ラストのところは流牙の鎧召喚のBGMを流しながら書いていました。
戦国恋姫は地道にやってますが、やはり面白いです。
久遠と結菜の二人がトップですが、他のキャラも魅力的で個別の話もいい感じで楽しんでます。
早く色々なキャラを登場させて流牙と絡ませたいです。
まず目標はツンツンな結菜をデレデレにさせたいです笑
流牙はパチッと目を覚まし、布団から起き上がると体を伸ばしたりした。
「よく寝たなぁ……もう夜か。ん……?」
隣の部屋に四人の気配があり、常人よりも強い聴力を持つ流牙は耳を澄まして聞いた。
内容は正体不明の流牙を久遠の夫にする話であり、久遠と帰蝶、更には久遠の家臣である二人……壬月と麦穂が話していた。
そして、寝込んでいる流牙を襲いかかり、実力を図ろうとしている。
流牙はそっと布団から出て部屋の奥に立ち、相手からのタイミングを見計らいながら右手の拳を作る。
「麦穂。私が合図したら、襖を開け放ってくれ、抜き打ちをかける」
「了解です。では......」
「……三、二、一……今だ!!」
奥の扉の襖が開かれ、二人同時に布団に向かって刀を振り下ろすがそれよりも早く流牙が動いた。
「はぁっ!」
流牙は軽く飛んでから全体重を乗せた拳を床に叩きつけて衝撃波を放った。
「「なっ!?」」
その衝撃波により、襲いかかってきた二人は驚き、それと同時に流牙が使った布団が宙に浮かんだ。
「はっ!!」
流牙は一瞬の隙を突き、おっとりとした感じの女……麦穂の手にある刀を手刀で叩き落とした。
そして、宙に浮かんだ布団を麦穂に巻きつかせ、あっという間に簀巻きに似た状態にしてそのまま組倒す。
「きゃっ!?」
「麦穂!?」
「悪いけど布団に巻かれてもらうよ。あまり怪我をさせたくないし」
布団に巻かれ、男である流牙の力で組み倒され、麦穂は動くことが出来なかった。
「はっはっは!やるな、流牙!」
「やるなじゃないよ……」
「それにしても、今の一連の動きは素晴らしかったぞ!布団を吹き飛ばし、麦穂を布団で巻いて組み倒すとはな!」
「貴様ぁ!どこの草だ!!」
麦穂と対照的に赤い髪をして怒りを露わにしている女……壬月の言葉に流牙は首を傾げた。
「草……?草って何?」
「草とは忍、つまり忍者の事だ」
「あ、そういう事?俺は忍者じゃないよ」
「身のこなしもよく、機転も利く。草の真似事をしながら、その体捌きは武士の組討術そのもの。どうだ壬月、麦穂、結菜!なかなかの武者振りではないか!我の目に狂いは無かったであろう!よし流牙、お前に危害は加えさせん。麦穂を離してやれ」
「分かった。ごめんね、お姉さん。痛かった?」
「い、いえ。大丈夫です……」
流牙は麦穂を布団から解放してその手を握って立ち上がらせると何故か麦穂は頬を赤く染めていた。
「よし!これで流牙は私の夫として認めて……」
久遠はこの場にいる三人に流牙の実力から認めさせようとしたが、流牙は申し訳なさそうに両手を合わせて言う。
「あー、織田さん。その話なんだけど……」
「ん?どうした?」
「俺、君の夫になるのを辞退するよ」
その言葉に久遠達に沈黙が走った。
「なっ……何ぃっ!!?」
久遠は目を見開き、口を大きく開けて驚いていた。
帰蝶達も耳を疑って同様に驚いていた。
「本当は早く言おうと思ったけど、仕事で行っちゃったから言えなくて。それにちゃんと感謝の気持ちを伝えたくてね」
