牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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書いていてふと思ったこと、流牙が侵入の時に使う矢を飛ばして綱渡りする方法・・・・・・ぶっちゃけ無茶苦茶ですよね。
闇を照らす者で流牙達が莉杏奪還の時にビルとビルの間を渡るときに使っていましたが今更ながらとんでもない方法ですよね。
原作戦国恋姫主人公の剣丞くんもびっくりですね。
いつか流牙と剣丞の対談みたいな話を書きたいと思います。


『奪 〜Recovery〜』

春日山城に無事に侵入した流牙達。

 

小波と綾那を周囲の警戒と降下用の縄の準備をし、流牙は空と愛菜が囚われている直江屋敷へ向かった。

 

直江屋敷は元々秋子の屋敷で詳しい内部は秋子から聞いており、中にいる見張りを手刀で眠らせながら二人がいると思われる部屋へ向かった。

 

小さな女の子の声が徐々に聞こえ、流牙は障子を開くとそこには……。

 

「「あ…………」」

 

目的の二人と思われる可愛い少女がいた。

 

一人は水色のおかっぱ頭に美空と同じ赤い瞳の気弱な感じの少女でもう一人は橙色の髪と目をした活発な感じの少女だった。

 

「君たちが、空ちゃんと愛菜ちゃんだね?」

 

流牙が話しかけるとビクッと体を震わせて警戒し、おかっぱ頭の少女を守るように橙色の少女が前に出て睨みつけた。

 

「お主!何者でありますか!この越後の……」

 

「はいこれ」

 

「どや?」

 

橙色の少女が何かを言い、面倒な騒ぎになる前に流牙は腰を下ろし、魔法衣から二つの手紙を出して二人に差し出す。

 

美空の手紙の表紙には『龍』の文字、秋子の手紙には『誠』の文字が書かれている。

 

龍と誠はそれぞれ美空と秋子を表す文字であり、その文字を見た瞬間、二人は目を疑った。

 

「こ、これ、美空お姉様の!?」

 

「は、母上の字ですぞ!どーん!?」

 

「読んで。お母さんから娘さんへの手紙だよ」

 

二人は恐る恐る流牙から手紙を受け取り、開いて手紙を読み始める。

 

手紙には流牙は味方だから安心して、一緒に春日山城から脱出してと書いてあり、見慣れている母の字に二人の流牙への疑惑の目が少しずつ晴れて行く。

 

流牙は更に魔法衣から美空と秋子から預かった髪留めと簪を取り出した。

 

「美空お姉様の髪留め……」

 

「母上のお気に入りの簪……」

 

「美空と秋子さんの二人から預かったんだ。俺は君たちをお母さん達の元に送り届けたい。だから頼む、俺と一緒に来てくれ」

 

美空と秋子からの手紙と持ち物、これだけの物を目の前にして二人は流牙を信じかけるが、自分たちの立場からやはりまだ信用していなかった。

 

すると、おかっぱ頭の少女はある決心をすると流牙を見つめながらあることを尋ねる。

 

「あの……あなたは本当に金色の天狼、道外流牙様ですか?」

 

美空からの手紙には流牙の事が書かれており、そこにはもちろん金色の天狼の事も書いてあった。

 

「そうだよ。訳あって美空と協力関係にあるんだ」

 

「でしたら……あなたが本当に金色の天狼であるという証拠を見せてください」

 

「証拠……?」

 

「もしあなたが、黄金の鎧をその身に纏った姿を私達に見せてくれたら、あなたを信じて着いて行きます」

 

「く、空さま!?」

 

橙色の少女が驚きながらおかっぱ頭の少女を『空さま』と呼んだ。

 

予想通りで、おかっぱ頭の少女が美空の娘の空、橙色の少女が秋子の娘の愛菜であり、強い意志を持つ空に流牙は少し考えてから仕方ないと立ち上がって魔法衣から牙狼剣を取り出した。

 

「離れていて。そして、絶対に近づいて鎧に触れないでね」

 

時間が無いのでそれで着いて来てくれるならばと流牙は牙狼剣を鞘から抜いて頭上に円を描いた。

 

円が光り輝き、ひび割れた円からガロの鎧が召喚され、流牙の体に静かに装着される。

 

