牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回は流牙がはちゃめちゃな行動をします(笑)
次回は久々のバトル回になると思います。


『星 〜Stars〜』

空と名月……越後の後継者を決めるための戦が遂に始まろうとしていた。

 

空には金色の天狼の元に集った癖のある精鋭たちが集う流牙隊、名月には関東最大勢力の北条、それぞれがバックに付いている。

 

一見すると北条の名の下に集まった勢力の数で名月に分があるが、流牙隊には一騎当千の武将から戦局を見極めて操る名軍師など有能な粒揃いの少数精鋭が揃っている。

 

予想出来ない波乱な戦が幕を開けようとしている。

 

一方、戦が今か今かと始まろうとしている中、春日山城で柘榴と秋子と松葉の三人は美空の様子を見に行く。

 

「御大将、大人しくしてるっスかね〜」

 

「流石に御大将が言い出したんだから、大人しくしてなかったら困るからね?」

 

「抜け出すかもしれない……」

 

破天荒なところがある美空が何かをするのではないかと心配しながら美空の部屋へ向かう。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

「きゃー!何をするの!?離しなさーい!!」

 

 

 

 

 

 

突然、美空の悲鳴が春日山城に響き渡った。

 

「「「えっ!?」」」

 

柘榴たちは耳を疑いながら急いで美空の部屋へと向かうと、美空の部屋から勢いよく黒い影が飛び出して庭に降り立った。

 

「あれ?みんな早かったね」

 

その黒い影は春日山城奪還の功労者であり、同盟国の重鎮である道外流牙。

 

そして……。

 

「は、離しなさい、流牙!!私をどうする気!?」

 

その腕に抱き上げられて暴れていたのは越後の当主、美空だった。

 

何故流牙が美空をお姫様抱っこで抱き上げているのか分からず柘榴たちは目を疑う。

 

「お、御大将!?リュウさん何をしてるんっスか!?」

 

「今から美空を少し借りて行くよ〜」

 

「はぁ!?流牙さん!あなた何を言っているのですか!!?」

 

「何を企んでる……?」

 

「悪いね、俺たちの世界だとこういう天気のいい日には可愛い女の子と遊びに行くもんだからね。最近美空は疲れ切っているから気分転換のためにこのまま連れて行くよー」

 

柘榴たちの答えを聞かず、流牙は美空を連れてそのまま春日山城を脱出して逃げてしまった。

 

「……お、御大将が誘拐されたっスー!?」

 

「ああもうっ!流牙さんはこんな時に何を考えているのよー!!?」

 

「まさか……リュウは御大将を……!?」

 

流牙らしからぬとんでもない行動に柘榴たちは大慌てをし、急いで美空を連れ戻すために流牙の後を追いかけた。

 

しかし、軒猿よりも早く動ける流牙を追いかけることはできず、姿を見失ってしまった。

 

そして……流牙が美空を連れて向かった先は……。

 

「よし、着いた。ここならよく見渡せるよ」

 

そこは春日山城から少し離れた空と名月が戦う戦場を見渡せる丘だった。

 

「ありがとう。いやー、みんなの慌て顔は見ていて面白かったわね〜」

 

美空は流牙に無理やり連れて行かれたように装っていたが、実は違っていた。

 

流牙の考えで誘拐されたことにして美空を春日山城から連れ出したのだ。

 

美空は出来ることなら近くで空と名月を見守りたいが、越後の当主としてそれは出来ない。

 

そこで流牙が無理やり連れ出し、戦場の近くの丘で見守ることにした。

 

丘には陣幕を張り、そこにいたのは……。

 

「流牙、無事に美空様を連れてきたのね」

 

流牙の妻の一人、今回の戦に参加してないものの一人である結菜だった。

 

結菜はあくまで流牙の側で見守り、共に戦う役目があるので今回の戦に流牙が参加しないなら自らも参加する理由がないので、今回は美空のおもてなしをする。

 

