牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今までの色々な謎がついに判明します。
ほとんど私で考えたオリジナルですが(笑)
そして流牙の試練が始まります。



『怨 〜ZAJI〜』

流牙は光璃から預かった日記を読んでいた。

 

他の人が読んだら魔戒語で書かれた日記はチンプンカンプンだったが、流牙は魔戒語は魔戒騎士の必須事項でもあるので幼き日から勉強していたため、問題なく読める。

 

日記を書いたのは光璃達の祖先でジンケイの女魔戒法師、名は『光瑠(ひかる)』。

 

偶然か必然か、光璃とは一文字違いで名前の雰囲気も似ていた。

 

その光璃は流牙の先代に当たる黄金騎士の仲間で有能な魔戒法師だった。

 

しかし、ホラーとの大きな戦で時空に大きな歪みが出来てその歪みの中に呑み込まれてしまい、この世界に迷い込んでしまった。

 

その直後に黄金騎士の『力の一端』も時空の歪みに呑み込まれてこの世界に落ちてしまった。

 

その『力』は光と主を失ってしまい、深き眠りについた。

 

そして、光璃はその地に住んでいた神社の神主と結婚し、『力』をこの土地を守る守り神として崇め、死ぬ最期の時まで守ってきたのだった。

 

「黄金騎士の力の一端か……多分、ガロが金色と主を失う前の出来事だと思うけど、鎧の金色の輝きは母さんが命を懸けて取り戻してくれたし、何だろう……?」

 

『その守り神と言うのが気になるな。その魔戒法師が最後まで守り続けてきたものだから重要なものだと思うが』

 

「それが何なのか今は分からないけど、光璃とその子孫……光璃達が守ってきたものなんだ。ちゃんと受け取ろう」

 

この世界に来たのは偶然ではない……そう改めて感じた流牙は日記を閉じて床についた。

 

 

翌日、朝食を取った後に流牙たちは光璃に連れられて躑躅ヶ崎館を後にした。

 

光璃だけでなく夕霧と薫、春日たち武田四天王も一緒だった。

 

どこに連れて行かれるのだろうと考えているとやがて綺麗に整えられた石畳を歩いていた。

 

そして、大きな赤い鳥居が見えて来て額束にそこの神社の名前が書かれていた。

 

「天馬、神社……?」

 

武田らしい馬の神を祀る社に案内され、鳥居を潜った流牙たちは綺麗に整備された神社の境内を眺めながら社へ向かう。

 

所々に馬の石像などの置物が置いてあり、見事なものだなと感心していると見事な社へと到着した。

 

そのまま社の中へ入るとそこには薄暗い地下への階段があった。

 

「これって、地下への階段?」

 

「うん、暗いから気をつけて……」

 

光璃の後をついていき、社の地下への階段を降りていく。

 

地下の開けた部屋に到着すると、春日たちが火打ち石を使って部屋の隅に置かれた燭台に火をつけて地下を明るくした。

 

そして、部屋が明るくなると奥にある大きな岩に刻まれた壁画を見た瞬間、流牙は目を見開いて驚愕した。

 

「あれは……ガロ!?」

 

その岩には黄金騎士ガロの姿が刻まれており、更にもう一つ……ガロの側に別のものが刻まれていた。

 

それは黄金騎士が跨っている棹立ちで後ろ足で立ち上がる鎧に包まれた馬の壁画だった。

 

「ガロが馬に跨ってる……でも、普通の馬とは違うわね……」

 

壁画に描かれているガロは流牙のとは細部が異なるが、それは浄化されて翔へと形を変える前の姿であるが、跨っている馬は普通の馬とは異なる姿が描かれていた。

 

その壁画の馬を見た瞬間、流牙は全てを察して震える声で光璃に尋ねる。

 

「まさか……光璃が返したい力って……!?」

 

「そう……それは魔戒騎士の大いなる力」

 

光璃は目を閉じながらその岩に触れ、その奥に眠る物の正体を語り始める。

 

「主を背に乗せ、天を、地を、海を……そして戦場を風の如く駆け抜け、その力を蓄えた蹄の清き音色は騎士の剣に力を与える」

 

それは黄金騎士が失った力の一端。

 

黄金騎士の継承者である流牙が取り戻すべきものだった。

 

