牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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魔戒烈伝も終わり、次は牙狼一期のHDリマスターですか。
鋼牙の活躍をテレビで見られるなんて幸せですね。
さて今回はMAKAISENKIのオマージュですが、色々突っ込みどころがあるかもしれないのでそこのところはご了承ください。


『思 〜Memories〜』

流牙がエーリカと果し合いを行おうとした時に鬼が小谷城に進入してきた。

 

「なんで鬼がこんなところに!」

 

「落ち着いてひよ、今は鬼の迎撃が先!久遠さまと詩乃ちゃんを守るよ!」

 

「エーリカ、模擬戦は中止だ!急いで鬼を討滅する!」

 

「はい!」

 

「くせ者である!皆の者、出会え出会えー!」

 

眞琴の声に、城内が一気に慌しくなった。

 

そんな周囲の気配に煽られたのか、鬼たちの動きも激しくなる。

 

「ひよところは久遠と詩乃を守れ!」

 

「「はい!」」

 

「待って!流牙様、あれを見てください!」

 

「っ!?あれは……」

 

塀をよじ登ってくる鬼を見るとその身に鎧を纏っていた。

 

「あの鬼は足軽たちが着ける桶川胴を着込んでいます!そしてその胸に……」

 

「三盛木瓜の家紋だとっ!?」

 

「そんな......これは一体……っ!?」

 

「どういうことだ!?」

 

「三盛木瓜は朝倉の家紋なんです!その家紋が入ったものを鬼たちが着ているという事は……」

 

「……その朝倉がやられたとしか考えられないな」

 

「私にも分かりません!あの鬼が朝倉の兵を喰らい、鎧を奪っただけなのか。それとも朝倉の人たちが鬼にされてしまったのか……どちはにせよ、鬼は朝倉の方達を襲い、そして鬼が勝ったのでしょう……つまり越前はもう……!」

 

「そんな……!もし朝倉が鬼に攻め入られていたとしたら、同盟国である浅井にも報せが来るはずだ!鬼が足軽の着ていたものを奪っただけだよ!きっとそうだ!」

 

「まだ分からん。が、今はとにかく目の前にいる奴らを成敗するのが先決であるぞ!」

 

「そ、そう……うん、そうですよね!」

 

「みんなは下がってて!」

 

久遠は自分の左手からザルバを抜いて流牙に投げ渡す。

 

「流牙!受け取れ!」

 

「おう!」

 

ザルバを受け取った流牙はいつものように左手中指にはめて魔法衣から牙狼剣を取り出す。

 

「市もお手伝いするよ!お兄ちゃん!」

 

「いけるか?」

 

「もちろん!エーリカさんはいける?」

 

「いつでもいけます!」

 

「よし、俺が前に出る!二人は俺が討ちもらした鬼を頼む!それと、これだけは約束してくれ、怪我をしたらすぐに下がれ。決して無理をするな!」

 

「ぼ、僕も行きます!」

 

「ダメだ!眞琴は下がってろ!」

 

「そんな!僕だって武士です!お兄様たちと共に、前に出て戦います!」

 

「眞琴は浅井の当主だ、何かあったら困るだろ。それに……俺は魔戒騎士だ!人を喰らう魔獣を狩るのが俺の使命だ!」

 

牙狼刀を地面に突き刺し、牙狼剣を鞘から抜いて構える。

 

「行くぞ!!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

流牙を先頭に三人は地を蹴り、それぞれ剣と闘具を振るい、鬼を退治する。

 

体力を温存しておいた流牙は先陣切って牙狼剣を振るい、鬼を切り裂いていく。

 

流牙の豪快で軽やかな動きに対し、エーリカの剣技は素早く的確に鬼の急所を狙って攻撃している。

 

そして、市は流牙との果し合いと同様に豪快な連撃を放つが、やはり先ほどの果し合いの疲れが残るのか、市はなかなか鬼を倒せないでいた。

 

敵はまだ潜んでいる可能性があるのでこれ以上長引かせるわけにはいかないと流牙は判断した。

 

「二人共、下がっててくれ。後は俺がやる……」

 

「お兄ちゃん!まだ私は大丈夫だよ!」

 

「そうはいかない。君は久遠の大切な妹、俺にとっても大切な妹だ」

 

流牙は市ちゃんの頭を撫でながら優しく諭す。

 