この戦国の世でその名が轟いている金色の天狼……黄金騎士ガロ。

 

ガロの鎧を間近で見た空と愛菜は驚きの後……目をキラキラと輝かせていた。

 

まるで尊敬し、憧れている英雄(ヒーロー)に出会った小さな子供のように。

 

「ほ、本物です……」

 

「どや……こんな日が来るなんて……」

 

小さな子供からこんなキラキラとした眼差しを向けられるのは初めてで流牙は戸惑いの声を出す。

 

「ん……?と、とりあえず……これで信じてもらえたよね?」

 

流牙は鎧を解除して牙狼剣を鞘に納める。

 

二人は鎧が送還されて名残惜しそうな目をするが、それぞれの母の手紙と持ち物を握り、流牙を見つめた。

 

「あ、あの、流牙様!本当に私達を……美空お姉様達の元に返してくれますか?」

 

「当たり前だ。美空からよろしく頼むとお願いされて、秋子さんからは涙を流しながらお願いされたんだ」

 

「美空お姉様……」

 

「母上が……涙を……」

 

「今美空達が囮になってくれている。さあ、早く行こう」

 

「はい……愛菜!」

 

「わかりました!この愛菜、空様と共に行きます!どーん!」

 

「よし、早く行こう。外に俺の仲間が待っている。それから……出来るだけ静かにしてね」

 

「わかりました。愛菜、静かにしていようね?」

 

「かしこまりました!」

 

美空と秋子の手紙と持ち物を一旦流牙があずかり、囚われた空と愛菜を連れて屋敷から出た。

 

屋敷の外には周囲を警戒していた小波と綾那が待っていた。

 

「ご主人様、お待ちしておりました。そちらが空様と愛菜様ですか?」

 

「おー、可愛い子たちです」

 

「そうだ。空ちゃん、愛菜ちゃん、この二人は俺の仲間だから安心してくれ」

 

「さあ、こちらへ。すぐに春日山城から脱出しましょう」

 

小波が案内しようとしたその時だった。

 

「くせ者、そこに直れ!成敗してくれる!」

 

「っ!?」

 

突如、凛とした声と同時に銀色の一閃が流牙に襲い掛かる。

 

ギィン!!!

 

流牙の牙狼剣で銀色に輝く刃を受け止め、それを放った主を見て目を見開く。

 

「君は……」

 

それは流牙が春日山城に潜入調査をした時に出会った狐耳の少女だった。

 

「小波、綾那!二人を連れて先に行け!!」

 

「ご主人様!?」

 

「だったら綾那が……」

 

「いいから早くしろ!!ここは俺に任せろ!!」

 

「っ……わ、分かりました。さあ、お二方、参りましょう」

 

「流牙様、絶対に戻って来るですよ!」

 

「ああ!」

 

小波と綾那は空と愛菜を連れて先に脱出経路へ向かった。

 

「ま、待て!くっ、先に貴様から倒す!」

 

少女は流牙から離れると刀を鞘に戻して居合いの構えをし、剣術最速といわれる抜刀術で鞘から刀を解き放ち、素早い剣を繰り出す。

 

そして、同じく鞘から牙狼剣を抜いた流牙は少女が繰り出した居合いの斬撃を全て弾き返した。

 

「なっ……っ!?居合いの斬撃を全て弾いた!?しかも鞘走りが出来ない直剣で!?」

 

「止めてくれ、俺は君を傷つけたくない。君は美空の……空ちゃんと愛菜ちゃんの味方なんだろ?」

 

「ど、どうしてそれを……あなたは一体……?」

 

「俺は……金色の天狼、道外流牙だ」

 

牙狼剣を鞘に納めながら流牙は自分が誰なのか少女にわかりやすく伝えるために名前と一緒に異名も名乗った。

 

「ど、道外流牙!!?あの田楽狭間の天人!?し、しかしどうして……?」

 

「訳あって美空と協力しているんだ。俺の目的は空ちゃんと愛菜ちゃんを美空と秋子さんの元に返す事だ」

 

「空様と愛菜を……!?」

 

「ああ。これが証拠だ」

 

流牙は美空の手紙を取り出し、中を開いて少女に読ませた。

 