そして、光璃はその力の名を高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄金騎士と共に魔獣と戦って来た光り輝く天馬……その名は『魔導馬・轟天』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導馬。

 

それは魔戒騎士がホラーを百体討滅し、浄化した際に鎧に込められた英霊から与えられる『内なる影』との試練をクリアした騎士にその力を受け継ぐ資格を得る。

 

しかし、全ての魔戒騎士が魔導馬を召喚する資格を得るわけではない。

 

魔導馬を召喚できる魔戒騎士はほんの一握りの存在だけで、ホラーを百体倒せる魔戒騎士はその時代毎に数人程度しかいない。

 

そして……轟天。

 

轟天は黄金騎士ガロの魔導馬でその鎧はガロと同じく金色に輝いており、美しい赤い鬣を靡かせ、蹄の音色は牙狼剣に凄まじい力を与える。

 

流牙は黄金騎士の鎧を継承してから年単位で流浪の旅を続け、ホラーを狩り続けて来た。

 

時には強敵である上級ホラーや異端のホラー、時には伝説のホラーを相手にして討滅をしてきた。

 

仲間の力で討滅したこともあるが、それでも既に流牙はホラーを百体は討滅しているはずだが、内なる影との試練が起きる気配がなかった。

 

闇の力で空を飛ぶことができるのであまり気にも留めなかったか、何故ここに轟天がいるのか急に不思議に思い始める。

 

「ザルバ、何か知ってるのか?」

 

『悪いな、流牙。俺は一度壊れて前のガロとの記憶が無いんだ』

 

ザルバたち魔導輪は人間に対し友好であるホラー達が自らの肉体を魔界に残し、魂を現世での器であるソウルメタル製のアクセサリーに移して完成し、契約者である魔戒騎士と意思疎通が出来る。

 

しかし、器である魔導輪が壊れるとその時までの培った記憶が全て失われてしまう。

 

ザルバは流牙である先代の黄金騎士との記憶が無く、轟天の存在も忘れてしまっていたのだ。

 

「だけど……轟天は力を失っている」

 

「力を……失っている!?」

 

「この目で実際には見てないけど、轟天は黄金騎士と同じ金色の輝きを失っている……」

 

「なっ……!?」

 

『そう言うことか……』

 

流牙とザルバは言葉を失い、全てを悟った。

 

流牙が生まれる遥か前、ガロは轟天と共に大きな戦いで人々を守るために金色の輝きを放って戦いを終わらせた。

 

しかし、その代償にガロの金色が失われ、それと同時に共に戦った轟天も金色を解き放って力を失ってしまった。

 

そして、この世界に迷い込んでしまい、力を失ったまま眠りについてしまったのだ。

 

新たな主……ガロの継承者が現れるまで。

 

「流牙……この扉を壊して。その中に轟天がいる……黄金騎士に轟天を返すのが先祖……光瑠の願いだから」

 

光瑠から脈々と受け継がれてきた意思。

 

そして、光瑠の記憶を受け継いでいる光璃はこの世界に流牙が現れてからずっとこの時を待っていた。

 

「分かった……見ていてくれ、光璃。今こそ……光瑠の想いをここで繋ぐ!」

 

流牙は扉の前へ静かに向かいながら魔法衣から牙狼剣を取り出す。

 

目を細めて見ると岩には法術による結界が張られているとすぐに分かり、その奥には轟天の主を呼ぶ声が微かに聞こえてくる。

 

「待ってろ……今すぐにお前の元へ行く」

 

ゆっくりと牙狼剣を鞘から抜き頭上に円を描いてガロの鎧を召喚する。

 

流牙の落ち着いた心に反応したガロの鎧は静かに装着される。

 

牙狼剣が大剣になると同時に地を蹴って跳び、扉に斬りかかるが結界に弾き返された。

 

数百年前に施された結界とは思えない強度に内心驚きながら流牙は何度も何度も斬りかかる。

 

更に闇の力を纏い、翔から闇へと姿を変えて光と闇の輝きを牙狼剣に纏わせて振り下ろし、結界を大きく揺らがせる。

 

「はあっ……はっ!!!」

 

そこから渾身の突きで牙狼剣を岩に突き刺すことが出来たが、ヒビが入っても結界と岩が割れることはなかった。

 

流牙はあえて牙狼剣を抜かずにそのままにし、岩から離れて地面に着地する。

 

