それから作品としてやはり色々難しいところがありますので何か矛盾点などありましたら是非とも指摘ください。
流牙の実力を試すために三若との戦いが終わり、次に待ち受けていたのは織田家家老の一人、麦穂だった。
「次は麦穂さんね……」
流牙は今までの三人よりも警戒して牙狼剣を構える。
「ふむ……一見して麦穂の技量を見抜くか」
「お優しい顔して、麦穂さまはお強いですもんねー。雛、一度も勝ったことないですし」
「麦穂さま、ボクの仇、頼みますよー!」
「犬子のもついでによろしくですー!」
外野の応援に笑みを浮かべた後すぐに流牙に向けて真剣な顔に戻る。
静かな時が流れ、決して自分から動かない流牙は鞘に収められた牙狼剣を構えながら麦穂の出方を待つ。
「やぁ!」
そして、麦穂から先に動き、一気に間合いを詰めて流れるような突きを放った。
流牙は冷静に麦穂の動きを見て牙狼剣で捌き、スピードを上げて振るうがあっさりと麦穂の刀に受け止められてしまった。
「その攻撃は読んでいましたよ」
そう言われ、流牙は試しにフェイントや様々な起動を描く剣閃を放つが、それすらも麦穂には通用しなかった。
「動きを読まれている……?」
「いくつもの可能性を考え、それの備える。……私の得意とすることです」
「なるほどな。それならこれで行くしかないな」
流牙は動きを読まれていると知ると、牙狼剣を鞘ごと地面に突き刺さすと左右の手を交差し、右の拳を後ろに引いて左掌を前に出す構えを取る。
「何のつもりですか……?剣を無しに私に勝つつもりですか?」
「動きを読まれているならそれよりも速く、予想しずらい体術の攻撃を繰り出すだけだ。それに……俺の尊敬したある男は剣で戦わなくても体術でとても強かったから!!」
流牙は地を蹴ると同時に蹴りを中心とした体術を繰り出す。
麦穂の剣の攻撃は両手で捌き、時に放たれる強力な拳の一撃に今度は麦穂が追い詰められていく。
そして、拳の一撃に集中していた麦穂に流牙は刀を持っている手を思いっきり蹴り上げて刀を手放してしまった。
「せいっ!!」
「しまっーー」
「はぁっ!!!」
流牙の渾身の拳が麦穂の顔を捉えるが、本気で殴れるわけがなく麦穂の直前で拳は止まる。
「ひゃん!?」
しかし、反射的に下がってしまった麦穂は足を崩してそのまま尻餅をついてしまった。
流牙は一息をついて自分の勝ちを宣言しようとしたが、
「……グスンッ」
麦穂は目尻に涙を浮かべ、涙を流してしまった。
「えええええっ!?む、麦穂さん!?」
まさかの涙を流すという事態に流牙は慌てふためき、周りからはブーイングの嵐が巻き起こる。
「うわぁぁぁぁぁ!こいつサイテーだぁぁー!」
「ひどい男の人ですねー。麦穂さんをなかせてしまうなんて」
「女の敵ー!最低ですー!麦穂様に謝るです!」
「ええっ!?お、俺が悪いの!?ちゃんと手加減したのに!?」
「酷いです流牙殿。和奏ちゃん達にはあんなに優しくしていたのに私だけ強く蹴るなんて……手が痛いですよ……」
「ごめんなさいごめんなさい!だって麦穂さんは強いし動きを予測されるからあれぐらいしないといけなかったし……」
「責任とってもらいますからね……」
「あぁぁぁ……あの、俺に出来ることがあれば何でもするから泣かないでください……」
「本当に?」
「約束しますよ」
「なら。許してあげます」
涙をゴシゴシと拭い、麦穂さんはどこか名残惜しそうにその場をはなれた。
「ふむ……四人抜きか。これで皆も流牙の力を認めざるを得んな。……なぁ壬月よ」
「さてそれはどうでしょうな。……おい猿!私の得物を寄越せ」
