牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回は流牙が一つの決断をします。
中盤からは是非牙狼の主題歌を聴きながら読んでいただけるとテンションが上がると思います。


『心 〜Legend〜』

流牙はひよ子の幼馴染で野武士達をまとめる棟梁をしている転子の元へ向かった。

 

ひよ子と転子は久しぶりの再会に喜び合い、流牙を紹介したが、久遠の夫という立場とあって転子は慌てて跪こうとしたが流牙はそれを止めた。

 

名義上は流牙は久遠の夫だか、あくまで協力関係を築いているだけで、更には流牙の性格上年下の者でも共に戦う『仲間』として考えている。

 

ひとまず転子に先ほど考えた作戦の協力を要請すると、画期的な方法に関心した。

 

しかし、それには準備と報酬でかなりの銭が必要になる。

 

こればかりは久遠に頼むしかないので流牙が頭を下げるしかなかった。

 

転子は依頼を了承し、城に戻る際に流牙は銭の計算をどうしようかと思い出すとひよ子は空を睨みながら指折り数えていた。

 

ひよ子は計算が得意であっと言う間に計算が完了してしまい、流牙はこの部隊のお金の計算をひよ子に全て任せる事にした。

 

流牙とひよ子は城に戻り、難しい顔をしていた久遠に早速今回の作戦の内容と銭の予算を説明した。

 

明日の評定までに何か策が決まればいいと思っていたので、流牙の画期的な方法にとても関心していた。

 

銭と囮の件も了承し、そして最後に流牙は転子を士官として認めてくれるよう頼んだ。

 

ひよ子だけでは本人はとても不安がると思い、共に動いてくれる信頼できる仲間を得るためだ。

 

久遠は了承したが、あくまで面倒は流牙が見る事になったが仕方ないと思い流牙もそれを了承した。

 

「銭は用意させる。……頼むぞ流牙」

 

「ああ。戦には出られないが、準備とかは手伝うよ」

 

久遠に資金援助を取り付けた後、流牙達はすぐに仕事に取り掛かった。

 

流牙は野武士達と共に力仕事を手伝い、そして鬼がいないかどうか注意深く調査をしていた。

 

そして、時が流れて決行の日。

 

城の作業は指揮はひよ子と転子に任せ、とても心苦しかったが流牙は戦場を見渡せる場所で戦を見守っていた。

 

「これが……戦か……」

 

刀と刀がぶつかり合い、鉄砲が鳴り響き、悲鳴が聞こえる……人と人とで互いに争い、殺しあうその光景は流牙にとって初めて見るものだった。

 

なぜ人は争うのか……守りし者として戦い続けてきた流牙は悲しい気持ちになった。

 

耳の良い流牙は聞こえる戦いの声に心を酷く痛め、胸を強く握りしめるとカバーを開けていたザルバから信じられない言葉が響く。

 

『流牙!鬼の気配がする、どうやら戦場に現れたらしい!』

 

戦場から鬼の邪悪な気配が現われ、目を凝らして見るとあちこちに鬼が現れて織田と美濃勢を関係なしに攻撃し始める。

 

「鬼が!?だけど……」

 

鬼が出たとはいえ、今出て行けば流牙はこの戦に参加するという事となる。

 

人を殺さないようにしてもそれは人間同士の争いに介入することを許さない魔戒騎士の掟に反する事になる。

 

ザルバは迷っている流牙に『友』として投げかける。

 

『流牙。確かにこれは人間の愚かな争いかもしれない。だが、お前は何者だ?』

 

「ザルバ……」

 

『お前は何のために戦う?その称号を背負う者の心には何が宿る!』

 

ザルバに問われ、流牙は目を閉じてその問いを答える。

 

「……決まっているじゃないかザルバ。俺は守りし者。魔戒騎士にして黄金騎士の称号を受け継ぐ者として、人々をホラーから守り続ける。そして……これからもこの力で闇を照らす希望の光になる為に!!」

 

『そうだ。ならば迷う事なく己の道を進むんだ、流牙!』

 

「ああ。ありがとう、ザルバ!」

 

覚悟を決めた流牙は魔法衣から牙狼剣を取り出し、走り出して風のように大地をかける。

 

守りし者として、魔戒騎士として……そして、黄金騎士ガロの称号を受け継ぐ者として人々を守り、鬼と戦う為に!

