牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回から本格的に一葉ちゃんが流牙の嫁になってきます(笑)
一葉ちゃんは原作でも優遇されているので更に出番が増えると思います。


『迷 〜Ambivalence〜』

二条館攻防戦を戦い切り、三好の鬼を殲滅し、一葉と双葉を守り切った流牙と久遠達。

 

本来なら戦いの勝利を祝って宴の一つでも行うはずだが……流牙は浮かない表情をし、二条館を出て京の外れの野原で横たわっていた。

 

「はぁ……どうしたもんかなぁ……」

 

夜空の星を眺めながら流牙は大きなため息を吐いた。

 

その理由は三好の鬼を殲滅し、久遠と再会したところから始まる。

 

「皆に一つ、伝えておきたいことがある。此度、鬼と三好衆の叛乱を無事に鎮圧出来たのは、ひとえに皆の力があったればこそだ。しかしこの先、鬼との戦いが続いていく中で、我の力も、皆の力も及ばない事態がきっとあるだろう。だが今、この日の本には、鬼という異形の者について詳しく知る者は少ない。比較的多くの情報を握っているのは、織田、浅井、松平の者だけなのだ。これは非常に危険なことだと我は考えている。なぜなら鬼を良く識る我らが負ければ、この日の本は、鬼との戦いに大きく遅れを取ることになるからだ。だから我は考えた。……そして決めたのだ」

 

それは久遠が考えた日の本を救う為の苦肉の策で唯一の道だった。

 

「我が夫、道外流牙を、我の夫というだけでなく、公方の夫として……いや。この日の本に居る、鬼との戦いを決意した者達全ての良人とすることを、我はここに宣言する!」

 

それは足利幕府公認のお触れだった。

 

つまり、流牙は鬼と戦うと決めた者、敷いては各地の有力者を嫁にするという事だ。

 

鬼と戦うための立場はともかく、男として沢山の素敵な女性を妻に出来るのは素晴らしい事かもしれない……しかし、流牙はそれを快く了承しなかった。

 

相談せずに勝手に決めたことは些細な問題ではない。

 

一番の大きな問題は流牙が魔戒騎士であることだ。

 

誰もが既に知っているが、流牙はこの世界の人間ではない。

 

元の世界に帰り、魔戒騎士として人々を守り、ホラーを討滅する使命を背負っている。

 

まだ元の世界に変える方法は見つかってはいないが、いつかは帰らなければならない。

 

しかし、久遠が決めた事は流牙の心を強く縛り付けてしまう。

 

流牙は優しい心の持ち主であるが故に大切な人が増えすぎてしまうと、仮に帰る時になったら流牙だけでなく久遠達も辛くなってしまう。

 

見方を変えれば流牙がこの世界に残り続ける為の理由の外堀を作ったようなものである。

 

その事を久遠は重々分かっていたはず……しかし、日の本の武士を一つにするには流牙の存在は欠かせない。

 

「俺は……みんなとずっと一緒にはいられない……その事を分かっているのか!?俺は……こんな事のために君の側にいたわけじゃない!!」

 

「っ!?」

 

流牙も久遠の気持ちを理解はしたが、その事を強く当たってしまった。

 

責められる事を覚悟していた久遠だが、実際に流牙に言われて余程堪えたのか、その場に崩れてしまう。

 

そんな久遠を見ていられなくなり、そして頭を冷やすために流牙は逃げるように二条館を後にした。

 

その場にいた者達は流牙を引きとめようとしたが、流牙は声を荒げて叫んだ。

 

「来るな!頼むから一人にしてくれ……戦いが終わってこんな空気にして悪いとは思ってる。だけど、俺は魔戒騎士だ。この世界にずっとはいられない。いつか必ず別れの時が来る……それだけは分かってくれ」

 

改めて流牙は自分が魔戒騎士であると皆に伝えて二条館を出て行った。

 

誰もいない静かな野原で横たわり、両目を閉じて右腕を乗せながらぐちゃぐちゃに混乱している頭の中を少しずつ整理していく。

 

久遠の考えは理解出来る、流牙という希望の旗の元に有力者を集わせ、皆で協力して鬼と戦う。

 

