来年にはこの物語を完結させたいなと思いますのでよろしくお願いします。
流牙の未来を繋ぐ決意と越後に住む全ての人たちの想い、そして毘沙門天と護法五神の力が一つに重なり誕生したガロの鎧の新たな奇跡……『護法天竜・牙狼』。
黄金に輝く竜人の降臨にこの場にいる全ての人間が見上げ、まるで本当の神が降臨したかのように崇めたくなる気持ちだった。
流牙は牙狼剣を呼び出すと、それはいつもの両刃の大剣の形ではなく竜の姿を模した大剣、『天竜牙狼剣』へと変化していた。
黄金の翼を羽ばたかせて急降下し、鬼の群れに突撃し、天竜牙狼剣を振り下ろした。
すると、天竜牙狼剣の先端の竜の頭部が動きだし、まるで意思を持つかのように口を開いて鋭い牙を向けた。
刀身が柔らかく限りなく伸び、縦横無尽に駆け巡る竜の如く次々と鬼を斬り伏せて行く。
しかし、流牙は鬼がこの地上にいるものだけでないとすぐに気付いた。
鬼はまだまだ地中の中を潜っており、何処から現れたのか不明だがこのままではキリがないほどに増え続けてしまう。
それならばと流牙は静かに美空の元へと向かい、珍しく口をあんぐりと開けている美空に静かに話しかける。
「美空、力を貸してくれ」
「ふえっ?ち、力を貸せって、何をするのよ!?」
「決まっている。君の大技だ!」
鎧から五つの光が現れ、光が人の形をなすと美空にとって見慣れた姿が現れた。
「帝釈!みんな!」
美空の可愛い妹と称する帝釈天率いる護法五神、だがその姿は少し異なっていた。
「って、何かみんなが黄金に輝いて武装も豪華にいるんだけど!?」
護法五神全員の体が黄金に輝き、更には身に纏っている鎧がガロの鎧に似た形へと変化していた。
一時的だが、ガロと一体化したことにより護法五神もその力の一部を宿しているのだ。
「美空、一気に全ての鬼を浄化する」
「まさか三昧耶曼荼羅?でもまだ他のみんながいるのに、使えるわけないじゃない!」
三昧耶曼荼羅は護法五神を五芒星の形に配置し、美空の霊力や精神力を使い、浄化の光を放つ。
しかし、それ以外にも物理的な攻撃も可能で衝撃波を放って敵を攻撃したり建物を派手に破壊することも可能である。
今この戦場には鬼以外にも鬼と戦っている大勢の兵士がいる、仮に三昧耶曼荼羅を放ったら鬼と兵士が一緒に倒されてしまう。
美空はそのことを一番気にしていたが、流牙には一つの確信があった。
「心配するな。今から放つ三昧耶曼荼羅はこの場にいる全ての人を守るためにある」
「全ての人を守る……?」
「そうだ。美空、俺を信じてくれ。仲間を、越後の民を、そして……越後の未来を担う希望を守るために」
「流牙……」
美空は流牙から少し離れた空たちを見つめ、目をそっと閉じて両手を組んで印を結んだ。
「わかったわ。あんたは何度も私の期待に応えてくれて、約束を守ってくれた。だから……あなたを信じる!!」
「美空……一緒に行くぞ!!」
「ええ!!」
流牙は天竜牙狼剣を掲げると護法五神は五つの方向へと飛び、越後の広大な戦場を囲むような巨大な黄金の光で紡がれた五芒星を地面に描いた。
三昧耶曼荼羅の五芒星の光は本来なら半径十数メートルほどにしか展開出来ないが、今の三昧耶曼荼羅は半径数キロほどの巨大な五芒星を描いている。
「邪悪なる魔獣たちよ、その穢れた魂を浄化し、正しき魂となりて来世へと旅立て!」
「希望の光よ、人々を守り、未来を繋げ!」
流牙と美空の心が一つとなり、共に天に向かってその名を叫んだ。
「「三昧耶曼荼羅!!!」」
戦場に黄金に輝く五芒星の光が天を突くほどの閃光を轟かせる。
黄金の光は地上と地中にいる数百……否、数千の鬼を一匹残らず全て浄化した。
その醜い体を灰にし、穢れた魂を浄化して天へと登って行った。
