牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回は流牙のかっこよさや魅力を引き出す回です。
是非とも「EMERGE〜漆黒の翼〜」を聞きながら見て欲しいです。
もし私が女子なら確実に惚れていますね(笑)
次回はいよいよ二条館攻防戦クライマックスです。


『闇 〜Dark〜』

二条館の北門に現れた五百の鬼。

 

その鬼の軍勢に北門を警備していた流牙隊の兵と足軽達は恐れていた。

 

「俺の仲間に……手を出すなぁあああああっ!!!」

 

流牙達が駆けつけ、一番近くにいた鬼を斬る。

 

「鬼は俺と一葉と鞠で三方向に攻める。その後ろに五人ずつ付いて来い!結菜は雷閃胡蝶で援護を頼む!」

 

「では再び鬼狩りに興じようかの」

 

「鞠も頑張っちゃうの!」

 

「ここを食い止めなくちゃね!」

 

流牙達が加勢しに来たことで兵士達の士気が高まり、気合の入った雄叫びと共に鬼を退治していく。

 

しかし、数の違いは圧倒的。

 

そんな圧倒的な差を流牙達は士気の高さでカバーしていく。

 

全滅をするかもしれない悪夢が兵士達の間に過るが、それを振り払うのは流牙の言葉だった。

 

「守りし者は最後の最後まで可能性がある限り、諦めることなく戦い続けることだ!俺はまだ戦える!お前達もまだ戦えるぞ!」

 

流牙の言葉は兵士達の心に火を灯し続ける。

 

そんな流牙の姿に一葉は一瞬だけ見惚れて微笑み、すぐに真剣な表情をして鬼と戦う。

 

そして、流牙が牙狼剣と牙狼刀で次々と鬼を切っていく中、突如一匹の鬼が牙狼刀の一閃を弾き飛ばした。

 

「何!?」

 

『ふむ?この刀が例のものか。なかなかどうして。面白い匂いになっておる。だが……!カッカッカッ!小童の鈍刀に斬られるほど、この釣竿斎、まだもうろくはしておらんわ』

 

「鬼が喋った……?」

 

それは他の鬼と比べて上質な鎧を着ており、纏うオーラも桁違いの赤い鬼だった。

 

『鬼……鬼か。確かに見た目は鬼となったが、人の皮を被っていた頃より、甚だ気分は爽快よ。この釣竿斎宗渭に逆らいし、小童公方の頸を頂きに参ってやったのだ。有り難く思え』

 

釣竿斎……それは三好三人衆の一人、三好政康だった。

 

喋る鬼とは即ち中級以上の力を持った鬼を意味していた。

 

「貴様が……三好三人衆の一人か!!」

 

『いかにも。さぁ義輝よ。その頸を寄越せ。貴様の頸と胴、引きちぎって、公方の生き血を啜ってやろうぞ』

 

釣竿斎は公方が狙いで不気味な舌で唇を舐めていた。

 

「余の血を啜ると?……下賤で穢れた貴様ならば、腹を下すことになるぞ?」

 

『下してみたいものよな。高貴なる者の血を浴びるほど飲んで!』

 

「……口が臭いな。去ね、下郎」

 

『ガハハハッ!この姿に恐れをなしたか、小娘が!剣豪将軍などお持て囃されておっても、所詮は小娘。せいぜい恐怖に震えておればーー』

 

「黙れ」

 

ヒュン!グサッ!!

 

『グオッ!?』

 

釣竿斎の言葉を遮るために流牙は牙狼剣の鞘の仕込み刃を飛ばして体に突き刺した。

 

「それ以上……その穢れた言葉で一葉を侮辱するな」

 

流牙は一葉の庇うように前に立ち、怒気を放ちながら釣竿斎を睨みつけていた。

 

「流牙……」

 

「一葉、ここは俺に任せてくれないか?」

 

「しかし……これは余に売られた喧嘩じゃぞ?」

 

「白百合と約束したからさ。三好の鬼は俺が斬るって。それに……可愛い奥さんを狙う悪漢から守るのは夫の役目だろ?」

 

流牙は顔だけ振り向いて一葉に笑顔を見せながらウィンクをすると、キュンと胸がときめいた一葉は顔を赤く染めて頷くしかなかった。

 

「……仕方ない。ここは夫殿に任せるとしよう。あの穢らわしい鬼から妻である余を守ってくれ」

 

「ああ。夫のかっこいい姿をその目に焼き付けてくれ」

 

