牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回の話の原作は美空の話の中で個人的に一番好きです。
後半に剣丞の首を絞めたりしてかなり危なかったですがここでは流牙への好感度が上がったり、過去を知ってるのでそんなことはありません(笑)
次回からは後継者争乱編ですね。
存分に流牙が荒らすと思いますwww


『宴 〜Party〜』

春日山城から囚われた空と愛菜を奪還し、無事に母の美空と秋子に送り届けた流牙。

 

翌日の夕方、流牙は皆を連れて美空達の陣を敷いている寺へ向かった。

 

「お邪魔しまーす」

 

「どやーっ!おお、流牙殿!」

 

出迎えてくれたのは愛菜だった。

 

「やあ、愛菜ちゃん。美空に呼ばれてきたけど、取り次いでくれかな?」

 

「今御大将は愛し恋しの我が主、空さまと親子の時間を過ごしておられる真っ最中であらせられます!どや!」

 

「そうなの?おーい、秋子さーん、いますかー?」

 

流牙は大声で奥にいる秋子を呼ぶとバタバタと足音をさせながら秋子がやってきた。

 

「流牙さん、皆さん、お待ちしておりました!さあ、どうぞ」

 

「ああ。お邪魔します」

 

流牙達はブーツや草履などの履物を脱いで寺の中へ上がる。

 

愛菜は秋子にべったりとくっついて一緒に歩き、微笑ましい親子の姿を見て流牙は改めて助けられて良かったと実感する。

 

「美空様、流牙さん達をお連れしました」

 

「入りなさい。みんな、よく来たわね」

 

「皆さん、お待ちしておりました」

 

宴会場となる大広間には美空と空が待っており、流牙達を笑顔で迎える。

 

空は座っている美空の膝の上に乗っており、本当の親子のように仲良くしていた。

 

それを見た一葉は懐かしむ顔をしており、流牙は一葉が何を懐かしんでいるかすぐにわかった。

 

「一葉、双葉ちゃんの事を思い出した?」

 

「……双葉の事はいつも思っておるわ」

 

離れ離れになった愛しい大切な妹の双葉……流牙も早く会いたいと願う。

 

そんな中、小夜叉は宴に興味が無かったので顔だけ出して帰ろうとした。

 

「んじゃ、オレは顔を出したから帰るぞ」

 

すると……。

 

「あいやまたれいっす!」

 

そこに勢いよく現れたのは柘榴でその後ろにはいつものようにどこか呆れた松葉が付いている。

 

「アンタ、流牙隊のちっこい槍使いの二番目っすよね!柘榴といざ尋常に勝負っすよ!」

 

「……ンだとコラ。今何つった」

 

柘榴の言った言葉の内容に苛立ち始める小夜叉。

 

柘榴は流牙隊のところに道場破り(?)をした時は綾那と戦ったが小夜叉とは入れ違いになって戦えなかった。

 

「柘榴といざ尋常に勝負っす!」

 

「ンなもん聞いてねえ!その前だ!」

 

「ちっこい!」

 

「ちっこいのはこれから母みたいに勝手にデカくなンだからいいんだよ!」

 

「いいなぁ小夜叉ちゃん……。桐琴さんで保証されてるんだもんな……」

 

「ですよね……」

 

ひよ子と雫の呟きを流牙は聞かなかったことにして小夜叉と柘榴の話を引き続き聞く。

 

「ちげーよ!その間!」

 

「槍使い」

 

「テメェわざとだろ!」

 

「二番目?」

 

「そうそうそこだよ!誰が二番目だ誰が!じゃあ一番目は誰なんだよ!」

 

「あの、殺る殺る言う鹿角の……」

 

「母ならまだしも、本多のガキが一番でオレが二番目だと!?テメェ表に出ろ!ぶっ殺してやる!」

 

ちなみにその綾那は歌夜と小波と一緒に葵に呼ばれて松平衆の陣におり、後から宴に合流することになっている。

 

「お、上等っす!こっちこそ刀の錆にしてやるっすよ!」

 

小夜叉と柘榴はやる気満々で流牙は一応美空に尋ねる。

 

「美空、いいのか?」

 

「別にいいわよ。お腹空いたら帰ってくるでしょ。松葉、立ち会ってあげなさい」

 

「宴……」

 

「松葉ー!立ち会うっすよ!」

 

「あうう……行くー……」

 

宴に出られるはずだったが思わぬところで出られなくなり、いつもは無表情が多くてあまり感情を表に出さない松葉の今まで見たことないほどの落ち込みようだった。

 

流牙も少し可哀想に思い、松葉の肩をポンと叩いて応援する。

 

