牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回はちょっとした短編集みたいな話です。
そして牙狼ファンならご存じの『あれ』が流牙に不穏なフラグが立てられます・・・・・・。


『嫁 〜Bride〜』

二条館の戦いを終え、越前への向かう準備をする中、二条館に滞在する流牙達。

 

流牙はこれから激しさを増す鬼との戦いに向けてひよ子達に稽古をつけていた。

 

魔法衣を纏い、身支度を整えるとザルバが流牙に話しかける。

 

『流牙、一つ頼み事がある』

 

「頼み?珍しいね、ザルバが頼み事なんて」

 

『まぁな。簡単な事だ。少しの間、俺様を久遠のお嬢ちゃんに託してくれるか?』

 

「久遠に?」

 

『お嬢ちゃんと話したい事がある。あの歳で国の当主になったその経緯とか聞きたいからな』

 

「へぇー、ザルバもそう言うのに興味あるんだ。分かった、じゃあみんなとの稽古が終わるまで久遠と話していて」

 

『ああ、頼んだぞ』

 

流牙は稽古が始まる前に久遠の元へ向かった。

 

久遠は部屋で一休みしており、茶を飲んでいた。

 

「久遠、ちょっといい?」

 

「おお、流牙か。構わぬぞ」

 

「ちょっとザルバが久遠と話がしたいんだって」

 

「ザルバが?珍しいな。我は構わぬぞ」

 

「ありがとう。それじゃあ俺はひよ達の稽古をしているから後でな」

 

「ああ。しっかり頼むぞ」

 

流牙は久遠にザルバを渡して部屋を後にする。

 

早速久遠はザルバを自身の左手の中指にはめてカバーを開ける。

 

『……お嬢ちゃん、悪いがすぐに結菜と一葉と詩乃のお嬢ちゃん達を呼んでくれるか?』

 

「……何か重要な話のようだな」

 

ザルバの言葉でスッと目を鋭くする久遠。

 

『頭の回転が早くて助かる。流牙の事で話がある』

 

久遠に当主として聞きたい話があるのは実は嘘だった。

 

「分かった。すぐに呼ぼう。流牙には知らせない方が良いな?」

 

『そうしてくれ。流牙に下手に圧力を掛けたくないからな』

 

ザルバの頼みですぐに久遠は部屋に結菜と一葉と詩乃を呼んだ。

 

「どうしたの、ザルバ。あなたが私たちに話があるなんて」

 

「しかも流牙には秘密とは只ならぬ話のようじゃな」

 

「ですが、どうして我々だけに?」

 

『お前さん達がこの世界で流牙に一番近く、そして心を支えられる存在だからだ』

 

流牙の相棒であるザルバから認められ、嬉しく思う反面何を話すのか緊張する久遠達。

 

そして、ザルバの口からこれからの戦いで流牙に『起こりえる可能性』がある事柄を話し始める。

 

『お前さん達にこれから話す事は流牙……いや、全ての魔戒騎士が抱える大きな闇……禁断の力だ』

 

人知れず、人を守る為に闇を狩る魔戒騎士。

 

そんな彼らは多くの闇を抱えている。

 

そして、心の闇を乗り越え、闇を纏う流牙にもその禁断の力が眠っている……。

 

 

一方、流牙は二条館の庭の一角でひよ子達を相手に稽古をしていた。

 

我流とはいえ魔獣との戦いの専門家である魔戒騎士である流牙の稽古を受ける事は鬼との戦いに有益で且つ、自分自身を強くする為に多くの者が参加している。

 

流牙隊からはひよ子と転子と梅の三人。

 

それに加えて三若の和奏、雛、犬子の三人である。

 

「ひよ、お前は身軽に動くことができるから軽やかな動きで相手を翻弄して攻撃するんだ!膂力が無い分は跳んで切り落とすんだ!」

 

「は、はい!」

 

「ころは相手の動きをよく見ながら隙のある部位を構わず斬れ!怯んだら尽かさず斬り伏せろ!」

 

「了解です!」

 

「梅は常に次の攻撃の手を考えるんだ。例え攻撃を止められても思考を止めるな!」

 

「はいですわ!」

 

「和奏は槍の技術面を徹底的に磨け。切り札の仕込み鉄砲は大きな相手、硬い皮膚を持つ相手にゼロ距離で撃ち込んで風穴を開けてやれ!」

 

「おう!」

 

「雛は心を静めて殺気を出来るだけ抑えて走りながら急所や足を切れ。そうすれば例え仕留められなくても鬼はほぼ動けない!」

 

「お〜!」

 