理解は出来るのだがやはり納得するのは難しい。

 

仮にもし流牙が魔戒騎士ではない何のしがらみも持たない普通の人間ならここまで悩む事はなかっただろう。

 

魔戒騎士はホラーを狩る者……特に流牙は黄金騎士ガロの称号を受け継いでいる者、全ての人間と魔戒騎士の希望になるべき存在だ。

 

大切な人の約束と命と共に蘇らせたガロの鎧……流牙は魔戒騎士として、守りし者としての道を外れる事は決してない。

 

しかし、この世界で流牙は大切な者が出来すぎてしまった。

 

紡がれた掛け替えの無い縁が……絆が流牙を深く苦しめているのだ。

 

「ああもう!こんな事になるなんて!!どうしたらいいんだよっ!!?」

 

流石にこんな事態になるとは予想外で流牙もどう対処をしたらいいのか分からなくなっている。

 

そんな流牙の背後に一つの影が近づく。

 

「やれやれ、流石の黄金騎士殿もお困りのご様子じゃな」

 

「……君はさっきまで大量の鬼に狙われていた事を自覚してないの?」

 

「心配は無用じゃ。近くに幽達が控えておるからな」

 

その影は先ほどまで流牙と共に戦った一葉だった。

 

今は鎧を外しており、いつもの見慣れた服装で流牙の隣に座る。

 

「すまなかったな……流牙。お主の気持ちを考えずにしてしまった」

 

「もう良いよ……はぁ、元の世界に未練の無い男だったら楽だったんだけどな……」

 

「流牙以外の男が呼ばれるとしたらどんな男だろうな……」

 

「さぁな。案外、凄い女誑しかもな」

 

「……流牙以上の女誑しだったらとても恐ろしいのだが」

 

「ちょっと、俺以上ってどういう事だよ?俺は女の子を誑した覚えは無いよ?」

 

「どの口が言っておる。実際に余はお主の言葉で何度も惚れてしまったのだが……」

 

一葉は頬を赤く染めながら照れ臭そうに言う。

 

実際に先程の二条館攻防戦での流牙の言葉に一葉の心は何度もときめいている。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

「自覚なしとはまた面倒だの……その言葉で向こうの世界でどれだけの女子を誑した?」

 

「……そういう事なら多分、莉杏だけだよ。莉杏とは一緒に旅をしているし、魔戒騎士の仕事上、あまり女の子と会う機会は無いからね」

 

「むっ……やはり余らの最大の敵は莉杏か……」

 

流牙にとって莉杏は掛け替えの無い存在だと改めて思い知った一葉はため息をついた。

 

一葉との話で少し心が安らいだ流牙は久遠の事を聞いた。

 

「久遠は……どうしてる?」

 

「結菜が見ておる。お主に責められる事を覚悟していたがやはり応えたようだな」

 

「そうか……」

 

「……流牙よ、久遠はお主の事を心の底から愛しておる。だから何度も悩んで苦しんだ。その末に日の本を救うための手段として考えたのだ」

 

「分かってる!分かってるけど……俺は……」

 

流牙は心が苦しく、胸を強く手で押さえながら一葉に問うた。

 

「一葉は……嫌じゃ無いのか?こんないつかは消えるような男の妻になって……」

 

「余は構わぬぞ。何ならお主と一緒に天の世界に行っても構わぬからな」

 

「……はぁ!?何言ってるんだよ、将軍がいなくなったらこの国はどうするんだよ……」

 

「将軍職なら双葉に任せようと前々から思っていたのだ。それに……余は堅苦しいものや縛られるのは嫌いだから旅に出たかったのじゃ!」

 

「確かに……」

 

将軍らしからぬ自由すぎる性格故に常に自由を求めている一葉に流牙は思わず納得してしまった。

 

「だから、もし流牙が天の国に帰るときが来たら余も一緒に連れて行ってくれ」

 

「あのね……まだ方法も見つかってないのにそう簡単に了解出来るわけないだろ……」

 

「それもそうだな。まあ流牙が元の世界に帰る方法は何とかするとして……流牙よ、お主に皆の気持ちを伝える」

 

「皆の気持ち……?」

 

