牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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二条館攻防戦終幕です。
そして次からはいよいよ越前討ち入り編です。
流牙が度重なる試練にどう立ち向かうか見物です。


『勝 〜Victory〜』

釣竿斎を討滅した流牙は北門の鬼をも全て討滅し、一旦二条館に戻って中に侵入してきた鬼を倒していく。

 

すると、鬼達は少しずつ後退していった。

 

「態勢を整えるためか……?」

 

「兵法の定石だな。立て直した後、再度、攻撃を開始するということだが……」

 

「きっとそうなると思うの……」

 

「でもこのままじゃまずいわ。みんな疲れているし、兵力も足らないから……」

 

「でも考えてもあまり良い案は浮かばないだろう。俺が前に出て鬼達を抑える……手伝ってくれるか?」

 

「当たり前だ。流牙にだけ辛い思いはさせぬ」

 

「鞠も頑張るの!」

 

「私もまだ雷閃胡蝶を出せるわ。久遠達が来るまでもうひと踏ん張りよ!」

 

「ありがとう。よし……やってやろうじゃないか!!守りし者の誇りを見せてやろう!!」

 

流牙の気合の叫びに呼応するように、二条の夜空に八百匹の鬼の猛り切った咆哮が木霊した……その時。

 

「てぇーーーーーーっ!!」

 

「てぇーーーーーーーーーっ!!」

 

どこからともなく聞こえてきた鉄砲の音と同時に、鬼達が次々と倒れ伏していく。

 

「鉄砲!?二方向からだ!」

 

「どこからだっ!?」

 

「ご主人様。正体不明の集団が乱入し、鬼の横腹に向けた一斉射撃をしたようです」

 

小波が瞬時にやってきて情報を伝えてきた。

 

久遠達とは別の二つの軍勢が鉄砲で鬼を討伐していた。

 

そして、双葉の護衛をしていた幽がエーリカと交代して一葉の元にやってきた。

 

一つの軍勢は度々幕府に献上品を届けていた黒田官兵衛と言う者で、もう一つの鉄砲隊の軍勢は八咫烏隊と呼ばれる幼女で構成された鉄砲の傭兵部隊で足利家に雇われている。

 

「おーい幽さーん!八咫烏隊到着だよー!へへー、公方様の危機に駆け付けたんだから、お給料は弾んでくれるよねー!ねー!ねー!」

 

「雀か。やれやれ、相変わらずやかましいことで……」

 

「……烏よ。よく来た。これからと余を守れ」

 

「……(コクッ)」

 

八咫烏隊の隊長と副隊長の姉妹、烏と雀がやって来た。

 

「…………!?」

 

すると言葉を発してない隊長の烏は流牙を見て驚き、少したじろいだ。

 

「……もしかして、二条館で久遠……織田信長を狙撃しようとしてたのは君?」

 

流牙は初めて二条館に来た時、久遠を狙った狙撃手に向けて牙狼剣を構えて怒声を放った。

 

まさかこんな小さな女の子だとは思いもよらず流牙も悪いことをしたなと少し反省する。

 

「話は後じゃ!幽よ!」

 

「はっ。相方仕る」

 

目を合わせ、同じタイミングでニヤリと笑った二人が鬼に向かってゆっくりと歩き出し、二人同時に地面を蹴った。

 

「おっ?」

 

トップスピードで駆け出した二人が鬼の集団へと突入する。

 

「へー。二人は主従の関係だけど相棒みたいな関係でもあるんだな。俺たちも行こう。結菜!鞠!小波!」

 

「ええ!」

 

「うんなの!」

 

「はっ!」

 

流牙も結菜と鞠を連れて行こうとしたその時だった。

 

「そこにおわしまするは、織田上総介様が御夫君、道外流牙様とお見受け致します!」

 

凛々しく現れたのは柔らかな雰囲気の少女だった。

 

「うおっ!?えっ!?君誰!?」

 

行こうと思った矢先に出鼻をくじかれ、初めて見る子に驚く流牙だった。

 

「我が名は小寺官兵衛孝高、通称雫!播州御着より、将軍家並びに織田家への援軍に馳せ参じ候!」

 