「お茶とお菓子を用意しましたのでどうぞ」

 

「あら?気が聞くわね」

 

既に結菜が淹れたお茶と越後の街で買った和菓子を用意して美空をおもてなしをする。

 

「まさかあの美濃の蝮……その娘の結菜にこうしてもてなされるなんて、夢にも思わなかったわ」

 

「私も越後の龍の美空様をこうしておもてなしをするなんて、考えたこともありませんでしたよ」

 

片や美濃の蝮の娘で織田信長の妻、片や毘沙門天の化身で越後の当主……本来なら二人共会うことは叶わぬ相見えぬ存在だった。

 

しかし……。

 

「出会いと縁って不思議なものね……」

 

「そうですね……」

 

二人の目線の先には険しそうな目で戦場を見る流牙の姿があった。

 

流牙という存在によって不思議な縁が生まれ、こうして一緒に時を過ごすことになった。

 

本当に不思議な存在だど思い、二人は笑みが零れた。

 

「ん?どうした?」

 

「何でもないわ。流牙、あなたにもお茶を淹れたから飲みなさい」

 

「ありがとう」

 

流牙は結菜から湯呑みを貰い、ズズーっと口の中に茶を流し込んで静かに開戦の時を待った。

 

 

越後の未来を決める戦が始まろうとする中、そこに邪悪なる者たちが近づいていた。

 

「「「ぐるるるるる……」」」

 

それは飢えた獣のようによだれを垂らしながら歩く鬼の軍勢だった。

 

その軍勢の中に悪しき力をその身に漂わせる少年がいた。

 

「おうおう、腹を空かせて泣いておるのか?もう少し待てば腹一杯食わせてやるからの」

 

まるで親のように鬼に接し、鬼たちは喜びの雄叫びをあげる。

 

「「「ぎゅあーっ!」」」

 

「うむ、うい奴らじゃ。宝刀の煌めきを感じ、越後くんだりまで来てみれば、やはり居たか。黄金騎士よ。魂までも鬼血に濡れ、その手その身を汚泥で穢す。さすれば刀は鍵となろう。早うなれ……早う立派な鍵となれ」

 

その者は黄金騎士……流牙に何かを求めているように邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

戦場のあちこちから声や刀や鉄砲の音が鳴り響き、静かに開戦した。

 

美空は目を細めて神妙な面持ちで戦場を見つめて戦況を見ていく。

 

流牙も隣でそれを見ていくとザルバから呼び出しがあった。

 

チリーン……!

 

「ザルバ、どうした?」

 

『流牙、戦をしている場合じゃないぞ』

 

「どういうことだ?」

 

ザルバの言葉に結菜と美空も耳を傾けると衝撃的な発言が飛び出す。

 

『鬼の邪気を微かに感じる……あの時と同じように土の中を潜っているかもしれない』

 

「なっ!?」

 

「鬼が近づいている!?」

 

「ちょっと待ってよ!鬼なんて越後には出た報告がないのよ!それが急に何で……」

 

鬼が現れるかもしれないという事に困惑する流牙たち。

 

すぐにでも対処しないと戦の途中に出てこられたら兵のほとんどが混乱して大きな被害が出る恐れがある。

 

「流牙!私は春日山城に戻って柘榴たちを連れてくる!」

 

「なら私は空様たちの本陣に向かってすぐに対応出来るように詩乃と雫に伝えるわ!」

 

美空は春日山城へ、結菜は空の陣へ向かう事にした。

 

幸い移動用に馬を用意していたので走る必要がなくすぐに向かう事が出来る。

 

「……俺は名月の元へ向かう。朧は拒否するだろうけど、名月なら俺の話を聞いてくれるはずだ。すぐに向かう!」

 

しかし、今は戦の真っ只中、幸い空の陣は近くだが、走ってすぐに名月たちの陣に向かえる訳ではない。

 

「仕方ないか……!」

 

