職場での色々なトラブルがあり、すぐに転職先が見つかりましたので頑張って書きました。
美空と光璃が川中島での対決が近づくその頃……遠く離れた美濃の地では……。
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり、一度生を稟け、滅せぬもののあるべきかーーーー」
久遠は美濃の城で扇子を広げて敦盛という舞を踊っていた。
田楽狭間以来舞っておらず、流牙に見せたことがなかった。
「お疲れ様です、久遠様。それでお身体の方は……」
敦盛を見守っていた双葉は久遠の体を心配していた。
「心配ない、ようやく『力』が体に馴染んできたところだ」
久遠は白い手袋を外すと両手に不思議な模様が怪しく浮かび上がった。
それは流牙と離れ離れになる前には無かったものだった。
「これは……我の覚悟だからな。流牙のように己と大切な者を守るために、二度と失わないためにもな……」
「ですが、あまり御無理をなさらないでください。家中の皆様や今は遠く離れている流牙様と結菜様もご心配なさいますよ」
「わかっておる。あまり自分を疎かにすると特に結菜に叱られるからな」
「ふふふ……ようやく、お会いになられますね」
「ああ……陣貝を吹け!出陣する!流牙と結菜と一葉を迎えに行くぞ、双葉!」
「はい!!」
離れ離れになっていた流牙と久遠、二人の再会の時が間も無く近づいているのだった。
☆
流牙は甲斐の地を風の如く駆ける。
武田と長尾……光璃と美空の戦いを止めるために。
武田の情報を元に流牙は一直線に長尾衆の軍団へと向かう。
宿敵同士である二人がぶつかればただでは済まない、鬼との戦いが迫る中二人が戦うのは非常に危ない。
しかも二人が戦う理由が流牙ともあれば何が何でも止めなければと流牙は思いを強くして更に加速する。
そして……越後の『龍』と『毘』の旗を掲げる長尾衆の本陣を見つけ、そこには美空たちがいた。
流牙は大声で美空の名を呼びながら降り立った。
「美空!!!」
「っ!りゅ、流牙!?」
「おお!流牙!」
「流牙殿、ご無事でしたか!」
「流牙さん!」
「リュウさん、お久しぶりっす!」
「リュウ、元気そうだ」
美空だけでなく一葉、幽、秋子、柘榴、松葉も一緒にいた。
流牙隊のメンバーの姿は見られず、どうやら別行動をしているようだった。
「美空!再会を喜びたいところだけど、俺の話を聞いてくれ!」
流牙は美空を説得しようと声を荒げたが、美空は目を閉じて首を左右に振った。
「ごめんなさい、流牙」
「えっ……?」
「あなたが来る事は分かっていたわ。優しいあなたの事だもん、私を説得しようとしていたことは予想できたわ。でも、これだけは譲れないのよ」
すると美空は両手で印を結ぶと流牙の足下の地面に五芒星が描かれて輝いた。
「何だ!?」
「三昧耶曼荼羅・封魔結界」
五芒星の光が更に強くなると五芒星の線から光の鎖が現れて流牙の体に巻きついて捕縛し、更に円柱の形をした結界で流牙を中に閉じ込めた。
「何だこれは……ぐあっ!?」
流牙は鎖を引きちぎろうとすると結界から雷に似た衝撃波が放たれて流牙に襲いかかる。
「無理に動かない方がいいわよ。その結界は邪悪な力を一時的に封じ込めるための結界よ。今まで使う機会はないと思ってたけど、まさか旦那様に使うことになるとは思わなかったわ」
「邪悪な力を、封じ込める……!?」
「そうよ。あなた達魔戒騎士の鎧や剣はソウルメタルって言うホラーの一部を元に作られたものでしょう?毒を以て毒を制するとはよく言うけど、あなたはその力を人を守るために使われているけど、九頭竜川の時の心滅獣身の時のように邪悪な一面を持ち、しかも流牙は闇の力を纏う事が出来る。だからこそこの封魔結界はその真価を発揮する」
魔戒騎士……否、守りし者たちはホラーに対抗するためにホラーの力を逆に利用してきた。
魔戒騎士の鎧がその代表例でソウルメタルはホラーの一部を加工して造られたものである。
つまり、魔戒騎士の力の源はホラー……即ち、邪悪な力から生まれたのだ。
美空はそこに着眼して流牙を護法五神の聖なる力で封じ込めたのだ。
「何故、こんな事を……!?」
「私だってこんな事をしたくないわ。今すぐあなたを抱きしめたい……だけど、その前に光璃と決着をつけなきゃならないのよ」
自分の今の想いを押し殺してでもやらなければならない事……光璃と決着をつけるために流牙を封じた。
「柘榴、秋子、私について来なさい。一葉様と幽と松葉はここに残って流牙を見張ってなさい」
「了解っす!」
「すいません、流牙さん……」
「まあ良いか。流牙のそばに居られるならな」
「やれやれ、まあ私たちはのんびりしていましょうか」
「御大将、気をつけて」
