小さな泊地と提督の物語   作:村上浩助

26 / 28
怒りの出撃

「はふう……少し飲み過ぎてしまったのですー……」

 

 結局、お茶だけではなく、夕食がてら居酒屋に場所を移したいなづまは、吹雪改二と夜まで語らい、台場軍港に戻ったのは夜も更けてからだった。東京までタクシーで帰ってきたいなづまは、何か雰囲気が違うと感じ、すぐに中に駆け出すと司令長官執務室に飛び込んだ。中から漂う線香の香りに簡易な仏壇、そして遺影………

「遅かったですね?司令長官(いなづま)

 中には総参謀長の高梨湊、主席副官の大村奈緒、そして総旗艦のかがに副旗艦の瑞鶴・赤城がいた。皆、暗い面持ちでいなづまの方を向く。遺影の主は夕張で、既に骨壷が置かれていた。

高梨准将(湊さん)、これは……?」

「見ての通りです。夕張が殺されました。()()()……」

 顔を上げた湊は、静かながらも声色は冷たく、怒りの表情が垣間見えた。いなづまの酔いは、一気に醒めてしまい、すぐに仏壇の前に足を進めると、跪いて合掌し……立ち上がると、皆に振り向く。

「……第13泊地を陥落させ、敬一郎提督(司令官)を死なせ、奈緒さんの目を奪ったのは、三笠なのです。呉鎮守府が、裏で手を引いていたのです。第13泊地奪還戦は、呉鎮守府との()()となるのです」

「望むところです」

 湊が頷いてから、静かに冷たく言い放つ。かがにとっても親友であるが、湊にとっても親友の仇であり、何より、短い間ながらも共に過ごした海賊艦隊の仇でもある、三笠や呉鎮守府に対する怒りと憎悪は、深く激しいものだった。

「作戦プランはできてるわ。あとは、司令長官の許可をもらえれば、今すぐにでも実行に移せるけど」

 奈緒は、ドンッと長官執務机に乱暴に作戦プランを置くと、いなづまは長官席に座り、作戦プランに目を通す。

「この作戦を、承認するのです」

 それだけ言うと、一同を見回す。一同は頷くと、各自司令長官執務室を出て行く。独立連合艦隊は、各鎮守府の指揮下を外れている為、すぐにも作戦行動を実行に移すことは可能であり、艦隊麾下全員が緊急待機を命じられていたのだった。部屋に残ったのは、湊といなづまだけだった。

 

司令長官(いなづま)……」

湊さん(高梨准将)()()()()()()は、私達も艤装を身に着けるのです。今度は、奈緒さんも連れて行くのです」

 そう言うと、司令長官執務室の隅に置いてあった、()()()ロックされた箱を取り出す。

()()()()()()()()()して無放射能化した、()()()()()()なのです。夕張に頼んで、原発の燃料棒から横流しした核燃料を、パッケージングしてもらったのです」

「ですが、私はもう……」

()()()戦わないでください。これ以上戦えば命が危ない、と聞いているのです。万一、指揮内火艇を沈められた時は、()()()が奈緒さんを連れて逃げるのです。いなづまは闘うのです」

 真っ直ぐ目を合わせた二人は、お互いに頷くと、司令長官執務室を出て行った。

 

 

「オラ!お前等急げ!」

先鋒の水雷戦隊旗艦である天龍は、台場軍港の港湾部で、先鋒艦隊に参加した、いなづま以外の第六駆逐隊と雪風を急かしていた。

既に副旗艦の吹雪は、海面に降り立っており、

更に、夕張が殺されたことは、全艦娘の知るところとなっており、全員が戦艦三笠……三笠元帥への怒りを爆発させていたのだった。

 

第二陣の水上打撃前衛艦隊には、旗艦榛名、副旗艦比叡、夕立、五月雨、浜風、そして再建造を果たし、軍務に一時的に復帰した、東野霧子こと霧島が、改二装備で出撃準備を済ませている。指揮内火艇の操舵は、一時的に協力者として軍属に入った東野平八郎が、担当することとなっている。

 

そして本陣には、榛名と比叡を除いた10名の艦娘に、夕張が生前再建造を行った改二装備を身に着け艦娘復帰を果たした鳳翔、更に、自ら随伴艦を志願した天津風を加えた独立航空戦隊が続き、最後に指揮内火艇に乗り込んで、司令長官高梨電こといなづま、総参謀長高梨湊、主席副官大村奈緒、船長の東野平八郎の面々が指揮を執る。

「いなづま提督、各員揃いました」

 総旗艦であるかがは、弓を片手に、ストラップでショットガンを肩に掛けた姿で内火艇に通信を送ると、内火艇で通信を受け取ったいなづまは、船室から甲板へ出て行った。右手には拡声器を持っていて、それを構え息を吸い込んだ。