今、二条館にいる久遠達から流牙への気持ち……それを一葉が代わりに伝える。

 

「確かにお主はいつかは必ず元の世界に帰らなければならない……しかし、それでも皆はお主と一緒にいたいのだ」

 

「俺と一緒に……?」

 

「そう……ずっと一緒にいられなくても、思いが交差しなくても、たった一人の想い人……道外流牙の側にいたいのだ。それほどまでに皆はお主の事を慕い、想っておる。だから今はただ側にいれば良い」

 

「側にいるだけで……?それで良いのか?想いを伝えたり、体を交わしたりとかは……」

 

「女としてはそれは強く望むものだが、皆はお主の性格をよく知っておるからの。添い遂げるとしたらたった一人としかしないのだろ?」

 

「おっしゃる通りです……」

 

「だからお主は今まで通り、魔戒騎士としての使命を果たせ。しかし、これだけは忘れるでないぞ。流牙の側にはいつも余らがおる。お主を思い、共に戦う乙女たちがな」

 

一葉の言葉を聞き、流牙は目を閉じて頭の中を整理した。

 

自分は何者なのか、何のためにこの世界にいるのか。

 

そして、気がつくと側には結ばれた縁から生まれた大切な人たちがいる。

 

「俺は黄金騎士……魔獣の手から人々を守る。俺は一人じゃない、この世界で出会った大切な仲間達と共に全ての鬼を討滅する……それが俺の使命だ!」

 

「ふふっ、ようやく余らの愛しき騎士様となったの」

 

「一葉、ありがとう。お陰で少し吹っ切れたよ」

 

「大したことはしておらん。それに、余は流牙の妻だからな。夫が悩んでいる時に支えてやるのが妻の役目だろう?」

 

「そ、そうか……よし、早く久遠に謝らないとな。二条館へ帰ろう」

 

「ではここは夫婦らしく……」

 

一葉はニヤリと悪戯っ子の笑みを浮かべると流牙の左腕に抱きついた。

 

「か、一葉!?何をするんだ!?」

 

「良いではないか。夫婦なのだから妻が夫の腕に抱きつくくらい」

 

「いや、その、あ、当たってる!当たってるから!」

 

スタイル抜群の一葉の胸が服越しに流牙の左腕に当たっていた。

 

服越しでも分かるその柔らかさに暗闇でも分かるぐらいに流牙の顔が赤く染まっていた。

 

「ほう……なんだかんだでも流牙はやはり男じゃな。よし、久遠や結菜にも胸を当てると良いと伝えておこう」

 

「か、一葉!?君は俺をどうしたいんだ!?」

 

「別にどうもせんぞ?だがまあ、ガロと同じく流牙も狼になってくれれば良いのだが……よし、流牙よ。明日の夜に余と双葉と一緒に風呂に入るぞ!まずは裸の付き合いだ!」

 

「どうしてそうなるの!?頼むから勘弁してくれ!」

 

「ふはははは!覚悟するのじゃ、流牙よ!」

 

「うわぁあああああっ!!?」

 

自由奔放にして大胆不敵な将軍・一葉が妻となり、悩まされる日々が始まる流牙だった。

 

その後、二条館に戻った流牙は久遠にちゃんと謝り、無事に仲直りをした。

 

そして、次の目的である越前への準備を進めるのだった。

 

 

翌朝、流牙は戦いの疲れを癒すためにのんびりしていた。

 

本当は流牙隊の準備を手伝いたかったが流牙は二条館攻防戦で誰よりも戦い、一番の功労者である。

 

そんな流牙に久遠達に休めと言われ、仕方なく体と心を休めている。

 

昼寝をしたりギターを弾いたりしてゆったりと時間を過ごす。

 

ギターの音色に導かれるように初めてその音を耳にした一葉と双葉がやって来る。

 

「相変わらず流牙の音色は素晴らしいの」

 

「はい。通りがかって耳にした皆さん、うっとりとしていましたよ」

 

「ありがとう。後で新しい歌を聞かせるからね」

 

「うむ!楽しみにしているぞ!」

 

「楽しみです!」

 

自分が歌う歌をこれほどまでに楽しみにしてくれている二人に流牙も笑みを浮かべる。

 

