牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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美空編は書いていてとても楽しいです。
まだまだ書くことはたくさんあるので気長に書いていきます。


『道 〜Road〜』

秋子達と別れた流牙は松平衆の陣所に向かった。

 

流牙は今後美空達と行動を共にする考えを示すと、葵と悠季は明らかな反抗的な態度をとる。

 

「……鬼と戦うために、松平衆は久遠様の呼びかけに呼応したのです。今、越後の内乱に時間を割く余裕はございません」

 

「そうだけど、今後を考えれば美空達を仲間に引き入れる理由があると思う」

 

「そのために時間を割くと?……あまりにも迂遠すぎやしませんかねぇ?」

 

「迂遠……そうかな……」

 

「その迂遠さが金ヶ崎の退き口に繋がった、と私は見ておりますか?」

 

「……葵も同じ意見?」

 

「私は、この国の民の事を一番に考えているだけです」

 

「葵の考えは俺も同じだ。でも、焦って仮に越前に戻って戦えば俺たちは必ず負ける。美空達の力を借りる為にも時間が必要だ」

 

まだ未知数な敵である鬼……そしてその背後にいる黒幕も分かってない以上、美空達の力が必要になると流牙は考えている。

 

「越後一国に十年も時間をかけるおつもりですか!?」

 

「そんなつもりはない。でも時間をかける必要はあると俺は思ってるから」

 

「越後の長尾どのと信頼関係を結ぶための時間。それは日の本の力無き民が、鬼に食われ続けている時間でもあるのですよ?」

 

今こうしている間にも日の本の力無き民が鬼に食われている。

 

しかし、魔戒騎士である流牙がその事を忘れているわけがない。

 

「そんな事……俺が魔戒騎士として戦い始めてからずっと悩み続けているよ」

 

「ずっと……?」

 

「俺は……俺たち魔戒騎士と魔戒法師は守りし者として魔獣ホラーの魔の手から人々を守ってきた。だけど、全ての人間を救えてきた訳じゃない」

 

最強の魔戒騎士である黄金騎士の称号を持つ流牙でも救えなかった命は沢山あった。

 

それは人がいる限りホラーとの戦いが永遠に終わらない全ての魔戒騎士と魔戒法師の終わりなき悩みの一つでもある。

 

「俺や俺の仲間達も出会ってきた沢山の大切な人達の命をホラーに奪われた。どれだけ多くの人を救っても、それを嘲笑うかのようにホラーは人を喰らい続ける」

 

瞼を閉じて思い出すのは失ってしまった多くの人々の姿。

 

「俺たちは万能の神じゃない、どれだけ力を尽くしても救えない命は必ずある。その度に俺たちは悲しみ、嘆き、涙を流してきた……ああしてれば、こうしてれば良かった。もっと自分に力があれば……そう何度も数え切れないぐらい思い続けている」

 

それはホラーやこの世界での鬼の戦い、どちらでも同じだった。

 

愛しき者、親しき者、平和に生きる者……失いたくない人達を全て守ることが出来なかった。

 

その度に流牙の心には負の感情が現れ、絶望へと追いやられていく。

 

しかし、流牙はどんなに辛いことがあっても大切な人たちとの約束と己の誓いを胸に抱き、走り続けると誓った。

 

「でもだからと言って俺たちは立ち止まる訳にはいかない。たった一人でも多くの命を救うためにも、これからも戦い続ける。そして……この日の本に住む人々の為にも、自分の出来ることを全力でやるんだ」

 

数え切れない戦いを経験し、救えなかった命を何度も見てきた流牙の言葉にはとても重みがあった。

 

葵はこれ以上言い争っても流牙を論破することはできないと判断した。

 

「……分かりました。我ら松平衆は、今しばらくは流牙様に従いましょう」

 

「ありがとう。それから、言いたいことがあれば言ってくれ。松平衆だけでも三河に戻せるよう美空に相談してみるから。今はちょっと難しいかもしれないけど」

 

「はい。その時はお世話になりましょう。……では私は所用がありますればこれにて。……悠季、行きますよ」

 

「はっ!」

 

葵と悠季はその場から離れ、流牙はため息を吐いて頭をかく。

 

葵の言うことは理解できているが、流牙はボルシティの経験から皆が更なる力を付けなければ勝てないと誰よりも分かっている。

 

大敗と絶望を同時に受けたことがある流牙だからこそ尚更、美空の力が必要になると信じている。

 

そこに葵とすれ違って入ってきた綾那と歌夜は葵の表情を見るなり驚いてしまった。

 

