小さな泊地と提督の物語   作:村上浩助

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これで第2章も最終回です




ハワイ解放作戦~帰還~

ハワイ解放統合任務部隊は、横須賀に帰り着いた。

 

艦娘達は、横須賀大工廠で傷ついた体を癒し……補給が行われていた。

 

そんな中、横須賀鎮守府司令長官の大垣守に、電と湊が呼ばれていた。

「失礼します」

「失礼するのです」

長官執務室に入室した二人に、守は立ち上がり、笑顔を見せる。

「電、よく無事に帰って来た。それに湊さん、無事で何よりだ」

「ご心配をおかけしました……」

深々と頭を下げる湊の肩を、ぽんと叩く。

「いや、無事で良かった。神波も安心してるだろう。だが、二階級特進は取り消しとなる。()()()()

「でしょうねえ……」

その言葉に、湊は苦笑いを浮かべる。

「次に電、よく敵中から、最小限の損害で帰還できたな。この功績を報いるに、少将への昇進を以て行う」

「電は、何もしてないのです」

「謙遜するな。犠牲は少なくなかったが、大多数の艦娘達が帰還できたのはお前の功績だ。もっと誇っていい」

 電の頭を撫でる守に、電は思い出したように、顔を上げる。

「それよりも大垣長官。今すぐに、幕僚監部の高天原大尉を逮捕して欲しいのです!彼女がハワイ艦隊を罠に……」

 訴えかける電に、大垣は苦々しい顔になる。

「いや、不要だ。高天原大尉は死んだ。()()()()いた。今、幕僚長の西条大将が、その殺人容疑で警視庁に勾留されている」

「えっ……?」

 絶句する電に、湊は少し暗い顔になって、守の方を見上げる。

「目には目を、歯には歯を、ですか……誰の策ですか?」

「それはだな………」

 言い淀む守だったが、隣室に控えていた未来が、扉を開け中に入って来る。

「私ですよ、湊准将」

「やはりですか、()()()……」

 苦笑を浮かべて言う湊に、未来の動きが止まる。

「えっ…あ、あなた……記憶が……?」

 湊が、絞り出すように言葉を紡ぐ未来に近づくと、ギュッと抱き締める……そして、頭を優しく撫でた。

「全て……思い出しました。()()()……」

「み……みなとぉ………」

 それから少しの間、未来は声を上げて泣き続けた。それを湊が、優しく頭を撫でて抱き締め続けていた……

 

 

 その様子を、隣室に控えていた金剛と時雨が、ドアの隙間から覗き込んでいた。そして、そっと静かに扉を閉じる。

「やっぱり敵わないのデース…」

「妬けちゃう?」

 溜め息を吐く金剛に、時雨は気遣うように声をかける。

「いいえ。()()()()()()()()()()()()()には、敵わない部分()あるのデース。でも、未来さんを一番愛してるのは、()()なのデース」

 笑顔に戻る金剛に、時雨も釣られて笑顔になる。

「それは、ありがとうございます」

 二人が振り向いた先には、扉が開けられて、そこに未来と湊が()()()()()立っていた。未来は、少しだけ柔和な表情を浮かべている。湊は、少し苦笑いを浮かべているが……

「未来さんが……笑ってる……」

 そう言葉が出た時雨が、隣を見た時には、既に金剛は、未来に猛ダッシュして抱き締めていた。

「未来さん、良かったデース!本当に良かったデース!!」

 痛いくらいに抱き締められた未来は、少し顔を顰めるも、頬にキスをすると、金剛は顔を真赤にして、()()()()押し倒そうとする。そんな金剛を、時雨と湊がチョップして止める。

「はっ、ワタシとしたことが。つい未来さんのビューティフルなスマイルに、理性がキルしてたのデース」

 そんな金剛に、未来も少し苦笑いを浮かべる。

「恥ずかしいから、人前ではやめなさい。妹や()()()()()()()も見ています」

「んなっ!?」

「ちょっと待て!」

「そうじゃないのです?」

 湊と、様子を見にやってきた守は、顔を赤らめて絶句していたが、その横にいた電は、不思議そうに首を傾げる。

「こっちは大歓迎だが、湊さんにも都合があるだろう?」

「私はいいですけど、守さんにも好きな人がいるでしょう?」

 同時に発言した二人は、顔を見合わせる。

『えっ…?』

 そんな二人を見て、未来と電と金剛と時雨は、大きな溜め息を吐く。

「お二人には、さっさと結婚でも何でも、していただければいいんですよ」

 丁度戻ってきた大鳳が、少しツンとした態度で声をかけるが、その態度が金剛には気になった。

「大鳳総秘書艦、もしかして貴女も……?」

「ええ、そうですよ。私だって守の事が大好きです。でも、湊さんという相手がいる以上、私は退くしかないじゃないですか?」

 そう答えた大鳳は、少し涙を浮かべている。

「いいじゃないですか?()()してしまえば。大垣なら、二人まとめて愛せる器量は持ってるでしょう?湊とは()()()婚姻、大鳳とは()()()()()()()()()()()()()()()を用いて、一緒に暮らせばいいんですよ」

