普通で見るのとは違った楽しみ方が増えて満足です。
さて、今回はタイトルから原作とは違った展開になっていきますので楽しんでいただけたら幸いです。
久遠達は上洛のためにまず観音寺城に向かった。
久遠の方針で流牙隊は試験的に鉄砲特化の部隊となり、大量の火縄銃が支給された。
流牙はいつものように戦には関与せず、隊をひよ子達に任せ、護衛でいつも一緒にいることになった鞠と一緒に陣の近くで待機していた。
「久遠、一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「どうして結菜がここにいるの……?」
流牙の視線の先には暇があればいつも眠たそうにしている鞠が木陰で腰を下ろしている結菜の膝枕でスヤスヤと眠っていた。
端から見れば姉と妹のような微笑ましい光景だが、本来なら美濃の屋敷にいるはずの結菜が一緒に出陣していることに流牙は疑問に思っていた。
「結菜はお前のお目付役として一緒に来たのだ」
「お、俺のお目付役???」
「貴様は自分の身などを考えずに無茶ばかりをするからな。結菜が流牙の側にいたいとお願いしてきたのだ」
一瞬流牙の頭に莉杏の顔が浮かんだがそれは口に出さないでおくことにした。
「気持ちは嬉しいけど、大丈夫かな?何が起きるか分からないし……」
「その時はお前が守ればいい話だ。それにまだお前には見せてはいないが、結菜には見事なお家流があるからな」
「そうなんだ。分かったよ、結菜は何があっても守るよ」
結菜に何を言っても一度決めたことは聞かないことを知っている流牙は半端諦めた形で了承した。
「ああ、頼むぞ」
結菜はこれから流牙と共に行くことなり、久遠と更にもう一つの約束を交わした。
その後、鞠は目を覚まして流牙の側にいてその隣に結菜もいるようになった。
久遠と詩乃を中心に軍議が始まろうとしていた頃に松平衆の葵達が来て久遠から指示を聞こうとしていた。
久遠達の話をあまり聞いていない流牙に葵はふと久遠から聞いた話を思い出した。
「話には聞いていましたが、流牙殿は戦には参加しないで人を斬らず、鬼だけを斬るのでしたね」
「魔戒騎士って言って、古の時代から人々を魔獣から守る存在だ」
「なるほど、自分の血が穢れているから同じ穢れた存在を相手に戦うのですね!」
流牙を警戒し、更には気に入っていない悠季は皮肉を込めた酷い言葉を言い放った。
「穢れた血だと……?」
流牙はピクッと体を震わせて悠季を睨みつけた。
皮肉屋の悠季の言葉は今まで笑ってスルーしてきたが、今回ばかりは聞き捨てならなかった。
流牙自身のことは別に構わなかったが、穢れた血と言う言葉は流牙だけでなく自分を産んでくれた母、波奏も侮辱されている事と同じだった。
自分を深く愛し、幼き日の約束を果たすために命をかけ、己の目の光を与えてくれた母を侮辱され、流牙は怒りで我を忘れて拳を握りしめた。
しかし、流牙の前に怒気をまとった一つの影が割り込んだ。
「あなた……歯ぁ食いしばりなさい」
スパァーン!!!
