テイルズオブメンティーフ〜君の嘘を暴くRPG〜   作:紫桜

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いつもよりも長くなっています。


悲しみなんてほんの一瞬だしすぐ忘れられるし

 

トアとジルが村長宅をご訪問した日の次の日から降り続ける雨はその翌日も勢いを衰えさせることなく降り続けた。

アンフェールはそんな空を見上げて、ふと独り言を呟くように言った。

 

「…おかしい、こんなにずっと雨が降り続けるなんて…」

「確かに、こんなに雨がずっと降りやまないなんてありえないことかもだけど…偶然じゃないかな?」

 

ジルはそんなアンフェールの言葉に応える。しかしそれでもアンフェールはジルのことを否定するように首を一つ振り、靴音を響かせながら窓際まで歩いて行き外の様子を静かに見つめはじめた。

そこから落ちる沈黙。どこか重苦しい空気が壊れたのはガリッというどこか不愉快な音。ジルが振り返れば、長方形の可愛らしい包装紙を揺らしながら瞳を細めて飴玉を噛み砕いているトアが、椅子に体を投げ出すように座っていた。テーブルには彼の愛用しているガンブレードが立てかけられている。

 

「トア…お行儀がわるいよ?」

「…」

 

そんなトアの行動にため息をつきながらジルが言うけれど、紅い少年は砕いた飴玉を飲み込むだけで応えることはしなかった。

そして、テーブルのガンブレードを腰につけドアに向かって歩き出す。

 

「…え?ちょっと、トアっ!」

「なに?」

 

慌ててジルがトアの腕を取り、彼を止める。訝しげにジルをトアが見た。アンフェールが二人を振り返る。

 

「どこ行くの?」

「んー…散歩」

「…こんな雨の日に、ですか?」

「まね。それに、俺には雨の日だろうと晴れの日だろうとあんまり変わんないしな」

「でも…」

「すぐ帰ってくる。ホント心配性だなアンタは…あー…それとアンフェール!こいつのこと頼むな」

 

けれどトアは二人遠回しの静止も聞かず、アンフェールにそう言い残し、ジルの頭を一度撫でるとスルリとドアを開け雨の中に消えた。

止めようと伸ばした腕は、けれどどこか恐ろしい背中に阻まれる。

 

「トア…」

「大丈夫ですよ。彼もすぐ変えると言っていたですし…とりあえず紅茶でも飲んで落ち着きましょう?」

「そう…だね」

 

そうしてもう見えない姿を探すように遠くを見つめるジルを促しアンフェールは家のドアをゆっくりと閉めた。

 

 

 

 

パシャパシャと周りで音がする。しかしそれで彼自身が濡れることなどない。雫は全て彼を濡らすのではなく守るように彼を包み込む。そうしてどこも濡れることなく歩き続け着いたのは巨木の下。

 

「さて…」

 

一言。無意識に出た言葉を投げ出すと、彼は躊躇いなく扉を開けた。

そして、見つけた。

彼は無感動な瞳でそれに言葉をかける。

 

「お前が探しているそのシルヴィアってやつさ」

 

少年が、冷たい瞳でその男を見つめる。

 

「…お前が殺したんだろ?」

 

その男は粘着くような微笑みを浮かべた。

そして、その顔のまま言った。

 

「どうしてわかったのかな?…トア君」

 

彼は静かに応える。

 

「アンタのしてるその指輪、普通のじゃないだろ?そんなにつよーい加護を持ってる代物簡単に作れるものじゃない」

「ふむ…やはり君は特別なようじゃな、これの価値をひと目で理解するなど…」

 

その男が上機嫌に指輪を見つめながら語る。

そして、扉の前に立ち続ける彼に瞳を向け粘着く笑みから心底辛そうに瞳を細めた。

 

「しかし残念でならんなぁ…この指輪の価値を深く語り合える人とやっと巡り合うことができたというのに…」

 

『殺さなくてはならないなんて』

 

トアは呟いた。

 

「やぁっと…本性表したな?」

 

無感動な瞳に激しい怒りを滲ませながら

 

「グトンさんよっ!!」

 

トアが叫ぶのとほぼ同時。轟音とともに鋭い槍が彼に向かって振り下ろされた。

 

 

 

「トアはどこ行っちゃったんだろ…」

「先程からそればかりですよ?そんなに心配しなくてもいいと思いますが…」

「そう、なんだけど…やっぱり心配」

 

トアがいなくなって数分。ジルは不安そうな顔をしながら本日3杯目の紅茶をフーフーして飲みこむ。それでも少し熱かったのか、彼女は顔をしかめた。それを微笑ましく見ながら未だ湯気が立つ紅茶を飲む。ちなみにアンフェールは温かい飲み物は熱すぎるくらいで飲む。

 

「…よく熱くないね」

「まぁ、熱いほうが好みですからね」

 

そうして不安感をぬぐい去るために雑談をしていると突如轟音が響いた。

 

「な、なに…?」

「…」

 

怯えるようにティーカップをキュッと握るジル。アンフェールはすぐに立ち上がり窓から外を見た。

 

「あれは…っ!」

 

しばらく外を見つめていたアンフェールは切迫した声を上げ、躊躇いなくドアを開け放ち外に出るとアトリエの中へ入っていった。

それを見届けてやっと我に返ったジルは、太ももに取り付けられた棍棒があるのかを確認しながらアンフェールの後を追った。

 