流牙は本当に申し訳なさそうに言い、庭に出ると魔法衣の内側から一枚の赤い札を取り出して上空に投げると札が弾け飛び、色取り取りの無数の花弁が現れて舞い散る。
月が輝く夜に舞い散る花弁は風情があり、初めて見る光景に久遠達は目を見開いた。
「これは……!?」
「綺麗……」
「何と……!?」
「月夜に舞う花弁……」
これは想い人に気持ちを伝える法術、安穏の儀。
ボルシティで建てた流牙の母の墓に莉杏が使った法術で、流牙はあらかじめ莉杏に頼み、いつかまた母の墓参りに向かった時のために安穏の儀の法術を札に込めてもらっていた。
色取り取りに舞う花弁に久遠達は見惚れてしまう。
「お金とかないけど、これが俺に出来る最大限の感謝の気持ち。織田さん、助けてくれてありがとう!帰蝶さん、ご飯美味しかった!」
お金や贈り物が出来ない流牙は安穏の儀で久遠達に感謝の気持ちを伝えた。
「それじゃあお元気で、じゃあねーっ!!」
そう言って流牙は元気よく手を振りながら走ってその場を後にし、屋敷の門へ向かった。
未だにゆっくりと舞い落ちる花弁とささっと立ち去った流牙に呆然とする一同。
「……はっ!?り、流牙を逃がしてたまるかぁっ!追えっ!今すぐ追いかけて捕まえるのだ!!」
いち早く正気に戻った久遠はこのまま流牙を逃すわけにはいかず、捕らえるよう命令する。
「し、しかし、せっかく出て行ってくれたのに……」
「そ、そうよ!こんな感謝の気持ちを表してくれて出て行く人を追いかけるのは……」
流牙を疑って反対していた壬月と帰蝶はこのまま流牙を帰らせようとしていたが久遠は首を激しく左右に振った。
「ええい!このまま黙って行かせる訳にはいかない!私の誇りにも傷が付く!私も行くから早く行け!!」
「壬月様……ひとまず行きましょう……」
「殿の命とならば仕方ないか……」
もはやワガママとしか言いようのない久遠の命令に麦穂と壬月は呆れ顔でため息をつき、流牙の後を追いかける久遠の後について行く。
「えっと、出口はこっちだな……さて、とりあえずは適当な場所で野宿を……」
「待てぇえええええっ!!!」
「えっ?」
振り向くと久遠と壬月と麦穂が走って近づいて来た。
「ええっ!?お、織田さん!?何で!?」
「いいから待たんか流牙ぁっ!!」
流牙は何故自分を追いかけてきているのか分からないが、このままだとなんかヤバイと察して自分も走って逃走する。
「ねえ、どうして追いかけられてるの!?ちゃんと断ったよね!?ちゃんと感謝の気持ちを表したよね!?」
『知らん。お前の態度にあの嬢ちゃんの気に障ったんじゃないのか?』
「逃がさんぞ、このうつけめぇ!!」
鬼気迫る表情で走ってくる久遠に流牙は恐怖を感じ、捕まらないように全力疾走をして屋敷を出て町に入る。
「ひぃいいいいいっ!?こ、怖っ!?今まで出会った女の子の中で一番怖いよ!」
「流牙ぁあああああっ!!!」
「うぉおおおおおっ!!?」
流牙は全力疾走で走り、久遠達との距離を離しながらジャンプし、城下町の建物の屋根に登り、姿を晦ました。
「はぁはぁ……こんなに人に追いかけられたのってボルシティのSG1の時以来だよ……」
未だに木霊して聞こえる久遠の自分を呼ぶ声に少々ビビりながら夜空を見上げる。
チリーン……!
