牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回で越後編は終了で次回から甲斐の武田編です。
武田編では色々とオリジナル設定を込めるので楽しんでいただければ幸いです。


『誓 〜Pledge〜』

武田典厩信繁の突然の来訪に驚く一同。

 

美空は典厩を客間に通して茶菓を用意して時間稼ぎを秋子に命ずる。

 

その間に流牙隊は旗を片付け、流牙は今後のために魔法衣の力で越後の兵に変装して美空の近くに、流牙隊の何人かは主人を守るために武士が待機する武者溜まりで待機して話を聞くことになった。

 

そして、しばらくして美空と典厩が上段の間へとやって来た。

 

典厩は小柄な子で落ち着いた雰囲気を出しており、一国の使者と言わんばかりの風格だった。

 

「夕霧……久しいわね。光璃は元気かしら?」

 

(夕霧……は典厩の事で、光璃は……武田晴信の事か?)

 

美空の口から語られた二つの真名に流牙はそう推測すると典厩からとんでもない口調が飛び出す。

 

「すこぶるご健勝でやがりますよ!」

 

(やがりますよ!?)

 

初めて聞く独特な口調に流牙は一瞬耳を疑うほどだった。

 

その後美空と典厩は敵対国としての話をしていき、典厩は晴信から預かった手紙を美空に渡す。

 

手紙を見た美空の目の中には明らかに怒りの意思を表すように燃えていた。

 

典厩は手紙の返事を聞こうとしたが、内容が即答できるものではないらしく、典厩は一日猶予を晴信からやっても良いと言われてたので明日返事を聞くことになり、典厩は客殿に案内された。

 

典厩が上段の間から出て行くとすぐに流牙はいつもの格好に戻り、待機していた流牙隊も出て来て手紙の内容について話し合う。

 

「美空、武田はなんて言って来たんだ?」

 

「……無理難題ってほどじゃないわね。けど、どちらかを選ばないとまずい状況をうまく作り出されちゃったわね。見る?」

 

「俺は読めないから……幽、訳してくれないか?」

 

「承知しました……こほん」

 

幽に手紙を渡し、内容を訳して分かりやすくしてもらう。

 

ところが……。

 

「ええと……越後のみんなー。内乱鎮圧おっ疲れー!たぶんへーきな顔してこれ読んでると思うけど〜、ほんとはチョー大変だったでしょ?こっちが調べた限りじゃ思った以上に被害も出てるみたいだし、疲弊してるよね?っていうか、姉妹で内輪もめってどんな感じ?ねえねえ、どんな感じ?でもざーんねん♪別に光璃そういうの興味ないしー。私たち天下一の仲良し三姉妹だしー!でさ、今から越後を攻めよーと思っちゃってるの♪きゅるーん♪けどぉ〜。弱ってる美空ちゃんを倒してもあんまり意味ないしぃ〜♪決着は正面から付けたいな〜って思ってるしぃ〜。今なら見逃してあげてもいいかなーって♪だからさ。その代わり、そっちにいる金色の天狼とやらをくれないかなーっていうかよこせ。春日山攻めでも助けてもらったんでしょ?興味あるのよねー。そうすれば今回だけは疲弊しまくってる美空ちゃんと越後を見逃してあげてもいいかな〜って。ねっ?お得な取引でしょ?光璃ってばやっさしーぃ♪じゃ、お返事待ってるね〜。でも、明日までにお返事くれないと、すぐ典厩と勘助に春日山を包囲させちゃうからね☆じゃあね〜ーーーー意訳すればこんな感じですかな?」

 

まるで流牙のいた元の世界にいる女子高生みたいな話し方をして手紙の内容を訳した幽だった。

 

「うむ。あっぱれである」

 

「光栄の至り」

 

「あんたら、天守の外に吊してあげましょうか!?」

 

あまりにも酷い幽の手紙の通訳に美空は少し切れてしまい、流牙は苦笑いを浮かべて宥める。

 

「まあまあ、美空落ち着いて。ねえ、幽……君って本当にこの世界の出身?もしかして俺と同じように天の世界から来たんじゃないのか?」

 

「いえいえ、私はこの日の本で生まれ、今日まで生きて来ましたよ」

 

「そ、そう?ところで俺を寄越せってどういう事だ?わざわざ越後を攻める好機を逃してまで……」

 

いまいちピンとこない流牙に詩乃は分かりやすく説明する。

 

