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戦場に現れた鬼を全て討滅し、睡眠不足と疲労困憊で流牙は倒れてしまった。
そして……。
「あら、起きた?」
目を覚ますとそこは久遠の屋敷で側には帰蝶が見ていてくれていた。
「ああ……みんなは?」
「無事よ。あなたが鬼を全て倒してくれたから」
「そうか……良かった」
「全く……戦が終わったとはいえ、睡眠不足と疲労困憊で倒れるなんて呆れものだわ」
「何も言えないな……」
この世界に来てから流牙がまともに寝たのは最初の日だけでそれ以外はほとんど寝ていなかった。
流石の帰蝶も今回ばかりは流牙を邪険に扱わずにいる。
「あなた一人の体じゃないんだから、体調管理ぐらいしっかりしなさいよね?」
「ふふっ……」
「何笑ってるのよ?」
「いや、帰蝶さんの雰囲気や言葉が俺の知っている人に似ていたから」
「それって天の世界にいるあなたの家族?」
流牙を心配する人を思いついて帰蝶は家族の事を聞いたが、流牙は首を左右に振って少し暗い表情を浮かべた。
「家族はもういないよ。数年前にたった一人の家族……母さんが亡くなったからね……」
「……ごめんなさい」
家族を亡くしたとあって帰蝶も暗い表情をする。
「いいよ。帰蝶さんで俺が思い出した人は俺の大切な相棒に似ていたんだ」
「相棒って……前に言っていた魔戒法師?あなたが相手だとその相棒さんも苦労するわね……」
「……確かに心配ばかりかけていたからな」
「まあ良いわ。すぐにご飯の用意をするわ。それから……鬼からみんなを……久遠を守ってくれてありがとうね。みんなあなたの事をとても褒めていたわよ」
帰蝶は流牙に初めて笑顔を見せて感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう。でも俺は守りし者としての使命を果たしただけだよ」
「守りし者ね……今度、ゆっくり話をさせてね」
「ああ……」
帰蝶は部屋を出て台所に向かい、流牙は再び布団に横になる。
そして、畳まれた魔法衣に付けられた牙のお守り……無人島で十年間共に修行をしてきた魔戒獣・羅号の形見の牙をアクセサリーにしたものに触れる。
このアクセサリーは邪気を払う力があり、少し前に儀式で月光の光を当てて力を取り戻していた。
そして、その儀式を行った者は流牙の一番大切な人……。
「莉杏……」
出会ってから今までこれほど離れ離れになったことがなかったので流牙はとてつもない寂しさを覚え、牙を握りしめながら目を閉じる。
「必ず帰るからな……待っていてくれ」
一つの大きな出来事が終わり、流牙は必ず元の世界に帰る誓いを立てる。
☆
帰蝶に作ってもらったご飯を食べ終えると流牙は城に向かうと、ひよ子と転子と合流した。
「お頭〜!」
「流牙様〜!」
「ひよ、ころ」
「体はもう大丈夫ですか?」
「心配したんですよ、ひよなんかはこの世の終わりと思うぐらい泣いていたんですから」
「こ、ころちゃん!」
「ありがとう、二人共。ところで……戦での被害はどんな感じだった?」
「はい、負傷者は五十人ほど。討ち死が十名ほどですね」
「相手との戦力差を考えれば完勝と言っても良い戦果ですよ!それにお頭のお陰で鬼の被害は無かったんですから!」
「そうか……十人も……」
幸い鬼に食われた人はいないが、それでも十人という尊い犠牲が出てしまった。
この世界の戦からしてみればある意味奇跡に近い数だが、流牙にとっては辛いものがある。
城には評定をしていた久遠達が流牙の復活を知ると挙って集まり、戦場での鬼との戦いを褒め称えた。