『『『…………えっ???』』』
派手で小気味のいい音が鳴り、突然の事態に流牙や久遠を含む一同が呆然としていた。
「…………痛ぁ〜っ!?ゆ、結菜様!何をするんですか!?」
悠季は左頬にできた大きな紅葉に涙目になりながら結菜を見る……そう、今の派手な音は結菜が悠季の頬を思いっきり叩いた音だった。
「あなた……今まで何度も流牙に酷いことを言ってきたわね。流牙が気にしてなさそうだから黙っていたけど、流牙のお母様を侮辱した事だけは絶対に許さない……」
結菜は今まで見たことないほどに憤怒し、誰もが恐れる怒りの形相を浮かべていた。
「私は流牙のお母様、波奏様には会ったことがない。だけど、流牙を想う深い愛情、敵に捕まりながらも流牙との約束を果たす為に十五年も耐え続けた不屈の精神、そして……己の目を犠牲にしてでも流牙の目を直した自己犠牲……私は波奏様の事を尊敬していつかそんな母になりたいと思っている。それをあなたは軽々しく波奏様と流牙の親子を穢れた血と言って侮辱した!!」
流牙や久遠から波奏の話を聞き、尊敬の念を持った結菜は波奏みたいな母になりたいと思っていた。
だからこそ人を傷つけられない流牙の代わりに悠季を思いっきり引っ叩いた。
「もう二度とそのふざけた口が開かないようにしてあげましょうか……?」
完全にプツンと切れている結菜の周りに青白い電光が轟き、それが形をなして無数の雷の蝶へと姿を変えた。
「な、何だあれ……!?雷の蝶……!?」
おもむろに流牙はザルバのカバーを開くと、目の前で優雅に舞う雷の蝶に驚いていた。
『何だこいつは?おい、久遠のお嬢ちゃん。どういう事だ?』
「……結菜のもう一つの名前、帰蝶を知っておるな?実は結菜にはお家流から更にもう一つの名前で呼ばれている」
「もう一つの名前?」
「『雷閃胡蝶』。雷の蝶を作り、敵の近くに飛ぶと爆発するお家流だ。結菜はこのお家流から鬼の蝶……『鬼蝶』と呼ばれておるのだ」
結菜の異名に流牙は驚きを隠せないで雷閃胡蝶を凝視する。
「き、鬼蝶……?」
『なるほどな、確かに今のお嬢ちゃんは鬼のように恐ろしいな』
「聞こえているわよ、ザルバ!後でお仕置きで雷閃胡蝶を喰らわせるわよ!」
『な、何ぃっ!?』
結菜にちゃっかり聞こえ、後でお仕置きが決まったザルバは衝撃を受ける。
「だ、誰かお助けください!!」
口は災いの元と言わんばかりに絶体絶命の危機に陥っている悠季だが、ブチ切れている結菜の前に久遠達は後ずさりする。
「無理だ。鬼蝶となった結菜を止める事は我でも出来ん」
「結菜……怖いの……」
結菜の夫の久遠はこうなったら止められないと諦めて首を左右に振り、結菜に懐いていた鞠はその恐ろしさに流牙にしがみついていた。
「悠季……助けてあげたいけど、今までの行いが自分に返って来たのよ……」
「自業自得です!さんざん流牙様を侮辱してきた罰が降りかかったんです!」
「そうですね……流石に死なないと思いますから大丈夫ですよ」
主君の葵、同志の綾那と歌夜にも見捨てられ、悠季は絶体絶命の危機へと陥る。
「死なない程度にやるから安心しなさい……喰らいなさい、雷閃胡蝶!」
「ひぃいいいいいっ!?」
雷の蝶が一斉に舞い飛び、戦う力を持たず動けない悠季は尻もちをついていた。
結菜は殺さない程度に放ったが、流石に見過ごすことは出来なかった。
「ああもう!仕方ないな!!」
流牙は鞠を引き離し、牙狼剣を取り出して円を描き、牙狼の鎧を纏って悠季の前に降り立った。
そして、結菜の雷閃胡蝶が流牙とガロの鎧に爆雷が襲いかかる。
「ぐぁあああああっ!?」
「流牙!?」
結菜はまさか流牙が来るとは思わず、慌てて雷閃胡蝶を操作するが一度出した雷の蝶は消すことは出来ない。