「簡単なことです。要求を断われば、内乱で疲弊している越後に攻め入る大義名分を得る。そして要求を呑んだとすれば……武田は、今この日の本で起こっている大きなうねりの中心にいる、流牙様を手元に置くことが出来ます」

 

「俺がうねりの中心ね……」

 

今まで魔戒騎士として戦って来たからあまり自覚はなかったが、この世界にとって流牙は重要な存在であることは確かで武田はそれを見抜き、理由は不明だが流牙を手元に置きたい。

 

少なくとも流牙がいなければ春日山はおろか、空や愛菜を取り返すことが出来なかった。

 

更には鬼によって越後に多大な被害が出てもおかしくはなかった。

 

田楽狭間の天人や金色の天狼としての数々の活躍、そして織田の縁者なら上洛する上で織田との交渉材料にも使える。

 

それだけ重要な存在だと認識した流牙は美空にどうするのか聞いた。

 

「美空、どうする?」

 

「……分からない」

 

「……美空、俺は武田の方に行った方がいいと思う」

 

「え……?」

 

「美空のことだから越後を守り、俺も守らないと……なんて、考えてくれてるんじゃないのか?それはとても嬉しいけど、越後を守るには俺が行くしかない。だから、その間に体勢を整えてくれ」

 

「……分かってるわよ。そんなの。でも……また自分一人で、そんなお人好しみたいなことやって……それこそ、あんたが一番犠牲になってるじゃない」

 

「犠牲?そんな訳ない。今回の事をいい機会だと思ってる。前々から武田を仲間にしたいと考えていたからな」

 

「なに。越後勢だけじゃ不満なの、あなた!」

 

「違う。俺たちはこれからの鬼の戦いでもう二度と負ける事を許されないんだ。吉野の者とかいう黒幕も現れた……益々鬼との戦いは厳しくなるはずだ。だからこそ出来るだけ力を集める必要がある」

 

流牙はこれまで何度も敗北を経験したからこそより大きな力で臨まないと戦いには勝てないと感じている。

 

そして何より、流牙にとってこの世界でできた夢と未来をみんなで叶えるために。

 

「それに、前に美空と話しただろ?同盟を組んで多くの国を一つにまとめて人や金の物流を活性化する……鬼の脅威が無くなれば色々なことができる」

 

「仲良く、ねぇ。人の欲望は果てしないものよ?」

 

「そんなことはわかってる。だけど、美空や久遠、それに他の国の主たちは国の領土を広げようとしている。それは……天下を統一して戦いを無くそうとしているからじゃないのか?」

 

そう言われて美空は言葉を失う。

 

この世界は戦国時代と呼ばれる天下を統一し、それぞれの主たちが理想の国にするために戦いを繰り返している。

 

しかしその大元のほとんどは一刻も戦いを無くし、平和な世にするのが目的である。

 

「俺一人の力はとても小さい。だけど、人が集まれば大きな力となる。だからそれを見つけ、みんなを守るために武田に向かう」

 

「……流牙、本当に行くつもりなのね?」

 

「ああ」

 

流牙の決意は固い、そう感じ取った美空は暗い表情をしながら小さく口を開いた。

 

「正直に言うと、今の越後はあなたの提案を受け入れるしかない……ごめんなさい、流牙」

 

「大丈夫だ、これは美空たちを守るためじゃない。この日の本を守るための選択だからな」

 

「……ありがとう」

 

美空は流牙の想いを受け取り、その想いを無駄にしないよう一刻も早く越後を立て直し、万全の体制にする事を誓った。

 

その日の夕方……流牙は久遠への手紙を書いて美空の元へ向かった。

 

秋子は流牙隊の旅立ちの宴を開くが、美空は出席しておらず、流牙の出席も禁じられた。

 

美空を探しているとその途中で空と愛菜と名月と会った。

 

「みんな、美空を探しているんだけど、何処にいるか知らないか?」

 

「美空お姉様なら、多分庭の方にいらっしゃるかと」

 

「庭か。ありがとう」

 

「あの……流牙様」

 

「本当に、甲斐に行かれるのですか?」

 

空と名月は悲しそうな表情で流牙を見つめて尋ねた。

 

流牙は腰を下ろして膝をついて空たちと視線を合わせて言う。

 

「ああ、そうだ」

 

「そうですか……」

 

「せっかく越後も少しずつ平和になってきたのに……」

 