美空は柘榴と秋子と兵を連れて再び進軍し、封じた流牙を見張るために一葉と幽と松葉が残る。
「待て……美空!!ぐああっ!!?」
流牙は立ち去る美空を止めようとしたが結界から雷が降り注ぎ、動きを止められる。
流牙の疾走も虚しく、美空と光璃の因縁の対決が無情にも近くのだった。
☆
流牙が護法五神の封魔結界に閉じ込められてからというもの何とか結界から抜け出すために試行錯誤を繰り返していたが、下手に動くたびに雷が襲いかかり、動くことすら出来なかった。
「くっそぉ……」
「流牙殿、いい加減にしないと体が持ちませんぞ」
「そうじゃ。流牙よ、ここは美空を信じて待つのが得策だぞ?」
幽と一葉は流牙に大人しくしろと説得するが、それで大人しくする流牙ではなかった。
「一葉……美空は何でこんな事を……」
「決まっておる。これは美空の武士としての誇り、そしてお前の妻としての誇りをかけた戦いなのだ」
「誇り……?」
それは騎士とは異なるこの日の本に生きる戦う者、己の誇りを守るために戦う者たち……それが武士である。
「越後の当主として、リュウの妻としてその誇りを傷つけた武田と決着をつけるために御大将は最後の戦いに向かった。大丈夫、御大将は死なないからリュウは安心して待て」
「安心しろだと……?」
松葉にそう言われ、カチンと来た流牙は体に走る雷に耐えながら魔法衣の内側に手を伸ばし、何とか牙狼剣を呼び出した。
すると、僅かな時しか離れてないのに懐かしいたくさんの声が響いた。
「「お頭!」」
「流牙!」
「ハニー!」
「流牙様!」
「…………!」
「お兄ちゃん久しぶり〜!」
流牙を呼ぶ五つの声は越後で別れた流牙隊の主要メンバー、ひよ子、転子、鞠、梅、雫と八咫烏隊の烏と雀だった。
「みんな……!」
「流牙!大丈夫!?」
「これは……どういう状況なのですか!?」
「な、何なんですかあれは!?」
「流牙様が囚われてる!?」
「この力の気は美空様の護法五神!?」
更に光璃たちと別行動を取っていた結菜、詩乃、綾那、歌夜、小波……ここにバラバラだった流牙隊が遂に全員集合していたのだった。
流牙隊がなんとか流牙を助けようと行動に移すが、封魔結界に阻まれて吹き飛ばされてしまう。
「みんな……うぉおおおおおおおっ!!うらぁっ!!!」
流牙は激痛に耐えながら牙狼剣を抜いて円を描き、ひび割れた円からガロの鎧が召喚されて流牙の体に装着された。
しかし、ガロの鎧を召喚しても封魔結界を破れそうになかった。
「リュウ……その結界は何日もかけて御大将が溜めた霊力を使って作ったからガロでもそう簡単に破れない」
美空の渾身のお家流に松葉は余裕を見せていたが、流牙にはこの甲斐の地で手に入れた力がある。
「ふっ……俺が甲斐の地でのんびりしていたと思っていたのか?」
鎧を纏った流牙の周囲の空間から金色の輝きが溢れ出し、結菜はとっさにみんなに聞こえるように大声で叫んだ。
「みんな!急いで流牙の周りから下がって!轢き殺されたくなかったらすぐに!!早く!!」
結菜の突然の注意喚起にみんなは驚いていたが、ひとまずその言葉に従って流牙から下がった。
「見せてやる……蘇った黄金騎士の大いなる力を、轟天!!!」
一葉たちが聞いたことのない名前を耳にした瞬間、封魔結界に大きなヒビが入り、流牙の体が金色の輝きに包まれた瞬間、何かが誕生するかのように結界が突き破れた。
『ヒヒィィィーーン!!!』
結界を突き破った金色の輝き……それは金色の鎧に身を包み、赤い鬣を持つ馬だった。
魔導馬・轟天は主である黄金騎士がいる場所……それは例えどのような異界であっても何処へでも駆けつける能力を持つ。
「御大将の結界を破った……!?」
「こ、金色の馬だと!?」
「おお、これはこれは……」
松葉と一葉と幽は封魔結界を破った轟天に驚いて呆然とした。
「綺麗……」
「凄い……こんな馬、見たことないよ」
「ふわぁ……ガロと同じでピカピカなの!」
「まさに金色の天狼のハニーに相応しい馬、いいえ……これは言うなれば『金色の天馬』ですわ!!」
「まさか甲斐でこのような力を手に入れるなんて……」
「…………!!?」
「凄いすごーい!さっすがお兄ちゃんだね!」
ひよ子、転子、鞠、梅、雫、烏、雀は轟天の美しさと勇ましさに見惚れるのだった。
「俺は美空と光璃を止める!詩乃、雫!後のことは頼んだ!」
「はっ!」
「お任せください!」
「待て、リュウ!ここを通すわけには……」
「悪いな、松葉。大切な人たちの想いが込められたこの轟天を止めることはできない!!」
松葉が流牙を止めようと傘を手に取るが、轟天の強靭な脚からの跳躍と疾駆に対応出来るわけがなく、瞬く間に走り去る。
「頼むぞ、轟天!」
轟天を手綱を持ち、ガロの闇の漆黒の翼よりも早い速度で地を駆け抜ける。
(頼む、間に合ってくれ!!)
