牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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やっぱり黄金騎士ガロは強いですよね。
この世界の鬼はすぐに斬られるのが落ちですな。
ひとまず次の流牙の試練は実際に戦を見てどう感じるかだと思います。
少なくとも人界ではそこまで戦争はなかったはずですので。
それから裏方役をしている剣丞隊の役割を流牙はどうするか迷いどころです。
魔戒騎士は人間社会にノータッチが基本ですからね。
難しいですが色々考えてみます。


『試 〜Test〜』

謎の邪悪な化け物と対峙し、流牙はガロの鎧を召還し、その身に纏った。

 

黄金に輝くその鎧に化け物達は恐れを感じ、流牙は鞘に納められた大剣の牙狼剣を抜いて片手平手突に似た型を取る。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

魔戒騎士の鎧を纏った者の独特な掠れたような声を発しながら流牙は足に力を込めて飛び、牙狼剣を振り下ろす。

 

一番手前にいた化け物は爪で対抗しようとしたが、流牙は牙狼剣で爪ごと叩き斬り、化け物の体を切り裂いた。

 

次に体を横に回転しながら遠心力を込めた牙狼剣を叩き込み、化け物を肩から胴体を切り裂く。

 

そして、最後の一体に一瞬で牙狼剣を胸に突き刺し、そのまま力づくで上に切り上げて化け物の顔を真っ二つにし、この場にいた化け物を全て切り裂いた。

 

化け物の息が絶えるとガロの鎧が流牙から外されて魔界に送還され、大剣から元の細身の直剣に戻った牙狼剣の刃を見ながら流牙は呟く。

 

「魔戒剣に邪気が封印されていない……」

 

『やはりホラーとは異なる存在らしいな』

 

牙狼剣を鞘に収め、退治した化け物を見るといつの間にか消滅していた

 

「何だったんだ、さっきのは……」

 

ホラーに似てホラーとは異なる邪悪な存在……流牙は未知なる敵に頰に汗が流れた。

 

するとそこに槍を持った二人の親娘が現れた。

 

「あれぇ?母、鬼がいねえぞ」

 

「あぁん?どこに行きやがった?まさか……おい、そこの小僧。てめぇがやったのか?」

 

「……あんた達は?」

 

「質問しているのはこっちだ!どこの組のもんだコラ?」

 

ヤクザのような話し方をする女に流牙は警戒しながら静かに言う。

 

「ああ。俺が斬った」

 

「ちっ、せっかくの獲物をてめぇが奪ったのか。おい、代わりに戦え」

 

「そうだそうだ!責任取れ」

 

「……何言ってるんだ?俺は人を食らっている化け物を斬っただけだ。あんた達と戦う理由は俺には無い」

 

「はっ……いい度胸じゃねえか、その面を歪ませてやる!」

 

流牙の言葉に気に障った女は槍を振り回して流牙に襲いかかる。

 

「その喧嘩、待てぇぃ!!」

 

そこに久遠の怒声が鳴り響き、女は槍を止めた。

 

「っ!?殿?どうしてここに……」

 

「織田さん……」

 

「すまぬな、桐琴。その者は我の客人だ」

 

「殿のぉ?」

 

「そうだ、小夜叉。そやつは田楽狭間に現れたのだ」

 

「田楽狭間と言やぁ……ほぉ〜。ということは、この小僧が例の?」

 

桐琴と呼ばれた女が流牙を下から舐め上げるように覗き込んだ。

 

「ああ。ひとまず、この場は私に免じて槍を収めてくれないか?」

 

「承知した。おい、クソガキ!帰って酒だ!」

 

「応よ、付き合うぜ、母ぁ!」

 

そう言って二人はさっさと帰って行った。

 

「誰なんだ……?」

 

「あれは森家の当主で名は森三左衛門可成殿。娘の方は森長可ちゃんですよ」

 

「随分とそっくりな親子だね……って、俺追いかけられているんだった!」

 

「逃がさん」

 

「逃がしませんよ」

 

ハッと気付いた流牙は逃げようとしたが両腕を壬月と麦穂に掴まれて逃げられなくなった。

 

「くっ!しまった!?」

 

「流牙、逃げるで無い。お前には聞きたいことがあるのだ」

 

「聞きたいこと?」

 

「あの金色の鎧……お前は何者だ?」

 

「……見られちゃったか」

 