一葉は結菜と鞠の元へ下がり、流牙は静かに釣竿斎の元へ向かい牙狼剣を構える。

 

『我を斬るだと?そうか……お前が噂の天人、そして……金色の天狼か』

 

「貴様……どうして鬼の魔薬に手を出した?もう人間には戻れないんだぞ?」

 

『決まっておる!絶大な力が手に入るからだ!丸薬を一つ飲めば誰にも負けぬ強靭な力を手に入る!人からこの異形の姿になってしまったが、そんなことは些細なことだ!この力で公方の生き血を啜ってより高みに上ってくれるわ!!』

 

既に人としての心や尊厳を失っている釣竿斎に流牙は怒気を静めて呟いた。

 

「そうか……貴様はやはり人間の心を失っているんだな」

 

近くにいた鬼を無言で切り裂いていく。

 

「哀れだな。闇の力に魅入られ、そして……闇の力に振り回されているその様は哀れで無様としか言いようがない」

 

『何だと……?我らが哀れで無様だと!?この力はこの国を支配する絶対的な力だ!この力で日の本を我が物とするのだ!!』

 

鬼の力を慢心している釣竿斎に流牙は牙狼剣の切っ先を向けた。

 

「力に溺れ、人の尊厳を捨て、鬼に堕ちた貴様の陰我……この俺が断ち切る!!」

 

魔戒騎士として、守りし者として、そして……黄金騎士として流牙は自ら鬼となった釣竿斎の陰我を断ち切る宣告をする。

 

『ふざけるな!貴様の小さな力に比べたら我らの闇の力は最強だ!!』

 

「だったら見せてやる……お前たちの知らない、光と共にある俺だけの闇の力を!」

 

流牙は牙狼剣で頭上に円を描き、再び魔界からガロの鎧を召喚してその身に纏う。

 

大剣となった牙狼剣から不気味な黒い霧が現れ、それがガロの鎧を包み込むように広がる。

 

すると、近くにいた鬼が隙ありと言わんばかりに無謀にも流牙に襲いかかった。

 

流牙は落ち着きながらカウンターの拳を鬼に喰らわせて殴り飛ばし、金色の輝きを放つガロの鎧が黒い霧を吞み込み、その輝きを静めた。

 

徐々に金色の輝きが無くなり、最後には頭部の狼の兜、そして胸部と腕部の鎧以外……全ての金色の鎧が漆黒に染まる。

 

それは闇を照らす金色の光が相反する漆黒の闇を纏う驚くべき姿となった。

 

「ガロが闇を纏っただと……?」

 

「キラキラしていた鎧が真っ黒なの……」

 

「まさかこれが流牙が前に言っていた、もう一つの力……?」

 

一葉達は流牙が見せてきた金色の輝きを放つガロが漆黒の闇を纏う姿になり、呆然としていた。

 

それは歴代の黄金騎士でも成しえなかった流牙だけの奇跡の力。

 

心の闇を受け入れ、闇を纏う希望の光。

 

その名は『牙狼・闇』。

 

『ば、馬鹿な!それはこの身に宿る鬼と同じ闇の力!闇を纏っていて、何故人でいられる!?何故心が壊れない!?』

 

闇の力を纏うガロの姿に鬼は目を疑い、驚愕して声が震える。

 

鬼の力とガロの纏う闇の力……性質は異なるがどちらも悪しき力であることには変わりない。

 

しかし、闇の力を纏いながらも心は正常で肉体は人間という事に釣竿斎は信じられないと言った様子だった。

 

「俺は闇の中で知り、受け入れた。弱さを含めて、俺自身であると!」

 

ラダンを巡る戦いの中で闇に堕ち、ホラーとなった魔戒法師・アミリの罠により流牙は魔鏡の中に閉じ込められた。

 

そこに流牙がかつて自分が切った友……羅号にも似た姿をした闇の魔獣と戦い、絶望に追いやられて心が折れかけた。

 

しかし、魔鏡の中に届いた莉杏の声に心の光を取り戻し、己の弱さを受け入れ、心の強さを取り戻した。

 

流牙の決意を汲み取り、闇の魔獣は自らの闇の力を授けた。

 

それにより本来なら光と相反する存在である闇の力を手に入れ、操ることが出来るようになった。

 

それが漆黒の闇を纏いし希望……『牙狼・闇』。

 