「うぉおおおおおおおっ!!!」

 

流牙は闇を解いて翔に戻ると気合の咆哮と共に烈火炎装を発動してその身に魔導火を纏う。

 

そして、全ての力を右拳に込め、再び飛んで牙狼剣の柄に全身全霊をかけた拳を叩き込んだ。

 

牙狼剣が更に岩に押し込まれ、ヒビが全体に広がって行く。

 

そこに烈火炎装の魔導火が鎧から牙狼剣の刃に纏われ、そして岩に広がったヒビへと伝わった。

 

牙狼剣と魔導火が遂に結界と岩を打ち砕き、数百年間も封印されていた扉を開いた。

 

牙狼剣は流牙の手元に戻り、地面に降り立つと同時に鎧を解除した。

 

そして、打ち砕いた扉の奥……そこに一つの影があった。

 

しめ縄で体を縛られ、無数のお札で封印が施されている漆黒の馬が眠っていた。

 

「あれが……轟天……」

 

光璃は目を輝かして漆黒の馬……轟天を見つめ、結菜たちは驚愕で目を丸くしていた。

 

流牙は漆黒の轟天を見て悲しそうな表情を浮かべる。

 

轟天もかつてのガロと同じく金色を解き放って今の姿となってしまった。

 

今までずっとガロを……流牙を待ち続けてくれた。

 

「すまなかった……長い間、待たせてしまって……」

 

流牙は涙を堪えながら轟天に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『遂に……見つけたぞ!!黄金騎士!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悍ましい声と共に世界が白黒へと変化した。

 

「何だ!?」

 

周りを見渡すと結菜や光璃たち、そして燭台の火が動かずに止まってしまっていた。

 

信じられないことに流牙とザルバ以外の全ての時が止まっていた。

 

『時間が止まってる……流牙!ホラーの気配だ!』

 

「何!?」

 

ホラーが存在しないはずのこの世界にホラーの気配が現れ、流牙は牙狼剣を抜いて構える。

 

すると、轟天の前に邪悪な闇の気が集まって人型へと形を変えた。

 

それは身体中に刃のような突起が出た流牙にとって見慣れた邪悪な存在……ホラーだった。

 

「貴様は何者だ!?」

 

『俺の名はザジ……黄金騎士に討滅されたホラーの怨念によって生まれた存在だ!』

 

「ザジ、だと!?」

 

流牙はそのホラーの名を聞いて耳を疑った。

 

ザジとは黄金騎士に倒された数々のホラーの怨念が集まり生まれた、ホラーであってホラーでない時空を越えて存在する邪悪な思念である。

 

話には聞いたことがあるが、まさか本当に自分の目の前に現れるとは思わなかった。

 

『まさか一度系譜を失った黄金騎士が新たな主を得るとは……ならば、貴様を殺して系譜を途絶えた証を手に入れる!!』

 

ザジは流牙が一度主を失ったガロの継承者だとすぐに気付き、再び系譜を途絶えさせるために流牙に戦いを挑む。

 

「大切な人たちの想いを背負ったこの身と、母さんが命をかけて育てた黄金の輝きを貴様に奪わせたりはしない!!」

 

『こいつとそこにいる人間たちを殺されたくなかったら、俺と戦え!黄金騎士よ!!』

 

ザジは時空を越えた存在故、時を操る能力を持っている。

 

流牙は今、力を失った轟天と結菜たちを人質に取られている状態だった。

 

そして、ザジが腕を振り上げると流牙のいた地下室から世界を変えて薄気味悪い森が広がる異空間へと移動された。

 

『さあ行くぞ!黄金騎士ガロよ!貴様の命を奪い、勝利をこの手に収めてやる!』

 

ザジは右手から巨大な鋭い爪が生え、左手には自分の体の一部から作られた禍々しい形をした大剣を構える。

 

「貴様の陰我……この俺が斬り裂く!!」

 

流牙は左手の手甲に刃をこすり合わすように牙狼剣を構える。

 

黄金騎士ガロと時空ホラー・ザジとの時空を越えた戦いが幕を開けた。

 

 

 

.




因縁の対決。

己が力を解き放ち、あらゆる手を尽くす。

全ては相手を倒す為に。

次回『闘 〜Fight〜』

光と闇の戦いが天地を震わせる。



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