「犬子は自慢の怪力で思いっきりやれ!だが技術面も忘れるなよ。力と技、両方備わればもっと強くなれる!」

 

「わん!」

 

六人の問題点や改善点を指摘しながら指導をし、まだまだ成長期で発展途中なので着々と実力を上げていく。

 

そして、稽古の終わりには全員が流牙との一対一の模擬戦を行う。

 

流牙は魔法衣から牙狼剣でも牙狼刀でも無い白い鞘の直剣を取り出す。

 

それはまだガロの鎧が金色を取り戻す前の白い鞘の牙狼剣とほとんど同じ拵えの剣だった。

 

前々から稽古をお願いされていた流牙は訓練用の剣として牙狼剣と同じ拵えの剣を鍛冶屋に作ってもらっており、京から美濃に戻った時に完成した。

 

ソウルメタルではないただの鉄の剣なのでこれなら安心してひよ子達相手に稽古をすることが出来る。

 

その稽古風景を三若の上司である壬月と麦穂が見ていた。

 

「ほぅ……三若の奴ら、最近知らぬ間に強くなっていたと思っていたが、まさか流牙に師事を受けていたとはな」

 

「ふふっ。みんなまだまだ若いですから伸び代は充分ありますね」

 

「これだと道場の師範と弟子達の稽古みたいな光景だな」

 

「道場ですか……そうですね、道外流道場と言ったところかしら?」

 

「外れた道の道場か……あくまで弟子達の武を高めるためのものだから間違ってはいないか。よし……」

 

「壬月様?」

 

「私もちょっと動きたくなった。道場破りではないが、師範と手合わせをしよう」

 

「では私も一緒に」

 

壬月と麦穂はひよ子達が流牙と模擬戦をしたいる間に自分達の武器を取りに行った。

 

それから六人連続で模擬戦を行ったにも関わらず流牙は全く疲れを感じさせない爽やかな笑顔をして稽古を終わりにする。

 

「もうすぐ大きな戦だ。後は自分達のやるべき事をやったらしっかり休んでくれ」

 

「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」

 

ひよ子達は挨拶を終えると縁に座って手拭いで汗を拭き、水を飲んで休む。

 

「ふぅ〜、疲れたぁ……」

 

「ひよ、どんどん強くなってるね。やっぱりお頭の指導は的確だね!」

 

「ええ!ハニーのお陰であの時のような不覚を取ることなく己を高められましたわ!」

 

「へへっ、流牙のお陰で前よりも断然強くなってるぜ!」

 

「そうだねぇ。みんなにそれぞれ自分にあった鬼との戦い方を身につけてきたからね〜」

 

「わん!もっともっと強くなって鬼を蹴散らしてやるわん!」

 

流牙の指導で確かな強さを感じている各々。

 

我流で独特な流牙の剣は教えられないがその代わりそれぞれの武の良さを高め、弱さを補えるように指導していたので好評である。

 

「みんなが頑張っているからだよ。俺はちょっと助言しただけだよ」

 

流牙は剣を手に剣術や体術の型の練習をしていると二つの影が近づいていた。

 

「おいおい……そんな物騒な物を持ってどうしたんだ、お姉様方?」

 

壬月は言わずと知れた巨大な斧・金剛罰斧を、麦穂は愛刀を手にしていた。

 

「ふっ、気づいていたくせに白々しいな」

 

「道外流道場の師範さん、私達とお手合わせをお願いします」

 

「ど、道場……?どういうこと……?」

 

「そこにいるではないか、六人の弟子が」

 

「ああ、そういう事?弟子ってわけじゃないけど……良いよ、相手になるよ」

 

流牙は剣を構えるとまずは麦穂から相手をする。

 

「こうして流牙さんと戦うのは試合の時以来、久々ですね」

 

「そうだな。あの時は牙狼剣だったから抑えていたけど、鋼鉄の剣なら思いっきりいけるよ!」

 

「ええ、私も全力でいきます!」

 

流牙と麦穂は久方ぶりの模擬戦を行った。

 

その後、壬月とも戦い、騒ぎを聞きつけた綾那や歌夜、更には小夜叉や桐琴といった武闘派達が次々と押し寄せることとなるのだった。

 

 

ある日、流牙は一葉達に呼ばれて二条館の一室に呼ばれた。

 

そして、幽が持ってきたのは大量の書物と巻物だった。

 

流牙に公方である一葉の夫になるので幽から軍略に政略、礼式、歴史、家系図……などなど、公方の夫として相応しい良人になる為、たくさんの勉強をすることになったのだが……。

 