「詳しい話は後でするとして、まずは言わせてくれ。官兵衛ちゃん、ありがとう!」

 

「い、いえ!とんでもありません!」

 

「俺たちは前線に行く。兵のことは……おーい、詩乃!後は頼んだ!小波、来てくれるか?」

 

「もちろんです!」

 

ひよ子と走ってきた詩乃に黒田官兵衛……雫の事を頼んで流牙は結菜と鞠と小波を連れて一葉達の後を追う。

 

門を抜けると前後左右から鳴り響く鉄砲の音。

 

その音が夜空に響くたびに鬼がバダバタと倒れ伏していく。

 

流牙達は鉄砲が飛び交う前線で舞うように鬼を狩っていく。

 

「凄いな……莉杏の魔戒銃を思い出すよ」

 

「莉杏は流牙の相棒だったな?銃を使うのか?」

 

「と言っても火縄銃みたいに細長いのじゃなくて掌の大きさぐらいの小型銃だけどね。騎士と法師の連携技を練習してホラーを倒していたよ!」

 

鉄砲の音に莉杏とのホラー狩りの事を思い出しながら鬼狩りをしていくと、流牙の耳に鉄砲の音や鬼の断末魔とは違う『音』が聞こえてきた。

 

「……この音は……」

 

「気づいたか。流石は流牙、噂通りの耳の良さじゃな」

 

「うん!鞠も聞こえてきたの!」

 

「それがしも、それなりには」

 

「この音……まさか!」

 

結菜の顔が笑顔に輝き、その音は遠くから鳴り響いていた。

 

「地を駆ける虎となり、空を見上げよ、山を見よ。夜空を駆ける龍となり、星に、風に聞いてみよ。人の身として天に、地に。人の叫びを受け止めよ」

 

一葉は雅な言葉でこれから訪れるものを表していた。

 

「多くの刀を携えて、この日の本で鬼を斬る。第六天魔の波旬となりし、己の力の足音が!」

 

それは待ち望んでいた軍勢。

 

天下布武を目指し、鬼を討滅し、平和な世を作るため奔走する乙女。

 

その影に流牙と結菜は名を叫んだ。

 

「「久遠!!!」」

 

馬に跨り、愛刀を掲げ、織田の勇者達を引き連れた大将……久遠が鬼を睨みつけながら叫んだ。

 

「武士の衣をかなぐり捨てて、鬼と変じた外道どもが、一体誰に触れようとしているのだ!三好衆ぅぅ!そやつらは我が夫と妻であるぞ!貴様ら外道の小汚い手で我の愛しき者達に触れること、我は許した覚えなし!掛かれ柴田よ!鬼五郎左よ!」

 

「「応っ!」」

 

壬月と麦穂が駆け、

 

「攻めの三左よ!槍の小夜叉よ!」

 

「「応っ!」」

 

桐琴と小夜叉が駆け、

 

「我が頼もしき母衣衆どもよ!」

 

「応!」

 

「はい!」

 

「おー!」

 

和奏と犬子と雛が駆ける。

 

「蹂躙せよ!」

 

織田軍による鬼と化した三好衆への鬼狩りが始まる。

 

「行くぞクソガキ!」

 

「応よ、母ぁ!」

 

「織田の家中が一番槍はぁ!」

 

「悪名高き、森一家ぁ!」

 

「逆らう輩の返り血浴びてぇ!」

 

「槍を朱色に飾り立てーん!」

 

「喧嘩上等、鬼上等!鬼一家ぁ、腐れ三好に目にもの見せてやんぞぉ!」

 

「ひゃっはーーっ!皆殺しだぜぇぇぇーー!」

 

相変わらずの森一家の危ない口上が二条の空に木霊し、血と汗と火薬の匂いに満ちた戦場に、森鶴の丸の旗が翻る。

 

「うわー……すごーい!」

 

「……なんですかアレは」

 

「アレ扱いかよ。気持ちは分かるけど」

 

桐琴と小夜叉の暴れっぷりに苦笑を浮かべる。

 

久遠たちの救援に既に疲れている流牙の体に力が湧いてきて牙狼剣と牙狼刀を構え直しながら結菜に頼み事をする。

 

「ここは派手に暴れてやるか。結菜、もう一度雷閃胡蝶を頼む!」

 