「俺はもう……二度と大切な家族を失う訳にはいかないんだ」

 

「お兄ちゃん……?」

 

「市さん、ここは流牙さんに任せましょう。流牙さんには鬼を討滅する絶対的な力がありますから」

 

「エーリカさん……うん!分かった!お兄ちゃんを信じる!」

 

「ありがとう、市ちゃん、エーリカ」

 

市とエーリカを下がらせた流牙は鬼達を睨みつけ、その内の一体が斬りかかると牙狼剣で叩き斬り、回し蹴りを食らわせてぶっ飛ばす。

 

そして、牙狼剣を鞘に収め、力を込めながら体の左側に持っていくとすぐに鞘から引き抜いて牙狼剣を高く掲げた。

 

満月のような綺麗な円を描き、ひび割れた円の中から闇夜を照らす金色の輝きを放つガロの鎧が召喚され、流牙の体に装着される。

 

牙狼剣が大剣に変化し、鞘から抜いて地面に突き刺すと代わりに牙狼刀を地面から引き抜いて逆手で構えた。

 

牙狼刀も牙狼剣と同様に光を帯びて大刀へと変化した。

 

「お、お兄ちゃんが金の鎧を……!?」

 

「お姉様、あれは一体……!?」

 

「あれは……流牙が数多の試練を乗り越えて継承した邪悪なる魔獣を討滅し、人々を守る最強の称号を示す金の鎧……黄金騎士ガロだ!」

 

ガロとなった流牙に呆然とした市と眞琴に久遠は堂々と説明した。

 

流牙は変化した牙狼剣と牙狼刀を構え、再び地を蹴る。

 

二刀流で鬼達の鎧を次々と破壊して急所を攻撃できるようにする。

 

すると、他の場所にも現れていた鬼達が流牙がガロの鎧を纏うなり、誘われるように集まってきた。

 

『こいつら、ここに集まってる。何が目的だ?』

 

「目的は分からないがまだ他にもいるかもしれない。集まっているなら一気に決める!!」

 

流牙は牙狼剣と牙狼刀の刃を交差させ、左右に切り開いて火花を散らす。

 

火花を散らした牙狼剣と牙狼刀に翡翠色の炎……魔導火が灯されて刃全体に纏い、烈火炎装を発動する。

 

「うぉおおおおおっ!!!」

 

牙狼剣と牙狼刀を十字に交差させて振りはらい、十字の炎の斬撃を放つ。

 

回転しながら徐々に炎の斬撃は巨大化し、この場にいた鬼達は一瞬にして炎に焼かれて全滅し、断末魔の叫びすら上げずに倒されてしまう。

 

鎧を解除し、魔界に送還すると流牙は警戒しながら鬼の死骸を見るとそこには……。

 

『間違いない、こいつは人間のものだ……』

 

「人間の、死体……」

 

鬼が人間の死体……朝倉の足軽へと戻って行った。

 

「殺された後に鬼にされてしまったのか。それとも何らかの呪術により鬼にされてしまったか……」

 

エーリカは冷静に分析する中、流牙はその足軽が持っていた刀を拾い、耳に当てて『声』を聞いた。

 

『なんだってんだよ、あいつらなんなんだよ!急に湧いて出て、みんな殺しやがった……!武士もら農民町人も、全部殺しやがった……!お終いだ……もうお終いだ……っ!』

 

それは鬼に襲われ、死にながら鬼にされた足軽の声……その最期の声を聞いた流牙は抑えきれない怒りを地面にぶつけるしかなかった。

 

「くそぉっ!!くそぉおおおおおっ!!!」

 

魔導ホラーとの戦いの苦い記憶が蘇り、手の皮膚が破れそうになるほど流牙は何度も何度も地面を叩いた。

 

すると、突然腕を掴まれて地面を叩くのを中断された。

 

「もう止めろ……自分を責めるな、流牙……」

 

その手は久遠で流牙の手から無理やり刀を剥がしてそのまま強く抱きしめた。

 

京でボルシティでの戦いを聞いた久遠は流牙が辛い過去を思い出して自分を責めていると気づいた。

 

「今は辛いだろうが、我慢して耐えてくれ……必ず鬼をこの日の本から排除し、平和な世界にしよう……」

 

目の前で鬼にされた人間を見た久遠は決意を新たにした。

 

その思いを感じ取った流牙は久遠にしがみつくようにして怒りや悲しみの負の感情を耐えた。

 

