牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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絶狼 Dragon Bloode が遂に始まりますね。
零の新たな戦いがどうなるか見ものです。
そしてこちらではもうすぐ武田編が始まります。



『混 〜Confusion〜』

越後での鬼の戦いから数日が経過した。

 

美空の後継者は名月が辞退したことで空に決定した。

 

名月はこれから空を支え、共に越後を繁栄していくと誓うが、自称空の愛の守護者である愛菜と度々小競り合いを起こして行くことになるのは言うまでもなかった。

 

今回の後継者争いのきっかけとも言える朧は名月の成長と決断を見届け、関東に帰ることになった。

 

朧は最後の最後まで名月を誑かした流牙を許さなかったが、結果的に名月を鬼から守り、成長するきっかけを与えたことを少しだけ感謝した。

 

そして、流牙の頼み通り関東に戻ったらすぐに鬼の警戒を強めることを約束した。

 

まだまだ問題は多いが、少しずつ平和へと近づいた越後だったが、そこに流牙と美空に魔の手が近づいていた。

 

始まりは愛菜の緊急事態の知らせだった。

 

春日山城の南方、海津城方面に風林火山の旗……甲斐の虎、武田が動き出した。

 

美空たち越後衆の因縁の相手とも言える武田に緊張する一同。

 

武田が来ることは予想しており、美空たちは冷静に状況を整理するが、反乱から後継者争い、果てには鬼の乱入で武田とまともにやり合えるだけの兵を揃えることが出来ない状況だった。

 

すると、雫が美空に提案を申し出た。

 

「あの……宜しいですか?」

 

「どうかした?ちっちゃな軍師さん」

 

「はい。同盟国として、いくつかご提案が出来るかと」

 

雫は同盟国である越後に倒れてもらうわけにはいかないとして、幾つかの手を説明する。

 

まず最初に織田と長尾の攻守同盟を周辺諸国に派手に宣伝する。

 

それにより武田に背後……幾つものの同盟国を気にさせるとこができる。

 

そして、次に打つ一手は賭けになる。

 

「賭け?」

 

「賭け、というか。久遠様が認めてくださるかどうかわからない、ということですが」

 

雫が苦笑を浮かべていうと、ひよ子たちを筆頭に流牙隊のみんなはわかったように頷く。

 

「ああ、なるほど。大丈夫よ、もしもの時は私が説得するから」

 

結菜も苦笑を浮かべながらそう言い、流牙はきょとんとして何のことだ?と疑問符を浮かべていると雫の口から衝撃的な提案が出された。

 

「美空様。流牙様の嫁になりませんか?」

 

「…………はい?」

 

突然の雫の衝撃的な提案に久しぶりに流牙の頭が真っ白になった。

 

「はぁ……?私がこいつの嫁になればいいの?」

 

「はい。この日の本で鬼と戦う決意を示すため、道外流牙という天の御遣いと添い遂げる。越後ではなく、日の本のために。そう喧伝すれば、日の本全土の為という点、そして婚姻による決意を強調することによって、万人が受け入れやすい大義名分を得ることになります。これは無形の力となるでしょう」

 

それにより日の本の為に戦う越後に対し侵攻すれば武田は国賊の汚名をきることとなり、幕府より正式に認められている天上人でありは流牙の妻に弓引くことは畏きところに弓引くことと同じということだ。

 

これで武田が引くかは分からないが、少なくとも越後内部の平定には十分な効果を発揮する。

 

「そういうことか……」

 

「……ねえ、流牙」

 

「何?」

 

「あなたは私が嫁になること、どう思うの?」

 

「どう思って……えっと……」

 

「ちょっと!悩んじゃうことなのっ!?」

 

「リュウさんひどいっす!」

 

「失望しました」

 

「女の敵」

 

「流牙様……」

 

まさかの自分を慕う空にまで疑惑の視線を向けられ、誤解とはいえ流牙は少し悲しくなった。

 

「……さいってぇ!」

 

「ちょっとお嬢さんたち?まだ俺は何も言ってないんだけど……」

 

「御大将の何が不満なんすか!そりゃ、性格は捩くれてるし、気分屋だし、歪んでるのは否定しないっすけど、顔は可愛いし、おっぱいとそこそこあるっすよ!」

 

自分の使える主である美空に対してかなりぶっちゃけ過ぎた発言をする柘榴だった。

 

最も、その主の美空も部下に対してかなりぶっちゃけ過ぎた発言をするのでどっちもどっちであるが。

 

「ちょっと!柘榴はちょっと黙ってなさい!」

 

「……美空はそれでいいのか?」

 

「え……」

 

「男としては美空みたいな可愛くて良い子を嫁に来てくれるのは嬉しいと思うよ。ちょっと性格は捻くれてるけど、そこは美空の魅力だと俺は思うからさ」

 

流牙の飾らない素直な言葉に美空は頬を赤く染めた。

 

そして、流牙は美空が嫁になることを渋る理由を静かに語る。

 

