アンフェールの家に戻り、灯りをつけてただ時を待っていた私は言葉にできない不安を抱えながらただ時間が進むのを待っていた。部屋の中央にあるひとり暮らしにしては大きなテーブルとそれを囲むように置かれた椅子に腰掛けながらただ外を見続ける。
ふと、なんとなく見ていた空が曇ったように思えて私は小首をかしげる。
「なんだか…嫌な天気」
無意識にそう告げて、視線を外した。見ていると嫌な気分になってきたから。
小さくため息をつくと同時、木がきしむ音と2つの足音が響いた。ハッとして振り向けば予想通りの二人がいた。
しかし
「…どうしたの?アンフェール…」
トアよりも大きな青年が何も言わず、ただ俯いている。グッと唇を噛み締め、苦しげに息をしている。
「ねぇ、何が…」
言って無意識に伸ばした腕は、しかしアンフェール本人に阻まれた。
「…少し、アイデアに行き詰まってしまいまして…それをトアに手ひどく責められてしまったんです」
「俺のせいかよー」
そう言いながら作り物のような笑みを貼り付けて話すアンフェールと、やる気がなさそうに応えるトア…は、いつものことなのだが…それでもその瞳をの奥は何かを隠すようにまたたいているように見える。
その瞳を見た瞬間、先程から感じていた恐れにも似た不安感が更に増したような気がしたが、結局二人にうまくかわされていまい、何も言い出せないままその日が終わってしまった。
そして、翌日。
「…すごく天気が荒れてるね…」
「そうですねぇ…これでは洗濯物を干すこともできません…」
ハァ…と、重々しくため息をつきながら嵐が来たのかと錯覚させるほどに激しく降る雨を私とアンフェールは見ていた。
「まぁ仕方ないだろうなぁ…昨日は星なんてもの一つも見えなかったし」
「でもトア、これは流石に…」
「ま、降り過ぎってもんだな!」
そんな私達を面白そうに見ていたトアが、どこか楽しげに声を掛けてきた。その上いつもより声の感じが明るい気がする…?
不思議に思って、アンフェールと見つめていた窓から視線を外しトアのことをじっと見つめる。それに気づいたのか、鼻歌を歌いだしそうなほどに機嫌がいいトアがハッとしたような顔をした後、気まずげに視線をそらし、しばらくして観念したように言った。
「…雨が降るとなんとなく気分がいいんだよ…多分、俺の属性的なの水だから」
そっぽを向いてそう早口にいうトアが、なんだかいつもより可愛く見えてアンフェールがいるのにも関わらずそっとその頭を撫でてしまった。するとトアはありえないものを見るように瞳を大きく開けて言葉もなくこちらを見つめ、アンフェールには大笑いされてしまった。
この時、不思議なことに昨日から続いていた不安感かいつの間にかどこかにいって、この穏やかな時間が心に刻まれた傷を少しだけ癒やしてくれた気がして…私はトアとアンフェールに気づかれないようにそっと息をはいた。
ふと、一人外の窓を見続けていたアンフェールが音にならない声で呟いた。
「…シルヴィアを、殺したのは…」
『先生』だ。