上に舞い上がらせて消滅させるが、流牙の側にいて次々と爆発している蝶は消すことが出来ず、爆雷が流牙とガロの鎧に容赦なく襲いかかり続ける。
「くっ、うぉおおおおおっ!!!」
体中に轟く雷撃を流牙は牙狼剣を掲げ、流牙の意思に応えたガロの鎧が結菜の放った全ての雷閃胡蝶を牙狼剣に収束させた。
「私の雷閃胡蝶が牙狼剣に……!?」
結菜が驚く中、流牙は膨大な雷を帯電した牙狼剣を手に陣から飛び出し、被害を出さないよう開けた場所の空に向かって振るった。
「おおおおおーっ!!!」
全力で振り下ろし、牙狼剣に帯電した全ての雷撃を解き放つと、かつて電気を操るホラー・ゼラーザの時と同じ、牙狼剣から金色の狼を模した雷の斬撃が空を駆け抜けた。
「くっ、はっ、はっ……」
流牙はガロの鎧を解除すると精神力をかなり使ったのでその場で膝をついて休む。
「流牙!大丈夫!?」
「ああ……ちょっとビリリって来たけど大丈夫だ」
「ごめんなさい……私は……」
「結菜が謝ることないよ。あと少しで俺も怒りで我を失いそうになったからさ。代わりに悠季を叩いてくれてありがとう。それにしても、まさか結菜がそこまで母さんを尊敬していたなんてね」
「……久遠からあなたの過去を少し聞いたのよ。流牙と波奏様、親子の強い絆に感動したからよ」
「……そうか。母さんもきっと喜んでるし、結菜ならきっと素敵な母親になれるよ」
「ありがとう、流牙」
ひとまず流牙と結菜は陣に戻ると悠季を助けたことに葵は大変感謝し、悠季も一応流牙に謝った。
ちなみに終始、結菜の貫くような視線が悠季に向けられていた……。
そして、久遠の口からとんでもない情報が伝えられた。
「流牙よ……先ほど放ったあの狼の雷で観音寺城にいる者達は驚いて混乱しているという情報が入った……」
それは先程流牙が牙狼剣に雷の力を収束して放った狼の形をした雷の斬撃が運悪く観音寺城の上空へ飛び、そして数多の落雷が降り注いでしまった。
晴天の青空にいきなり空の果てから狼の雷が現れて落雷が降り注いだのだ、観音寺城にいたもの達は雷神か仏の裁きが降ったのだと勘違いをしてしまった。
そのせいで観音寺城の敵兵達は大混乱し、その隙をついて織田軍が一気に攻め立てていく。
「し、しまった……雷を操るのに集中していたから間違えて観音寺城に放っちゃった……」
「大丈夫かしら……ちょうどお城の上で爆発したから誰かに当たらなければいいけど」
結菜の心配そうな言葉に流牙は何かを決心するとばっと立ち上がって久遠を見る。
「久遠、ちょっと観音寺城に進入してくる。今の雷撃で誰か傷ついていないか確認してくる」
「流牙様!?何を言っているのですか!」
「うむ、行ってこい」
「久遠様!?」
「心配するな、葵。流牙はどんな城でもあっさり進入できるからな」
「鞠も行くの!」
「えっ!?鞠、付いてくるの!?」
「鞠、流牙の護衛だからいつも一緒なの!」
「うーん……。鞠の剣の実力は知ってるし、別に危ない事をするわけじゃないからな。よし、行こうか」
「お待ちください!鞠さまっ!例え領国を追われてるとはいえ、今川家棟梁であらせられる鞠さまが、危ないことをしてはいけません!!」
「そう言われても、鞠は行く気マンマンだよ?」
「うん!鞠、流牙の護衛だからいつも一緒にいるの!」
鞠は流牙に抱きつき、流牙は愛くるしい妹分の頭を撫で撫でする。
「……ならば、私の配下の同行をお認め下さるのならば、鞠さまのご同行については、口出すことを我慢しましょう」
「配下?」
「はい。小波、おいでなさい」
「お側に」
葵の背後に音も気配もなく、現れた銀色の髪の毛に口元をマフラーで隠した、いわゆる忍者のような少女に流牙は感心したようにうなずいた。
「へぇ、ずっと気配を殺していたのは君だったのか」
「流牙様、万が一の為に、この者をお連れください。小波、名乗りなさい」