 

「はぁあああああっ!」

 

流牙は自分の部下であるひよ子と共に動いてくれた転子を助けに向かう。

 

戦場に降り立った流牙は襲ってくる敵の兵の攻撃をかわしながら城の近くに現れた鬼を牙狼剣で切り裂いていく。

 

「ひよ、ころ!無事か!?」

 

「お、お頭!?」

 

「流牙様!?」

 

「鬼は任せろ。それが俺の、魔戒騎士の勤めだ!!」

 

流牙は牙狼剣を構え、最初から全力で鬼を狩る。

 

鬼の主力武器である両手の爪を使わせないように手を切り落とし、人間と同じく頭や心臓などの急所を狙って牙狼剣を突き刺し、斬り裂いて倒す。

 

城の前に現れた鬼を一掃するとひよ子と転子が流牙に近づく。

 

「すごい……お頭!ありがとうございます!」

 

「お陰で助かりました!」

 

「ひよ、ころ。俺は久遠達の方にいる鬼を切る。君たちは自分のなすべきことをするんだ。最後まで諦めるな!」

 

「「はい!!」」

 

流牙はその場を後にし、次は久遠達の元へ走った。

 

その際、敵国の兵士達が襲いかかってきたり、矢で狙われたりした。

 

しかし、流牙はかなり手加減しながら兵士を殴り飛ばしたり、軽やかな動きで矢を回避して止まることなく走り続ける。

 

 

「くっ!まさかこの大事な戦の時に鬼が現れるとは……!」

 

「久遠様、おさがり下さい!」

 

久遠と麦穂のところに二体の鬼が現れ、久遠を守るために麦穂が戦っている。

 

「久遠ーーっ!!麦穂さーんっ!!」

 

流牙はザルバの案内へ久遠と麦穂の元に行き、牙狼剣を鞘に収めると鞘に施された二つの仕込み刃が十字の形に展開する。

 

「流牙!?」

 

「流牙さん!?」

 

「うぉおおおおおっ!!!」

 

そして、体を横に回転しながら牙狼剣を振るうと仕込み刃が鞘から外れて手裏剣のように鋭く飛び、久遠に襲いかかろうとしている二体の鬼の顔に突き刺さった。

 

顔に仕込み刃が突き刺さった事で悶え苦しむ鬼に対し、流牙は牙狼剣を再び鞘から抜き、鬼の顔や心臓部を斬り裂いて倒し、鬼は消滅して仕込み刃が地面に落ちる。

 

「久遠、大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。だが流牙、どうして戦場に!?流牙は戦場に出ない約束を……」

 

「鬼を切るのが俺の使命だ。久遠、お前達は自分のなすべきことに集中するんだ」

 

流牙が守りし者として共に戦ってくれることを嬉しく思い、久遠は強く頷いた。

 

「流牙……!頼むぞ、この先の前線にいる鬼を切ってくれ!」

 

「流牙さん、気をつけてください」

 

「任せてくれ!」

 

地面に転がる二枚の仕込み刃を回収すると流牙は再び走り出し、前線にいる鬼の元へ向かう。

 

そして、その頼りになる夫の後ろ姿に久遠の心が熱くなり鬼の乱入に恐れていた織田軍に向けて声援を送る。

 

「織田の勇士達よ、鬼を恐れるな!鬼は我が夫、流牙が全て切り裂く!!さあ、我らの戦いを突き進むのだ!!」

 

久遠の言葉に織田軍の兵士達は声を上げて突撃する。

 

一方、前線にいた和奏、雛、犬子の三人は突然現れた鬼と戦っていたが苦戦していた。

 

「くっ!鬼が邪魔だぁ!」

 

「もう、こんなのを相手にしている暇は無いのに〜!」

 

「こんなところで負けるわけにはいかないよ!」

 

「三人共、下がれぇえええええっ!!」

 