やはり憧れの人がこんな形で旅立ってしまうことに空と名月は悲しいと思っており、隣で黙っていた愛菜も同じ気持ちだった。

 

「……空ちゃん、名月ちゃん、美空の事を頼む。心の支えになれるのは君達だけだからさ」

 

「……はい。流牙様も、道中お気をつけて」

 

「ご無事を祈っております」

 

「ありがとう」

 

流牙は両手で空と名月の頭を撫で、二人はふわりと優しい微笑みを見せた。

 

「愛菜も秋子さんを支えてくれよ。多分秋子さんが一番苦労すると思うから」

 

「どやっ!この愛菜にお任せあれ!」

 

「ふふっ、頼むよ」

 

いつものように元気に返事をする愛菜にも優しく頭を撫でると空はある事を思い出して一つ質問をした。

 

「そうだ、流牙様。もう一つ、伺ってもよろしいですか?」

 

「何かな?何でも聞いて」

 

「流牙様は……美空お姉様の旦那様になられたのですよね?」

 

「そうだよ。といっても祝言はあげてないし、色々と慌ただしくなっちゃったけどね」

 

「でしたら……美空お姉様の娘の空と名月ちゃんにとって、流牙様は……」

 

「……あっ!!」

 

「え?え?何?」

 

きょとんとする流牙に空と名月は同時に口を揃えて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……お父様?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガーン!!!

 

流牙にまるでタライを頭に落とされたような強い衝撃が走った。

 

「え、ええっ!!?」

 

流牙はこの世界に来てから今までお頭とか旦那様とかお兄ちゃんとかご主人様など様々な呼び方をされて慣れて来た。

 

しかし、まさかこんな予想外な一撃が来るとは思いもよらなかったので流牙は困惑する。

 

確かによくよく考えれば空と名月は義理とはいえ美空の娘であり、美空の夫となった流牙は二人にとって父親になるのは必然である。

 

「あ、あの、やはりお嫌でしたか……?」

 

「お父様では……馴れ馴れしいですか……?」

 

空と名月は不安そうな表情で見つめ、流牙は子供達の笑顔を壊したくない気持ちやお父様と呼ばれる言葉に表せない嬉しい気持ちなどが合わさり、微笑みながら答える。

 

「確かに美空の旦那になったから空ちゃんと名月ちゃんは俺の娘になるね……父親がどんな感じでいれば良いかわからないけど、良いよ。君達が望むなら今から俺の娘だ」

 

次の瞬間、空と名月は満面の笑みを浮かべてこう言った。

 

「「はいっ!お父様!!」」

 

ガーン!!!

 

再び流牙に強い衝撃が走った。

 

こんなにも可愛くて素晴らしい女の子二人にお父様と呼ばれた時に心が暖かくて満たされるようなこの不思議な感覚。

 

娘を可愛がる全ての父親の気持ちが一瞬にして理解した瞬間だった。

 

すると、愛菜はこの光景を羨ましそうに見ていると流牙に遠慮しながら話しかけた。

 

「あ、あの、流牙殿……」

 

「どうした、愛菜」

 

「その……流牙殿は、母上をどう思いですか……?」

 

「秋子さんを?そうだな……美人で大人っぽいと思いきや意外にも可愛いところがあるし、家老でありながら愛菜の良き母親をしていて……これで今まで結婚相手がいないのがとても不思議なんだけど」

 

「あの……こう言っては何ですが、みんなからババくさいと言われてますが……」

 

「……もし仮に秋子さんが俺たちの世界の街に出たら男女関係なく視線を集めて絶対男に声かけられるよ」

 

美人でスタイル抜群で頭脳明晰と言うハイスペックの割には何故か結婚相手が見つからないかなり不遇な秋子だが、流牙の世界の街に出たら確実に注目を集めるのは間違いない。

 

もっとも、久遠をはじめとする流牙と関わりのある乙女たちもどれも可愛らしいので間違いなく注目されるだろうが。

 

「そ、そうですか……で、では一つお願いが!」

 

「お願い?」

 

「娘の私が言うのも何ですが……母上を嫁にもらってください!どーん!!」

 

「はぁっ!?」

 

「じ、実は母上は流牙殿に好意を抱いておるのです!結婚してお嫁さんにしてもらいたいぐらいに!!」

 

「え?ほ、本当に……?」

 

きっかけは流牙が秋子に叱咤し、愛菜を取り戻したところからであり、それ以降流牙に淡い恋心を抱いていた。

 