「はい!ただいまぁー!」
少女は元気よく挨拶をすると大きな大八車を持ってきた。
そして……そこには、見た事も聞いた事もない、大きな斧が乗っていた。
壬月はその斧を簡単に持ち上げた。
「うわぁ……これは大きいなぁ」
「あまり驚いてないようだな」
「まあその斧よりも更に馬鹿でかい武器を持つ奴と戦ったことがあるからね……」
「なるほどな。これは我が柴田家の家宝、金剛罰斧だ……では参るぞ。小僧!」
壬月は全身から赤い気を放ち、それが斧にまで纏われていく。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
振り下ろされた斧が流牙に襲いかかり、衝撃波と共に土煙が舞う。
「ふむ……五割の力でのびてしま……」
「ぐぅっ!!!」
「なっ!?」
流牙は斧が振り下ろされる前に牙狼剣を抜き、その細身の刃で壬月の斧を受け止めていた。
「嘘ぉっ!?」
「壬月様の五臓六腑を……」
「受け止めたぁっ!?」
三若は声に出して驚いていたが、久遠達も壬月の斧を受け止められるとは夢にも思わず、驚きすぎて声が出なかった。
「はっ……まさかそんな細身の剣で受け止めるとはな……ならば、ここからは力比べだ!!」
先ほど五割程度の力を出してないと言っていた壬月は笑みを浮かべ、更に力を出しながら流牙を押しつぶそうとする。
剛腕と剛斧と言う力の組み合わせによる圧倒的なパワーを見せつけるが、流牙は諦めてはいなかった。
「うぉお……うぉおおおおおおおおおおおおおおおーーっ!!!」
流牙は全身に力を込め、怒号と共に壬月のとんでもない重量と大きさを持つ剛斧を弾き返した。
「うぉっ!?」
「はぁあああああーーっ!!!」
そして、流牙は流れるような動作で牙狼剣を持ちながら手を強く握りしめて拳を作り、鋭い拳を突き上げた。
しかし、流牙の拳は壬月の腹で止まり、痛手を与えることはなかった。
「はぁ、はぁ……これで、俺の勝ちだ……!」
決して流牙は五人を相手にしても全く傷つけずに拳を直前で止めていた。
守りし者として、人を守るその強い意志に壬月は少し呆れたような笑みをする。
「まさかここまでとはな……私の負けだ」
「ありがとうございます、壬月さん……」
「呼び捨てで構わん。流牙よ」
壬月は手を差し伸べて流牙に向けて笑みを浮かべる。
「ああ……壬月」
流牙と壬月は互いを健闘し、固い握手を交わした。
「嘘……織田の武将達を相手に全勝利……?」
流牙の全勝利に家臣一同はその力を認めたが、帰蝶だけは違った。
「でも、まだ認めてあげない……」
「そうか。……ならば仕方ない。もともと、お前自身の目で見て確かめるという約束だったからな。好きにせい」
帰蝶はこくりと頷くと和奏はあることを尋ねる。
「でも殿ー。流牙を夫にするって本気なんです?」
「本気だ。……が、何か懸念でもあるのか?」
「いや、いくら他家からの政略結婚の申し込みを袖にするためとはいえ、殿可愛いから流牙が変な気を起こすんじゃないかなーって」
「そうなればなったで、本当の意味で夫にしてやっても良い。その覚悟はあるぞ」
流牙を気に入っている久遠は流牙と本当に結婚して夫婦になる覚悟を持っていると言ったが……。
「心配しなくて大丈夫だよ、久遠。俺、君を抱くつもりは絶対に無いから」
その瞬間、この場が氷のように冷たい空気が流れて凍結した。
「……え?」
「「「……はっ?」」」
流牙の言葉に久遠だけでなく帰蝶や家臣一同驚愕していた。
そうとは知らず流牙は自分の気持ちを正直に話す。