「おい流牙!お前あんなに強かったんだな!すげぇじゃねえか!」
「あんなに強いんじゃ雛達も負けるのも頷けます」
「犬子はやっぱりあの狼の鎧です!かっこよくて素敵でした!」
「流牙さん、久遠様やみんなを守ってくれてありがとうございます」
「そして、最後の戦場に映える翡翠色の炎は美しかったぞ」
みんなは武将として流牙の戦いを褒め称えるが、流牙自身は素直に喜ぶことは出来なかった。
流牙は戦で戦う武将ではなく、守りし者として、魔戒騎士として戦ったからだ。
「流牙!よくぞ……よくぞやってのけた!」
久遠は満面の笑みを浮かべて力一杯流牙に抱きついた。
「あれだけの鬼をたった一人で殲滅するとは……流石は黄金騎士だ。戦場に鬼が現れた時はどうすれば良いのかと心の臓が止まりかけたぞ。なんと感謝すれば良いのか、我には言葉が浮かばん。……とにかくありがとうだ、流牙」
流牙は久遠の頭を優しく撫でながらゆっくり離れる。
「ありがとう。じゃあ約束通り、転子は俺の隊に入れさせてもらう。それから……城を建てるのに協力してくれて、討ち死した十人に何かして欲しい」
「……分かった。我に任せておけ」
「ありがとう。じゃあ俺はこれで失礼するよ。ちょっとやる事ができたから」
流牙はそう言うとひよ子と転子を連れずにそのまま城を出た。
城を出た流牙は街の市場で紐などを買い、森で木の枝などの木材を集めて黒俣の戦場近くの丘に訪れた。
紐と木材を組み合わせてアスタリスクの形をしたものを作り、それを地面に突き刺した。
そして、野原に咲く花を摘み、供えるように置き、手を合わせると背後から一つの影が近づく。
「それは……墓か?」
「……そうだけど、織田家の当主様がお供を連れずにここに来ていいの?」
後ろを振り向くとそこには流牙の……一応であるが、妻の久遠が立っていた。
城主がお供を連れずに城を出るなど以ての外だが、久遠は縛られるのが嫌いで時折城から脱走して壬月達を困らせている。
「城にこもるだけだと息が詰まるからな。それにお前の様子が少し気になったからな。それはこの戦場で……」
「そうだ。これは戦で死んでいった人達の墓だ。久遠達にとって戦で死ぬのは当たり前な事だろうけど、俺にとってはそうじゃない。戦で一緒に戦うことは出来なかったから、せめて墓だけは作っておこうと思ってね……」
「本当に優しいな、お前は……なら私もお前の夫として共に手を合わせよう」
久遠は流牙の隣に座り、手を合わせて目を閉じた。
死者の魂が無事に黄泉の国へ旅立つようにと願いを込めて。
死者への祈りを済ますと、久遠は流牙が作った手作りの墓を興味津々に見る。
「それにしても、星の形をした墓か、よく出来てる。それにやけに作り慣れている感じがするな」
「昔……ホラー狩りの旅で、街一つ一つでそこにいるホラーを倒した後に街を見下ろせる場所に母さんの墓を作っていたからね」
「そうか……どんな人だったのだ?流牙の母上は?」
「母さんと一緒に過ごせた時間は短いけど、とっても優しくて俺に有りっ丈の愛情を注いでくれていた。そして、俺の事を信じて最後まで想い続けてくれたんだ……」
流牙は目を閉じ、瞼越しに両目に触れながら母のことを思い出す。
「素敵な母上だな……」
「ああ、俺の最高の母さんだ」
「そうか……やはり母は素晴らしいものだな」
久遠も自分の母のことを思い出していた。
しばらく二人でのんびりしていると久遠は思い出したかのように布に包まれた長物を取り出した。
「忘れるところだった。流牙、受け取れ」
「これって……」
チリーン!