「独立連合艦隊、第13泊地に殴りこみをかけるのです!声出せ!」

『おーっ!!』

「小さいっ!声出せ!」

『おーーーーっ!!!』

 甲板に立った、いなづまの怒声が皆にも伝わり、全員の怒声が響き渡ると、第一陣から台場軍港を出撃していった……

 

 

 

 その同じ頃、横須賀鎮守府でも、出撃しようとする艦隊がいた。

 大垣守も大鳳も、激務に次ぐ激務で出撃できずにいた。これも、おそらくは呉鎮守府側の策略だろうが、その()()()となる、()()()()()が約二名いた。

「よっしゃ!横須賀鎮守府艦隊、抜錨!向かうは伊豆沖!そこで、()()()()()()を迎え撃つ!」

「敵は待ってくれない、急げ!()()()()()()()()()()()()()を忘れた呉鎮守府に、相応の報いを与える!」

 舞鶴鎮守府司令長官兼横須賀鎮守府司令長官《代行》の草加拓哉大将と、舞鶴鎮守府総秘書艦兼横須賀鎮守府総旗艦《代行》の吹雪改二であった。彼等は、多忙な二人から()()()()()()、横須賀鎮守府の四個艦隊23名の艦娘を従えて、海に出撃していった……

 出撃先は、伊豆沖だった……

 後世の歴史家が、「日本最大の内戦」や「世界最大の艦娘戦」と呼ぶ、横須賀・呉両鎮守府による伊豆沖海戦に端を発する「()()()()」が、これから始まるのであった。

 

 

 第13泊地こと、東京都御蔵島村のある御蔵島では、深海棲艦達が慌ただしく軍港に集まっていた……

「そろそろか?安藤」

 深海棲艦艦隊の司令官、片桐英治元准将は、参謀長の元呉鎮守府准将、安藤龍に声をかける。

「はっ。申し合わせでは呉から、封じ込めてある横須賀鎮守府へ、三笠長官が攻撃を加える手筈になっております」

「偵察に来ていた、小うるさい独立連合艦隊とやらを消してくれるんなら、何だっていい」

 安藤龍は、既に深海棲艦化が進んでおり、焼けただれた白い肌のグロテスクな外見となっている。その横には連装ロケット水鬼が、いつでも発射可能と構えている。片桐はその様子を見やると頷き、海に視線を戻す。

「我々は、台場軍港を制圧後、一気に首都を陥落させる。首相以下政治屋(政治業者)共や軍上層部を粛清し、皇居を占拠する。天皇陛下には京都に籠っていただき、第三世代の艦娘達に真実を公表し、それを追認した国民共の誤りを、()()()()()()()()

 片桐は、狂ったような笑みを浮かべ、ただ海を見ていた。

(いなづま、俺のもとに来い……お前なら……この俺を………)

片桐は、狂気に満ちた目で、その先にいるであろういなづまに、思いを馳せていた……

 

 それと同時に、ハワイ沖でも大規模戦闘が始まっていた……後に、()()()()()()()()()()()と呼ばれる戦いだった。

 在日米軍の艦娘と大湊警備府の()()連合艦隊が、『集団的自衛権』を名目に、ミッドウェーに集結していた。

 ハワイに残っている深海棲艦達が、日本で行われている戦闘へ横槍を入れないように、であった。

 米海軍側の旗艦にはメリーランド。ハワイ艦隊の生き残りや、再建造した艦を中心とした大艦隊。

 日本海軍側は旗艦金剛に、時雨以下大湊警備府の艦娘達。そして、()()()()()()()()()()()()()()として、ヘリコプター及びミサイル搭載型駆逐艦「みらい」こと日野未来も出撃していた。

「来ましたね、戦艦水鬼。あなたに、妹の邪魔はさせるわけにはいきません。対水上戦闘はじめ!」

「キサマ!イナヅマノナカマカ!?コンドコソ、ウミニシズメテクレル!」

「そういう訳にはいかないんです。金剛、メリーランド、あの化物の対処は、お任せします」

 艤装のレーダーを展開させ、MVSA-32Jを出撃させ、状況の把握に努める。

「了解した」

「分かったのデース!」

「トマホークミサイル発射、目標はハワイ軍港。()()()()()()()()を起動させます」

 みらいのトマホーク……従来型から変更した、タクティカルトマホークが、ハワイ軍港(パールハーバー)に飛んでいったのを皮切りに、ミッドウェーの海で、第二次世界大戦の激戦地で、再び砲雷撃戦が開始された……




3箇所での最終決戦

私は捌ききれるのだろうか…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。