「今いる検非違使を総動員して何としてでも流牙様を捕らえるのです!!」

 

「幽よ……それは無駄な労力を使うことになるぞ?」

 

「流牙様、風のように立ち去っていきましたからね」

 

結論から言うと流牙は幽から逃げた。

 

山ほどある書物や巻物を目にし、面倒極まりないしきたりや儀式の内容に流牙は「覚えきれない、絶対に無理」と判断して全力で逃走した。

 

せめて武士のたしなみである茶の湯や和歌だけでも教えようとしたが、堅苦しいのが苦手な流牙は「俺は騎士だから茶の湯と和歌なんか必要ない!」と言って更に逃げる理由となってしまった。

 

幽は検非違使を使って流牙を捕まえようとしたが、魔戒騎士である流牙が捕まるわけがなく、日が暮れるまで見つからなかった。

 

基本的に流牙の味方である一葉と双葉は幽の悔しそうな顔に笑っていた。

 

ちなみに幽の目から逃れた流牙は久遠と結菜の元にいた。

 

灯台下暗しとはこの事で流牙は奥を取り仕切ることとなった結菜から現在における流牙の奥さんについて話された。

 

「まず正妻は久遠と一葉様よ」

 

「えっと、それって一番身分の高い妻ってことだよね?」

 

「ええそうよ。次に側室だけど、これは私と双葉様よ」

 

「正妻の次に身分の高い妻か……この時点で四人も妻がいるのか……」

 

性格も見た目も違う絶世の美少女が四人も妻を迎え、男冥利につくというものだが流牙の場合はそういうわけにはいかない。

 

「何を言ってるの?あなたの妻はまだまだいるわよ」

 

「フワッ!?」

 

結菜の宣告に流牙は心臓が止まりかけるような衝撃を受けた。

 

「立場では正妻と側室の次に低いけど、愛妾で流牙隊のひよ子、転子、詩乃、鞠ちゃん、梅。織田家の麦穂、和奏、雛、犬子。現状ではこの九人よ」

 

まさかの流牙の知らないところで妻が一気に三倍も増えていることに驚きを隠せない。

 

「多い多い多いっ!?つまり俺には今、合計で十三人も奥さんがいるの!!?流牙隊のみんなにも驚きだけど、麦穂さんと三若はいつのまに!?」

 

「ふむ……我が宣言したとはいえ、まさか数日でこれ程とはな……流牙よ、やはりお主は天下御免の女誑しだな」

 

「く、久遠っ!!?止めて!頼むからそんなこと言わないで!!黄金騎士が天下御免の女誑しだなんて……魔戒騎士や魔戒法師の仲間、そして英霊に顔向けできなくなるから!!!」

 

「はぁ……この時点でこれだと、あと奥さんが十人や二十人増えても不思議じゃないわね……」

 

「結菜!怖いことをサラリと言わないでくれ!!本当に仲間達と英霊から蔑まされそうなんだけど!!?」

 

背筋が凍るような発言にビクビクと怯える流牙だった。

 

「まぁ冗談はさておき。ひとまず愛妾の九人に話を聞いてきたら?」

 

「そうする……」

 

幽達に見つからないよう隠密行動を心掛けながら愛妾となった九人の元に行き、話を聞きに……ではなく、愛の告白を受けた。

 

「流牙様!私は武将として、奥さんとして側にいさせてください!」

 

「え、えっと……流牙様!あまり上手くは言えませんけど、私は流牙様が大好きです!」

 

「流牙様……私は初めてお会いした時からずっとあなたの事をお慕いしておりました」

 

「鞠は流牙の事が大、大、大好きなの!」

 

「ハニー!私はどんな形でもあなたの妻になれて幸せですわ!」

 

「流牙さん、あ、あの……私をあなたの妻にしてください!」

 

「りゅ、流牙!私はお前が大好きだぜ!」

 

「流牙くーん。雛ね、流牙君のこと大好きだよー」

 

「流牙様ー!あのね、犬子すっごく流牙様のことが好きー!」

 

ひよ子、転子、詩乃、鞠、梅、麦穂、和奏、雛、犬子の九人から愛の告白を受け、流牙は今までにない恥ずかしい気持ちとなったが、ひとまずその告白を受け取って九人が愛妾になる事を了承した。

 

そして、九人からの告白を受けて心臓の鼓動が最高潮に高まり、一人で静かに落ち着かせている中、ザルバが話しかける。

 

『流牙よ』

 

「何?ザルバ……」

 

『こんなにも女に愛される黄金騎士……いや、魔戒騎士は多分お前だけだ』

 