「松葉、頑張れ……やばくなったら呼んでくれ。俺が二人を止めるから……」

 

「うん……お願い……」

 

「小夜叉、程々になー」

 

「そんなの向こうのッス野郎に言えよ!オレぁ手加減なんかしねえからな!うまく殺されないようにしろよテメェ!」

 

「無茶苦茶だな……」

 

「上等っす!」

 

「君もそれでいいんかい」

 

そう言って小夜叉と柘榴はそれぞれの獲物を持って外に出て行き、松葉はその後を落ち込みながら付いて行った。

 

それから少しして秋子や愛菜達が宴の膳を運んで来たが、それを見て流牙たちは驚く事しか出来なかった。

 

「うわ……すごい」

 

「ごはんです!真っ白でつやつやしていますよ!流牙様!凄いです!」

 

「さ、魚!焼き魚ですー!」

 

雫は膳の豪華さ、ひよ子は炊きたてホカホカの白い米、そして魚大好きな詩乃は久々の焼き魚に目を輝かせていた。

 

「これは凄いな……」

 

「ええ。うちでもなかなか出せない高級なものよ」

 

膳にはご飯や魚以外にも色取り取りのおかずや果物などなかなか見ない高級な食材が並んでいる。

 

「ふふっ。石高こそそれほど多くありませんが、越後の米は美味しいですよ」

 

「ふふん、驚いた?」

 

秋子は越後の米を自慢し、美空はドヤ顔をしながら流牙に尋ねる。

 

「もちろんだよ」

 

「たまには私たちが流牙達を驚かせてもいいでしょう?」

 

「もしかして、こんな美味しそうなご飯を毎日……?」

 

「まさか。普段は流牙隊に補給している食事と大して変わりませんよ」

 

「左様!本当はもう何日かして使う予定だった所を、空さまご帰還の祝いと称してお振る舞い!どーん!」

 

「何日かして?」

 

「戦を控えた数日は、美味しくて栄養のあるものを振る舞って兵たちの英気を養うのが、御大将のやり方ですから」

 

「なるほどね……懐かしいな、俺も大きな戦いの前にD・リンゴに美味いケバブを食べたな……」

 

「でぃ……?誰よそれ?」

 

「俺たちの仲間さ。元気な爺さんでユキヒメって言う美人の女将と一緒に小売の店をやってるんだ。元魔戒法師らしくて、横流しで沢山の魔導具や文献を持っているんだ」

 

「よ、横流し……?大丈夫なの、その人……」

 

「根はいい人だよ。こいつをくれたし、俺たちが戦ってる時に町を守るために奮闘していたからね」

 

流牙はD・リンゴから阿号と戦う前に譲り受けた左手に装着するソウルメタル製の手甲を見せる。

 

「ふーん。面白いわね。ねえ、流牙。どうせだからあなたの仲間について色々教えてよ。話の肴にはいいでしょう?」

 

「俺の仲間?」

 

「そうね、そう言えば流牙の仲間は莉杏さんぐらいしか知らないわね」

 

「いい機会じゃ、他の魔戒騎士や魔戒法師について詳しく教えてくれ。のう、流牙よ?」

 

結菜と一葉だけでなく他のみんなも天の世界にいる流牙の仲間に興味がある。

 

「そうだな……わかったよ、大して多くはないけど俺と一緒に死線を乗り越えてきた大切な仲間たちについて教えてやるよ」

 

流牙は美味しい宴の膳を味わいながら、時にはぶつかり合いながらも強い絆で結ばれ、共に戦ってきた仲間たちの事を話す。

 

性格がかなり異なるみんなに負けず劣らずな特徴のある仲間たちに宴はどんどん盛り上がっていく。

 

「ふぅ……美味しかった。よし、それじゃあ……」

 

流牙は膳の料理を食べ終えて席から立ち上がると魔法衣からギターを取り出して下座の方に出てピックを構える。

 

「美空、前に約束した余興をやるね」

 

ガロの鎧を見せた時、空と愛菜を取り戻した際に演奏をすると約束していた。

 

「余興……?ああ、確かそれは南蛮の弦楽器ね。覚えていたのね」

 

「俺たちの世界だと歌は音色に乗せて言葉を送るんだ。それじゃあ、早速一曲目を歌うよ。闇の中の救世主……『SAVIOR IN THE DARK』!!」

 

流牙は宴のお陰で高まったテンションのまま、ギターを奏でて魅惑の歌声で歌い始める。

 

美空たちからしたら初めて『天の世界の歌』を聞いたので、この世界の歌の概念とは全く違う心が湧き上がるようなギターの音色と流牙の歌声に驚きと同時に興奮する。

 

「これが天の世界の歌ね……へぇー、なかなか良いじゃない」

 

