そしてラストでは驚きの展開が待ってます。
武田晴信……光璃と出会った流牙はジンケイ一族の末裔と聞かされて混乱する中、光璃に連れられて庭の一角に案内された。
そこには夕霧と春日、その他の武田の武将、そして光璃と顔立ちが似た少女がいた。
夕霧たちは流牙と光璃か一緒にいることに驚いており、光璃は自分と顔立ちが似た少女を紹介した。
「流牙、あの子は私の妹の武田信廉。通称は薫。戦場で私の影武者をしている……」
「お、お姉ちゃん!?」
「お館様!武田の秘中を何故……!?」
影武者は敵国などには知られてはいけない秘密の存在。
信廉……薫が自分の影武者であることを流牙に教え、武田衆は驚愕している。
「大丈夫……流牙は信頼できる。黄金騎士は……この日の本を救う希望になるから」
「君がどうしてそこまで俺を信頼しているのか、何故ジンケイ一族の末裔なのか、色々聞きたいことは山ほどあるけど……今は鬼を討滅することが先だ。光璃、俺に戦わせてくれ」
流牙の守りし者としての心意気を見せ、光璃は淡く微笑んで頷いた。
「うん……そう言うと思ってた。春日……部屋で休んでいる流牙の妻を呼んで。色々思うことはあるけど、今は鬼を討滅して民を守ることが先決」
「お館様……はっ!」
家臣として光璃に進言したいことはあったが、今は一刻も早く鬼を倒すことが先。
春日たちは流牙への不信感を一旦収めて部屋で休んでいる結菜たちを呼んだ。
早速軍議が行われ、鬼は二手に分かれて甲斐の南、駿河方面かは山を越えて来ているらしい。
流牙たちは西にいる鬼を叩くこととなったが、客人である流牙たちに勝手な真似をされるわけにはいかないと春日は武田で決めた作戦通りに動いてもらおうとしたが……。
「私が一緒に行く。流牙は好きなように動いて……」
武田の棟梁である光璃が流牙に好きに動いても良いと承諾した。
「光璃、良いのか?」
「流牙……黄金騎士としてのあなたの力を見せてもらう」
「俺をその目で見定めるか。分かったよ」
光璃の流牙に対するあまりにも甘い対応に春日たちは疑惑や不信感を抱いたが、一刻を争うのですぐに馬に乗って戦場へ向かった。
早馬が出来ない詩乃と詩乃の護衛として小波が残り、結菜と綾那と歌夜が流牙と共に鬼狩りへ向かった。
そして、しばらく馬を走らせると月明かりの下に蠢く影を見つけた。
「見つけた……結菜、援護を!綾那と歌夜は左右を頼む!」
「ええ!」
「はいです!」
「お任せください!」
「行くぞ!!!」
流牙たちは馬から降りると鬼狩りを始める。
数え切れないほどの数の鬼を倒してきた流牙たちにとって一番下級の鬼は取るに足らない存在で流牙たちは瞬殺して倒して行く。
報告では下級の鬼しかいなかったのでこれでひとまず安心したと思ったが、ザルバから驚くべき警告が言い放たれる。
『流牙!強い邪気だ!しかもこいつはただの鬼じゃない、鬼の子だ!』
「鬼の子だって!?」
それは鬼に犯された女が産んでしまった鬼と人のハーフで強大な力を持ち、かつて一度だけ対峙した流牙は桐琴と小夜叉と協力してなんとか退治できた。
それが近くにいると知り、流牙の目は鋭くなる。
「ザルバ!方角は!!」
『このまま進め!恐らく別に動いているお嬢ちゃんたちの近くにいるはずだ!』
「分かった!みんな、ついて来い!」
流牙はザルバの案内で走り出し、結菜たちは馬に跨ってその後を追う。
南方へ進み、山奥に入るとそこに武田の二人の武将がいた。
「あれは……粉雪と心!」
一人は灰色の髪に槍を持つ少女、山形昌景……通称は粉雪。
もう一人は粉雪の相方である内藤昌秀……通称は心。
粉雪は心を守るために一人で鬼子と戦うが、今までの鬼とは比べ物にならないほどの力に追い詰められていた。
流牙は牙狼剣で鍔鳴りを響かせると鞘に仕込められた仕込刃が十字に展開し、高くジャンプして一回転をしながら牙狼剣を横薙ぎで振るう。
「はあっ!!」
二枚の仕込刃が回転しながら飛んで鬼子の顔と胸に突き刺さった。
その強烈な痛みから悲鳴を上げ、鬼子が怯んでいる間に呆然としている粉雪と心を流牙が回収して後ろに下がった。
「大丈夫か!?」
「うわぁっ!?お、お前は!?」
「あなたは……!?」
「光璃、この子たちを頼む!」
「うん……粉雪、心、大丈夫?」
「お、お館様!?」
「ど、どうしてここに!?」
粉雪と心を光璃に任せ、流牙は牙狼刀を地面に突き刺す。