そして、三昧耶曼荼羅の光を同じく受けた人間達には浄化ではなかった。
「おお……?何と、疲れた体が癒えておる」
「これは……鬼に傷つけられた兵の傷が治ってる……?」
三千世界を放ち、極限まで疲れていた一葉は活力を取り戻し、詩乃は兵の傷が癒えていることに驚いた。
「これが流牙と美空様の力……悪しき力を浄化し、儚き命に癒しを与えているの……?」
結菜は自分に纏っている黄金の輝きを見つめながらそう呟いた。
ガロの鎧を構成しているソウルメタルは人々の想いを力に変える性質を持っている。
それに加えて毘沙門天と護法五神の力も合わさり、流牙と美空の望む人に仇なす鬼を全て浄化し、この戦で傷ついた全ての人を癒す力が誕生したのだ。
それは越後を守りたいという願いが作り出した奇跡の光でもあった。
三昧耶曼荼羅はこの戦場にいた全ての鬼を浄化し、唐突に始まった鬼との戦いに終わりを告げた。
流牙はガロの鎧を解除し、護法五神達を美空の元に返すと、鎧を魔界に送還した。
その瞬間、流牙と美空の意識がクラッと失いそうになり、倒れそうになったところを慌てて結菜と柘榴が受け止める。
「ちょ、ちょっと流牙!?」
「御大将!大丈夫っスか!?」
「ごめん……かなり疲れた……」
「三昧耶曼荼羅であんなに力を使ったのは初めてよ……」
護法天竜・牙狼の放った三昧耶曼荼羅。
それは流牙と美空の体力と精神力を根こそぎ使い果たすほどの対価が必要だった。
だがこれで越後に現れた鬼は全て討滅し、緊張が解けて安堵することが出来る。
そう思った矢先だった。
『流牙!背後から強い邪気だ!』
「っ!みんな、下がれ!!」
「空!名月!私の後ろに!」
ザルバの声に続き、邪悪なる気配をすぐに察した流牙と美空は疲れなど一瞬で吹っ飛び、いつもの調子に戻り、みんなを下がらせながら剣と刀を構える。
そして、その剣と刀の切っ先の先にいたのは白髪に赤い目をした不気味な雰囲気をした少年だった。
少年の身なりはこの時代では着られない束帯を身につけており、首には深緑色に輝く勾玉の首飾りをかけていた。
「おうおう、威勢の良いことよ。だが、切っ先を向けたところで、何かを得ることは叶わぬぞ?」
「貴様、何者だ……?」
「越後の人間じゃないわね。それに、今時そんな格好をする奴は珍しいわよ……」
流牙と美空、そして後ろにいた一葉達は空や名月、詩乃や雫を下がらせながらすぐにでも動けるようにそれぞれ武器を構える。
「ようこそ。血にまみれた戦乱の世へ。朕は道外流牙を祝福と共に迎えようぞ」
そう言ってにやりと笑った姿は、少年の形に似つかわしくない、深く、黒ずんだ悪意が見え隠れしていた。
『気をつけろ、二人共。そいつからは鬼以上の邪気を感じる。ただの人間じゃないぞ』
「分かってる……」
「そうね……」
不気味な笑みを浮かべる少年にしか見えなかったが、流牙にはその体に纏う邪悪な気配に今まで戦ってきた数々の強敵のホラーの姿が重なって見えた。
「もう一度聞くぞ、貴様は何者だ?」
「吉野に住まう者。じゃが、朕のことなどどうでも良いであろう。知ったところで、貴様には何も出来んのだから」
「それはどうかな?この場には俺以外に頼れる仲間たちがいる。貴様を斬るぐらい造作もないことだ」
「ふはははは!確かにそれは可能かもしれんな。しかし、それは朕がこの場にいればの話だがな?」
そう言うと少年の姿が少しずつ薄くなってく。
まるで幻のように体が消えていき、それは流牙たちが攻撃しても無意味だと言うことを表していた。
「此度は顔を見に参っただけ。今は何もするつもりはないから安堵いたせ。道外流牙よ、この調子でこれからも精進せい。朕は貴様を応援しておるぞ」