眞琴と市は浅井家の名にかけて越前からの鬼の進行を止めることを約束した。

 

流牙とエーリカはすぐにでも越前に行こうとしたが、詳しい事態を知れば暴走する可能性があると指摘して久遠は止めた。

 

今は情報を集めて態勢を整えることが先決……二人は渋々了承した。

 

ひよ子たち流牙隊は小谷周辺の情報収集をすることになり、流牙は鬼殺しの切り札として英気を養いながら小谷城で待つ事になるのだった。

 

 

早朝……流牙は適度に休憩しながら夜遅くから小谷城の周りを警備していた。

 

あれ以来鬼の襲撃がなくて少し安心しているが、それと同時に鬼の勢力が少しずつ広がっている事に大きな不安があった。

 

もし番犬所や他の魔戒騎士や魔戒法師の力を借りられればなんとか出来るかもしれないが、この世界に魔戒騎士は流牙一人だけ。

 

いくら最強にして最高の称号を持つ黄金騎士ガロとはいえたった一人で未知なる敵の存在や数え切れない鬼を相手にするのは難しい。

 

そんな中、流牙は部屋に戻ろうとするとそこに寝間着姿の久遠が既に起きていた。

 

「おはよう、久遠」

 

「おはよう、流牙。早速だがこれから遠乗りをする。供をせい」

 

「良いけど、こんな朝から?」

 

「ああ。お前に見せたいものがあるんだ」

 

「分かった」

 

「市が遠乗りの用意している。馬屋に行こう」

 

久遠は着替えなどの支度をし、先に流牙は馬屋に行くと市が二人分の馬と朝と昼の弁当を用意してくれていた。

 

「お兄ちゃん、遅くまで警護をありがとう」

 

「気にしなくて良いよ。魔戒騎士として当たり前のことをしているたけだ」

 

「そっか、やっぱりかっこいいね!」

 

「ありがとう」

 

「ところでお兄ちゃんに一つ聞きたいことがあるんだけど……」

 

「何?」

 

「お兄ちゃんってお姉ちゃんの事が好きなんだよね?」

 

突然の市の問いに驚く流牙だが嘘をつくわけにはいかないので正直に話した。

 

「……久遠のことは好きだよ」

 

「でも、市が用意した一緒の布団で一緒に寝ていないよね?夫婦なのにどうして?」

 

幼き故の純粋な考えか女としての感がわからないが、市の考えに流牙は苦笑を浮かべた。

 

「市ちゃんには敵わないな……みんなに話さないって約束するなら理由を教えるけど」

 

「うん!市、約束を守るから!」

 

「分かった、教えるよ。俺が久遠の夫になったのはあくまで男除けの魔除けって知ってるよな?」

 

「うん。最初は驚いたけど、今はちゃんとお兄ちゃんの事をとても大切に思ってるって」

 

「俺は久遠の事を大切に思っている、これは本当だよ。でも……一線を越える事は出来ないよ」

 

「どうして?」

 

「俺はこことは違う世界から来たのは知ってるよな?」

 

「……もしかして、その世界に家族が?」

 

「家族はいないけど、俺の帰りを待つ大切な相棒がいるんだ。それに、俺は黄金騎士としてホラーと戦い続ける使命があるから、元の世界に必ず帰らなきゃならない」

 

「どれだけ使命が大切か分からないけど、この世界にずっといれば良いじゃん!お姉ちゃんや結菜お姉ちゃん、私やまこっちゃん、流牙隊や織田家の家臣のみんながいるんだら!!」

 

初めて出来た大好きな兄に行ってほしくないと願うばかりに子供らしく駄々をこねてしまう市。

 

いつもなら声を荒げてしまいそうになったが、流牙は優しく笑みを浮かべ、腰を下ろして市の視線を合わせると頭を撫でながら諭す。

 

「ごめんね、市ちゃん。それは出来ないよ……俺には今まで出会った沢山の人たちの思いを背負って戦っているんだ。黄金騎士としてホラーから人々を守り、闇を照らす希望の光にならなければならないんだ」

 

「でも……ホラーって鬼よりも強くて強いんだよね?怖くないの?」

 

「怖くない……と言えば嘘になるけど、俺はこの命が続く限り、守りし者としてホラーと戦い続ける。だから、いつかは必ず元の世界に帰る」

 

「お兄ちゃん……」

 