流牙は戦場を疾風の如く駆け抜け、大ジャンプをして和奏達の前に降り立つ。

 

「流牙ぁ!?」

 

「流牙君!?」

 

「流牙様!?」

 

自分達の前に颯爽と現れた流牙に三人は驚き、ザルバはこの場にいる十体近くの鬼を見て口を開いた。

 

『どうやら鬼はここに集中しているようだ。ここは特に血肉の匂いが漂っているからな』

 

「和奏ちゃん!雛ちゃん!犬子ちゃん!そこで待っていろ!」

 

「ま、待っていろって……」

 

「和奏ちん、ここは流牙君に任せた方がいいかもよ?」

 

「流牙さまー!お願いしますー!」

 

三人は鬼を流牙に任せて下がると流牙は鬼を睨みつけながら牙狼剣を構える。

 

『流牙、さっき言った通りに派手に名乗れよ!』

 

「ちょっと恥ずかしいけど、やるしかないよな!」

 

流牙は苦笑を浮かべてからすぐにキリッと真剣な表情をすると、戦場に響き渡るような大声で告げる。

 

「この国に蔓延る邪悪なる者達よ……聞け、そして慄け!」

 

ロングコートである黒の魔法衣を翻し、鞘に納められた牙狼剣の柄を右手で握りしめる。

 

「織田家当主・織田久遠が夫にして、貴様ら鬼を殲滅せし力を持つ者!」

 

流牙は牙狼剣を勢いよく鞘から引き抜いた。

 

魔を切り裂き、白銀に輝くその刃を太陽の光に反射させながら天に高く掲げ、己の名と受け継いだ称号の名を轟かせる。

 

「俺は魔戒騎士、道外流牙!!黄金騎士ガロの称号を受け継ぐ者!!!」

 

名乗りを告げた流牙は天に掲げた牙狼剣で円を描いて光の輪が浮かび上がらせ、魔界に眠るガロの鎧を呼び出す。

 

光の輪から金色に輝くガロの鎧が召還され、一瞬で流牙の体に装着される。

 

闇を照らす希望の光、黄金騎士ガロ……今、戦乱渦巻く戦国の戦地に降臨した。

 

大剣となった牙狼剣を構え、獲物を狙う狼の如く鋭い橙色の瞳が鬼達を睨みつける。

 

「「「ええーっ!!??」」」

 

ガロの鎧を纏った流牙に和奏達は戦場に響き渡る程の驚愕の叫び声を上げた。

 

「な、何だこれぇっ!?」

 

「これには雛もびっくり……!」

 

「き、金色の狼……かっこいい!」

 

流牙は和奏達の言葉をとりあえず無視し。地を蹴って牙狼剣を振り上げる。

 

「はぁあああああ!!!」

 

振り下ろされた牙狼剣で鬼を一刀両断し、十体近くいた鬼を瞬殺した。

 

和奏達が手こずった鬼を瞬殺した事で流牙の本気を知り、その強さに感動した。

 

しかし、鬼が討滅されて喜ぶのも束の間だった。

 

『流牙!また新しい鬼の気配だ!』

 

「何!?」

 

今度は森の奥から今までよりもひときわ大きな体にその身に鎧を身につけて手に刀を持った謎の鬼が現れた。

 

「鎧を身につけた鬼……!?」

 

『流牙、こいつは今までの雑魚とは比べものにならないほどの力を持っているぞ。それに、鎧の時間制限も迫っている。一気に決めろ!』

 

「分かってる!」

 

ガロの鎧を始めとする全ての魔戒騎士の鎧には時間制限があり、その時間は鎧を纏ってから99.9秒。

 

その時間を過ぎてしまうと鎧に魂を食われてしまう。

 

だからこそ、その前にこの鬼をすぐに倒さねばならない。

 

「はぁああああああああああーーっ!!!」

 

流牙の咆哮と共にガロの鎧から翡翠の如き炎が現れ、鎧と牙狼剣に灯された。

 

それは魔戒騎士の技の一つで魔界の炎である『魔導火』を鎧と武器に纏い、攻撃力と防御力を劇的に向上させる。

 

