全面的に気に入らなかったので書き直しました。
親友の死~小さな空母の誕生~(改)
新たに、天津風・夕立・五月雨・浜風を迎えた新生独立連合艦隊は、艦娘22名を擁する、国内最大の独立部隊となっていた。
その部隊の長となる司令長官であり、第二世代艦娘・汎用駆逐艦いなづまは、中将の辞令を、大垣守横須賀鎮守府司令長官
「昇進、なのです?」
「お前だけではない。高梨と大村も一階級昇進だ。まあ、鎮守府規模の半数の艦隊だからな、少将では格好がつかない、との
大垣は、軽く溜め息を吐いた。
「なのですか。まだ少将も、一月半しかやってないのです」
いなづまは首を傾げる。元々、いきなり
「では確かに、三人分の辞令と階級章を渡したぞ。すまないが、仕事がスタックしている。俺ももう、新宿行きだ」
「わかったのです。では、失礼するのです」
いなづまは受け取ると、一礼してから、司令長官執務室を後にした。
逮捕された、西条大将の代わりに幕僚長となった、原幕僚監部次長の代行として、そのポストを兼任している守は、多忙を極めていた。
横須賀鎮守府と幕僚監部を、行ったり来たりする毎日で、幕僚監部の仮眠室で寝ていることもざらにあった。せっかく結ばれた、湊ともほとんど会えず、同じ量の仕事を抱えている総秘書艦大鳳とも、殆ど会話すらできない状態となっていた。
司令長官執務室を辞したいなづまは、慌てて出て行く守を見送ってから、横須賀鎮守府の廊下を階級章と辞令を抱えて歩いていた。その途中、セーラー服にお下げの少女と擦れ違い……いなづまは、はっと振り向いた。
「吹雪!吹雪なのです!?」
同じく振り向いた、
「久しぶり、いなづま。ちゃんと足も付いて……」
吹雪が言い終わる前に、いなづまは階級章や辞令を放り出して、抱き着いていた。
「よかった!!生きててよかった!!!」
声を上げて泣くいなづまに、吹雪は優しく頭を撫で続けていた。
「他の娘達は……?」
いなづまは、泣き止んでから顔を上げながら問うと、第二世代艦娘のもう一人の生き残りこと、駆逐艦吹雪改二は、床に転がっていた辞令や階級章を拾いながら、首を横に振る。
「私は、完全解体にかけられるところを、別の「
吹雪は瞑目した。
「嫌なことを思い出させて、ごめんなさいなのです」
「ううん、大丈夫。それより、いなづまを探していて、伝えたい事があってね……第13泊地についてなんだけど、やっぱり
予想は付いていて、十分判っていた事態だったが、呉鎮守府が
「それで、今吹雪は何をしているのです?」
「舞鶴で、草加司令長官の元で働いてるけど、第13泊地奪還作戦に技術協力できてるから、また一緒に戦えるね?」
笑顔を浮かべる吹雪に対して、いなづまも少し笑みを浮かべる。
「せっかく再会したのですから、ちょっとお茶でも一緒にどうなのです?」
「いいね。お勧めの所教えてよ?」
二人は、仲良く外に向かって行った。
二人が再会を果たしていた頃、軽巡洋艦夕張は、台場軍港の本庁舎から少し離れた研究室で、艦娘の研究を進めていた。横須賀に帰還して以後、完全解体して浄化した、米国艦娘の再建造を行い、アメリカ海軍に引き渡した頃に、横須賀鎮守府司令長官である大垣守に呼び出されて、第三世代艦娘の
「うーん……これじゃ、全然ダメね?」
それ以来夕張は、第三世代艦娘に掛けられたロックの解除や、更なる改装を試みるべく、研究を重ねていた。
「夕張、あまり根を詰めてはいけないわ。コーヒーを持って来たから」
コーヒーカップを二つ、トレイに乗せてやってきた加賀は、研究デスクでウンウン唸っている夕張の前に、コーヒーをそっと置くと、立てかけてあった、パイプ椅子を組み立てて座る。
「あ、加賀、ごめんね。IUF総旗艦殿に、お茶汲みをやらせて」
背伸びをしてから、コーヒーカップを手に取る夕張を、微笑を浮かべて眺めながら、自分もコーヒーカップを手にとってコーヒーを啜る。
「いいのよ、好きでやってるんだから。やっぱり、例の研究は難航しているの?」
「いえ。もう既に、アンロックも、現代化改装も
大きな溜め息を吐いてから、コーヒーを流し込む夕張に、加賀は少し心配そうになる。