「これは紛れもなく美空様の字……なるほど、あなたの言葉は真実のようですね。わかりました、空様と愛菜をよろしくお願いします」

 

「任せてくれ。えっと、君は……?」

 

「も、申し遅れました。私は小島貞興です。通称は貞子と申します」

 

「貞子さん……空ちゃんと愛菜ちゃんは俺が必ず美空と秋子さんの元に送り届ける」

 

「お願いします……追っ手が参ります。さぁ、お早く……!」

 

「ありがとう。君の事をちゃんと美空に伝える。全てが終わったらまた会おう!」

 

「ええ。その時は是非とも私の尊敬するお方と一緒に酌み交わしましょう」

 

「ああ!」

 

貞子の思いを受け取った流牙は急いで小波達の元へ向かった。

 

流牙を見送った貞子はその背中を見つめながら願うように呟いた。

 

「まさか、ここで道外流牙殿に出会うとは……空様、愛菜。どうかご無事で……」

 

 

流牙は先に行った小波達と合流すると、流牙が空を、小波が愛菜をしっかりと抱き上げて用意した降下用の縄で一気に下へ降りる。

 

崖の下には逃走用の馬を用意していた転子と歌夜が駆け寄り、ひよ子は先に荷物を持って先に本体の元へと戻っていた。

 

「よし、脱出だ!転子、歌夜、先行してくれ!」

 

「「はいっ!」」

 

流牙と小波は馬に乗り、空と愛菜をそれぞれ横乗りで抱きかかえるように乗せて馬を走らせる。

 

空と愛菜を救出し、春日山城から脱出する作戦の第二段階は成功し、次の第三段階は流牙隊の本隊と合流する事である。

 

急いで馬を走らせて春日山の西へ向かうが、空と愛菜が連れ去られたと城側にもばれてしまい、同じく馬を走らせて追いかけてくる。

 

先に逃げてはいるが、向こうの方に地の利があるので徐々に距離を詰めてきている。

 

すると小波の句伝無量で一葉達から連絡が来た。

 

「ご主人様。一葉様から連絡です!我々を追っている兵を叩いて良いかとのこと!」

 

「何!?合流地点はまだ先じゃないのか!?」

 

「雫様の指示で展開位置を少しずつ前へ移していたご様子。いかがなさいますか?」

 

「そうか、さすがは雫だ。よし、雫に任せよう!」

 

流牙は雫の作戦に全てを任せ、一刻も早く合流するために馬を走らせる。

 

それから少し経って一葉から再び連絡が入る。

 

「一葉様からお返事!我々はこのまま街道を直進、敵陣を一杯まで引き延ばせのこと!」

 

「迎撃で一気に叩くか。みんな、もう少しだ!このまま全力で行くぞ!」

 

その後……お手本のような雫の奇襲作戦で流牙隊や一葉達を筆頭に流牙達を追いかけている敵陣の迎撃を開始する。

 

「ふはははは!滅せよ、三千世界!!」

 

その際、今までの鬱憤を晴らすかのように一葉が三千世界で数多の刀を召喚して迎撃していた。

 

更に鉄砲隊の活躍もありもはや一方的な掃討戦で圧倒的だった。

 

後方にいた敵陣はあっけなく退避し、ひとまず安全が確保された。

 

「よし、それじゃあ美空たちの元に戻ろう!」

 

流牙達は連絡役で美空達と行動を共にしている詩乃の案内に従い、美空が本陣を構えている寺へ向かった。

 

焦らずゆっくり移動し、到着したのは夜遅い時間だった。

 

流牙はすぐに空と愛菜を連れて美空達の元へ向うとしたが、門の前にいる徒士が中々通してくれず、痺れを切らした流牙は空と愛菜の二人を抱きかかえた。

 

「ああもうあんた達は邪魔だ!空ちゃん、愛菜ちゃん、ちょっとごめんね」

 

「きゃっ!?」

 

「どやっ!?」

 

「通してくれないなら飛び越えるだけだ!!」

 

助走をつけて高く飛び、寺の門を飛び越えて境内に侵入する。

 

後ろから徒士の煩い声を完全無視して美空と秋子の元へダッシュをする。

 