「でも、少なくともこの世界から鬼を全部倒して、久遠の目指す天下布武で天下を統一するまでこの世界にいるからね」

 

「本当に?」

 

「ああ。大切なみんなや市ちゃんと眞琴が末長く平和に暮らせる世界になるように、黄金騎士の名にかけて俺は戦うよ」

 

「……お兄ちゃん。必ず生きて、お姉ちゃんを、みんなを必ず守ってね」

 

「ああ……約束するよ」

 

「うん!市との約束、もし破ったら地獄の果てまで追いかけて愛染挽歌をお兄ちゃんにぶつけるよ!!」

 

「おう……それは恐ろしいな。市ちゃんにぶっ飛ばされないように必ず約束を守るよ」

 

流牙は拳を作ってから小指を立てて市に見せる。

 

「市ちゃんの小指を絡ませて。指切りげんまん、って言って俺の世界では親しい人同士で約束を交わす時の小さな儀式なんだ」

 

「指切りげんまんか、良いね!やろうよ!」

 

市も小指を立てて流牙の小指を絡ませて約束を交わす。

 

「「指切りげんまん!約束守る!」」

 

流牙と市は二人だけの約束を交わした。

 

(必ず守ろう、この太陽のような笑顔を悲しみに染めないように……)

 

流牙にとって初めてできた大切な妹の笑顔を守るために必ず約束を果たすと心に強く誓うのだった。

 

その後、着替えた久遠と合流し、市に見送られながら小谷城を出た。

 

まだ夜が明けてないうちに馬を走らせ、久遠の案内で着いたところは小谷城の近くにある大きな湖、淡海の岬だった。

 

「ここは市から朝日が見える場所だと聞いてな」

 

辿り着いた岬の先端……そこには素晴らしい光景が広がっていた。

 

昇る朝日と彼方に見える今浜の平野……そして広大な淡海の水平線。

 

湖だがまるで海のように一面の青で見るもの全てを感動させるような美しさだった。

 

「なるほど、これは絶景……。市の目は相変わらず確かだな」

 

「ああ。こんなに綺麗で大きな湖は初めてだよ」

 

「そうなのか?」

 

「でも、世界には俺たちの想像出来ないようなものがたくさんある……いつか久遠やみんなにも見せてあげたいよ」

 

「本当か?いつか……お前の世界をこの目で見てみたいものだ」

 

久遠は淡海を眺めながら流牙のいる世界に思いふけていると、朝日の中から何かを見つけた。

 

「何だ?あれは……白鷺か……?」

 

久遠は白い鳥のように見えたので白鷺か何かの鳥かと思った。

 

流牙は目を凝らしてその小さな影を見つめると……。

 

「っ!?あ、あれは……!?」

 

その影が一体何なのかすぐに理解し、立ち上がってザルバのカバーを開いた。

 

「ザルバ!」

 

『どうした、こんな朝から……む?この気配は……!?』

 

「こんなところで出会えるなんて……あ、そうだ!」

 

流牙は魔法衣から本来なら魔戒騎士が持つことはない、魔戒法師の武器である魔導筆を取り出した。

 

その魔導筆は亡き母、波奏の物であり、ボルシティで弔った後に遺品として流牙が受け取って大切に持っていた。

 

そして、その影がだんだん近づいてくるとその馬よりも大きく、空を軽やかに飛ぶその姿に久遠は驚愕した。

 

「鳥……じゃない!?な、何だあれは!?」

 

少しずつ近づくにつれ、まず目に映ったのは純白に輝く雪のような穢れなき毛皮だった。

 

その綺麗な毛皮を持つ白い生物はゆっくりと流牙と久遠の前に降りた。

 

近くで見るとその生物はこの世のものとは思えないほどの美しい姿をしていた。

 

まるで想像上の生物である麒麟を彷彿とさせるような姿をしており、背中から生えている翼はとても大きく上下に羽ばたく度に光の粒子を撒布していた。

 

地面に降り立っていた白い生物は翼を羽ばたかせると、流牙はとっさに久遠を抱き寄せた。

 

「り、流牙!?」

 

「じっとしてて……」

 

『こいつは驚いた。滅多にお目にかかることができない霊獣だぞ!』

 

「霊獣……?」

 

「ああ……俺も見るの初めてだ。まさかこの世界で見られるなんて……」

 