「良いけど、流牙は大丈夫なの?随分無理して戦っていない?」

 

「魔戒騎士は無理をしてなんぼだよ!久遠達が戦っているんだ。男としてカッコ良いところを見せたいんだよ!」

 

「全く見栄っ張りね。良いわ、私の全力を出すから行ってきなさい!」

 

結菜は目を閉じて手を組んで祈るように精神を集中させる。

 

「ああ!」

 

流牙は牙狼剣で頭上に円を描き、本日四度目のガロの鎧を召喚する。

 

魔戒騎士は基本的に一夜でそう何度も鎧を召喚することは殆どない。

 

あるとしたらホラーが普通では考えられないくらい大量にいる場合、もしくは強大な力を持つ伝説のホラーとの戦いの時である。

 

流牙が纏ったガロの鎧はいつもと同じ金色に輝く牙狼・翔だが、牙狼剣を掲げると再び闇の力が溢れ出して一瞬で漆黒の闇を纏う光、牙狼・闇となる。

 

背中にマントの漆黒の翼を生成すると、それに合わせて精神を集中させていた結菜が有りっ丈の力を込めて雷閃胡蝶を放った。

 

「流牙!受け取って!!」

 

「おうっ!!」

 

流牙は漆黒の翼で舞い上がるように空高く飛ぶ。

 

流牙の……ガロの空を飛ぶ姿を見て久遠達が驚く中、流牙は更に驚くべき事を行う。

 

雷の蝶達が流牙を追いかけて静かに舞い上がる中、流牙は気合の咆哮を上げる。

 

「はぁあああ……はあっ!!!」

 

ガロの鎧から翡翠の炎……魔導火が灯され、烈火炎装を発動させる。

 

そこに上がって来た雷の蝶達を流牙の思いに反応し、流牙の全身を包み込むように近づいた。

 

そして、雷の蝶がガロの鎧の中に入り込み、閃迅雷装を発動させた。

 

烈火炎装と閃迅雷装……ガロの鎧にそれぞれ性質や能力が異なる魔界の炎と鬼蝶の雷……二つの力が入り込んだ。

 

二つの性質が異なる力が混ざり合うことで暴発するか、拒絶反応が起きてもおかしくはなかった。

 

しかし、流牙と結菜の思い……そしてこの場にいる大勢の人達の思いがガロの鎧に力を与え、新たな力を呼び起こす。

 

「うぉおおおおおおおおおっ!!!」

 

ガロの鎧が炎と雷を取り込み、一つに合わせて暴発も拒絶も起こらない新たな力を作り出した。

 

炎と雷を同時に纏い、攻撃力と防御力、速力と爆発力……爆発的な四つの力を持つガロの新たな力。

 

その名は……『雷炎天装』。

 

炎と雷を鎧に纏いながら流牙は久遠達に触発されて自分も口上を叫んだ。

 

「闇を切り裂き、人々の夢と未来を守りし者!我が名は道外流牙!!黄金騎士ガロの称号を受け継ぐ者!!!」

 

そして流牙は漆黒の翼を羽ばたかせながら鬼の軍勢に飛び込み、炎と雷を纏わせた牙狼剣と牙狼刀で切り裂いていく。

 

「美しい……」

 

炎と雷が調和して纏ったその姿は夜の闇の中で煌びやかに、色鮮やかに輝いていており、久遠はその美しき姿に見惚れてしまう。

 

闇を焼き尽くす雷炎の鎧に鬼は少し触れるだけで一気に体が燃やされ、蹂躙されている鬼達に更なる恐怖を与える。

 

戦況は流牙のお陰で五分五分以上の戦いとなった。

 

あともう一押しがあれば確実に鬼の軍勢を倒すことができる。

 

そう詩乃達が話していると一葉が名乗りを上げた。

 

「よし……もう一押し。余のお家流を使おう。疲れておるからそこまでの威力は出んが、流牙の助けになろう」

 

一葉は流牙の為にもう一度お家流を使う決意をし、優雅な動作で刀を抜いた。

 

三千大千世界と交信し、力を貸してくれる刀を呼ぼうとしたその時だった。

 

「これは……!?」

 