「……松平衆・伊賀同心筆頭。服部半蔵正成。通称は小波と申します。よしなに……」
「小波か。俺は道外流牙、よろしくな」
流牙はチラッと悠季を見るとニヤリと笑っていた。
恐らく悠季は織田家や流牙の内情を調べるために小波を埋伏しておきたいのだろう。
といっても流牙自身は別に調べられて困ることはないからあまり気にしない。
「小波は流牙隊の一員としてお預けします。鞠様の護衛はもちろんのこと、流牙様の護衛や任務の手助けなどに使ってくださいませ」
「何でしたら夜伽をさせても構いませんよ〜。ついでに孕ませちゃったりしても問題ございません。ああ、お気遣いなく!天人の子だねは松平が誠心誠意、育ててさせて頂きますから!」
懲りずに誰が聞いても愚かな事を口にする悠季だった。
悠季の戯言に流牙とザルバは呆れた様子で呟く。
「……ごめん、悠季が何を言ってるのか全然意味が分からないんだけど」
『流牙、このお嬢ちゃんは馬鹿か?』
「なっ!?ば、馬鹿とは何ですか!」
『じゃあ馬鹿じゃなかったら阿呆か?』
「そうよ!流牙の赤ちゃんを産むのは私と久遠なんだからそんなことは許さないわ!」
「ゆ、結菜ぁ!?」
まだ未来の織田家当主と黄金騎士を諦めていなかった結菜の爆弾発言に久遠は顔を真っ赤にした。
「結菜……その話は後にしようね。行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
流牙は頭痛を耐えながら鞠と小波と一緒に陣を離れ、小波に話しかける。
「さっきの悠季の言葉は気にしなくていいからな。君は俺たちの仲間だ、よろしくな」
「はい。よろしくお願いします、流牙様」
「ああ。ところで、小波はどんなことができるんだ?」
「……服部家お家流。句伝無量。遠くの離れている者と会話が出来ます」
「本当か?それは凄いな……俺とも会話出来るのか?」
「可能です」
「それなら一つお願いしてもいいかな?」
「畏まりました。では失礼します」
そう言うと小波は下腹部へと手を伸ばした。
「へ?」
「んっ」
プツンと音が聞こえたと同時に、小波がもそもそと何かを取り出した。
「えっと、それは?」
取り出したものに指差して尋ねる。
「自分の陰毛です」
「…………はぁ!!?」
あまりにも衝撃的過ぎて流牙は酷く驚いて耳を疑った。
その最中に小波が陰毛を持っていたお守りに入れていた。
「これを肌身離さず持っておいてください。さすればいつでも自分の声がご主人様に届きます」
「そ、そうなんだ……ありがとう」
お守りを受け取り、ひとまずポケットに入れながら流牙はザルバに尋ねた。
「……なあ、ザルバ」
『お前の聞きたいことは分かってる。魔戒法師の法術にそういうのは使わないから安心しろ。使うとしたら血か髪の毛ぐらいだ。髪の毛は比較的他人でも取りやすいから下の毛だろう……』
「そうか……と、とにかく、行くとするか。小波、足の速さに自信は?」
「幼き日より鍛えていますので問題ありません」
「分かった。鞠、ちょっといいか?」
「ん?なーに?」
「これから観音寺城に行くんだけど、鞠はまだ俺たちと同じくらいに速く走れないから俺がおぶってくよ」
「流牙が連れて行ってくれるの?」
「ああ。だからその前に鞠の刀を預からせてくれないか。おぶるときにちょっと邪魔になるから」
「うん!はいどうぞ!」
「ありがとう」
流牙は鞠から受け取った小さな背丈ほどに大きな刀を魔法衣の中にしまう。
「……流牙様、不思議な衣をお持ちですね」
「剣をいつでもとり出せるし何でも入るの?」
「ああ。他にも機能はあるけど、この魔法衣の内側には何でもしまえるよ。ただ、生き物は入ったら危ないから。よし、鞠。早速俺の背中に乗ってくれ」
「うん!」
流牙は鞠を背中に乗せ、首に腕を巻いてしっかりと掴ませる。