双葉は流牙と一葉にお茶を淹れ、美味しいお茶に一息を入れると流牙はふとある事を思い出した。

 

「そうだ、一葉。昨日の戦いでよく魔戒剣を召喚出来たね」

 

「ああ。確か……号殺剣だったな。いや、最初は召喚するつもりは無かったのだがな」

 

「どういう事?」

 

「本当は一度目と同じく数多の刀を呼び出そうとしたのだが、号殺剣が割り込むように現れたのじゃ。しかし、まさかあれほどまでに巨大な剣だとは思わなかったぞ」

 

「号殺剣は魔戒騎士じゃなくて阿号だけの剣だからね」

 

「阿号……?流牙様のお知り合いですか?」

 

「ああ……」

 

双葉から阿号の事を聞かれ、流牙は空を見上げながら静かに答える。

 

「阿号は俺がいた世界よりも大昔に双竜法師と言う魔戒法師に作られた人型魔導具なんだ」

 

「作られた……?人型……?流牙よ、その阿号は人ではないのか?」

 

「阿号は見た目は人間なんだけど、その中身はえっと……絡繰で作られているんだ」

 

「か、絡繰ですか?」

 

「絡繰と言っても人のように頭で考えてちゃんと話せるんだ。阿号は俺たち魔戒騎士と同じくホラーを討滅するために作られた。だけど……深き眠りから目覚めた阿号は人間を滅ぼそうとしたんだ……」

 

「滅ぼす……!?何故じゃ、阿号は守りし者として人を守る存在じゃなかったのか!?」

 

号殺剣を召喚した一葉はその剣に込められた人々を守る強い意志を感じていた。

 

それなのに阿号が人間を滅ぼそうとしていたとは信じられなかった。

 

「阿号を作った双竜法師の夢……ホラーのいない世界をどうしたら実現出来るか阿号は何十年、何百年と眠りながらずっと考え続けた。考えた末に阿号は人間がいるからホラーは出現する、それなら人間を全て滅ぼせばいい……そう言う歪んだ考えを導いてしまったんだ」

 

「そんな……法師様はそう言う意味で夢を語ったわけではないはずなのに……」

 

「俺は莉杏とも同じ約束した。そして、阿号と対峙してお前は間違ってるって否定をして法師はどんな思いでお前に夢を語ったんだって何度も言葉を伝えたんだ。阿号は法師の事を思い出し、考えようとした矢先に阿号の体内にあった古の伝説のホラーに体を乗っ取られてしまったんだ」

 

「乗っ取られじゃと!?」

 

「それじゃあ阿号さんは……」

 

「かつて最強の名を欲しいままに猛威を振るった伝説のホラー、デコル。大昔に阿号が退治した時に体の一部が体内に入っていて、阿号が再び目覚めるのをずっと待っていたんだ。俺はデコルの中にいる阿号に叫んだ。お前と法師の夢、ホラーのいない世界を俺が必ず果たすと……その時、デコルの中にいた阿号が最後の力を振り絞って号殺剣を俺に託したんだ。そして、その号殺剣でデコルを討滅することができた。けれど、阿号と号殺剣は戦いの後に消滅してしまった……でもまさか一葉が召喚してくれるとは夢にも思わなかったよ」

 

「きっと……他の魔戒騎士や魔戒法師のいないこの世界で必死に戦っておるお主の力になりたく馳せ参じたのじゃろ」

 

「阿号さんはきっと流牙さんの想いが伝わってるはずです!」

 

「そうだな……俺たちの夢は果てしない道のりかも知れないけど、まずはこの世界を……この国に蔓延る鬼を全て討滅する。それが俺の使命でもあり、夢だからな」

 

まだこの国には果てしない数の鬼がいるだろう。

 

だけど流牙は一人じゃない。

 

共に戦うたくさんの仲間たちがいる。

 

流牙はお茶を口に含み、この世界から来て飲み慣れてきた苦味を味わいながら一時の平和を噛み締める。

 

 

京から遠く離れた越後の国。

 

その国に只ならぬ雰囲気を持つ少女たちが話をしていた。

 