流牙はそう願いながら轟天を走らせる。
☆
「っ!この気配……封魔結界が破られたわ!」
美空が張った封魔結界が流牙に破られたことを察知すると柘榴は信じられないと言った様子で声を荒げた。
「ええっ!?御大将渾身の結界が!?リュウさん何したんっすか!?」
「分からない……しかも物凄い速さでこっちに来ているわ。闇の翼じゃない……何かしろ?」
牙狼・闇とは異なる力の気配に美空は何か新しい力を手に入れたのか?と疑問に思いながら柘榴に指示を出す。
「柘榴、露払いしときなさい!私は先を急ぐわ」
「了解っす!柿崎衆!柘榴に続くっす!」
柘榴は自分の兵を連れて先に武田の兵に向かって走らせる。
「さぁて……光璃。あなたは私を、ちゃんと楽しませてくれるんでしょうね……この機を逃したら、もう次は無いわよ……?」
美空は楽しそうな笑みを浮かべて馬を走らせた。
☆
流牙は鎧の制限の99.9秒ギリギリを使って轟天を走らせる。
美空が向かったと思われる光璃がいる武田の本陣へ轟天を一直線に全力疾走で走らせる。
「頼むぞ、轟天!!!」
普通の馬では困難なハイスピードで走り、急なカーブを曲がりながら流牙は手綱を握り締めながら振り落とされないようにしていた。
轟天は馬の姿をしているが、そのスピードは空を駆ける牙狼・闇の漆黒の翼よりも速くあっという間に長尾と武田の戦場近くまでたどり着いた。
しかし、既に戦いは始まろうとしており、その先頭には両軍の武将である柘榴と心がいた。
「止めろぉおおあおおおおおっ!!!」
「ふわっ!?リュウさん!?」
「りゅ、流牙さん!?」
轟天に乗ってやってきた流牙に柘榴と心が驚愕し、流牙は魂の叫び声を轟かせた。
「轟天ぇぇぇぇぇん!!!」
『ヒヒィイイイイイーン!!!』
長尾と武田の兵が激突しかけたその時、轟天が間に入り、渾身の四つの足から放たれる蹄音が衝撃波となって広がる。
「どわぁあああっ!?」
「うひゃあ!?」
轟天の放った衝撃波に柘榴と心を含めたこの場にいた全ての兵が倒れてしまった。
「ちょっ!リュウさん!何すかその金ピカなお馬さんは!?めっちゃかっこいいんですけど!!」
柘榴は轟天の美しさや逞しさに一目惚れして目を輝かせた。
「そんな事より美空はどうした!?」
「御大将なら武田の本陣で光璃殿と戦ってるっすよー」
「なっ!?ちっ、遅かったか!!轟天助かった!」
流牙はガロの鎧と共に轟天を魔界に送還して急いで武田の本陣に向かった。
ちなみにこの場の戦は轟天によって出鼻をくじかれてそれどころではなくなった。
「美空!!!光璃!!!」
流牙は最悪な未来を脳裏によぎりながら武田の本陣に突入した。
そして、流牙の目に映った光景は……。
「あら流牙、早かったわね」
「おかえり、流牙」
「えっ……?」
敵同士のはずの美空と光璃が武器を納めて本陣の中でのんびりとしていた。
美空は空に三昧耶曼荼羅の光を放ち、更に鏑矢の音が鳴り響いた。
何が起きているんだと困惑する流牙に美空と光璃は少し嫌そうに答えた。
「「休戦したの」」
「休戦……?」
この戦いは光璃が美空を、美空が光璃を見極めるための互いの覚悟を決めるためのものだった。
これから日の本をかけた大きな戦をする中、僅かな疑惑も許されない。
そこで互いの思いを打ち上けながら先程一騎打ちをしていた。
美空と光璃は流牙を大切に想っていることを伝え、流牙が望んでいた織田との同盟を組むことを決めた。
「良かった……」
流牙は美空と光璃を抱き寄せた。
突然抱き寄せられた美空と光璃は顔を真っ赤にして大慌てする。
「ふええっ!?りゅ、流牙!?」
「流牙……?」
「本当に良かった……」
声が震えている流牙。
密接している二人は日の光に反射した瞳から流れた雫を見逃さなかった。
「俺はまた、大切な家族を失うかと思った……」
流牙は家族を失う恐怖に襲われており、それを瞬時に感じ取った美空と光璃は申し訳ない気持ちになりながら流牙の背中に手を回してポンポンと背中を撫でた。
こうして長年の宿敵であった長尾と武田の戦いはここで幕を閉じた。
と言っても美空と光璃はすぐにでも仲良くなれるわけではなく、仲良く喧嘩する喧嘩友達となるのだった。
そして……遂に流牙と久遠、二人の再会の時が近づいていた。
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戦いから別れて数月。
出会いを繰り返し、激しい試練を越えた。
次回『再 〜Reunion〜』
愛しき人との再会の時となる。
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