二人は流牙と葵が喧嘩をしてしまったのかと心配したが、流牙は二人を安心させるように笑顔を見せながら頭を撫でた。

 

そして、互いの思いのぶつかり、意見の違いですれ違った事を伝えた。

 

「俺は一度、天の世界でこの身に大敗と絶望を受けている。だから、もう負けられないんだ」

 

「流牙様が大敗と絶望を……?」

 

「何があったんですか……?」

 

「……俺は強大な敵にこの目を剣で潰されて、大切な仲間を連れ去られてしまったんだ。そして、敵の黒幕にお前は負けたんだと宣告されたんだ」

 

あまりにも衝撃的な流牙の答えに綾那と歌夜は言葉を失った。

 

「だけど、俺の母さんが目を元に戻してくれて、仲間と一緒に全ての敵を倒して勝つことが出来たんだ。俺はもう何も失いたくないから自分の出来ることを全てやるんだ」

 

流牙は二人にも葵に伝えたように自分の今の気持ちを伝え、流牙隊の元へ戻った。

 

二人はそんな流牙の言葉を受け止めてこれからどうするか悩み、相談するのだった。

 

 

湊に戻った流牙はこれからどうするか結菜や一葉達と話し合い、流牙の考えである美空に恩を売り、味方につけると言う方針で決まった。

 

武士としては正道では無いが、元々流牙は騎士であり、自由な性格なことを流牙隊のみんなが分かっており、これが未来に繋がると信じている。

 

流牙の方針に従い、早速美空の元に向かい、春日山城奪還に参加しようと向かったその時、綾那と歌夜がやってきた。

 

綾那と歌夜が流牙隊に入ると宣言し、歌夜が詳しく説明すると松平衆は痛手で休ませたい状況。

 

しかし、綾那と歌夜を流牙隊に入れることで戦力を温存しつつ松平衆に戦う意思を示すことを意味する。

 

『あの葵のお嬢ちゃん……中々の狸だな』

 

策士とも言えるその考えにザルバは変な意味で感心していた。

 

「ふふっ。これで綾那も、堂々と流牙さまのお手伝いが出来るのですよー!」

 

歌夜は葵と悠季の考えを薄々気づいているが、綾那は流牙の手伝いが出来るとあって無邪気に喜んでいる。

 

「葵と悠季が何を考えてるか知らないが、もしも綾那と歌夜と小波に悪い影響を与えるなら、守ってやらなくちゃな……小波、君はどうする?」

 

「……自分は否を言う立場にはおりません。全てご主人様のお考えに従います……」

 

「分かった……」

 

小波も歌夜と同じく薄々気づいているらしく暗い表情を浮かべている。

 

こうして綾那と歌夜は流牙隊に入る事となり、早速美空の元に向かおうとしたその時、一葉が流牙を止めた。

 

「待て、流牙。余も同行する」

 

「分かった、行こう。だけど、喧嘩は無しだよ?」

 

「分かっておる。さっさと行くぞ」

 

「ああ!」

 

流牙と一葉は美空がいる町外れの陣所へ向かった。

 

美空の陣地で忙しそうに指示を出していたのは秋子だった。

 

「あら、流牙さん。公方さまも!」

 

「秋子さん、美空に話があるんだけど通してもらえるかな?」

 

「何の御用ですか?御大将でしたら、余り機嫌は良くありませんけど」

 

「ちょっと大事な話だよ」

 

流牙はそう言うが秋子は黙ったままだった。

 

仮に流牙一人で来ていたら追い返されていたが、隣には一葉がいる。

 

一葉は得意げな顔をしており、秋子は将軍を追い返すことはできないと近くにいた兵を呼んで奥に使いを出した。

 

使いの兵に案内され、陣の奥に入るなり美空の冷たい視線が向けられた。

 

「あれ。また来たんすか?」

 

「……なに?忙しいんだけど」

 

「単刀直入に言うよ、俺たちは春日山城と娘さんの件、手伝う事にしたんだ」

 

「何?長尾景虎が織田に泣きついたって評判でも立たせたくなった?だったらお断りよ」

 

「そんなつもりはないよ。俺の願いはただ一つ、鬼との戦いに手を貸して欲しいんだ」

 

「ふーん……」

 

「私がその約束を履行すると信じてるんだ?」

 

「ああ」

 

「即答ね……」

 

「少なくとも、自分の娘や仲間を大切にする人を俺は信用に値すると思っているからさ」

 

「会って間もないのにどうしてそこまで分かるのよ?」

 