鬼子は顔と胸に刺さった仕込刃を取って投げ捨て、ギロリと赤い目で流牙たちを睨みつけて他の者が臨戦態勢を取ると、それを制するように流牙が静かに前に立つ。
「みんな、下がってろ……俺がやる」
流牙は鞘に納めたままの牙狼剣を持ち、力を込めながら体の左側へ垂直に立てる。
鞘から一気に抜いて天高く掲げ、頭上に光の円を描く。
切り裂いた光の輪の中の空間がひび割れ、中から光の塊が流牙の体に装着される。
魔獣を狩り、人々を守る者。
闇夜に輝く金色の光……黄金騎士ガロが降臨する。
黄金騎士ガロの存在は知っていたが、その姿を初めて見る武田衆は目を見開いて驚いていた。
「希望の光……黄金騎士ガロ……!」
特に光璃は目を輝かせて黄金騎士ガロの姿を目に焼き付けるように瞬きせずに見続けた。
流牙は大剣となった牙狼剣を鞘から抜き、地面に突き刺した牙狼刀を構えて大刀にする。
「はぁっ!!!」
流牙は地を蹴り、鬼子に向かって走り出した。
鬼子は刀より鋭い爪を振り下ろし、流牙の牙狼剣と牙狼刀の二刀流と火花を散らしながら激しい斬り合いをする。
鬼と人の子である鬼子は数が少ないが、その力はとても強く鬼とは比べものにならないほどのものだ。
それ故に鬼子は無尽蔵の体力を持ち、長期戦は不利で短期決戦が望まれる。
結菜は目を閉じて体からバチバチと稲光を轟かせると、流牙は目を開いた結菜とタイミングを合わせて鬼子から離れた。
「流牙!」
「おう!!」
結菜は一瞬で雷閃胡蝶を作り出してから放ち、軽やかに舞いながら百匹の内の数匹は鬼子の目の前で爆発して目くらましをする。
今は夜中なので強い閃光と爆発は鬼の視界を封じるのに効果的だった。
その間に流牙はガロの鎧から翡翠の魔導火を放出させて烈火炎装を発動し、そこに集まる雷閃胡蝶を鎧に吸収させていく。
魔導火と雷閃胡蝶の融合……流牙と結菜の連携技、雷炎天装を発動させる。
「うぉおおおおおおおっ!!!」
牙狼剣と牙狼刀を十字に交差させて雷炎の斬撃を放ち、高速に回転する十字の斬撃が鬼子に襲いかかる。
そして、雷炎天装の全ての雷と炎を牙狼剣と牙狼刀の刃に纏わせ、斬撃を喰らって反撃も出来ない鬼子の体に突き立てて内側から焼き尽くす。
雷炎が鬼を灰になるまで焼き尽くし、鬼子が消滅して雷炎が静かに消えると流牙は鎧を解除して魔界に送還する。
流牙は牙狼剣と牙狼刀を鞘に収めて魔法衣に仕舞い、体中に汗を垂らしながらみんなの元へ戻る。
その後、春日たちと合流して躑躅ヶ崎館に戻ると流牙たちは上段の間に案内されてそこで光璃たちと再会し、流牙はザルバのカバーを開いて改めて話し合う。
「それで……光璃、君が俺と同じ一族の末裔……それは本当なのか?」
流牙と光璃が同じ一族の末裔……その言葉に結菜たちだけでなく春日たちも驚いていた。
それも当然である、流牙は天の世界から来たと言われており、武田の棟梁である光璃と同じ一族の末裔とは俄かに信じられない話である。
「うん……」
「何故そう言い切れるんだ?」
「私には先祖の記憶がある……」
「先祖の記憶?」
「そう……この世界に偶然来てしまったジンケイの女魔戒法師……その人の記憶を受け継いでいるの。あと、こう言う力」
光璃は戦で武器の代わりに使う『風林火山』と刻まれた指揮に使う軍配を取り出した。
その軍配を少し分解すると、中には先祖が使っていた古い筆……魔戒法師の武器である魔導筆が入っていた。
『魔導筆か。しかも相当古いものだな』
光璃はその魔導筆を持って軽く振るうと筆先から小さな光の玉が出て来て綺麗に弾けた。
「魔導筆に法術……そして、この世界に来た魔戒法師の記憶か……」
「うん。これがその先祖が書いた日記……後で読んで」
光璃はかなり古い日記を流牙に渡すと日記の中にはこの国で使われている文字の漢字や平仮名ではない魔戒騎士と魔戒法師が使う魔戒語で書かれていた。
「じゃあ、夕霧ちゃんと薫ちゃんには?」
「残念ながら、私達には無いんでやがります……」
「お姉ちゃんには記憶と一緒に昔から不思議な力があるけど、私と夕霧ちゃんには使えないの」
光璃には祖先の魔戒法師の記憶と魔戒法師の法術を使えるが、夕霧と薫にはそれがない。
つまり、先祖返りに近い事が光璃には起きており、記憶と法術を受け継いでいるのだ。
「まさか……俺以外の魔戒に関する人間が何百年も前に来ていたなんて……でも、本当にジンケイの血を?」
「疑うのも無理はない……でも、証明出来る方法がある」
光璃は目を閉じて手を胸に置き、大きく息を吸い込んだ。
そして……。