 

 

普通の蜘蛛は確か足が八つあり、『小さく』て動きがそこそこ速かった気がする。だから目の前の怪物を蜘蛛と呼んでいいのだろうか謎だ。

トアはそんな場違いのことをつらつらと考えながら大蜘蛛の槍のように尖った足の繰り出す突き刺しをステップで器用に避けていた。

足の先端が地面に刺さっていくたびに轟音と泥の混じった土が舞う。

 

「キシャアアァあっ!!」

「おーい、人語話せ人語を」

 

グドンだったその大蜘蛛は奇声を何度も発している。もうすでに人間としての意識がないのかもしれないと、トアはその無感動の瞳をひそめた。

と、そんなことを考えていたからだろう。雨でぬかるんだ地面に足を滑らせたトアは派手に転んだ。

 

「あ、ヤバっ…」

 

後悔先に立たず。そんなことわざが頭の中で再生されるかされないかの数秒の時間。トアは決して手をかけなかった武器をためらいもなく抜き、振り下ろされる槍に向かって銃口を向けた。

 

「連歌(れんか)」

 

そうして躊躇いなく左の引き金を引く。撃ちだされた弾丸は全て槍に命中した。トアはそれを確認する間もなく、白いコートが汚れるのも構わず転がりながら立ち上がり、大蜘蛛から距離を取るようにその場から後ろに飛ぶ。

 

「一本目」

 

トアが言い終わるのと同時。大蜘蛛が悶え苦しむように体をブルリと震わせた。

 

「痛いか?だよなぁ…でも、悪いな…手加減する気なんてないだよ」

 

吐き捨てるようにトアが言うと、大蜘蛛は残った7本の足でなんとか彼を串刺しにしようと何度も槍を放つ。

しかし、それは鈍い金属音に阻まれた。

 

「…!」

「…怪我は?」

 

トアのことを守るように前に立つ青年が握っているのは奇妙な形をした盾。トアは無言で頷いた。

すると、大蜘蛛が動きを止めた。そして青年を見つめた…ような気がした。

 

「…先生」

 

雨の音だけがその場を包む。トアは静かに一つため息をつき、後ろから聞こえた足音に振り返る。

なにか言いたげな青い瞳に、けれど首を振り言葉を無くさせ再び青年へと瞳を向けた。

 

「どうして…こんなことを?」

大蜘蛛が一歩、アンフェールに近づいた。

「俺のことが憎かったのですか?」

また一歩。

「何か…なんでもいいから、答えてください」

足が、上がる。アンフェールが膝をついた。

「せん…せい、」

 

振り下ろされる槍に、ジルが悲鳴にも似た声を上げようとして息を詰めたその時。槍が折れた。

 

「立て、アンフェール」

 

短く、告げられた言葉。アンフェールはゆっくりと顔を上げた。そこには彼が愛した彼女とよく似た、けれど違う面差しがこちらを見つめていた。

ぐっと。もう一度俯き、そして顔を上げアンフェールは立ち上がった。そして、真っ直ぐに前を向きながら告げた。

 

「トア、ジル…あれを…あの魔物を、倒します。手を貸してください」

「仕方ないな」「もちろん!」

 

槍が降る。しかし、それは決して誰も傷つけることはできない。全て盾に防がれるからだ。それを見てトアは声を張り上げる。

 

「アンタは後方支援!俺が切り込むからアンフェールは…」

 

『守りを固めろ』と、言い終わらないうちにアンフェールは盾で足を一本切り落とした。

 

「守りと攻撃ですね?わかりました」

 

そして短く告げ大蜘蛛に向かって走り出す。トアとジルは一つ深呼吸をして

 

「氷結せし雫よ、降り注げ」

「小さな火の粉たちの悪戯」

 

迷うことなく詠唱に入ったわ

 

そうして一本。もう一本と足が使えなくなり最後の一本が動かなくなった。

トアが進み出てそれに銃口を向ける。しかしそれをアンフェールが下ろす。

口元が、小さく動いた。

 

 

 

 

雨は、止まない。

青年は、静かに語った。

 

「知っていました。先生が彼女を使って…クリスティアに飲み込まれた彼女を砕いて、宝石として売っていたことなんて」

「それでも、オレは…オレに、生きがいをくれたあの人を殺すことができなかった」

 

「オレは愛した人一人守れなかった…愚か者です」

 

雨に濡れながら言った青年に、少年は言った。

 

「で、だから?」

「…?」

「死ぬと?」

 

瞬間、声が響いた。

 

「死んじゃ、だめ!!」

 

小さく少年が笑う。青年は驚いたように目を見開き。

 

「死んだら美味しいものも、楽しいことも、誰かを思い出すことだって、できなくなっちゃう!だから、簡単に死ぬなんて言っちゃダメ!!」

 

沈黙が、下りた。青年の口が小さく、震えるように動いた。

 

「…一緒に行くだろ?」

 

少年が雨の中に立ちすくむ青年に手を伸ばした。

迷うことは、数秒。ゆっくりと濡れた腕は乾いた手を弱々しく掴んだ。

その弱々しい腕を、2つの汚れた腕がしっかりと握った。

 

 




今までと比べ物にならないくらい長くなってしまいました…とりあえず、これでまた一段落です。

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