一葉は今夜の一度目に使った時と同じく数多の刀を呼び出そうとしたが、まるで割り込んだかのように一葉の前に一つの剣が召喚された。

 

それは人が扱うには到底不可能なあまりにも巨大な剣で刃には波のような紋様が刻まれていた。

 

それはただの剣ではなく魔獣を狩るソウルメタルの剣、魔戒剣だった。

 

しかもそれは流牙がかつて敵として対峙した者の魔戒剣……『号殺剣』だった。

 

「夢を追い求めし者の刃……号殺剣!!流牙の……黄金騎士の力となり、鬼を滅せよ!!!」

 

号殺剣は鬼達に向けて飛び、まるでその剣の持ち主が操るように回転切りや勢いよく振り下ろして鬼を討滅していく。

 

号殺剣を召喚した一葉の目には一瞬、鈍色の鋼の鎧に全身を包み込んだ騎士の姿が映った。

 

遥か昔、ホラーのいない世界を夢見た魔戒法師・双竜法師が作り出した人型魔導具……阿号。

 

阿号は長き眠りから目覚め、リュメの法力と古のホラー・デゴルを利用することでホラーのいない世界を実現するため……人類の消滅を目論んでいた。

 

流牙と莉杏と戦い、言葉を交わしたその時にデコルの復活の贄としてその肉体を取り込まれてしまう。

 

流牙は阿号と双竜法師の夢、莉杏の約束を果たす決意を宣言した。

 

心を取り戻した阿号は最後の力で号殺剣を流牙に託し、その力でデコルを討滅した。

 

デコルを討滅すると同時に阿号は眠りにつき、号殺剣も消滅した。

 

しかし、一葉の三千世界で号殺剣が蘇り、再び流牙の力となる為……守りし者として馳せ参じた。

 

「あれは!阿号の剣!?」

 

『驚いたな、本当に魔戒剣を召喚しちまった』

 

号殺剣が鬼を大量にバッサバッサと切り裂いていき、その光景に流牙は目を疑った。

 

「流牙!号殺剣を使え!」

 

号殺剣は流牙の近くまで来ると地面に突き刺さり、小さな輝きを放ちながらこれを使えと流牙に訴えていた。

 

流牙は牙狼剣と牙狼刀を地面に突き刺し、号殺剣の柄を握り締める。

 

「ぐっぅ!うぉおおおおおおおっ!!!」

 

精神力で重さが変わるソウルメタル製の魔戒剣とはいえ、号殺剣は巨大な大剣、操るのは少々難しく全身の力を使いながら持ち上げる。

 

号殺剣から伝わる阿号の魂の欠片と声を流牙は耳にした。

 

『この世界で……我らの夢を叶えろ』

 

それはこの世界を魔獣のいない世界にしてくれと言う阿号の願いだった。

 

「行くぞ、阿号!!」

 

号殺剣に宿る阿号の魂を感じながら空高く飛び、雷炎天装の雷炎を全て号殺剣に纏わせた。

 

「はぁああああああああっ!!!」

 

天高く掲げた号殺剣を振り下ろし、鬼の軍勢の中心に叩きつけた。

 

巨剣の衝撃波と雷炎の爆撃が鬼を一瞬で消滅させる。

 

その一撃はこの戦いを終える最後の輝きとなり、流牙はガロの鎧を解除して魔界に送還した。

 

流牙の体は闇の力と雷炎天装の使用で体中が汗びっしょりで体力もかなり消耗していた。

 

息を切らしながら未だにこの世界に顕現している号殺剣に近づき、刃に触れた。

 

「阿号……この世界の鬼を必ず俺が全て斬る。そして、人々が平和に暮らす世界にしてみせる」

 

流牙の決意の言葉に満足したように号殺剣は霧のように静かに消えていった。

 

二条館を囲んでいた鬼は全て討滅され、夜空に白々とした光が広がっていた。

 

短かったようで、たまらなく長く苦しく感じた戦いがここにようやく終結した。

 

 

 




縁は見えない繋がり。

何よりも固く、何よりも脆い。

縁の数だけ絆が生まれる。

次回『迷 〜Ambivalence〜』

紡いだ縁が彼の心を苦しめる。



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