「久遠は確かにとっても可愛いけど、俺としてはちゃんとお互いを思いやり、全てを受け入れる覚悟を持ち、愛してからこその結婚だと思うからさ。久遠に対してそういうやましい気持ちを持つ事は決して無いよ。それに、子供のことを考えると、親として責任を持ってちゃんと二人一緒にその子を愛せるようになりたいからね!」
微笑みながら言う流牙の言葉に全員が言葉を失った。
まさか流牙がこんなことを言うとは思ってもみなかった様子でそんなことをつゆ知らず流牙は牙狼剣を魔法衣の中にしまうと体をぐぃっと伸ばす。
「さーて。とりあえずみんなに認めてもらったし、早速鬼の情報収集と行くかな。じゃあ、お昼頃には帰ってくるから行ってきまーす!」
流牙は軽く手を振り、その場から風のように素早い動きで立ち去り、鬼の情報収集に出掛けてしまった。
「……結菜よ」
「何……?」
「今時あんな恥ずかしい台詞を言う男を見たことあるか?」
「無いわね……」
「少なくとも、我より年上で二十歳はすぎているよな?」
「多分そうだと思うけど……でも、あいつ昨日私の料理を食べて子供のように目を輝かせていたわ」
「……あれほどの強い力を持ちながらいったいどんな幼少期を過ごしたらあんな純粋な心を残せるのだ?」
「知らないわよ……」
織田家の家臣達を倒した強さを持つ流牙の意外な一面に頭を悩ます久遠と帰蝶だった。
☆
流牙は城下町の人から鬼に関しての情報を聞き、その後は山に入って動物とは違う痕跡が無いか調べるがなかなか有力な情報は得られていない。
ザルバに邪気を探知してもらっているが、あまり成果はなかった。
ひとまずお昼になったので久遠の屋敷に戻るとそこには久遠の側で武器などを運んでいた少女が帰蝶と共に待っていた。
「あの私!木下藤吉郎ひよ子秀吉と言います!お殿様より流牙様のお世話を命じられました!今後ともよろしくお願いします!」
少女の名は木下藤吉郎、通称ひよ子。
親しい者の間ではひよと呼ばれており、武士になりたくて久遠の雑用係となり、今回の事で流牙の従者へと命じられた。
久遠は流牙を中心に据えた部隊を作ろうとしているらしく、自分のいないところで話がどんどん進み、苦笑いを浮かべた。
「あ、あの……お頭、よろしくお願いします!」
「まさか俺が部下を持つことになるとはな……とりあえずよろしくね」
「はい!」
流牙が戻ったら城に来いと久遠に呼ばれているので流牙はひよと一緒に城に向かう。
その間、人懐っこい流牙はひよ子と色々な話をした。
ひよ子の夢は出世して妹を取り立てて一緒に太平の世を築くことや仲良しの幼馴染が野武士を束ねる頭領など。
話をしているうちに城に到着すると、中の人たちが慌ただしい動きをしていた。
途中で会った和奏の話によると、隣国の美濃に放っていた草から急報があったらしい。
今から評定が行われ、久遠の夫である流牙も参加する事となった。
ひよ子は身分の違いから参加出来ないが、この世界や時代のことを何も知らない流牙は和奏に頼んで久遠にひよ子も一緒に参加させることを頼んでもらった。
そして緊張感が漂う中で始まった評定だが、何を言っているのか流牙にはチンプンカンプンでひよ子のサポートを受けながら少しずつ理解していく。
ひとまず、戦のために黒俣と呼ばれる場所に城を建てる事が重要となる。
「戦か……」
流牙のいた世界では人間同士が争うこの時代の戦はほとんど無くなっていたが、いざ自分もその戦に関わることになり、不思議な感情があった。
何故人は争うのか?何のために武器を持って殺しあうのか?その先に明るい未来があるのか?