そして、寺の前に美空達の姿が見えて来て空と愛菜の顔が明るくなって行く。

 

「ほら、お母さんの元へ」

 

流牙は空と愛菜を降ろし、二人の背中をポンと押すと満面の笑みを浮かべて元気よく走り出した。

 

「美空お姉様!!」

 

「母上ー!!」

 

「空!!」

 

「愛菜!!」

 

二人の愛娘の姿を見た美空と秋子も走り出してそれぞれの娘を抱きしめた。

 

「大丈夫?酷いことをされてない?」

 

「はい!ずっと愛菜が側に居て、守ってくれてました。それに城方にとっては価値の高い人質ですから、端にも置かない扱いでしたよ」

 

「良かった……」

 

美空は空の頭を撫で撫でしながら愛おしく抱きしめ、その小さな温もりを確かめた。

 

一方、愛菜と秋子は再会の喜びから大粒の涙を流し、大声で泣きながら互いを抱きしめて居た。

 

「どやーーーーーーーーっ!!」

 

「愛菜……無事で良かった……。うわぁぁぁぁあん!!」

 

二つの親子の微笑ましい再会を見守っていると流牙の帰りを待っていた結菜と詩乃と鞠が迎えた。

 

「お帰りなさい、流牙」

 

「流牙様、無事で何よりです」

 

「わーい、流牙!お帰りなのー!」

 

「ただいま、みんな」

 

結菜達が迎え、ホッと一息をつきながら再び美空達を見守ると自然と笑みが溢れて目尻が下がった。

 

そんな流牙を見て結菜は隣に寄り添いながら尋ねた。

 

「波奏様のこと……思い出してるの?」

 

結菜にそう尋ねられ、流牙は瞼を閉じながら頷いた。

 

波奏の姿を思い浮かべ、ゆっくり目を開けてもう一度美空達の再会の光景を目にする。

 

「そうだな……二人を助けられて本当に良かったよ」

 

まだ美空達との同盟の話には遠いが親子の再会の光景を見られただけでも流牙にとっては掛け替えのない大きな価値のあるものだった。

 

そして、美空と秋子は空と愛菜を連れて流牙の元に行き、感謝の言葉を送る。

 

「流牙……空を助けてくれて本当にありがとう」

 

「ああ、無事に助けられて俺も嬉しいよ」

 

「流牙さん、愛菜を取り戻してくれて、本当に……本当にありがとうございました……」

 

「僅かな可能性にかけたかいがあったね」

 

「は、はい……」

 

秋子は流牙との口論を思い出して顔を赤くした。

 

流牙は笑みを浮かべていると美空があることを聞いて来た。

 

「ところで、城でもう一人女の子を見なかったかしら?」

 

「……え?もう一人?」

 

「空と同じくらいの年で、大きな髪飾りをつけた巻き毛の……」

 

「空ちゃんと同じくらいの女の子……?いいや、直江屋敷には空ちゃんと愛菜ちゃん以外は見張りの兵しかいなかったけど……もしかしてまだ人質が……」

 

「それなら大丈夫よ。その子はちょっと特殊な立場の子でね。馬鹿姉達でも下手に手を出したらとんでも無いことになるから」

 

「特殊な立場の子……?大丈夫なら良いんだけど……」

 

「心配しなくていいわ。それより、あなた達は休んでいなさい。後は……私達の仕事だからね」

 

美空の弱点であった空と愛菜を取り戻したことで恐れるものは何も無い、後は春日山城を取り戻すだけだ。

 

「分かった。それじゃあ俺たちは休ませてもらうよ」

 

「ええ。あ、そうだ。明日の夕方に空と愛菜を取り戻したことを祝して宴を開くから流牙隊のみんなは全員来てね」

 

「宴か……分かった、楽しみにしているよ」

 

流牙は結菜達を連れ、新たに敷かれた流牙隊の陣へと向かい、休みに入った。

 

越後に来て一つの大きな試練を乗り越えた流牙。

 

ザルバを通じ、遠くにいる久遠との微かな繋がりを感じながら南の空を眺めた。

 

 

 

.




ひと時の安らぎと平穏。

誰もが楽しみ、幸福を味わう。

次回『宴 〜Party〜』

狼と龍は夢を語り、未来を見据える。



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