「……まさか友にトドメを刺せられるとは思わなかったよ」

 

心にグサっと大きな言葉の刃が刺さり、撃沈する流牙だった。

 

しかしこの時の流牙はまだ知らなかった。

 

流牙の妻がまだまだたくさん増える事となるのを……。

 

 

戦いの傷も癒え、英気も充分……とは言えないまでも、これなりに養えたと判断した久遠は、小谷、そして越前侵攻の下知を下す。

 

「上洛し、足利公方との合流を果たした!次は鬼に支配されし越前の解放に向かう!各々、存分に手柄を立てよ!」

 

久遠の宣言の下、流牙達は京を離れ、近江路を小谷に向けて進発した。

 

流牙隊には二条館攻防戦に駆けつけてきた雫が新たな仲間として加わる事となった。

 

雫は優秀な人材だが小寺家から色々な事を丸投げ同然で任されており、流牙はこのままにしておくのも勿体無いと思い、更には雫の意思もあって流牙隊の一員として加わる事となった。

 

ちなみにその際、一葉に頼んで小寺家に雫を貸すよう依頼をしたのでその対価として流牙は一葉と京の町をデートする事になった。

 

流牙達は小谷にまでの長い道のりを経て市と真琴のいる小谷城の近くまで到着したが、小谷近郊まで兵が出ていた。

 

何かがおかしい、そう感じ取った流牙と久遠は急いで小谷城へ向かった。

 

城門に近づくと市と真琴の姿があり、ひとまず二人が無事で安心するが、二人の表情はどことなく厳しかった。

 

そして、二人の口から衝撃的な事が話される。

 

それは越前から江北に鬼が群れをなして進行してきたのだ。

 

六日程前、越前の国境、賎ヶ岳方面から鬼の群れが江北に入り、周辺の村を荒らし尽くして越前に帰って行った。

 

市達救援隊が到着する直前で方向転換して逃げていった。

 

それは鬼に統率が取れているということだった。

 

エーリカの考えでは上級の鬼が存在するという事、そして越前内部が上級の鬼に仕切られ、戦略を持って動くようになった。

 

鬼との戦いがまた一段階も困難になってしまった。

 

流牙と久遠達は真琴と共に近くの窪地に陣幕を張り、軽い食事を取りながら情報交換をして軍議を行う。

 

「鬼の行動が変わり始めたな」

 

『ああ。流牙達が初めて対峙した鬼はただ食事を求めて人を襲っていたが、知恵をつけて戦略的に動いている』

 

「……今思えば三好衆は京で俺たちを足止めする為に利用したのかもしれない」

 

『そう考えると俺たちは今回の黒幕の掌で踊らされている可能性がある。手下の鬼を操り、俺たちを遠くから見て遊んでいるように見える』

 

数々のホラーとの戦いを経験した流牙とザルバの推測には説得力がある。

 

「しかし越前を捨て置く事はできません。……今も越前の民は鬼に怯え、恐怖に戦いている事でしょう。弱き者達を守る為にも……」

 

「この日の本を異形の者どもの好きにさせる訳にはいきません。今、越前を討たないと……っ!」

 

越前と日の本を強く思う真琴と葵は少し焦っているようにも見える。

 

「分かってる。二人の気持ちは俺も同じだ。だけど……嫌な予感がするんだ」

 

流牙も二人と同じ気持ちだったが、胸騒ぎがしていた。

 

果たしてこのまま越前に討ち入って良いのかどうか。

 

あまりにも敵の情報が少ない事もそうだが、流牙はボルシティでの戦いから自分自身が目を失い、仲間達が大きく傷ついた時の光景が頭の中に過る。

 

今動いたら何か大きなものを失ってしまう……そんな思いが流牙の心にあるのだが、久遠の心は変わらない。

 

「流牙、我々はやらねばならん」

 

「……そうだな。分かった、まずは越前の解放だな」

 

一刻も越前を解放する……そんな気持ちから流牙も自分を抑えた。

 

「共々!次の戦は異形の者との戦いである!……今宵は無礼講を差し許す。英気を養い、この日の本の為に全力を尽くせ!」

 

越前討ち入りの準備を命じ、共に戦う者達の英気を養わせる。

 

いよいよ越前討ち入りが始まる……流牙は大きな不安を心に秘め、手を強く握りしめながらその時を静かに待つ。

 

 

 




戦いの前夜。

暗き闇夜と同じ底知れぬ不安が心に残る。

それでも立ち止まることは出来ない。

次回『夜 〜Night〜』

夢の為に、未来の為に。



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