「ーーーー♪ーーーー♪ーーーー♪」
光璃の喉から不思議な歌声が静かに響き渡る。
「っ!?その歌は……!?」
『そいつは波奏が歌っていた女神像の歌だな』
それはジンケイに伝わる古の歌。
ゼドムの力を封じ、陰我を浄化し、ソウルメタルを育てる、ジンケイの女魔戒法師にしか歌えないものだった。
光璃の歌に夕霧や薫たち武田衆は既に何度も聞いているのか目を閉じてうっとりしながら聞いており、初めて聞く結菜たちも目を閉じて静かに聞いていた。
「母さんが歌ってた……古の歌……」
波奏が歌っていた同じ古の歌を耳にした流牙は涙を流しそうになった。
ジンケイの血を引く女魔戒法師にしか歌えない古の歌。
光璃がそれを歌えるということは光璃がジンケイの末裔という証明となった。
古の歌を歌い終わった光璃は首を傾げて可愛らしい反応をしながら流牙に尋ねる。
「これで……証明できた?」
「ああ……それは俺の一族の女魔戒法師にしか歌えない歌だ。光璃は間違いなく俺と同じ一族の末裔だ」
『まさかこの世界でジンケイの末裔がいるとはな、こいつは驚きだぜ』
自分と莉杏の二人だけとなったジンケイ一族の末裔がまだ生き残っていることに流牙は嬉しさがこみ上げて笑みを浮かべた。
するとここで夕霧と薫はあることに気がついた。
「……あれ?姉上が流牙殿と同じ一族の血を継いでいると判明したと言うことは……」
「妹の私達も、流牙さんと同じ一族の末裔だから……遠い親戚ってこと?」
明確な血の繋がりがあるかどうかは分からないが、同じジンケイ一族の末裔と判明したことは遠い親戚といっても過言ではない。
「そうだな……俺たちは同じ一族の末裔、遠い親戚関係と言う訳だな」
「ふむ……では親戚なので他人行儀はやめて、兄上と呼んでもいいでやがりますか?」
「あ、じゃあ私はお兄ちゃんって呼んでいい?」
夕霧と薫から兄と呼ばれて一瞬驚いたが、親戚同士なので流牙は笑顔で頷いた。
「良いよ、呼んでも。あ、そうだ……光璃、夕霧から聞いたけど、俺に返したいものって何だ?その魔導筆……じゃないよな?それは光璃が使っているものだし」
「うん、返したいもの……それはここには無い。少し離れた場所に眠っている」
「眠っている?」
「そう……でも今日はもう遅いから明日の朝に案内する」
「分かった。じゃあ、明日頼むよ」
「うん……おやすみ、流牙」
「ああ、おやすみ」
流牙と光璃は互いに笑みを浮かべ、流牙は結菜達を連れて上段の間を後にした。
流牙は嬉しそうな表情を浮かべながら廊下を歩いており、そんな流牙に結菜は静かに尋ねた。
「嬉しい?遠い親戚に出会えて」
「ああ……一族の末裔は俺と莉杏だけだと思っていたからな。この世界で出会えたのは奇跡だと思うよ」
流牙の手には光璃から預かった日記があった。
数百年前に光璃の先祖の魔戒法師に何が起きたのか、それがここに全て書かれており、部屋に戻ったらゆっくり読むつもりである。
慌ただしい一日であったが流牙にとって大切な出会いの日となった。
☆
異なる世界同士にある時と空間の狭間。
その狭間を一つの闇が彷徨っていた。
『グッ……グォオ……』
その闇は大きな角を持つ怪物だが、大きな深傷を負い、胴体がなく首だけの存在となっていた。
大半の力を失い、全く動けない状態で漂っていた。
『お、のれ……黄金、騎士、め……』
闇は黄金騎士を怨んでおり、憎しみの念を放ち続けていた。
すると、そこに闇とは異なる邪悪なる存在の無数の欠片が集まっていた。
そして、闇はその邪悪なる無数の欠片を吸収して取り込み、その体を再生していく。
屈強な肉体に鋭い爪や角が生え、その手には巨大で邪な形をした邪悪な剣が生まれていた。
そして、闇の視線の先には暗闇に染まりつつある世界を照らす一筋の金色の輝きがあった。
『居る……あの世界に、黄金騎士が……』
闇は背中に大きな翼を生えさせて、その光がある世界に向かって飛んだ。
『待っていろ、黄金騎士!今度こそ滅ぼしてくれる!!』
復活した大いなる闇が黄金騎士を……流牙を狙うのだった。
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失われし大いなる力。
手を伸ばしたその時。
世界が邪悪なる闇へと変貌する。
次回『怨 〜ZAJI〜』
集まりし怨念が天狼に迫る。
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