えろ」
「は、はい・・・しかし、なぜ・・・」
「いいから来い、分かったな」
「はい・・・」
電話を切ったアンチョビはすぐに別の誰かに電話を掛けた。
トゥルルル、トゥルルル
「よぉ~チョビ子ぉ。おひさしぶりい〜」
「チョビ子と呼ぶなと言ってるだろ!アンチョビだ!」
電話の相手は大洗女子学園生徒会長 角谷杏であった。
アンチョビから話を切り出す。
「カルパッチョから聞いた。杏、大洗の試合が決定したそうだな」
杏は間を置き答える。
「ああ、決まった」
「どうなんだ、勝てる見込みはあるのか?」
「・・・どうだろうねぇ・・・でも、このまま黙って廃校になる訳にはいかない・・・。無理な戦いという事は分かっている。だが、必ず勝って、みんなで大洗に・・・学園艦に帰ろうって誓ったんだ」
「そうか・・・でも、今一番きついのは西住なんじゃないのか?」
「・・・・・・・・すまないと思ってる。西住ちゃんが居なかったらとっくの昔に大洗は廃校だもんね。そしてまた・・・」
アンチョビは優しく言う。
「ああ、西住はそんな事微塵も思っていないだろうがな。でも負担になっているのは事実だと思うぞ。フォローは忘れないでやってくれ」
「うん・・・わかった」
しばしの沈黙の後・・・アンチョビが切り出した。
「・・・我々もこの試合に参戦する事は出来ないのか?他の高校に援軍を頼むとかあるんじゃないのか?」
「・・・ありがとうチョビ子・・・でもこれは大洗の試合だから・・・他に迷惑を掛ける訳にはいかない。試合自体が無効になってしまうかもしれないし・・・」
アンチョビは大きく息を吐き言った。
「そうか・・・往年の杏チョビコンビ復活だと思ったんだがな・・・」
「ははは・・・懐かしい話だな~チョビ子ぉ」
「チョビ子と呼ぶな!」
「ありがとね・・・千代美」
「お、おう。応援しているからな!絶対に勝てよ!」
「ああ」
アンチョビは電話を切り、俯き、何かを考えていた・・・。
翌日
隊長室に集まったアンチョビ、カルパッチョ、ぺパロ二。
ぺパロ二は今にも飛び出していきそうな勢いでアンチョビに言う。
「姐さん!カチこんでやりましょうよ!参戦出来るか出来ないかは行けば分かるじゃないっすか!」
カルパッチョも珍しくぺパロ二に同意する。
「そうです!私達も行きましょう!」
アンチョビは二人を制止する。
「待て!落ち着け!何か方法が有る筈だ。それを考えようと集まったんじゃないか!」
アンチョビはパソコンを立ち上げる。
そこへサンダースからメールが来ているのに気づきメールを開くアンチョビ。
「・・・おい・・・これ・・・」
カルパッチョ、ぺパロ二も、モニターをのぞき込む。
「ヒガシノカゼアメオオアライノテンキセイロウナレドモナミタカシ・・・・なんすかこれ?」
首をひねるぺパロ二、そして手を顎に置き考え込むカルパッチョ。
アンチョビも腕を組み考え込む。
カルパッチョが何か気付いたようだ。
「ドゥーチェ・・・この下の数字は無線の周波数と秘匿コードです。上の暗号文は大洗に関する事、もしかしてサンダースも同じ事を考えているのでは?」
ぺパロ二はポカーンとしている。
アンチョビは頷き言う。
「そうだな!あいつらなら情報を持っているかもしれないな!カルパッチョ、無線部の奴らに連絡しろ」
アンツィオ高校無線部 部室
無線部の生徒がブツクサ言いながら無線の準備をしていた。
ぺパロ二が無線部員をたたき起こしに行き、部室を開けさせたのだ。
「千代美さ~ん、準備出来ましたよ~」
「アンチョビと呼べと言ってるだろ!早朝からすまなかったな。これ、うちの鉄板ナポリタンのタダ券だ。とっといてくれ」
「え?マジで?いいの?ありがとね~。終わったらまた呼んでね~」
無線部員は券を受け取り退室した。
アンチョビは席に座り、PTTボタンを押した。
「こちら、アンツィオ高校戦車道隊長 ドゥーチェアンチョビだ。応答願う」
「了解、こちら聖グロリアーナ女学院無線室、アンチョビ様ですね?オレンジペコ様にお繋ぎ致します」
「??・・・待て!サンダースじゃないのか?!」
「はい、聖グロリアーナですが・・・」
アンチョビ、カルパッチョ、ぺパロ二は顔を合わせて首をひねるが・・・。
「ん、まあいい。オレンジペコを呼んでくれ」
「了解いたしました」
「お待たせいたしました、オレンジペコです。ご連絡ありがとうございます。この無線を使っているという事は、電信を見て頂けたのですね?」
アンチョビは左右に居るカルパッチョとぺパロ二を見るが、二人は視線を逸らした・・・。
「え、え~と~。サンダースからメールが来ていたからサンダースだと思っていたのだが・・・電信の事は知らん。だが、大洗の事に付いて情報が有るんじゃないのか?」
「そうですか~・・・そうですよね~・・・いえ、良いんです。はい、実は大洗の試合が決定いたしました!」
「それは知っている!」
「えーーーーー!」
驚くオレンジペコ。
「なぜ知っているのですか?まだ広報もされていない筈なのですが・・・」
勝ち誇ったようにアンチョビは言う。
「我がアンツィオの情報収集力を侮るなよ!こんなのはパスタを茹でるより簡単だ!」
カルパッチョは、ワタシワタシと自分を指差すが無視するアンチョビ。
オレンジペコは、それならばと話し出す。
「流石です!では、この試合、大洗に不利なのもご存じなのでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。もしかしてお前ら、援軍を出そうとしているのでは無いのか?」
「そうです!すごい!そこまでご存じなのですね!では話が早いですね。この試合、黒森峰、聖グロリアーナ、サンダース、知波単、プラウダが参戦を決定しています」
今度はアンチョビが驚く。
カルパッチョとぺパロ二は抱き着いて喜んでいる。
「なんだと!そんなにも・・・しかし、簡単に参戦出来るものなのか?下手したら門前払いか試合自体が無効になってしまうのではないか?」
「はい、それについて後ほど正午よりダージリン様からの説明と、作戦のブリーフィングを行います。アンチョビ様・・・」
アンチョビはニヤッとしながら言った。
「すでに覚悟は出来ている!我々アンツィオも参戦するぞ!」
「了解いたしました!ありがとうございます!絶対勝ちましょう!ちなみに・・・この作戦は極秘でお願いいたします、大洗にもです」
「ああ、わかった」
「では、失礼いたします」
「了解」
アンチョビは、ふう、と息を吐き立ち上がり後ろを振り向く。
カルパッチョがスマホで何かしようとしていた。
「うわーーー!」
アンチョビはカルパッチョからスマホを取り上げる。
「カルパッチョ!今、たかちゃんにLINEしようとしただろ!大洗にも内緒だと言っていただろう?!」
カルパッチョはハッとして頭を下げる。
「すいませんドゥーチェ・・・嬉しくてつい」
「分かればいい・・・おい・・・ぺパロ二は・・・?」
「さっき、走って出て行きましたけど・・・」
「なぁーーーーにぃーーーー?!今すぐあいつを止めるんだ!」
「は、はいー!」
二人はぺパロ二を止める為、駆け足で部屋を飛び出していった。
次回
【継続・ウォー】
よろしくお願いします。