ザルバの呼び出しでカバーを外すと珍しく焦ったような声を出した。
『おい流牙!気をつけろ!それはあの刀だぞ!』
「えっ!?」
布を解くとそれは流牙がこの世界に訪れるきっかけとなった祠に仕舞われた謎の刀だった。
「本当はすぐ返そうと思っていたんだが、初めて会った日はドタバタしていたし、流牙は牙狼剣を持っていたからすっかり忘れていた。改めてそれをお前に返そう」
「ありがとう、久遠。どうだ?ザルバ」
『不思議な力は感じるが、光に包まれたあの時ほどじゃない。本当にこいつは何なんだ?』
「分からない……けど、何か意味はあるはずだ。俺をこの世界に呼んだ何かが……」
「私にもよくわからないが、ひとまずそれは常に腰に差しておけ。刀は武士の魂でもあるからな」
「俺は武士じゃなくて魔戒騎士だって……」
「そう言わずに差しとけ。郷に入って郷に従えと言うじゃないか」
「仕方ないか……」
流牙は慣れてないが刀を腰のベルトの間に差して武士らしくしてみた。
「おお、良いじゃないか。しかし、その長い上着と中の鎧が少しな。もしよかったら私が新しいのを……」
『お嬢ちゃん、その必要は無いぜ。中の鎧は流牙の母が手作りしたものだ。それから魔法衣は霊獣の毛皮から作られ、特殊な加護が施されているんだ』
外部からのダメージを抑える効果があるので魔法衣を纏う魔戒騎士はホラー相手に生身でも戦うことができる。
「と言うわけだから、俺はこのままで良いよ」
「むぅ……それは残念だ……私好みの感じにしようと思ったのに」
「それより、そろそろ帰ろうか。みんな心配しているよ?」
「そうだな。壬月達に怒られそうになったら流牙も道連れだ」
「ちょっ、どうして俺も怒られなきゃならないの!?」
「お前は我の夫だろ?怒られる時も一緒だ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべる久遠に流牙も焦りを見せ始まる。
「いやいやいや、そんなの困るよ!?それに壬月とかが怒ったら超怖そうだし!」
「はっはっは!さあ共に行こうぞ!」
「い、嫌だぁ〜!」
手を握られて逃げられなくなった流牙は久遠に連れて行かれるのだった。
☆
黒俣の戦から一週間の時が過ぎた。
相変わらず流牙は元の世界に戻る手立てを見つけていなかったが、あまり焦ってはいなかった。
ザルバ曰く、この世界の時の流れは流牙のいた人界とは大きく異なるらしい。
この世界の時の流れは速く、ホラーであるザルバの体感では人界の一日分がこちらの世界では一か月に相当するとのこと。
つまり、流牙は長くこの世界にいても、人界ではあまり時間が流れていないのだ。
しかし、流石に長く居座るわけにはいかないので人界に戻る手立てを探しているがなかなか見つからない。
唯一の手掛かりである謎の刀も力を放っておらず、今ではただの刀で流牙とザルバも困り果てていた。
そして、鬼の事だがこれに関しては僅かだが動きが出てきた。
流牙が森に入ったり夜に街を出歩くとまるで待ち構えるかのように現れて襲いかかってきた。
先日の黒俣の戦で流牙は鬼を討滅する存在だと名乗り、その名はおそらくは全国に広がっている。
何故名乗ったかと言うとそれはザルバの一つの作戦だった。
流牙とザルバの経験上、この鬼の騒動には黒幕が存在すると睨んでいる。
そこで鬼を討滅する存在……魔戒騎士、そして黄金騎士ガロとしてその名を広げることで敵が何らかの動きを見せるのでは無いかと思った。
まだ鬼が少し頻繁に現れる程度だが、流牙とザルバは必ず黒幕を見つけ出すために戦い続ける。
そして、現在……流牙は久遠の屋敷を出て長屋に住んでいる。
その長屋は久遠が設立した流牙の部隊、『流牙隊』の長屋でひよ子と転子も一緒に住んでいる。
流牙隊の方針は前線には出ず、裏方の仕事がメインとなっている。
そして、頭である流牙は戦場には参加しないが、鬼が出現した時のみ戦場に現れることとなっている。
今や織田最強の呼び声も高い流牙が戦に出ないことに反感の声も出ていたが、誰よりも流牙の事を理解している久遠が鶴の一声で片付けた。
「さて……起きるか」
流牙は長屋で目を覚まし、布団を片付けて朝食を食べにひよ子と転子と一緒に出かけた。