美空はすぐに流牙の歌を気に入った。

 

秋子達も最初は戸惑っていたが、流牙の魅惑の歌声ですぐに受け入れられた。

 

流牙は自分の知っている歌を五曲ほど連続で熱唱し、心から感動したみんなから惜しみない拍手が沸き起こった。

 

ギターに興味を持った美空や空は流牙に貸してもらい、使い方を教えてもらいながら宴の楽しいあっという間に時間が過ぎていく。

 

気付けば外は日が沈んで夜となっていた。

 

宴も終わり、幼子たちである空と愛菜は就寝のために秋子が連れていき、既に寝ている鞠を見た結菜たちも早めに寝るために陣に戻る事にした。

 

流牙も陣に戻ろうとしたが美空に呼び止められた。

 

「流牙、ちょっと話したいことがあるから来てくれないかしら?」

 

「話したいこと?わかった、いいよ」

 

結菜たちに先に帰ってもらい、流牙は美空に連れられて寺の奥へと向かった。

 

美空の為に用意された部屋はかなり良い部屋で流牙は座布団に座ると美空はお茶を用意して湯のみを流牙に渡す。

 

「はい、熱いうちに飲みなさい」

 

「ん、ありがとう」

 

流牙は月を見ながらお茶を啜り、その隣に美空が座って同じくお茶を啜る。

 

流牙にはあまり高級な物の味の違いは分からないが、お茶に使った茶葉がかなりの上物だと分かるぐらい美味しく、思わずため息が出るほどお茶の味が体に染み渡った。

 

お互いに宴の興奮から落ち着いて一息をつくと美空から話し始める。

 

「流牙、改めてお礼を言うわ。空と愛菜を救ってくれて本当にありがとう」

 

「ああ。二人共、本当に良い子たちだね。空ちゃんは優しいし、愛菜ちゃんは元気一杯で空ちゃんを大切に想ってるね」

 

「ええ。あの二人なら私の跡を継いで越後を任せられるのよ」

 

「そっか……親から子への永遠か……」

 

「永遠……?何よそれ?」

 

「魔戒騎士の信条だよ。親から子へと受け継がれる想いこそが真の永遠って言ってね、親から想いを受け継いだ子供達は成長し、魔戒騎士として戦っていくんだ」

 

「ふーん……真の永遠ね。良いじゃない、私の馬鹿母からは想いは受け取ってないけど、私や秋子の想いは空と愛菜に受け継がせてあげたいわね」

 

「大丈夫、二人の想いはちゃんと二人にも受け継がれているよ」

 

「ありがとう。ねえ……流牙」

 

「ん?」

 

「あなたは……この世界でどうしたいの?」

 

「どうしたいって?」

 

「あなたはこれまで織田信長や多くの仲間と共に多くの鬼から国と人を守るために戦い、天下御免の女誑しになって一葉様達を含めて多くの妻を持った。まあこのままいけば、私たち長尾衆も同盟に加入するかもしれないとして……あなたはいずれこの国から全ての鬼を倒したら元の世界……天の世界に帰ってしまう」

 

以前話をした時に流牙は久遠たちと離れ離れになっても必ず元の世界に帰ると美空に話した。

 

美空は流牙が魔戒騎士の使命として戦い続けるのは既にわかっているが、何故そこまでするのか理由が聞きたかった。

 

「ああ……前にも話したけど、そうだな」

 

「でも、幾らあなたが魔戒騎士とはいえ、そこまでして戦う理由は何?あなたに得るものなんて何も無いじゃない。地位や権力やお金も要らない……奥さん達だって、その、手を出してないんだし……」

 

流牙は将軍である一葉の夫でこの国ではとても高い地位にいるので権力を振るうことが出来るが、流牙には権力には興味はない。

 

お金は生きるために必要だが精々必要最低限ぐらいしか要らず多くは望まない。

 

そして、男にとって古来より欲望の象徴の一つとも言える女である妻は沢山いるが決して交わろうとはしていない。

 

人には欲というものが存在する。

 

欲があるからこそ人は生きることが出来るが、逆に破滅を呼ぶこともある。

 

この戦乱の世で欲は必要不可欠な物でその欲があるからこそ、終わりの見えない争いが続く。

 

しかし、他人から見て流牙にはその欲がほとんど無いに等しいと思えて仕方ない。

 

鬼と戦うために己を犠牲にして刃を振るい続けている。

 

「別に俺は今まで損得で戦った覚えはないからな……魔戒騎士として魔獣から人を守る、守りし者としての遥かな古から受け継いだ使命だから。でも、強いて言うなら……笑顔かな?」

 

「笑顔……?」

 