「御大将。織田信長が洛中に入り、公方を保護したとの報せが、軒猿より入って参りました」

 

赤く長い髪をし、お淑やかな雰囲気で『誠』の文字が描かれた服と髪飾りをした女性がそう告げた。

 

「ふーん……。公方……一葉様が織田と手を結んだって事かしら?」

 

「あり得る事ではありますが……一体、何のためにでございましょう?」

 

「さて……尾張や美濃を落とした織田は、今、中央でも注目の勢力になってる。その辺りかもね。で、他に報せは?」

 

「はっ。軒猿曰く、二条館を襲撃したのは、三階菱に五つ釘抜きの定紋を纏った、異形の者だったとか」

 

「何それ?」

 

「異形の者って言えば、旅の雲水にちょこーっと聞いた事があるっす。何でも畿内から東海にかけて、人を食べる変な生き物がいるらしいっす」

 

語尾に『っす』を付けているのは露出度の高い服を着て、橙色の髪をした活発そうな少女である。

 

「人を食べるぅ?どんな生き物よ?」

 

「鬼だって噂っす。人を喰らう鬼っす」

 

「鬼?鬼、ねぇ……ふふっ……あははははははっ!」

 

「お、御大将!本当に二条館に鬼が出たのならば、これは笑い事で済まされることではっ!」

 

「鬼、良いじゃない!最近、武田とも殺り合ってなかったし、暇していたところだもん。その鬼とやら、この目で確かめてやるわ。柘榴、付き合いなさい!」

 

「了解っすー!」

 

「秋子は私が城から居なくなった事を伏せて、春日山を守っておきなさい」

 

「え、ええーっ!?本気ですかっ!?」

 

活発そうな少女は柘榴、お淑やかな女性は秋子。

 

秋子と柘榴が仕えている主人……その少女は綺麗な白髪をツインテールに纏め、空色と白色を基調とした服装に身を包んでいた。

 

「本気も本気よ。……ああ、姉上がまた馬鹿をやるかもしれないから、そこだけは注意しておきなさいよ?」

 

「は、はぁ……」

 

「相変わらず貧乏くじっすねー、うちのおっかさんも」

 

「誰がおっかさんですか!とにかく、くれぐれも……くれぐれも危険な事はしないでくださいよ!御大将!長尾景虎様!」

 

越後の龍と言う異名を持ち、戦の天才にして越後・長尾家の当主……長尾景虎。

 

「分かってるわよ!相変わらず秋子は心配性ね〜」

 

「あ、そう言えばおっかさん。鬼と言えばもう一つの噂……金色の天狼さんはどうすか?」

 

「金色の天狼?ああ、織田信長の夫、田楽狭間の天人で……」

 

「名は道外流牙。黄金に輝く狼の鎧を呼び出してその身に纏い、人とは戦わず鬼だけと戦う天人……二条館の前線で鬼を誰よりも多く倒したとの事です。それから……これは余りにも信じられないのですが、金色の鎧が漆黒に染まり、背中に翼が生えて鳥のように空を飛んだそうです……」

 

「はぁ!?空を飛んだですって!?何よそれ!そんなお家流は聞いた事ないわよ!?」

 

「いえ……その鎧がお家流かどうか怪しいですが、本当らしいです……後は炎と雷を鎧に纏ったり、何処からともなく現れた巨大な剣を持って大暴れして鬼を皆殺しにしたと……」

 

「ふーん……今まであまり見向きもしなかったけど、その天人に興味が出てきたわ。良いわ、その男を見定めてやりましょう」

 

鬼、そして全国にその名を轟かせている天人……流牙に興味を持つ景虎。

 

「柘榴は是非とも手合わせをしたいっす!」

 

「待ちなさい柘榴!私もやりたいわ!」

 

「はぁ……全くこの二人は……」

 

戦いが好きな景虎と柘榴に呆れて溜息を吐く秋子だった。

 

この少女たちの興味から出た行動が後に流牙に新たな出会いを果たすのだった。

 

 

 




彼の言葉と温もり、それが魅惑の音色。

芽生えた一つの恋心。

儚き思いが報われ、一つの形となる。

次回『嫁 〜Bride〜』

私達はあなたの側にいたい。



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