流牙は陣を飛び出して走りながら魔法衣から牙狼剣を取り出すと同時に鞘から抜き、前方に円を描いて魔界からガロの鎧を召喚する。

 

そして、流牙が鎧を装着すると同時に大剣となった牙狼剣から闇の力が溢れ出し、金色の鎧が漆黒の闇を纏った。

 

牙狼・闇へと姿を変え、背中に漆黒の翼が生え、羽ばたかせながら空を飛ぶ。

 

走るよりも比べ物にならないほどのスピードで戦場の上空を飛び、一気に名月の元へ向かう。

 

「名月ーーっ!!!」

 

「えっ?ああっ!流牙様!?」

 

「と、飛んでいる……!?」

 

陣にいた名月は上空から聞こえた流牙の声に驚き、隣にいた朧は流牙が空を飛んでいる事に驚愕し、開いた口が塞がらなかった。

 

流牙は翼を消して地面に降り立つとすぐに鎧を送還して名月の元へ向かう。

 

「流牙様!どうなされたのですか!?」

 

「名月ちゃん、落ち着いて聞いてくれ。今この戦場に鬼が近づいて来ているんだ」

 

「ええっ!?それは本当ですか!?」

 

「ああ。今、美空はすぐに柘榴たちや兵を連れてこっちに向かってくれるようにしているし、俺の仲間が空ちゃんたちや他の仲間達にもこの事を伝えに向かってくれているんだ」

 

「そ、そうですの?で、ですが私はどうしたら……」

 

まさか鬼が近づいているとは思いもよらなかったのか名月は怯えてどうすればいいのか混乱している。

 

「もう空ちゃんとの戦どころの話じゃない。今すぐに戦いをやめて鬼との戦いに備えるか、撤退するんだ。後は鬼との戦いに慣れている俺たちに任せてーー」

 

「待ちなさい!!」

 

すると突然朧が怒りの形相を浮かべながら流牙を睨みつけていた。

 

「道外流牙……貴様、鬼がいるなどと虚言をしてこの戦を有耶無耶にしようとしているのではないのか?」

 

誰よりもこの戦の勝利を望んでいる朧は流牙の話をまともに聞こうとしない。

 

「何を馬鹿なことを……俺はそんな嘘をつかないし、つく理由がない」

 

「貴様は名月と空どの……二人が争うことを酷く心を痛めていた。だからそんなーー」

 

「いい加減にしろ!!」

 

「っ!?」

 

流牙は声を荒げて朧を睨みつけ、その声に朧だけでなくそばにいる名月も驚く。

 

「今この国は最大の危機に瀕しているんだぞ!?こんなところで争っている場合じゃない!このままだと大勢の人間が犠牲になるんだ!あんたはそれでもいいのか!?」

 

流牙は越前の戦いで大勢の仲間と桐琴を失った事からもうこれ以上大切なものを失いたくない為に強い気のこもった言葉を発する。

 

「し、しかし……」

 

「名月ちゃん、君は空ちゃんと共に越後の未来を担う希望だ。君が今何をすべきなのか……それを考えるんだ」

 

流牙は名月にそれを伝えると魔法衣を翻して邪気が近づく方へ向かう。

 

「流牙様、どちらへ……?」

 

「俺は戦う。この剣は、この力は邪悪なる魔獣の手から人々を守る為にある!!」

 

流牙は大切な仲間達を、越後に住む大勢の民を、美空達を、そして越後の未来を担う幼星達を守る為に走り出す。

 

「流牙様……」

 

その後ろ姿に名月はギュッと胸元を強く握り締める。

 

流牙達と鬼との大きな戦が始まろうとしている。

 

そして、越後の未来を左右する大きな決断が幼星達に迫る。

 

 

 

.




守るための戦いが人の心を纏める。

国は再び一つとなり、共に戦いの刃を掲げる。

重なる思いが光となり、天へ駆け上る。

次回『竜 〜Dragon〜』

暗雲を打ち払う、聖なる光が舞い降りる。



.

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