「でも、美空が越後の為に、日の本の為に、そしてこの戦況が有利になるから俺の嫁になる……それっておかしくないか?」

 

その言葉に秋子達越後衆は言葉を失い、流牙隊はやっぱりと言った感じで小さく笑みを浮かべた。

 

「俺は黄金騎士になるのが夢で母さんや法師との約束だから、今までどんな辛いことがあってもこの体が傷ついても、歩き続けることができた。だけど、美空は寺で一生を終えるはずだったのに周りの人たちに散々振り回されて……その果てが夫を越後を守る為に決まってしまったら、美空が自分を犠牲にして傷ついてばかりじゃないか」

 

流牙はどんな痛みも苦しみも自分で乗り越える覚悟を持っているが、美空の人生は越後と言う名の国を守る為に振り回され続け、何度も何度も傷ついて苦しんで来た。

 

「だから……俺としては別の方法を、そして美空が幸せになれる方法を見つけたいんだ」

 

流牙は美空の報われない人生をなんとかしたいと思い、自分の嫁になることを渋ったのだ。

 

流牙の優しさに触れ、どう言えばいいのかわからない美空に結菜は優しく教える。

 

「美空様」

 

「何よ、結菜……」

 

「ご存知の通り、流牙はそう言うことに関しては鈍感です。だから、今の気持ちを素直に言葉に表してください」

 

「言葉……」

 

美空は軽く目を閉じ、これまでの流牙との様々な出来事を思い出していた。

 

黄金騎士ガロの鎧の美しさに感動し、流牙のお人好しに呆れ、流牙と波奏の親子の強い絆に感嘆し、いつの間にか流牙の強さと優しさに惹かれていた。

 

「流牙」

 

「何?美空」

 

「今から言う言葉……心して聞きなさい」

 

美空は流牙をじっと見つめる。

 

白い肌と淡い髪に包まれたその紅い瞳はまるで氷の中で燃える炎のように見え、流牙は真剣に耳を傾ける。

 

「ばーーーーーーーーーっか!」

 

「は、はいっ!?」

 

「あなたって、前からずっとずっと思っていたけど、ほんっとーーにお人好しなのね!いくら状況が差し迫っているからって、相手の言うことを素直に聞いて、ここまで無駄働きしちゃうなんて、お人好しにもほどがあるわよ!黄金騎士で能力があるくせにそれに鼻にかけることもない。どんな大きい手柄を得ても、功を誇ることもしない!そのクセ命だけはしっかり賭けてやるんだから……挙げ句の果てに何?この私が嫁になってあげるって話なのに、素直に喜ぶどころかそっちの心配!?」

 

「だ、だって……」

 

「これでバカでお人好しでなくて、何て言うのよ」

 

「それは言い過ぎじゃ……」

 

「な、ん、て、い、う、の、よ!」

 

「ごめんなさい、返す言葉がない……」

 

「……ほんとバカ。ううん。バカを通り越して、うつけようつけ!大うつけ!そんなうつけ者、心配で放っておけないわよ。だから、私が側にいて、そのお人好しな性格を叩き直してあげる。いいわね!」

 

「美空……」

 

「いいわねって聞いてるの!返事は!」

 

「……ああ、分かったよ」

 

美空の歪んだ性格故の遠回しな告白にようやく気付いた流牙は困ったような表情をしながら笑った。

 

「美空、本当にいいんだな?」

 

「越後の国を渡してきたのは豪族たちだけど、受け取ったのは私の意思よ。空や名月を娘に迎えたのも私の意思だし、晴景姉様を追い出したのも私の意思。選択を突きつけられたことは何度もあったけど、それは全部黄金騎士になって戦うと誓ったあなたと同じで、自分で全部決めてきたのよ。私の意思なら、文句ないんでしょ……」

 

それは美空が自ら選択して流牙の嫁になりたい、側にいたいと遠回しに宣言していると同じことだった。

 

流牙は美空の元へ行き、右手を差し出して微笑みながら言う。

 

「美空……頼りないかもしれないけど、よろしくな」

 

「……良いわよ。よろしくしてあげる」

 

美空は頬を赤く染めながらも笑みを浮かべ、流牙の差し出した右手に自分の右手を重ねてお互いに優しく握り締めた。

 

美空が流牙の嫁になることが決まり、めでたい事だと越後衆は喜び、流牙隊は頼もしい仲間が出来た喜びと同時に新たな恋敵が増えて少し複雑な心境だった。

 

話がひと段落したところで次に武田をどうするか色々知恵を出し合っているとそこにお茶を用意しに出ていた愛菜が再び大慌てでやって来た。

 

それは武田晴信の妹、武田典厩信繁が訪れたと言う新たな緊急事態だった。

 

そして……夫婦となった流牙と美空を引き裂く別れの時を訪れようとしていた。

 

 

 

.




引き裂かれる絆。

少女が深い心の迷いを見せ、彼は誓いを立てる。

次回『誓 〜Pledge〜』

約束する、必ず戻ると。



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