「それなりに色々な人と出会って来たからさ。何となく分かるんだよ」

 

「何となくね……それで、あなたたちはどうするのよ?」

 

「まずは信頼関係を結ぶことからだと思う。だから、俺たちのことを知ってもらう」

 

「試せってこと?」

 

「そうだな。だけど、今の流牙隊には食料も玉薬も何もないから試しで使ってくれ」

 

「……足らなければ、反故にしても良いのね」

 

「ああ。だけど、君が力を貸してくれるって俺は信じている」

 

「すごい自信っすね」

 

「まったくね。その自身の根拠、なんなのかしら?」

 

「勘……かな?」

 

「いい加減なやつ。そんなのでよく一手の大将が務まるわね」

 

「俺は大将の器じゃないけどね。みんながいてくれるからここまで頑張れだけさ。それで、どう?」

 

「細かい条件は?その約束と補給以外にもあるんでしょう?証文の裏書まで守る気はないわよ」

 

「流牙隊は美空の下につくけど、無理難題には応じないよ。俺たちは決死隊じゃないから。それぐらいかな?俺たちは裏方専門だから」

 

「裏方?」

 

「潜入や調査、後は後方支援。まあ、鬼に関しては俺はみんなより派手に暴れるけどね」

 

「鬼ね……まあこの越後には鬼はいないからその力を使うことはないでしょう。じゃあ、あなたは他に何が出来るの?」

 

「俺?」

 

「そう、あなたよ。噂では確か、決して人を斬らないのよね?まさか鬼を斬るしか芸はないの?」

 

「魔戒騎士の掟で人を斬る事は許されない。でも、そう言われたら何か大きな手柄を出さなきゃね。そうだな……春日山城に行って潜入調査をしてこようか?」

 

「潜入……調査!?あ、あなたが!?」

 

あっけらかんと言う流牙に美空は驚き、流牙は得意げに話し始める。

 

「こう見えても俺は敵地に乗り込んでよく調査するんだ。潜入調査は魔戒騎士としての仕事の一つだからな。流石に空ちゃんと愛菜ちゃんを連れ出すことはできないけど、城の内部がどうなっているのか調べることは出来るよ」

 

「随分な自信ね……でも口で言うのは簡単よ?」

 

「それじゃあ、ちょっとした証を見せるよ」

 

流牙は一葉の隣から離れて陣の外に出るとそこでバク転をした。

 

バク転をして地面に着地すると同時に流牙の服が越後衆の足軽が着用している衣服と鎧に変化した。

 

「「「「なっ!!?」」」」

 

「何と……!?」

 

流牙の衣服が一瞬で変化したことに美空達と一葉は目を見開きながら驚いていた。

 

「ど、どう言うこと?一瞬で流牙の姿が越後衆の足軽の格好に……!?」

 

「着ている衣類や鎧もうちで使っているのと同じです!」

 

「何すかそれ!?リュウさん、凄いっす!」

 

「これは驚き。どんな絡繰?」

 

「俺が着ている黒衣は魔法衣と言われて霊獣と呼ばれる毛皮から作られ、魔戒法師の法術が込められている。外部からの攻撃を抑え、俺の望む姿に衣装を変化させることが出来るよ。例えば……こんな感じにね!」

 

流牙は足軽の姿から次々と魔法衣を変化させていく。

 

タキシード、カンフー服、軍服……この国にはない、今まで見たこともない服に変身させて美空達を驚かせ、最後にいつもの魔法衣に戻す。

 

「とまあ、こんな感じに服を変化させられるから、春日山城の兵士たちの格好になって侵入すればいけるよ」

 

「なるほど……軒猿に匹敵する優れた体の作りに衣服を自由に変化させる魔法衣ね。確かにこれは使えるわ。流牙、早速その力を使って春日山城の内部の状況を調べてもらえる?」

 

「分かった。ただ、春日山城のことは何も知らないから、そこのところの詳しい打ち合わせはまた後でやろう」

 

「ええ。それから……」

 

「空ちゃんと愛菜ちゃんの安否の確認だろ?分かってるよ」

 

「……頼むわ、流牙」

 

「流牙さん、よろしくお願いします」

 

「ああ。任せてくれ」

 

美空は流牙と流牙隊を春日山城奪還に使う事を決め、すぐに陣を払って春日山城へと向かう準備をする。

 

 

 




人にはそれぞれ心に想う人がいる。

家族、友、恋人。

愛しいからこそ、大切だからこそ、一緒にいたい、守りたいと願う。

次回『愛 〜Family〜』

その存在こそ掛け替えのない宝物。



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