「この間も、近所のコンビニに、大量の缶コーヒー注文したでしょ。ちゃんと寝てるの?私は、その致命的な問題より、貴女の方が心配よ?」
そんな加賀に、夕張は少し笑いを浮かべ、首を振って大丈夫、と答えてから
「まだ、一日三~四時間は寝てるから大丈夫。それで致命的な問題というのは、ロック解除には
「……」
要するに、アンロックをするには、人の犠牲が前提、ということだ。加賀は言葉を失い、夕張は更に溜め息を吐く。
「いなづま司令長官や、湊ちゃん参謀長が、うんと言える内容じゃないんですよ。資材はどうとでもなるにしても。でも一応、この設計図持って行って、訊いてもらえない?」
「それはいいけど、望み薄よ。いいの?」
夕張は、再び背伸びをしながら、加賀に笑いかける。
「最初から、うんという人に、この提案をしないって。でも、もし現代化改装をするとしたら……加賀、貴女が、沢山のSH-60KやF-35Cを飛ばす姿を見たいかな?」
「犠牲が要らない方法が見つかったらにはなるけど、後回しでいいのよ。さて、私はちょっと、水雷隊や空母偵察隊とのミーティングがあるから、行くわね。この設計図と計画案は、その後で首脳部に見てもらうわね?」
立ち上がる加賀に、夕張は真剣な表情になり、立ち上がる。
「加賀!」
「どうしたのよ?」
立ち上がったまま、不思議そうな顔を浮かべる加賀に、首を振る。
「ごめん、何でもない」
「疲れ過ぎよ。今週の休みは、絶対取りなさい。一緒に、ダイニングランチに行きましょう?」
苦笑を浮かべる加賀に、夕張も頷いてから、
「そうだね、ありがと。元々、休出のつもりだったから、予定空けとくね?」
「それじゃあ、私は行くわね?」
空のコーヒーカップをトレイに乗せると、研究室を出て行く。出て行った後、夕張は小さく呟いた……
「ごめん、加賀……やっぱその約束、無理そう……」
ポケットからスマホを取り出し、
数十分経った後、そんな研究室に、
「ああ、やっぱり来ましたか……」
最後のエンターキーを押すと、疲れきった表情で諦観の笑みを浮かべ、夕張はその侵入者に笑いかけた……
その数時間後、大村奈緒と高梨湊がデスクで、第13泊地奪還プランを練っていた。
「情報が足らないね……」
「そうね、MLRS水鬼がウザいわね。バカスカ、ロケット弾飛ばしやがって」
この二ヶ月間、天龍達遠征艦隊改め強行偵察隊の連日の出撃で、敵艦隊の規模が少しずつ判明して来ているが、軽巡1に夕立を加えた駆逐5では、分厚い敵の防衛網を掻い潜って内部に侵入するのは難しいが、一つだけ判明したことがあった。
各務原大尉達が遺していったMLRSが、深海棲艦化し、
その爆撃に巻き込まれた強行偵察隊が、全員大破で帰還した為、それ以後の強行偵察は、取り止めとなっていた。
遠距離から、空母隊の航空機による偵察を中心に行われていたが、如何せん情報量が足りなかった。
湊が、攻撃型原子力潜水艦「みなと」として出撃し、巡航ミサイルによる直接攻撃の提案も出していたが、却下されていた。
湊は、身体検査の結果、これ以上艦娘として稼働したら、
それに、プルトニウムを調達する方法も見いだせていない為、
「二人共、ちょっといいかしら?」
そこに、お茶を持ってきた加賀が、夕立から託された設計図と共に、台場軍港の司令長官執務室に、顔を出していた。
「はい。丁度、行き詰まってましたし」
「で、どうしたのよ?」
大量の作戦計画案の紙束から顔を上げた二人を見ると、加賀がその隣の椅子に腰掛ける。
「夕張から、第三世代艦娘のロック解除と現代化改装案を預かってるけど、
加賀は、夕張から聞いたとおりに、ロック解除には他の艦娘のコアが必要で、完全解体が前提のことと、膨大な資材が必要だ、ということを説明した。その説明に、湊は渋い顔をする。
「私は気が進みませんし、いなづまも是と言わないでしょう?」
「そうね。他の子の命を奪ってまで、やるようなことではないわね。夕張には犠牲のない方法での再研究を……」
「結局、そうなるわね……夕張は研究を進めて、コアが要らない方法を突き止める、と言ってたけど」