「ああ。母さんとこの瞳に多くの笑顔を映すって約束したからね。平和に暮らす人たちの笑顔、そして俺が戦う事で助かった人達の笑顔……それがあれば俺は十分だよ」

 

「笑顔を理由に戦うなんて初めて聞いたわよ……」

 

「俺にとっては戦うに値する理由だよ。昨日の救出作戦だって、空ちゃんと愛菜ちゃんが美空と秋子さんと再会した時の笑顔……ちゃんとこの瞳に焼き付いているよ」

 

「うっ……わ、忘れなさい!」

 

「え?嫌だ。忘れるわけないじゃないか、美空の嬉しそうな顔、とても可愛かったし、瞼を閉じれば鮮明に思い出せるよ」

 

「あんた……意外に良い性格をしているわね……」

 

「はっはっは!いくらでも言ってくれ」

 

美空を若干いじりながら楽しんだ流牙は一息をつくと話題を変える。

 

「ねえ、空ちゃんから聞いたけど、越後は雨が多くて洪水が多発して沼地が多いんだって?」

 

「そうよ。土地柄、大昔から洪水が多くて水捌けが悪いのよ」

 

「もったいないよな……あんなに美味しい米なのに……あ、そうだ。同盟を考えた久遠……織田信長は天下布武を目指していて、座や関所を無くして人や金の物流を活性化しようとしているんだ」

 

「座や関所を無くす……ですって?何?同盟は鬼を倒すためだけの繋がりじゃないってこと?」

 

「ああ。同盟を組んで多くの国を一つにまとめることで、人や金の物流を活性化する。それだけじゃなくて、それぞれの地方の技術を共有して、土地や天気で困っている事を解決できるかもしれない。もし、他の地方で考えられた技術を使って越後の治水を何とかできれば、越後が有名な米所になるかもしれないよ」

 

「越後が……有名な米所に……?」

 

思いもよらなかった流牙の思い描く理想に美空は目を丸く見開いて驚く。

 

「あんなに美味しいんだ、越後が米所になれば今よりもっと発展するし、豊かになる。考えるだけでも面白くないか?」

 

「そうね……面白そうだけど、実現するかしら?」

 

「実現出来るよ、人間には無限の可能性があるからね」

 

「無限の可能性……?」

 

「前に人に守る価値は無いと言われたことがあるけど、俺は守るに値する光があると信じている。そして、人には未来を作る無限の可能性がある」

 

ザルバをはめた左手を月にかざしながら流牙のこの世界で出来た『夢』を語る。

 

「この世界に生きるみんなと一緒に鬼を全て倒し、人の世にする。そして久遠たちがつくる、人々が平和に幸せに暮らせる世を見届ける……それが俺の夢なんだ」

 

この世界の希望と夢と未来を守り、人々の笑顔を見る……それが流牙の望む『欲』であり、『夢』なのだ。

 

それを聞いた美空は呆気に取られて呆然とした表情を浮かべたが、流牙の性格や本気と思える楽しそうな笑みに美空は苦笑を浮かべて息を吐いた。

 

「そんな風に実現出来るか分からない、他人が聞いたら大笑いするような夢を語る人を初めて見たわよ。でも……」

 

美空も真似して右手を月にかざしながら笑みを浮かべて言う。

 

そして、草履を履いて庭に飛び出すと月明かりに照らされながら美空は流牙と向かい合いながら微笑んだ。

 

雪のような白い髪に雪の結晶が描かれた外套を纏っているので、流牙には一瞬だけ美空が雪の妖精のように見えた。

 

「あなたなら、叶うかもしれないわね。その夢」

 

「美空……」

 

「でもその前に馬鹿姉達から春日山城を取り戻さなくちゃならない。だから流牙、見ていなさい。越後の龍と呼ばれる私と、長尾衆の力を!」

 

それはこれから先、共に戦う仲間だから自分たちの力をしっかりと見ておきなさいと言っているようなものだった。

 

流牙は笑みを浮かべ、美空の元へ言って拳を突き出した。

 

「ああ。見せてもらうよ、美空達の力を」

 

「ええ!」

 

美空も拳を突き出してお互いの拳を軽くぶつけ合う。

 

魔戒騎士と越後の当主……進むべき道と描く未来は異なる。

 

だが、二人は夢と未来を語り合うことで確かな絆を深め会った。

 

そして、美空たちが越後を取り戻す時が近づく。

 

 

 

.




龍は旗を掲げ、刃を煌めかせ、城を取り戻す。

平和へと近づくその時。

一つの小さな風が舞い降りる。

次回『乱 〜Disorder〜』

新たな波乱が越後に巻き起こる。



.

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