すると、早馬が城の方に向かうのを見かけ、流牙達も城へ向かうと既に評定の間には久遠達が揃っていた。
そして……早馬からの情報によると美濃にある稲葉山城が誰かによって落された。
しかもその人数はたったの十六人。
一体何があったのか誰にも分からずにいる。
「どうやったのか気になりますし。まず誰がやったのかそこを知る必要がありますね」
「そういうことだ。首謀者の情報は一切無いのだが……」
「じゃあ、久遠。俺たちが行ってくるよ。ちょうど美濃周辺の鬼の調査もしたかったからな。それに潜入捜査も魔戒騎士の仕事だからな」
稲葉山城の真偽や首謀者を確かめるのだが……それを聞いて久遠は不思議そうに尋ねる。
「魔戒騎士はホラーを倒すのが仕事ではなかったのか?」
「ホラーは人間に寄生して人間社会に溶け込むことが偶にあるんだ。だから、ホラーがいるところに潜入して誰がホラーなのか見つけるんだ」
「なるほどな……それはかなり厄介だな」
「よし。ひよ、ころ。二人共行けるか?」
「はい!」
「いつでもだいじょうぶです!」
「よし。飯食べたらすぐに出よう。十日で戻ってくるよ」
「分かった。よろしく頼むぞ。……それと流牙」
「ん?」
「その……なんだ。気をつけてな」
久遠の心配する言葉に流牙は嬉しくなり、久遠の頭を撫でる。
「ありがとう。心配しなくても必ず帰ってくるから」
「うむ。待っているぞ。……あ、ちが、その、し、知らせを待っているぞ、ということだからな!」
「わかってる。行ってくるよ」
そして流牙達は城を出て朝食を食べた後に早速美濃へと向かった。
一日かけて美濃に到着し、宿に泊まり、翌日から城の様子や町の聞き込みを行う。
流牙はそれに踏まえて美濃の鬼の調査を行うのだが……。
「はーい!じゃあみんな張り切っていこー!」
「どうして犬子ちゃんがここにいるのかなぁ……?」
何故か犬子が勝手についてきてちゃっかり同じ宿に泊まっていた。
犬子は雛に面白半分で煽られ、それを真に受けてついて来てしまったらしい。
「まあ犬子ちゃんは二人より強いからもしもの時には守ってくれから良いか……」
仮に敵に見つかったり鬼に襲われた時にひよ子と転子を守ってくれると割り切り、流牙は犬子も同行することを許可した。
その後二手に分かれて情報収集する事になり、流牙と転子は稲葉山城の偵察、ひよ子と犬子は町で聞き込みを任せた。
「それじゃあ、ちょっと城の中に行ってみますか」
「ちょっ!?だ、だめですってばお頭!!?」
城に近づき、内部の様子を調査しようと流牙はやる気まんまんで乗り込もうとしたが転子に全力で阻止された。
流牙に掛かれば潜入捜査くらい朝飯前なのだが、危険だからダメだと転子は有無を言わせない態度で流牙を抑えた。
とりあえず城内の様子だけを見れただけでも良しとし、ひとまず宿に戻った。
宿に戻るとひよ子と犬子は疲れ切った様子で、ひよ子曰く、犬子は怪しいと決めつけてきた徒士と喧嘩をしてしまいなんとか逃げてきたらしい。
「やっぱり犬子ちゃんには諜報活動は無理だったか……」
二人が無事だったから良かったので流牙はそれ以上咎めず、町の聞き込みは流牙とひよ子の二人にして転子と犬子は先に尾張に帰らせて城の情報を久遠に届けさせる事にした。
翌朝、転子と犬子は尾張へ戻り、流牙とひよ子は町の市で聞き込みをする。
そして、話を聞いていくと早馬の情報通り、首謀者は竹中半兵衛と西美濃三人衆が協力したと裏が取れた。
「それにしても、何で竹中さんはそんな事をしたのかな?」
「お教えしましょうか?その理由を」
「えっ?」
声に気づいて振り返るとそこには綺麗な衣に身を包んだ清楚な雰囲気を漂わせ、目を長い前髪で隠した不思議な少女がいた。
この出会いが流牙と少女に新たな運命を刻む事となるのだった……。
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誰かを想う心は人を強くする。
愛の為、友の為に。
そして、心に宿る亡き人の想いの為に。
次回『想 〜Heart〜』
想いは全てを超える力となる。
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