化け物を斬るために致し方無いとはいえ、ガロの鎧を見られたのは流牙にとって厳しいものだった。

 

記憶を消す魔導具は莉杏に任せっきりだったので持っておらず、久遠達から記憶を消すことはできない。

 

「じゃあ、俺からも聞くけどあの化け物は何なんだ?」

 

「……質問を質問で返すか。よし、一度屋敷に戻って話し合おう。良いな?」

 

「分かった。行こう」

 

流牙は久遠達と共に屋敷へ戻っていった。

 

 

久遠の屋敷に戻り、帰蝶が淹れたお茶を飲みながら謎の化け物とガロの鎧について話をする。

 

「さて……先程お前が戦った化け物だが、あれは我らにも良く分からないが、人を喰らう妖の存在として奴らの事を『鬼』と呼んでいる」

 

「鬼……」

 

「鬼は流牙が来る少し前に突然現れたんだ」

 

「俺が来る少し前か……」

 

『だとしたら何かそいつらが現れた原因があるかもしれねえな。他に何か情報は無いか?』

 

「いや……どこに潜んでいるかさえ分からず、夜に食事をしたらしばらく出てこない。常日頃から探索に人を割いているし、何匹か成敗したが何の目的かどういう存在なのか分かってないんだ……」

 

「人を喰らう鬼か……」

 

流牙はホラーと同じく人を喰らう鬼に対して強い怒りが生まれ、握りしめている拳を震わせていた。

 

「では流牙。話してくれないか?お前は何者なのか、鬼を最も簡単に斬り裂いたあの金色の鎧の事を」

 

ガロの鎧を見られた流牙は腹をくくり、魔戒騎士の事について話すことにした。

 

「織田さん、まず……」

 

「久遠でよい、流牙」

 

「……分かった、久遠。まず俺がこことは別の世界から来て、使命があるって言ったよな?」

 

「ああ、言ってたな」

 

「その使命はさっきの化け物みたいな邪悪な存在から人々を守ることなんだ」

 

「何だと……!?」

 

流牙の使命に眉をひそめる久遠、他の三人はその話をあまり聞いていなかったので疑問符を浮かべる。

 

「その名は魔獣・ホラー。人に憑依し、人を喰らう邪悪なる存在。古よりホラーから人々を守るのがホラーを切り、封印する力を持つ武器で戦う俺たち魔戒騎士とそれを支える数多の術を使う魔戒法師の使命なんだ」

 

「なるほど、流牙以外にもそのホラーと呼ばれる化け物を退治する者達が沢山いるのか。魔戒騎士と魔戒法師か……にわかに信じられないが、先ほどの戦いや金色の鎧を目の当たりにしたら信じるしかないな」

 

「ちょっと久遠、こいつの言うことを信じるの?」

 

結菜はジト目で流牙を睨みつけて信じられないと言った表情をする。

 

「結菜よ、お前は見てないからそう言えるが流牙の戦いは見事だった。人と言うよりも最初から化け物と戦うことを目的とした見事な剣技、そして闇夜を照らすかの如く輝く現れた黄金の鎧。私はあの時、神か仏の化身が現れたのかと思ったぞ」

 

「本当なの?壬月、麦穂」

 

「ええ。久遠様の仰る通りです」

 

「特に黄金の鎧はとても美しく、素晴らしいものでしたわ」

 

「そうなの……ねえ、流牙。今ここでその鎧を出しなさいよ」

 

「ダメだ。ガロの鎧は誰かに見せびらかすものじゃない。ガロの称号を受け継いできた英霊達と多くの人の思いが込められ、ホラーから人々を守るためのものだ」

 

「ケチね……」

 

「ほう、あの鎧はガロと呼ぶのか?」

 

「ああ。それが俺が受け継いだ魔戒騎士の鎧の名だ」

 

『ただの鎧じゃないぜ。黄金騎士ガロは数ある魔戒騎士の中で最高位にして伝説と崇められた最強の称号だ』

 

ザルバが少し自慢するように話すと久遠は目を輝かせてテンションを上げた。

 

「さ、最高位で最強だと!?おおっ!やはり我の目に狂いはなかった!しかし、流牙。これからどうするつもりだ?またこの国から出ていくのか?」

 

「俺は……」

 

久遠の問いに流牙は迷った。

 

少し前までは元の世界に帰る方法を探そうとしていたが、この世界には鬼と言うホラーと大差ない邪悪な存在がいる。

 