 まだ理性が半分飛んでる金剛に頬擦りされながら、未来がとんでもないことを言い出す。

「ええっ!?私は、それでいいなら、いいですけど……」

「湊さんがそれでいいなら……」

 顔を赤らめて、そんな態度をとっている二人を見た電は、隣にいた守に声をかける。

「と、言うことらしいのですが、大垣長官はどうなのです?」

「どうって……いや、俺としては、()()()()()()()()、とは考えていたが……」

 困っている守に、電は大きな溜め息を吐く。だったら、何も問題ないじゃないか、と考えながら……

「だったら、今すぐ二人を抱き締めて来るのです。あと、ちょっと耳を貸すのです」

 しゃがんだ守に、()()を耳打ちする。守の顔は、みるみる赤くなって行く……

「ちょっとまて、電少将。お前は、何を言い出すんだ?」

()()()()()()()()()です。その時が来て、びっくりしたらあれなのです。それよりも、はよ行け、なのです」

 満面の笑みを浮かべた電に、がっくりと項垂れてから立ち上がり、二人のところに行き、抱き締める。

「きゃ…!」

 驚いて声を上げる二人だったが、おずおずと抱き締め返す。

「お前達の気持は、良く分かった。こんな俺で良ければ、一緒にいて欲しい」

「はい……っ!」

 

「一件落着なのです」

 電は、未だに金剛に抱き締められている未来に、声をかける。

「全くです。仕事の話が吹き飛んでしまいましたね。ところで……金剛」

「何なのデース?」

「人の見てる前で、服の中に手を入れるのは、やめなさい」

「あっ……」

 

 

 

 

 少し後、司令長官執務室隣の応接室に、一同が座っている。

「西条幕僚長は、警察で保護していただくことにしました。彼は大事な証人です」

 未来が口を開くと、続いて大垣が、重々しく口を開く。

「呉の三笠元帥が、湊さんの身柄を要求している。俺はお断り(一蹴)したが、三笠元帥から襲撃を受けた」

『なっ……!?』

 絶句する一同だったが、湊が頷く。

「私は、直木智也さんから資料を預かっています。呉鎮守府で、深海棲艦の遺伝子を交配させて艦娘を強化していた、という証拠になります。そして、第13泊地前司令官の片桐英治元准将は、戦艦三笠と共に深海棲艦と戦って来た方で、彼女と決別した後、第13泊地で同様の研究を行っていたそうです」

「やはり、()()()()()()は、第13泊地だったか………」

 そう呟く守に対し、電はずっと黙ったままだった。

「電、これは貴方の口から話すべきだ、と思います」

 電に向き直ると、湊は諭すように語りかける。電は、少しの躊躇の後立ち上がって、皆を見回す。

「電は……()()今の第三世代艦娘のプロトタイプだった、第二世代艦娘・第3計画によって、生み出された艦娘なのです。他にも叢雲、漣、五月雨、吹雪ーーうちの艦隊(独立連合艦隊)の吹雪は、第三世代なので別人なのですーーがいたのですが、第三世代に移行した後、()()()()()()()そうなのです。電は、片桐提督に匿われて第13泊地にやってきたのです。もうその時には、片桐提督は三笠元帥と軍の決定に失望して、()()()()()()()()()さえも捨ててしまっていたのです」

「ちょっと待て。何故、完全解体をする必要があった?」

 守が、割り込むように電に問いかける。電は座り直してから、

「第三世代に移行する際に、軍は二つの仕掛けを施しているのです。一つは、()()()()()()()()()()()。もう一つは、()()()()()()()。軍は、強大な力を持つ艦娘が、()()()()()()()()()()()を恐れていたのです」