霊獣とは魔界に住むホラーとは異なる存在で時空を行き来すると言われている伝説の生物である。

 

流牙は波奏の魔導筆を右手で持ち、久遠の前に持っていく。

 

「一緒に魔導筆を持って」

 

「う、うむ……」

 

流牙と久遠は魔導筆を一緒に持つと、霊獣は静かに宙に浮いてそのまま流牙と久遠の周りを静かに飛び始めた。

 

周りを飛ぶ霊獣は既に手が届く距離まで近づいており、二人は魔導筆を翳してそのまま優しく霊獣の体を撫でるように触れた。

 

魔導筆が霊獣に触れると白く輝く粒子が筆先に宿り、霊獣から放たれる光が強くなって流牙と久遠を優しく包み込んだ。

 

その瞬間、二人にはある光景が見えていた。

 

その光景とは光の中に浮かぶ人の姿……それは流牙と久遠で異なっていた。

 

流牙には莉杏と波奏と符礼と久遠。

 

久遠には結菜と流牙。

 

それぞれ別の人を思い浮かべていたが、互いを強く思いあっていた。

 

二人に大切な人の姿を見せた霊獣はもう一度二人を凝視すると再び翼を羽ばたかせて空へと飛んで行った。

 

霊獣が飛び去るとその翼から二つの白い羽根が舞い落ち、流牙と久遠は羽根を優しく掴んだ。

 

そして、二人は霊獣の姿が見えなくなるまでその白き光を瞬きをせずに見続けたのだった。

 

やがて、霊獣の姿が見えなくなると久遠は全身の力が抜けるようにその場に座り込んだ。

 

「久遠、大丈夫……?」

 

「う、うむ、大丈夫だ……あまりにも美しすぎて言葉が出なかったぞ……」

 

「そうだな……俺も感動したよ。でもどうして霊獣を見れたんだろう?確か霊獣は時空を行き来して、俺たちとは違う時の流れを生きているから特殊な薬を飲まないと見られないはずだけど……」

 

『恐らくはこの世界の時の流れが流牙のいた世界と異なるからだろう。偶然かどうかは知らないが、この世界の時の流れが霊獣の時の流れと一致したから二人に見えたんだろう』

 

「一つ気になることがある。流牙と一緒に霊獣が触れた時、結菜の姿が思い浮かんだんだが……」

 

本当は流牙の姿も見えたのだが久遠は恥ずかしくてそのことは言わなかった。

 

「霊獣の体に触れることが出来た者は、その人にとって最も大切な人や物が見えてくると言われているんだ。俺も母さんや法師の姿が思い浮かんだよ」

 

『霊獣は魔戒法師にとっても貴重な存在だ。その毛皮は流牙が今持っている魔戒法師の武器である魔導筆の材料になったり、肝は黒苺の実で煮込めば万病の薬になると言われている。それに、流牙の魔法衣も霊獣の毛皮から作られている』

 

「そうだったのか……流牙達の世界にとって貴重な存在を見られた私はとても幸福だな」

 

『霊獣を見て触り、羽根を手に入れたんだ。幸福どころの話じゃない。お嬢ちゃん、きっとお前さんの目指す天下布武も夢じゃないぞ?』

 

「本当か?霊獣がこれからの未来を祝福してくれたのかもしれないな……」

 

羽根を空にかざしながら見果てぬ夢に思いをはせる久遠だった。

 

一方、流牙は霊獣の羽根を見ながら幼い頃、母が読み聞かせしてくれた絵本……『白い霊獣と仮面の森』を思い出した。

 

まさかこの世界で幼い頃の夢を叶えることができるとは思わなかった。

 

そして、霊獣の光を宿した魔導筆を見ながら次は波奏と符礼のことを思い出していた。

 

「母さん……符礼法師……」

 

二度とその姿を見ることないと思っていた母と師を霊獣の奇跡で見ることが出来て流牙はこの上ない感謝の気持ちを霊獣に送る。

 

「ありがとう、霊獣……」

 

流牙は魔導筆と羽根をしまい、再び腰を下ろしてしばしの間、霊獣と出会えたことの余韻に浸りながら綺麗な湖を眺めるのだった。

 

 

 




勇者達は己が魂を燃やして戦う。

大切な人と国を守るために。

幾つものの想いが一つに重なり、新たな希望を生む。

次回『融 〜Fusion〜』

想いの力が奇跡を起こす。



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