「応援、だと?」
「鬼を殺し、邪を殺し、殺し殺して鬼血を流せ。さすれば鬼血は浄化され、この日の本を美しい世に変えてくれるであろう。良いか?もっともっと鬼を殺すのじゃ。この日の本を救いたいのならばな」
いまいち少年の狙いや目的が分からず、流牙は改めて少年に問う。
「貴様の目的は何だ?」
「言ったであろう。朕は貴様を応援しておると……花に寝て、よしや吉野の吉水の、枕の下に石走る音。雌伏は飽いた。黄金騎士の継承者よ、貴様の働きを楽しみにしておるぞ。くくくく……はははははははははっ!!」
そして……少年の姿が霧散した霧のように完全に消え、気配も感じられなくなった。
「消えた……ザルバ」
『奴の気配が消えた。少なくとも越後から完全にいなくなっただろう』
「流牙……まだ断定出来ないけど、まさか今の奴が……?」
「可能性は十分ある。奴の口振りや雰囲気……黒幕と考えて間違いないだろう」
あの少年が一連の鬼の事件の元凶……黒幕の可能性。
つまり、流牙たちが倒すべき最大の敵と対峙したのだ。
流牙は静かに牙狼剣と牙狼刀を鞘に納め、少年の姿を思い浮かべる。
あの邪悪そのものから生まれたような雰囲気を漂わせる少年に流牙は牙狼剣と牙狼刀を握り締めながら怒りを露わにする。
「あいつが……多くの民を、仲間を、そして、桐琴さんを……」
今まで奪ってきた多くの命の仇を遂に見つけることができ、必ず少年を倒すと心に強く誓う。
「流牙」
「美空?」
「黒幕を見つけたのはいいけど、今はこの戦いを無事に乗り越えたことを喜びましょう?」
美空は優しい笑みを浮かべて流牙の肩をそっと触れ、少年と対峙して強張っていた心を和らげた。
流牙はそっと周りを見渡すと自分を見つめるたくさんの笑顔を目に映す。
流牙隊のみんな、越後衆のみんな、そして……この戦を通じて大きく成長し、互いの絆を深めた空と名月と愛菜。
今度は大切な失うことなく守ることができた喜びを噛み締め、牙狼剣と牙狼刀を魔法衣にしまい、流牙も笑顔を見せる。
「それじゃあ……帰ろっか?」
美空たちも頷き、全員で春日山城への帰路に向かう。
国同士の陰謀が渦巻く戦の中に現れた鬼の元凶。
それは流牙に新たな戦いと出会いを導く切っ掛けとなるのだった。
☆
一方、流牙たちを遠目で見つめる二つの影があった。
一人は流牙が以前に堺に向かう途中の茶屋で出会った飄々とした雰囲気の少女。
もう一人は右目に眼帯をつけた大人しそうな少女。
二人は流牙が越後に訪れてからずっと監視をしていた。
「見たかい?あれが金色の天狼……黄金騎士ガロの真骨頂さ」
「まさかあれほど凄まじい力を使いこなすとは……危険ですね」
流牙の……黄金騎士ガロの力を目の当たりにし、興奮と同時に畏怖の念を抱いた。
「確かに危険だ。だけど、彼が刃を向けるのは人ではない、鬼だけだからね」
「だけど、いずれ我らにとってとてつもなく大きな障害になるんじゃないの?」
「だからお屋形様が断を下し、典厩さまを海津に待機させているのだろう?」
「そうだけど……」
「とにかく、判断はお屋形さまに任せよう私達は課せられた任務に専念しよう」
「そうね……」
二人は流牙たちに鉢合わせないようにその場を後にし、次の行動に移すのだった。
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平和な時は長く続かない。
唐突に破られ、大きな決断が迫られる。
それは一人の乙女の人生を左右するほどの決断となる。
次回『混 〜Confusion〜』
物語は次の舞台へと進む。
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