その母の恋心を娘の愛菜は既に気づいたのだ。

 

「ど、どうですか?年は流牙殿よりかなり上ですが、美人でおっぱいも物凄く大きいですぞ!!どーん!!」

 

「いやいや、娘の君がそんな事を言っちゃダメだろ……」

 

何とかして秋子を流牙の嫁にしてもらいたい愛菜に空が助け舟を出す。

 

「あの……愛菜。前に結菜さんが言っていたんだけど、流牙様……お父さんと結婚出来る条件は鬼との戦いを決意すれば無条件で結婚できるって」

 

「おおっ!?空様、本当ですか!?」

 

「うん、だから秋子の意思があればお父様と結婚出来るよ」

 

「そ、そうですか……これは良い事を聞きました!それでは、流牙殿!否……父上!母上をよろしく頼みますぞー!!」

 

愛菜は秋子に流牙と結婚出来る事を知らせるために元気よく、そして風の如く走り去って言った。

 

ちゃっかり流牙の事を父上と呼んでいたので、空と名月の事が羨ましくなって流牙に秋子との結婚をお願いしたのだろう。

 

秋子は流牙に好意を抱いているのは事実なので遅かれ早かれこうなっていたかもしれない。

 

流牙は空と名月と別れると、唐突に娘が出来た喜びに浸っていた。

 

「まさか、一気に娘が三人も出来るとはな……」

 

この世界に来て多くの妻と妹、そして娘……たった一人の家族である母を失った流牙にとって、大切な絆となった。

 

この絆を失わないよう、守り抜いていくと改めて心に誓う流牙だった。

 

その後流牙は美空を探して庭に出たが何処を探してもいないのでザルバに頼んで美空の匂いを探ってもらい、到着したのは小さな庵のような場所だった。

 

「流牙……」

 

「隣、いいか?」

 

「ええ」

 

流牙は美空の隣に座り、様子を伺う。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫……じゃないわよ。出家したいぐらいよ」

 

「そうか……大変だよな、一国の主も」

 

「一国どころか日の本の棟梁の良人が言っていい台詞じゃないわよ、それ。と言っても、流牙は自覚とか無いんだっけ?」

 

「あはは、そうだね」

 

みんなが宴に出ているお陰か珍しく二人っきりで過ごせる時間ができた。

 

流牙は心が沈んでいる美空に優しく話しかける。

 

「みんな心配していたよ?」

 

「わかってるわよ。でも、どうしても一人でいたい時ってあるでしょ」

 

「一人ね……そう言ってもいつも側に仲間の誰かがいたり、何よりザルバがいるからな……」

 

「……恵まれてるのね」

 

「そうだな、ありがたいことにね。この世界に来てどうなるか不安だったけど、沢山の奥さんと仲間が出来た」

 

「本当に運がいいわね……それもあなたの運命かしらね」

 

「運命か……それは分からないけど、奥さんだけじゃなく、妹と娘も出来た。家族を失った俺には本当に大切な宝だ」

 

「娘……?」

 

「空ちゃんと名月ちゃん、そして愛菜ちゃん」

 

「そっか……空と名月は私の娘だからそうなるわね。でも愛菜は……」

 

「愛菜ちゃんから聞いたんだけど、秋子さんが俺に好意を抱いているらしくて、鬼と戦う意思があれば妻になれることを伝えに言ったよ」

 

「なるほどね……秋子、愛菜を助けた時からずっとあなたを見ていたから。相変わらず罪な男ね」

 

「反論したくても出来ないな……」

 

「……ね、流牙」

 

「ん?」

 

「もう一回、川中島を起こしちゃダメ?あなたを光璃に渡すくらいなら、典厩の申し出なんか蹴っ飛ばして、川中島で戦っても良いのよ。柘榴や秋子だってわかってくれるはずだし……」

 

美空は越後の当主としては流牙を武田に渡すべきであると分かっているが、流牙の妻としては渡したくない気持ちが強く、流牙を守るために戦いたいと思っている。

 

「……美空、君の気持ちは嬉しいよ。だけど、俺のせいで越後の大勢の人が犠牲になるのは嫌だ」

 

「じゃ、じゃあ……一緒に出家しましょうよ。どこか誰も知らない山の奥に小さなお寺を構えて、私と流牙の二人で……静かに……」

 