魔戒騎士として、黄金騎士としての使命を持つ流牙は大きな選択が迫られていたがザルバが静かに話す。

 

『流牙。お前の好きにしろ』

 

「ザルバ?」

 

『分かってる。優しいお前の事だ、この国に蔓延る鬼から人々を守りたいんじゃないか?』

 

魔戒騎士の中でも特に優しい心を持つ流牙の事をよく知るザルバは流牙の思いを汲み取り、背中を押してあげた。

 

「……ああ。少なくとも鬼の元凶をこの手で討つ。守りし者として戦う……」

 

この世界に残り、鬼の元凶を討つ覚悟を決めた流牙に久遠は立ち上がって声を上げた。

 

「よし!人々を守る為に己の身を呈するその心意気、見事!流牙よ、お前に新たな提案をするぞ!!」

 

「えっ!?久遠!?こ、今度は何!?」

 

「流牙、お前は表向きは我の夫として男の魔除けになってもらう。だが、裏ではお前は鬼を斬る、または元の世界に帰る方法を探すなど好きに行動しろ。もちろん、衣食住は確保しよう。そして約束する、お前を戦には出さない、人を殺させない」

 

それは守りし者である流牙にとって最上級の条件だったが、どうして久遠がそこまでしてくれるのか流牙には分からなかった。

 

「どうしてそこまで……」

 

「鬼を専門とする者が居てくれば少なくとも現状よりはるかに犠牲になる民は少なくなる。それからこれは個人的な話だが、お前を気に入った、お前の事をもっと知りたいと思ったのだ」

 

好奇心からの考えか、それともまた別の感情による考えか……流牙は迷いに迷い、考えた末に静かに頷いて答えを出した。

 

「分かった……了承するよ。よろしくな、久遠」

 

「ああ、こちらこそよろしくな。流牙。さて、壬月、麦穂。今日は下がれ。苦労であった。明日の評定で会おう」

 

「「はっ」」

 

話は一旦終わりとなり、久遠は二人を帰らした。

 

「結菜、今日はもう終わりだ」

 

「わかったわよ。でも私はこの男をまだ信じたわけではないから」

 

「うむ、流牙。すまんな、明日までゆっくり休んでくれ」

 

「ああ、わかった。おやすみ」

 

流牙は元いた部屋で再び横になった。

 

今日は色々な事がありすぎたのでまた布団の中ですぐに眠ってしまった。

 

 

翌朝、流牙は久遠と結菜と共に城に向かい、評定で織田家の家中が揃う前で流牙を夫にするお披露目が行われたのだが……。

 

「うーん……どうしてこうなった……?」

 

案の定、反対の声が多く武闘派が多いので流牙は立会いをしてその実力を認めてもらうことになった。

 

ようするに強ければ問題ないと言う無茶苦茶な答えでもある。

 

流牙は大きく溜息を吐きながら自分の置かれた状況に頭を悩ませた。

 

「あくまで模擬戦と考えるしかないよな……」

 

頭痛を感じながら城から久遠の屋敷に戻ると既に試合の準備が整っていた。

 

「まあ、精々頑張れば良いんじゃない?」

 

「棘のある応援だね……」

 

「当たり前でしょ?」

 

未だに流牙を認めてない帰蝶に苦笑を浮かべながら息を吐く。

 

「今はやれることをやるしかないよな。とりあえず見ていてよ」

 

「ええ。しっかり見せてもらうわ」

 

「うーん、帰蝶さんのこの感じ、どこかで感じたことのある感覚だな……」

 

「何か言った?」

 

「いや別に」

 

試合会場の準備が整い、流牙はまず赤い髪をした少女と対峙する。

 

「両者、位置につけ!」

 

「謝るなら今のうちだぞ!」

 

「俺、君に何かしたっけ?」

 

「ボクに勝てる訳ないからに決まってるだろ!黒母衣衆筆頭、人呼んで織田の特攻隊長。佐々内蔵助和奏政!」

 

「じゃあ和奏ちゃんって呼ぶね」

 

「てめえにちゃんって呼ばれたくないよ!」

 

「さて。それじゃあ俺もそれらしく名乗るかな……」

 

流牙は魔法衣の内側から牙狼剣を取り出し、鞘に施された三角形の形をしたガロの紋章を見せながら名乗る。

 