そんな考えが頭の中に過る。
その後も評定は続いたが結局いい案が見つからず、続きは明日となった。
久遠の屋敷に戻った流牙は庭を眺めながらぼーっとし、様子がおかしいと思ったひよ子は恐る恐る話しかける。
「お頭、どうしたんですか?」
「なあ、ひよ。この国の大名達は日の本を統一するために戦っているんだよな?」
「え、ええ。そうですけど……」
「大名だけでなく多くの武士達は名を上げて手柄を上げ、そして隙あらば下剋上をして自分が上に立つ……その繰り返しでどれだけの血が流れているんだろうな……」
「確かお頭は天の国から来たんですよね?天の国は平和ですか?」
「天の国じゃないけど、俺のいた世界はここと比べると比較的平和だったかな?」
ホラーという人類に対する恐怖はあるが、それでも今のこの世界に比べればまだ平和な方だ。
ひよ子は少し暗い表情をしながらこの世界の現状を簡単に話す。
「この日の本は治めていた幕府も力を失い、国同士で天下統一を目指してあちこちで勢力争いが生まれてきたのです……お頭の言う通り数え切れないほどの血が今でも流れています。時代……というものだと思います」
「時代、か……」
人間の歴史は平和と戦争の繰り返しだ。
今まさに戦争の時代という事だ。
しかしそれでもこの世界の人間は懸命に生きている。
流牙の目の前にいるひよもその一人だ。
「でも、私はいつか絶対にこの日の本が平和な国になると信じています!その為に今を強く生き、久遠様達と共に戦うしかないのです!」
「……強いな、ひよは」
流牙は健気なひよ子に感心しつつ、父性みたいなものが目覚めたのかひよ子の頭を撫でた。
「ふえっ!?い、いえとんでもありません!ですが、私達はこれからどうしたら……」
「……ひよ、俺はある目的の為に人を斬ることは出来ない。久遠にも認められているが、戦には参加出来ないんだ」
「ええっ!?じゃあ……」
「だから、ひよが俺の代わりに戦場に立って功をあげるんだ。本当はダメだけど、今の俺には助言しか出来ない。まずは地図を用意して!」
「は、はい!ただいま!」
ひよはすぐに戦場となる美濃周辺の地図を流牙に見せた。
そこは幾つものの川が流れておるが、流牙の知っている地図とは違って情報が少なすぎるので更に頭を悩ませる。
「これが戦場となる地図か……それでこの黒俣に城を建てるね……どうしたら……」
チリーン……。
「ザルバ?」
ザルバからの呼び出しでカバーを開いた。
『流牙。お前に一つアドバイスをしてやる』
「おおっ!これが噂の話す指輪さんですか……!」
話す指輪に興味津々のひよ子に対し、流牙は呆れ顔をして話を聞く。
「何だよ急に……」
『お前のその名前と同じようにどんな物事にも流れと言うものが存在する。その流れを掴んでこそ人はさらなる成長を遂げる』
「流れね……」
流れと言われ、流牙は黒俣の側に流れている長良川を眺めた。
頭の中で川の流れを想像すると流牙に一つのアイデアが浮かんだ。
「あ、そうか。この手があった」
「流牙様、何か思いついたんですか!?」
「ああ。まだ不確定な要素があるけど、上手くいくかどうかはひよと君の幼馴染にかかっているね」
「え!?私ところちゃんですか!?」
流牙の思いついた作戦はこうだ。
先ほど言っていたひよの幼馴染、野武士達の頭領である……蜂須賀小六転子正勝に協力を依頼し、黒俣の側にある長良川の上流で予め城の部品などを作成して下準備をする。
その後、部品を持って川を下り、一気に黒俣に入って城を組み上げるという作戦だ。
ちなみに織田の軍を使うと敵側に警戒される恐れがあるのであえて野武士達に依頼をする。
初めての築城のやり方にひよは絶賛するが、これには転子達野武士の協力や久遠に費用の工面や城を組み立てる間の囮役などをお願いしなければならない。
「さて……行くよ、ひよ!」
「はい!お頭!」
流牙はひよと共に出掛け、早速行動に移すのだった。
魔戒騎士としての使命や掟……それに縛られながらも流牙はこの世界で生き残る為に自分に出来ることをするつもりだ。
それが、この世界から鬼を全て倒し、元の世界に戻る為の第一歩だと信じて。
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迷いがあるから人は答えを見つけようとする。
迷いがあるから人は前に進む事ができる。
迷いは彼の心を強くさせる。
次回『心 〜Legend〜』
混沌渦巻く戦国に希望の名が轟く。
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