秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
(前話の予告を変更致しました。ごめんなさい。)
熊本県 西住邸
夕方。
西住まほは自室で何をするでも無く、ただ机に向かっていた。
母の西住しほは、先日から蝶野亜美と連れ立ち東京の文科省へ行っている。
今、文科省と戦車道を結びつける物は・・・。
コンコン
そこへ扉をノックする音が。
「まほお嬢様、家元様からお電話が入っております」
家政婦の菊代であった。
「はい、分かりました」
まほは返事をして電話機の元へ向かった。
懐かしい感じのする黒電話の受話器を持ち、電話に出た。
「代わりました、まほです」
「しほです。特に変わった事は有りましたか?」
「いいえ、特にありません」
「そう・・・まほ」
しほの語気が少し変わったのを感じるまほ。
「はい、お母様」
「文科省にて大洗と大学強化選手の試合をする事が決定しました」
「・・・な!!」
余りにもサラッと言われた言葉にまほは驚く。
しかし、しほは淡々と話しを続ける。
「大洗が、この試合に勝てば廃校の件は撤回されます。文科省、並びに戦車道連盟、大洗女子学園のサイン入りの書類を作成し、確約を取り付けました」
まほは、色々な事が頭を駆け巡っていた。
「まほ」
「は、はい・・・」
「大学強化選手との試合という事は、大洗は30両の車両に対して8両で臨む事になります。私は先程、大学戦車道を束ねる島田流家元にお会いして来ました」
「はい・・・」
「そこで、残り22両の補填の了承を頂きました。しかし、これは大洗の試合。なので試合の参加者には大洗へ転校してもらいます。既に大洗女子学園学園長並びに戦車道連盟、島田流家元へ承諾を貰い、この試合に関する転校と戦車の持ち込みは無条件受理されます」
「はい」
「ただし、文科省と大洗の戦車道隊員には、この事は内密にしてあります」
まほは不思議に思い聞く?
「それは、どういう事なのでしょうか?」
「文科省が知れば、試合開始前にルールが変更されるかもしれません。本来は大洗が8両という前提での了承です。ただし、試合自体は対戦相手、つまり島田流が了承すれば試合は成立します。大洗へは、情報漏洩の防止と、単に知らせる必要が無い。それだけです」
「そう・・・ですか」
まほは薄々感じ始めていた。
《これは・・・代理戦争・・・》
「書類や日程、場所は既にまほのパソコンにメールで送りましたから確認なさい。編成はまほに一任します。島田流を粉砕しなさい、そして来年、黒森峰が大洗を叩き潰します」
「お、お母様!」
「なに?まほ」
「い、いえ・・・なんでもありません。分かりました、書類を確認し部隊を編成します」
「ええ、私は試合の準備の為帰らずこちらに残り、直接会場に行きます」
「分かりました」
まほは電話を切り、俯いたまま何かを考えていた。
暫くして、何かを決意したのか、顔を上げ部屋へ駆け戻る。
パソコンを立ち上げメールを確認すると、携帯電話を手に取ったが、握り締めたまま、まほの動きが止まる。
「く・・・なにを迷っている!」
まほはアドレスを呼び出し発信ボタンを押す。
トゥルルルル、トゥルルルル
「はい、聖グロリアーナ女学院 戦車道隊長室です」
「黒森峰女学園 戦車道隊長 西住まほです。隊長のダージリンに繋いでいただきたい」
「は、はい・・・少々お待ちください」
「・・・ダージリンよ」
まほは深呼吸して名前を名乗る。
「・・・西住・・・まほだ」
聖グロリアーナ女学院学園艦
戦車道隊長室では、ダージリンが西住まほからの電話に出ていた。
ダージリンが話しを聞く。
「ごきげんよう、どうなさいましたの?」
少しの間を置き、まほが答えた。
「・・・大洗の試合が決定した」
「!!」
ダージリンの瞳がカッと見開き問い質す。
「それは、どういう事ですの?」
まほが説明する。
「大洗は、文科省で試合を取り付けた。この試合に勝てば、大洗の廃校は撤回される。対戦相手は・・・大学選抜」
会長さん、西住流家元、蝶野、連盟理事が文科省を訪れた理由をダージリンは理解した。
オレンジペコも、これは只ならぬ話しと感じダージリンを凝視している。
ダージリンが聞く。
「なぜ・・・それをわたくしに?」
暫く沈黙の後、まほはフフ、と笑い言った。
「知らせたかったから・・・じゃ、だめか?」
ダージリンは、肩の力が抜けたのを感じた。
「フフフ・・・お互い様ですわね」
ダージリンが続けて話す。
「しかし、大学選抜との試合という事は、30両での試合という事になるのではないかしら?それは余りにも大洗が不利ですわ」
まほは、今の状況を全て説明した。
説明を聞いたダージリンは眉を若干ひそめながら聞く。
「つまり・・・まほさんが部隊編成をし、黒森峰から22両増援を出す、という事かしら?」
まほは、間を置き答える。
「いや・・・ちがう」
ん?と思うダージリン。
まほが続けて話す。
「私は・・・戦争ではなく、この”試合”に勝ちたい。そして、大洗女子学園・・・みほの戦車道を奪還する!」
「!!」
ダージリンは、まほの初めて聞く気迫に驚いた後、優しく微笑み話し出す。
「まほさん・・・つまり、みほさんの・・・大洗の戦車道でこの試合に勝つおつもりですのね・・・」
まほは答える。
「ああ、そうでなければ・・・意味が無い。それと・・・恥ずかしい話だが黒森峰だけでは・・・この試合には勝てない」
ダージリンの眼光が鋭くなる。
「覚悟を決めましたのね」
「ああ」
ダージリンも大きく息を吸い、吐き出し答える。
「わたくしも覚悟を決めました。この試合、聖グロリアーナも参戦致します。そして、まほさんは知ってまして?みほさんはお友達が沢山居りますのよ」
まほは優しい口調で答える。
「ああ・・・知っている」
ダージリンもフフと微笑み言う。
「では、わたくしはお友達に連絡致しますわね。任せて頂いてもよろしいかしら?」
少し間を置き、まほが言った。
「よろしく・・・お願いします」
それは、黒森峰の隊長「西住まほ」ではなく、西住みほの「姉」西住まほのお願いであった。
ダージリンは受話器を優しく電話機に置いた。
オレンジペコは、一体何事が起きたのかと心配そうにダージリンを見つめる。
それを見てダージリンは言う。
「ペコ、こんな言葉を知っている?人は敵意でなく、善意ゆえに通報者になる」
オレンジペコは聞く。
「それは誰のお言葉なんですか?」
「さあ?誰だったかしら?」
オレンジペコは、もお!という顔をして聞く。
「一体どのようなお話だったのですか?大洗が試合をするのですか?大学選抜とは一体?」
「落ち着きなさいペコ」
ダージリンは経緯をオレンジペコに説明した。
「・・・う・・・うぅ・・・」
オレンジペコは今にも泣き出しそうである。
ダージリンは暫し何かを考え、紙に何かを書いて言う。
「ペコ、泣いている暇はありませんのよ。至急アッサムを呼び戻してちょうだい。それと」
ダージリンは何かを書いた紙をオレンジペコに手渡す。
「それを電信で戦車道履修校に送って頂戴。お友達なら必ず反応がある筈よ。よろしくて?」
オレンジペコは涙を拭き、大きな声で
「はい!」
と言い部屋を出て行った。
ダージリンはゆっくりと椅子に腰かけ呟いた。
「ありがとう・・・まほさん」
次回
【サンダース・ウォー】
よろしくお願いします。