「俺は守りし者。魔戒騎士、道外流牙!!」

 

「なーにが守りし者だ!とっとと片付けてやるよ!おい猿!ボクの槍を持ってこい!」

 

「は、はいぃぃぃ〜!」

 

猿と呼ばれた少女は不思議な形と構造をした槍を持ってきた。

 

「この槍は国友一貫斎のカラクリ鉄砲槍だ!」

 

「槍に鉄砲?へぇー、面白い組み合わせの武器だね」

 

流牙は特に驚くことなく牙狼剣を自分の前に持っていく。

 

「では尋常に始め!」

 

「一発で仕留めてやる!そりゃーーーーっ!」

 

槍先から放たれた弾丸が流牙に向かって飛ぶが、

 

キィン!

 

流牙は牙狼剣を鞘から抜刀すると同時に弾を真っ二つに斬り、再び鞘に納めた。

 

僅か一秒にも満たない時間でのあまりにも素早い動作だった。

 

「はぁっ!!?た、弾を斬ったぁっ!?」

 

対峙した和奏のみならず観戦していた久遠達も驚いていた。

 

銃弾に対して回避や防御で防ぐならともかく、その場で全く動かずに剣で斬ったと言う驚くべきことを平気でやる流牙に和奏は信じられないと言った表情を浮かべていた。

 

「くそぉっ!すぐにもう一発撃ってやる!」

 

和奏は槍の穂先を覗き込んで棒のようなもので掃除をしていた。

 

何をしているんだ?と流牙は思いながら近づき、鞘に収められたままの牙狼剣を軽く振り上げた。

 

「えいっ」

 

「痛っ!?」

 

流牙は鞘で軽く和奏の頭を叩き、手に持っていた道具が溢れた。

 

「あああ!玉薬が溢れたーー!何するんだよぉ!」

 

「もうこれで銃は撃てないし、それに今俺が本気で殴ってたら和奏ちゃんは負けてたよ?」

 

「ぐぬぬー!卑怯だぞ!」

 

「卑怯って何処が?」

 

和奏の槍の連続突きを流牙は牙狼剣を抜かずに捌いていく。

 

確かに強いことは強いが、まだ荒削りで流牙にとって和奏の攻撃は武人としての力が篭っていない。

 

「そらぁぁぁぁぁ!」

 

渾身の突きを大きく弾き、流牙は一瞬で和奏の間合いに入って右拳を作る。

 

「甘いよ」

 

そして、流牙の右拳が和奏の腹部に狙いを定めた。

 

「はぁっ!」

 

「ひぃっ!?って、あれ……?」

 

和奏は流牙の拳が腹部にめり込むと思っていたが、右拳は腹部に触れるだけで力も込められておらず、めり込んでもいなかった。

 

「これで俺が本気の一撃を与えれば和奏ちゃんは倒れてるね。久遠、俺の勝ちでいいね?」

 

「うむ!良い手際なり!」

 

「お、お前!どうして!」

 

本気で殴らなかった流牙に対し、理解出来なかった和奏は尋ねると流牙は笑みを浮かべて答えた。

 

「俺は守りし者。この力は人を傷つけるものじゃないからね」

 

「守りし者……」

 

「それに、和奏ちゃんみたいな可愛い女の子に手荒な真似はできないからね」

 

「ばっ!?な、何言ってるんだてめえは!!」

 

顔を真っ赤にする和奏の次に流牙と戦うのはのんびりとした感じをした青色の髪をした女の子だった。

 

「次は雛の番だねー。……でも和奏ちんが負けたのに雛が勝てるとは思えないんですけどー」

 

「グダグダ言っとらんで、さっさと仕合えぃ!」

 

「ぶー……相変わらず怖いですよ、壬月さまー」

 

「次は君か」

 

「はいはいー。和奏ちんとの立ち合いは見せて頂きましたよー。なかなかつよいですね、お兄さん」

 

「幼い頃から鍛えてからね」

 

「普通だったら負けるかなーと思うんで、雛、ちょっとだけ本気を出しちゃいますね」

 

そう言いながら雛は二本の小太刀を構える。

 

小太刀はリーチが短いがその分早く動かせて防御も固い。

 

どう仕掛けるのかと流牙は考えると雛の周囲に白い霧が発生する。

 

次の瞬間、雛の姿が消えた。

 

「っ!?後ろか!」

 