様々な気持ちが美空の心の中でぐるぐると混ざり合って美空らしくない弱気な事を言っていく。

 

しかしそれを流牙が了承するはずがなかった。

 

「美空……俺の歩むべき道を知ってるよね?」

 

「……分かってる、分かってるけど……だって、他にどうしたらいいか……分からないんだもの……母様には物心ついた時からお寺に預けられて、姉様が頼りにならないとわかったら還俗させられて……越後を平和にするためにずっと戦ってきて……」

 

「美空……」

 

「お寺に帰りたいって言う以外に……どうしろって、言うのよ……」

 

流牙の瞳には今の美空は越後の当主ではない、一人のか弱い乙女に見えた。

 

美空が出家したいと言うのはそれ以外に逃げ道が分からない、どうしたらいいのか分からないという意思の表れなのだ。

 

「美空」

 

流牙はそんなか弱い美空の両肩を掴むとそのまま強引に抱き寄せて美空の背中に手を回して抱きしめた。

 

「ひゃっ!?りゅ、流牙!!?」

 

突然抱き寄せられ、そのまま強く抱きしめられた美空は顔を真っ赤にする。

 

「……今、俺が美空の想いに応えることは出来ない。だけど、これだけは出来る」

 

美空の弱っている気持ちを受け止め、優しく包み込む……これが今の流牙にできる事だった。

 

美空は母親として空や名月を抱きしめることはあったが、逆にこうして誰かに抱きしめられることは記憶にない。

 

甘えるように流牙にしがみつき、その温もりを肌で感じていく。

 

そして、流牙は美空との一つの大切な約束を交わす。

 

「約束する……必ず戻る」

 

それは必ず美空に再会するという流牙の決意の表れだった。

 

「本当に……?」

 

「ああ。時間は少し掛かるかもしれないけど、必ず美空の元へ戻る」

 

「破ったら……承知しないんだから……」

 

「分かってるよ。よし……それじゃあ行こうか!」

 

流牙は美空を抱き上げて立ち上がる。

 

「い、行くってどこによ!?」

 

「宴だよ。秋子さんに出るなって言われたけど、しみったれたことより大騒ぎをしよう!」

 

「宴!?でも私は行かな……きゃあっ!?人の話を聞きなさーい!!」

 

流牙は美空の話を聞かずに庵から連れ出し、そのまま宴の席に突撃した。

 

秋子は流牙の登場にすぐにでも怒って叩きだそうとしたが、流牙の嫁になれると愛菜と結菜に言われて顔を真っ赤にし、恥ずかしくて何も言えなくなってしまった。

 

流牙は魔法衣からギターを取り出し、まだ一葉以外には聞かせていない旅立ちと再会を約束する歌……『風 〜旅立ちの詩〜』を披露した。

 

必ず美空の……みんなの元へ戻る。

 

改めてその約束を込めて流牙は心を込めて歌うのだった。

 

越後での最後の一夜……流牙と美空たちはこの時を忘れないよう大騒ぎをして楽しく過ごすのだった。

 

 

越後の隣にある甲斐の国。

 

そこに物静かな雰囲気をした赤い髪をした少女が小さな神社に訪れていた。

 

神社の社の中に入り、地下への階段を降りて少し開けた地下室に到着する。

 

その部屋の奥には大きな岩で作られた扉で閉じられた不思議な空間が広がっていた。

 

そして、その扉には驚くべき壁画が描かれており、少女はそっと扉に触れながら呟いた。

 

「もうすぐ……やっと……返せる時が来た……」

 

その扉には棹立ちで後ろ足で立ち上がる鎧に包まれた馬に跨る、鎧を纏う騎士の姿の壁画が描かれていた。

 

馬に跨る騎士……その鎧の兜は狼を顔を模しており、腰に三角形の紋章があった。

 

それは正しくこの世界に現れた希望の光……黄金騎士ガロの姿だった。

 

そして、その扉の奥に一つの物が眠っていた。

 

それは壁画と同じ、鎧に身を包み、真紅の鬣を持つ不思議な馬だった。

 

しかし、その鎧は漆黒に染まっており、力を無くしているように目を閉じて静かに眠っていた。

 

いつか現れるであろう『誰か』を待つように。

 

その時を待つように、静かに、静かに……。

 

 

 




大切な人達との一時の別れ。

別れから新たな出会いが待ち受ける。

次回『武 〜Takeda〜』

それは猛き者たちが集う国。



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