加賀がお茶を一口啜ると、副旗艦の瑞鶴が、乱暴に扉を開ける。
「加賀!それに、湊ちゃん参謀長、大村大佐!大変よ!夕張が……」
「えっ……?」
振り向いた三人に、瑞鶴は重苦しい表情で告げる。
「夕張が……死んでるわ」
その次の瞬間、加賀がすぐに、司令長官執務室を飛び出していった。
「加賀!待って!!」
すぐに瑞鶴が追いかけ、その後に、湊と奈緒も続く。
四人が研究室に足を踏み入れると、研究室の椅子に座ったまま、夕張が息絶えていた……虚ろな瞳のまま座り込んだ態勢で、頚動脈を切り裂かれ、殺されていた……
「嘘!嘘よ! 明後日ランチに行くんでしょ!約束したじゃない!!」
加賀が、すぐに夕張の亡骸に駆け寄り、身体を強く抱き締める……冷たい……
「夕張………夕張!!」
「加賀…っ!」
加賀に駆け寄ろうとした瑞鶴の手を、湊がぐっと摑んだ。
「湊ちゃ……」
首を振ってから、湊が奈緒に目配せをして、夕張の近くに足を進める。
「………これは?」
床に転がっていた、スマートフォンに気づいた湊が手に取ると、そこには入力しかけの状態で、「みかさ」と書かれている……
「やはり三笠司令長官が……」
その直後、湊の端末にメッセージが届いた。そのメッセージを確認すると、目を伏せて俯き、静かに口を開いた……肩が少し震えていた。
「……加賀、今すぐ答えを出して欲しいんですけど、
「どういう…… まさか!?」
顔を上げた湊は、怒りに満ちた表情だった。今まで見せたことのない、心からの怒りの表情だった。奈緒ですら、無言の威圧感に唾を飲み込んでいた。
「夕張のコアを使って加賀、貴女を現代化改装します。
湊の言葉に、奈緒と瑞鶴は加賀の方を見ていた……加賀は、冷たくなった夕張の頭を撫でて、髪を束ねていたリボンを解くと、
「分かりました。現代化改装……お願いします」
加賀は、湊に顔を向けると、決意に満ちた表情を浮かべる。
「分かりました、すぐに準備をします。解体は……
そう言うと、湊は夕張の遺体を加賀から受け取ると抱き抱え、隣室へと消えて行く……
加賀は、建造装置に張ってある、海水に浮かんで横たわっていた。目を閉じて、夕張との日々を思い浮かべていた……
ハワイでの出来事や、その後帰ってきた時に、夕張と話した会話……昨日のように思い出され………
本当は、行く筈だったランチで、する筈だった会話を考えながら……
考えに耽っていると、赤い水が注ぎ込まれ、建造装置の海水が赤く染まる……少し、鉄の臭いがする……夕張のコアを溶かした溶液が、注ぎ込まれているようだ。
「夕張は、
涙が溢れる加賀に、声が聞こえる 。
(そんなことない。加賀が覚えてくれている限り、私はずっと加賀の中で生き続ける。加賀の命ある限り……)
「そうね……これからは一緒だものね……」
笑みを浮かべた加賀は、そこで意識が遠くなっていく……
数時間後……建造装置から出された加賀が目を覚ますと、加賀は以前より背が、少しだけ低くなった、と感じていた。
「おはよう、かが」
湊が声を掛けると、ヘリコプター及び固定翼機搭載型駆逐艦かが……正規空母加賀でもない、いずも型護衛艦でもない、
(夕張、貴女の分まで、私は生きるわ。そして第13泊地を奪還して……その先にある巨悪を打ち砕く……貴方の時代は、もう終わったのよ。戦艦三笠)
生まれ変わったかがは、亡き親友に心の中で語り掛けると立ち上がり、艤装を展開させる。
現代風のコンパウンドボウとなった弓に、改装された甲板。そして艦載機のSH-60KやF-35C戦闘機達……
「すごいわ、かが!」
瑞鶴が、かがの両手を取ると、瑞鶴に背を追い越されたかがは、その手を握り返し見上げる。
「この力で、私は夕張の無念を晴らす。瑞鶴、貴女にも協力してもらうわ」
「もちろんよ!私だけじゃなく、独立連合艦隊皆が協力するわよ!」
「これで、絶対に負けられなくなりましたね?奈緒、早急に第13泊地攻略プランを」
「ええ!」
それぞれが、亡き夕張の無念を晴らすべく、決意を新たにしていった。
その様子を、遠くから
かがの艦載機を変更しました