ザルバから鈴の音が鳴り、流牙はカバーを開いた。
『ははははは!モテモテだな、流牙』
「からかうなよザルバ……さてどうするか、ひとまずこの国から出ないと」
『それもそうだが、これからの方針を考えないといけないな……ん?流牙』
「どうした?」
『血の匂いだ。それに、邪悪な力を感じる』
「ホラーか!?ホラーはいないはずじゃ……」
『いや、ホラーとはまた違う気配だ。ここから近い……流牙!』
「ああ!行こう!」
流牙はザルバの案内でできるだけ音を立てないように走り、邪悪な力のある気配の元へ向かった。
そして、暗闇で行動することが多い流牙はすぐに目が慣れると邪悪な力の正体に目を疑う。
「ザルバ……あれはホラーじゃないんだよな?」
『ああ……だが、あんな化け物は初めて見たぞ。おい、奴らの喰っているものをよく見てみろ!』
ザルバに言われ、目を凝らして見ると化け物は人と思われるものの血肉を食べていた。
「人を、喰っているのか……!?」
流牙はホラーとは異なり、文字通り人の血肉を食べ物として音を立てながら喰っている謎の化け物に対し、怒りが込み上げてきた。
すると化け物は流牙の気配に気付き、口から血を垂らしながら振り向くとその邪悪な存在に流牙は声を荒げた。
「貴様は……貴様は何なんだぁあああああーっ!!!」
流牙は怒りを爆発させると同時に魔法衣の内側から牙狼剣を取り出して鞘から抜き、化け物に切り掛かる。
「うぉおおおおおーっ!!!」
大きな爪を用いた攻撃を流牙は体を捻ったりジャンプをしたりして回避する。
また牙狼剣で爪を捌きながら隙を伺い、化け物の体を切っていく。
牙狼剣の刃は化け物の体を次々と切り裂いていき、大きな傷を作っていく。
一方、流牙の戦いを影から見る者達がいた。
「強い……!服の上からでも分かる体の作りや先程の見事な動きで只者ではないと思っていたがここまでとは……!」
「ええ。『鬼』に対して一歩も引かず、あそこまで戦うとは……」
「それに彼の持つあの獲物は相当な切れ味を持つ業物ですね……」
流牙を追いかけていた久遠と壬月と麦穂の三人は剣と爪がぶつかり合う音を聞きつけてきた。
三人は流牙を見極めるために影から見ていたのだが、その見事な戦いっぷりに感心していた。
『素体より少し固いぐらいだな。流牙、行くのか?』
「ああ、切り裂いてやるよ……!!」
ホラーとは異なる存在だが、人々の幸せと未来を奪う邪悪な存在は守りし者である流牙の憎むべき敵だった。
覚悟を決めた流牙は牙狼剣を一旦鞘に納め、力を込めるように体の左側へ垂直に立てると一気に鞘から引き抜いて天に向けて高く掲げた。
掲げた牙狼剣で頭上に円を描くと、空間を切り裂くような光の輪が浮かび上がる。
光の輪の内側がひび割れたような模様を描くと、太陽のような光が降り注がれて流牙の体を包み込んだ。
暗い闇夜に輝く眩き光に久遠達は一瞬目を閉じてしまう程だった。
剣を下ろした流牙に円の中から複数の光の塊が舞い降りる。
一秒にも満たない短い時間の間に光の塊は両足、胴体、両腕、そして最後に頭部へと流牙の体全体に装着される。
それは眩き光を放つ黄金に輝く鎧だった。
しかし、それは久遠達の知る鎧とは大きくかけ離れた形をしていた。
全身を全て包み込む鎧は隙間が殆どないほどに密着され、無数の部品が重なり合ったような作りとなっていた。
鎧の細部にまで施された紋様は美しく、その鎧が一つの芸術品のように見事なものだった。
黄金に輝く鎧から光の粒子が溢れ、まるで闇夜を照らす朝日を彷彿とさせるような輝きを放っていた。
鎧の中で一番印象に残るのは狼を模した兜でその瞳は橙色に輝いており、化け物を射殺すような気を放っていた。
細身の直剣だった牙狼剣は幅広い大剣へと変化し、それを納める赤い鞘も大きくなり、鎧と同じ金色のものとなっていた。
流牙が右足を一歩前に踏み出すと背後に炎と金色の文字が彩る紋章が大輪の花の如く広がり、堂々たる騎士の姿を現していた。
その神々しい姿を目の当たりにした化け物達は無意識に恐れ、確実に近づく死を察して震えていた。
そして、対する久遠達は恐れよりもまるで神に対峙したかのように畏怖と尊敬が混ざり合った気持ちだった。
金色に輝く鎧と剣……道外流牙が受け継いだ、魔戒騎士中最高位にして伝説と崇められた最強の称号。
旧魔戒語で『希望』を意味する名。
人々の希望と願いを守り、闇を照らす光。
そして、鎧に溜まった邪気を浄化され、新たな姿へと形を変えたその名は『牙狼・翔』。
今、戦国の世に闇を照らす希望の光が降臨した。
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戦いの火蓋は切られた。
人を守る為に、魔を斬る為に。
少女との出会いが彼に新たな運命を動かした。
次回『試 〜Test〜』
戦う為に、生きる為に、彼の力が試される。
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