その技の名は……『烈火炎装』。

 

流牙は魔導火を纏った烈火炎装で鬼に一気に近づき、牙狼剣と鬼の刀が交差する。

 

しかし、数千度を越える超高温の炎である魔導火を纏った牙狼剣の前になんの力も込められていないただの鋼鉄の塊である刀の刃はバターのように溶けてしまった。

 

武器を失った鬼は戸惑いを見せ、流牙は容赦なく鬼を連続で殴り、最後に空へと思いっきり蹴り飛ばした。

 

「うぉおおおおおっ!!はぁっ!!!」

 

そして、流牙も鬼を追いかけるように地を蹴って空を飛び、全ての魔導火を牙狼剣に集中させて渾身の横薙ぎを振るう。

 

牙狼剣から巨大な翡翠の炎の剣閃が飛ばされ、鬼を真っ二つに切り裂いて燃やし尽くした。

 

そして、炎の剣閃はそのまま飛び続け、空に浮かんだ数多の雲を切り裂いた。

 

「空が……割れた!?」

 

空が割れた事で戦場にいた誰もがその事に驚愕した。

 

鬼を切り裂き、空を切り裂いた張本人である流牙は魔導火の小さな火の粉を撒き散らしなが静かに降りていく。

 

さながらその姿は天から神が降臨したかのようなものだった。

 

そして、鬼を斬り殺したその姿を見た敵国は鬼の襲撃などで敗戦間近となっていたことに加えて流牙に恐れをなして兵士達は敗走していき、戦況は織田軍に軍牌が上がり、織田軍に再び奇跡の勝利を飾った。

 

流牙が地面に降り立つとガロの鎧を魔界に送還し、戦いを終えた牙狼剣を鞘に納めた。

 

久遠は戦いを終えた流牙の元へ走って来た。

 

「流牙!」

 

「久遠……」

 

久遠の顔を見た流牙は笑顔を向けるが、久遠が近づいた瞬間、流牙は力を失ったかのように倒れてしまう。

 

久遠はとっさに倒れる流牙を受け止める。

 

「流牙!?どうしたのだ!?しっかりしろ!」

 

『心配するな、嬢ちゃん。流牙はさっきの炎……烈火炎装で体力を使い果たしちまったのさ』

 

「ごめん……ちょっと疲れちゃった。久遠、ちょっとこのままでいさせて。少ししたら起きるから……」

 

流牙はそう言うと久遠に抱きとめられながら眠りについてしまった。

 

ここ何日も徹夜続きでひよ子達の警護や鬼の調査をしていた。

 

そして体力を激しく消耗する烈火炎装で魔戒騎士として無尽蔵な体力を持つ流牙も限界が来てしまった。

 

「この、うつけが……」

 

久遠は流牙がどれだけ頑張っていたか、受け止めたその重みでよく分かった。

 

「我に抱きとめられる人間は、妻の結菜と……夫のお前だけだぞ?」

 

そう言って久遠は流牙を優しく抱きしめて頭を撫でた。

 

そして、戦場に神の如き威光を放ちながら現れ、鬼を切り裂いた黄金の鎧を纏った剣士……流牙の存在は瞬く間に全国に轟いた。

 

それにより、様々な思惑が力を持つ者達の間で交差した。

 

ある者はその存在を疑い。

 

ある者は興味を抱き。

 

ある者は恐れを抱き。

 

ある者は傍観し。

 

ある者は手に入れようと目論む。

 

そして、この瞬間から人と鬼の壮大なる戦いが幕を開けるのだった。

 

その中心にいるのが流牙と久遠……運命によって出会う事となった二人の存在である。

 

二人に待ち受けるのは希望の光か、絶望の闇か……その答えは二人の信じる道の先に歩む長く、険しい戦いの果てにある……。

 

 

 

 




一つの出会いが運命を変えるなら。

運命を変えるのもまた一つの出会い。

しかし、その出会いが運命にどのような変化をもたらすかは誰にもわからない。

次回『動 〜Fate〜』

出会いの数だけ物語は加速していく。



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