「よし……行くぞ!」
気合を入れた流牙は鞠を背負いながら全力疾走で観音寺城へ向かった。
「っ!?速い……!」
流牙の走る速度の速さに驚きながらも小波も何とか後を追う。
幼い頃から武士とはいえ忍者と同じ訓練を受けてきた小波は脚力など足の速さに自信が有った。
しかし、それを軽く凌駕する流牙の身体能力に驚きを隠さないでいた。
「わははー!流牙、速いのー!」
ちなみに鞠は流牙の馬より速い走りにはしゃいでいるのだった。
たった数分で観音寺城の裏の森に到着し、流牙は僅かに乱れた呼吸を整えて鞠を下すと魔法衣から矢と紐を取り出した。
それで何をするのかと見守っていた小波を流牙は気にせずに矢の矢尻を紐で強く縛り、反対側の紐の端を丈夫な木にしっかりと縛り付けて矢を持つ。
「はあっ!!」
そして、矢を思いっきり投げ飛ばすと弓を使ってもないのに城壁に思いっきり突き刺さった。
「よし、成功!」
「流牙凄いの!」
「…………は?」
強力な弦を張った弓を使うならまだしも腕の力だけでしっかりと作られた城壁に矢を刺したことに小波は呆然とした。
「よし、最上部までの縄の道を作った。鞠、ここから一気に登るぞ」
「……はっ!?おっ、おっ、お待ちください!ご主人様!」
「え?どうしたの、小波?」
あまり声を荒げない小波だったが流牙のとんでもない発言に黙っていられなかった。
「いくらなんでも綱渡りで城の最上部に向かうなんて無茶です!」
「大丈夫だって、俺は向こうの世界で断崖絶壁みたいな場所をこの方法向こう側まで渡ったし」
正確には高層ビルの、ビルとビルによる二つの建物の間だが流牙は平然と綱渡りをして向こう側まで向かった。
「し、しかし……」
「鞠、もう一度俺の背中に乗ってくれ。一気に登るぞ!」
「はいなの!今度は綱渡り〜!」
もう一度鞠を背中に乗せた流牙は小波の心配など気にせずに縄に乗って見事なバランス感覚で走った。
現在城攻めをしている織田軍を他所に、見事に観音寺城の最上部まで数秒で登りきってしまった。
そして、流牙と鞠は城内に侵入し、小波は忍者の正攻法で確実に崖を登りながら思った。
「そんな馬鹿な……」
流牙は自分は天人じゃなくただの人間だと言っていたが、ただの人間が忍者より速く動け、弓を使わずに矢を投げて城壁に突き刺し、そして不安定な縄の上を綱渡りをして堅城と呼ばれている観音寺城をあっさり侵入出来るだろうか。
小波は流牙は人間ではなく自分が仕えている松平家家臣である綾乃の言う通り阿弥陀如来か、もしくは他の神仏の化身なのではないかと疑ってしまう。
そして、何とか小波も観音寺城の最上部に到着すると、人の気配はほとんどなく、先に侵入した流牙と鞠を探す。
すぐに二人は見つかり、腰を下ろして何かを見ていた。
それは気を失って倒れ、髪がくるくると渦巻いて梅の花の飾りを身につけた珍しい雰囲気の少女だった。
「小波、来たか!」
「ご主人様、鞠様。その娘は……?」
「ここで倒れていたのを見つけたの。でもここにはこの子以外いないよ」
「ひとまずこのままにはしておけないから、そこの小屋に運ぼう。小波は周りの警戒を頼んでいいかな?」
「承知しました。何かあれば随時、句伝無量でお伝えします」
「頼んだよ」
小波はその場から消え、流牙は倒れている少女を抱き上げて鞠と一緒に近くの小屋へと運んで出来る限りの看病をする。
その後、織田軍は無事に観音寺城を攻略して制圧し、久遠と流牙達は合流した。
ちなみに保護した少女だが……これがまた面倒な性格で流牙を困らす要因の一つとなるのだった。
.
人は神や仏の存在で己の道を探す。
彼が信じるのは人々の想い。
そして、共に戦う英霊達の魂。
次回『降 〜Advent〜』
その瞳に映るのは神の如き金色の輝き。
.