背後から殺気を感じた流牙は牙狼剣を後ろに持って行き、背後から現れた雛の二本の小太刀を防ぐ。

 

「ありゃー、外したかぁ……」

 

「何だ、これは……」

 

「んじゃ、もういっちょ行くよー!」

 

「……そこか!」

 

再び姿を消した雛の気配を察し、小太刀を避ける流牙。

 

「普通の動きじゃないな……何だい、それは?」

 

「これが滝川家お家流、頑張って足を動かせば、速く動く事ができるの術!」

 

「何その壊滅的なネーミングセンスは!?」

 

「阿呆。滝川家お家流。蒼燕瞬歩、だ」

 

「ふふふ、それでーす」

 

「それぞれの家門に伝わる秘技だとでも思っておけ」

 

「なるほど……魔戒騎士の鎧みたいなものか」

 

魔戒騎士の鎧は一子相伝で代々受け継がれてきたもので妙な親近感がある。

 

ちなみに流牙のガロの鎧は一度その鎧を継承する系譜が途切れてしまっていたが、ガロの鎧に認められて継承する事が出来た。

 

「じゃあもう一回いくよー!」

 

「……見えない相手にどうする流牙」

 

「速い……目では捉えられないか……」

 

流牙は目を静かに閉じ、両腕を下ろして自然体となる。

 

「おや?諦めたの?でも雛は手加減しないからね〜。流牙君、お覚悟ーーーー!!」

 

雛は更に速度を高めて流牙の背後から襲いかかる。

 

「……はっ!」

 

「えっ!?うわぁ〜!」

 

背後から攻撃してきた雛の手を掴み、そのまま背負い投げをして組み倒した。

 

「あう〜!」

 

「はい、俺の勝ち」

 

魔戒剣の鞘で雛の頭をコツンと叩き、流牙の二連勝となった。

 

「ふむ……姿が見えない相手によくぞ勝てたな。……どうして分かった?」

 

久遠は流牙が雛を捉えることが出来た理由を聞いた。

 

「音だよ」

 

「音?」

 

流牙は自分の耳を軽く指で叩きながら言う。

 

「いくら速く動いても走るから地面を蹴っているだろ?俺、耳がいいから雛ちゃんが攻撃する時の音を聞き分けていたんだ。それに殺気が分かりやすいし」

 

「何と……どうやら流牙は常人よりもかなり耳がいいらしいな。何か特別な訓練でも受けたのか?」

 

「うーん、耳に関しては生まれつきかな?俺、物に込められた声を聴き取る能力があるから」

 

「物に込められた声を聴き取る?何だそれは!?後で詳しく聞かせてくれ!」

 

「分かった。それで三人目は誰?」

 

「ほう。余裕だな」

 

「まだまだいけるよ」

 

「それは頼もしいな」

 

「じゃあ次は犬子の出番!良いですか、久遠さま!」

 

三若の三人目、人一倍元気な印象のある女の子が出てきた。

 

「許す。存分にやれぃ!」

 

「やった!へへっ、赤母衣衆筆頭、前田又左衛門利家!通称犬子が流牙殿のお相手をいたしまーす!」

 

「随分元気な子だね。それじゃあ犬子ちゃん、よろしく頼むよ」

 

「では両者構え!始め!」

 

一分後……。

 

流牙は特に苦労することなく今まで通り痛手を与えず、犬子に勝利した。

 

「きゅぅぅぅぅ〜……」

 

「勝者、道外流牙!」

 

「これで三連勝だね」

 

「三人抜きか。……やるとは思っていたが、なかなかどうして。強いな流牙」

 

魔戒騎士になるべく長年無人島で修行の日々を送り、ホラーを狩るべく流浪の旅をしてきた流牙の強さは黄金騎士の名に相応しい存在となっている。

 

少なくともこの三連戦で流牙は本気の一割か二割程度の力しか出していない。

 

三若に対し圧倒的過ぎる力を見せつける流牙に久遠は上機嫌となる。

 

「これぐらい強くないとホラーを……鬼を狩ることなんて出来ないからね」

 

残るは麦穂と壬月の戦いが流牙に待ち受けるのだった。

 

 

 




それは平和とは程遠い世界。

戦わなければ滅び、戦わなければ栄えない。

それがこの世界の絶対なる法則。

次回『世 〜Jidai〜』

戦いの先に理想の平和を掴むために。




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