「………」

 第三世代艦娘の大鳳、金剛、時雨は、俯いたままぐっと手を握っている……特に大鳳は、()()()()()()()が絶たれ、悔しさは計り知れないだろう。

「そして、第二世代の艦娘が残っていることを恐れた軍は、失敗した第1計画の艦娘であった、湊さんの記憶をロックし、第2計画の艦娘だった未来さんは、軍で飼い殺そうとし、第3計画の艦娘達を完全解体したのです。片桐提督は、それに反対したそうなのです。ですが、それに従った三笠元帥と、決別することになった……そして私は、匿われたのです。今まで第三世代の艦娘の()()をして……」

 そこまで語る電に、湊は頭を撫でてから続ける。

「結局のところ、深海棲艦の侵攻は、()()()()()()()である、と考えます。私は、直木さんから第13泊地の奪還を頼まれています。ですから……」

「わかっている。その前に、()()について、話しておきたい」

 大垣が、湊に割って入るように言うと、全員が守の方を向く。

「まず、独立連合艦隊についてだ。司令長官に電少将、主席副官に大村奈緒大佐、そして参謀長に、高梨湊准将を充てる。総旗艦は加賀、副旗艦は瑞鶴、水雷戦隊旗艦に北上を充てる。艦隊も、旧武藤艦隊を加えて、水雷戦隊を新設する。それから、電少将と湊准将の、()()()()()()()()は禁止する」

『えっ……?』

 二人が戸惑っているのを見ると、大鳳が脇に抱えていたクリップボードを、テーブルに置く。

「まずは、「いなづま」の消費資材です。燃料750、弾薬900、ボーキサイト1500。ミサイル系の補充が、殆どこれです。次に、「みなと」の消費資材ですが、燃料は0でしたが、弾薬1200、ボーキサイト1000、そして、()()()()()()なるものが補給に必要、と報告が上がっています」

『プッ……プルトニウム……』

 絶句する一同に、守がすまなそうな顔をする。

「すまないが、そんなもの()()()()()で、用意できる代物じゃない。もう一つ、「みなと」は核武装可能、という点からも、出撃は許可できない。更に言うと、湊さんの身体の負担を考えると、俺は湊さんを出撃させたくない」

「わかったのです。私達は、()()の提督業で頑張るのです」

 何も言えない湊に代わって、電が頷く。

「そして、新たに編成された独立連合艦隊の初任務は、旧第13泊地の奪還だ。奪還後、独立連合艦隊の拠点は、第13泊地とする」

 その守の言葉に、電と湊は立ち上がり敬礼する。

「謹んで拝命いたします」

 その二人を見ると、未来が立ち上がる。

「詳しい話は、後日でもいいでしょう。さあ、金剛に時雨。食事に行きますよ。電さんも、一緒に行きましょう。独立連合艦隊の皆さんにも、ご馳走しますよ」

「人の恋路を邪魔したら、馬に蹴られます、なのです」

 からかうように同調する電に、大鳳と湊と守の顔が赤くなる。そんな三人を生暖かく見守りながら、未来達は部屋を後にする。

 

「……俺達も官舎に戻るか?」

 立ち上がると、それに釣られて立ち上がった、二人の手を握り締める。

「はい……守さん」

「守……よろしくお願いします」

 二人の手を繋いだ守は、愛する二人を伴い、司令長官官舎へと消えて行った……

 

 

 

 

「司令長官、呉鎮守府の内偵調査が終わりました……って、またですか?」

 舞鶴鎮守府総秘書艦兼総旗艦の()()()()は、司令長官執務室に入るなり、呆れ返っていた。

 司令長官執務室には、多数のエレキギターが飾ってあり、草加拓哉大将の格好も、革ジャンに金髪を逆立てた、もはや()()()()()()()()()()だった。

「明日、バンドのライヴなんだよ。で、どうだった?」

 そんな拓哉の態度に、吹雪は大きな溜め息を吐く。

「はいはい、ライヴのチケットくださいね。それで()()ですが、どうも第13泊地の陥落には、三笠長官が関わっているようです」

 その報告に、拓哉は舌打ちする。

「あの糞ババアか。()()()()()()()()()()奴だから、当然だな」

「それは、ただの私怨ですよ」

 憤慨する拓哉に、裏手でツッコミを入れる。

「ともかく、明日のライヴが終わったら、俺達も横須賀に行くぞ?」

「はい。雪菜はちゃんと、お義母さんのところに預けていきますので、私も行きますね。あと、髪は()()()()()くださいよ?」

「おう、わかってるぜ」

 

 

 

そして、横須賀へ集結する……

 

第ニ章 完

 




次回予告

電「ゆうべはお楽しみでしたね」
湊「ちょっ!」



最終章「独立連合艦隊編Ⅱ~第13泊地奪還~」

第1話「Restart」

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