「人の心には光がある。『希望』という強い心だ!心の闇はその光で、自分を思ってくれる誰かの光で、打ち消す事ができる!!」

 

『そんなちっぽけな光で闇を操ることが出来ただと!?』

 

「ちっぽけじゃない!人は己の弱さを受け入れる事で強くなれる……人には、無限の可能性があるんだ。お前たちは自分の弱さと可能性を否定して鬼の力を頼った。そんな奴らに俺たちを決して滅ぼすことは出来ない!!」

 

『くっ!所詮そんな力はまやかしに過ぎん!懸かれ!公方の前にまずはあの男を八つ裂きにするのだ!!』

 

釣竿斎の命令に鬼達は一斉に流牙に襲い掛かる。

 

一葉達が加勢しようとしたが、ガロに宿った闇の力が背中から放出され、闇の粒子が固まっていく。

 

「ふんっ!」

 

そして、流牙がジャンプすると牙狼の鎧に大きな漆黒の翼が出現し、鬼を吹き飛ばした。

 

『な、何ぃっ!?』

 

「「「と、飛んだ!?」」」

 

牙狼の鎧に本来は存在しない蝙蝠のような形をしたマントのような大きな漆黒の翼が現れ、流牙は宙に浮いた。

 

牙狼・闇はただ闇を纏っただけの姿ではない。

 

闇の力で闇を討ち、闇の力で生成された漆黒の翼で空を自由自在に飛ぶことができる。

 

月をバックに漆黒の翼を広げ、流牙はジンガに初めてこの力を披露した時と同じ台詞を言う。

 

「光に照らせぬ、闇などない!!!」

 

漆黒の翼を得て飛翔する事で天を翔ける鷹のように滑空して鬼の大群に飛び込む。

 

そして、徐々に上がるスピードに乗りながら牙狼剣で次々と鬼を切り裂く。

 

毒を以て毒を制するかの如く、闇の力を宿した牙狼剣は同じ闇の存在である鬼にも絶大な威力を発揮している。

 

あっという間に数百の大量の鬼を討滅し、呆然としている釣竿斎の間合いに入ると、流牙の牙狼剣と釣竿斎の鬼の爪が激しく激突して火花が散る。

 

「はあっ!!!」

 

そして、鬼の爪を切り裂き、武器を失った釣竿斎の胸に流牙は牙狼剣を突き刺した。

 

『な、何故だ……それほどの力がありながら、何故人間を守ろうとする……!?』

 

何故人間を守るのか……その問いの答えは守りし者である流牙は既に持っていた。

 

「人間には守るに値する『光』があるからだ!」

 

流牙は牙狼剣を釣竿斎から勢いよく引き抜き、釣竿斎の胸から大量の血が流れ出し、その体が消滅していく。

 

『貴様は……貴様は一体、何者なのだ!?』

 

絶命寸前の釣竿斎が最後に投げかけたその問いに流牙は古の時代から受け継がれてきた『その名』を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は牙狼!!黄金騎士だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望の名を宣言し、牙狼剣を鞘に収め、鍔鳴りを響かせた。

 

威風堂々にして神々しい黄金に輝く天狼の姿を目にした釣竿斎はそれを最後に爆散し、消滅した。

 

そして、ガロの鎧を解いて一葉達の元に戻ると闇を纏った者とは思えない、いつもの……みんなが大好きな流牙の優しい笑顔を見せる。

 

「みんな、ただいま」

 

「流牙よ、あれがお主の隠し玉か?凄いではないか!」

 

「凄かったの!ビューン!って飛んで、まるで鳥さんみたいだった!」

 

「凄かったけど、まさかガロの鎧が漆黒に染まるとは予想外だわ。でも……流牙らしいわね。己の弱さを知り、力に溺れることなく闇を操るなんて」

 

一葉達は闇を纏い、空を翔ける牙狼・闇に興奮しながら流牙に駆け寄る。

 

「この力を使える直前は絶望しかけて、かなり危なかったけどね。それよりも、ここの鬼は片付けた。他の場所に出た鬼を片付けよう!」

 

「うむ!」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

三好の鬼の襲撃を幾度も防いできた流牙達。

 

二条館攻防戦はいよいよ最終局面に突入する。

 

 

 




闇との戦いは終幕へ近づく。

第六天魔の乙女の怒声が響き、勇者達の刃が轟く。

そして、天狼は新たな輝きを煌めかせる。

次回『勝 〜Victory〜』

これが新たな時代への第一歩となる。



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