ハワイ解放統合任務部隊は、横須賀に帰り着いた。
艦娘達は、横須賀大工廠で傷ついた体を癒し……補給が行われていた。
そんな中、横須賀鎮守府司令長官の大垣守に、電と湊が呼ばれていた。
「失礼します」
「失礼するのです」
長官執務室に入室した二人に、守は立ち上がり、笑顔を見せる。
「電、よく無事に帰って来た。それに湊さん、無事で何よりだ」
「ご心配をおかけしました……」
深々と頭を下げる湊の肩を、ぽんと叩く。
「いや、無事で良かった。神波も安心してるだろう。だが、二階級特進は取り消しとなる。
「でしょうねえ……」
その言葉に、湊は苦笑いを浮かべる。
「次に電、よく敵中から、最小限の損害で帰還できたな。この功績を報いるに、少将への昇進を以て行う」
「電は、何もしてないのです」
「謙遜するな。犠牲は少なくなかったが、大多数の艦娘達が帰還できたのはお前の功績だ。もっと誇っていい」
電の頭を撫でる守に、電は思い出したように、顔を上げる。
「それよりも大垣長官。今すぐに、幕僚監部の高天原大尉を逮捕して欲しいのです!彼女がハワイ艦隊を罠に……」
訴えかける電に、大垣は苦々しい顔になる。
「いや、不要だ。高天原大尉は死んだ。
「えっ……?」
絶句する電に、湊は少し暗い顔になって、守の方を見上げる。
「目には目を、歯には歯を、ですか……誰の策ですか?」
「それはだな………」
言い淀む守だったが、隣室に控えていた未来が、扉を開け中に入って来る。
「私ですよ、湊准将」
「やはりですか、
苦笑を浮かべて言う湊に、未来の動きが止まる。
「えっ…あ、あなた……記憶が……?」
湊が、絞り出すように言葉を紡ぐ未来に近づくと、ギュッと抱き締める……そして、頭を優しく撫でた。
「全て……思い出しました。
「み……みなとぉ………」
それから少しの間、未来は声を上げて泣き続けた。それを湊が、優しく頭を撫でて抱き締め続けていた……
その様子を、隣室に控えていた金剛と時雨が、ドアの隙間から覗き込んでいた。そして、そっと静かに扉を閉じる。
「やっぱり敵わないのデース…」
「妬けちゃう?」
溜め息を吐く金剛に、時雨は気遣うように声をかける。
「いいえ。
笑顔に戻る金剛に、時雨も釣られて笑顔になる。
「それは、ありがとうございます」
二人が振り向いた先には、扉が開けられて、そこに未来と湊が
「未来さんが……笑ってる……」
そう言葉が出た時雨が、隣を見た時には、既に金剛は、未来に猛ダッシュして抱き締めていた。
「未来さん、良かったデース!本当に良かったデース!!」
痛いくらいに抱き締められた未来は、少し顔を顰めるも、頬にキスをすると、金剛は顔を真赤にして、
「はっ、ワタシとしたことが。つい未来さんのビューティフルなスマイルに、理性がキルしてたのデース」
そんな金剛に、未来も少し苦笑いを浮かべる。
「恥ずかしいから、人前ではやめなさい。妹や
「んなっ!?」
「ちょっと待て!」
「そうじゃないのです?」
湊と、様子を見にやってきた守は、顔を赤らめて絶句していたが、その横にいた電は、不思議そうに首を傾げる。
「こっちは大歓迎だが、湊さんにも都合があるだろう?」
「私はいいですけど、守さんにも好きな人がいるでしょう?」
同時に発言した二人は、顔を見合わせる。
『えっ…?』
そんな二人を見て、未来と電と金剛と時雨は、大きな溜め息を吐く。
「お二人には、さっさと結婚でも何でも、していただければいいんですよ」
丁度戻ってきた大鳳が、少しツンとした態度で声をかけるが、その態度が金剛には気になった。
「大鳳総秘書艦、もしかして貴女も……?」
「ええ、そうですよ。私だって守の事が大好きです。でも、湊さんという相手がいる以上、私は退くしかないじゃないですか?」
そう答えた大鳳は、少し涙を浮かべている。
「いいじゃないですか?
まだ理性が半分飛んでる金剛に頬擦りされながら、未来がとんでもないことを言い出す。
「ええっ!?私は、それでいいなら、いいですけど……」
「湊さんがそれでいいなら……」
顔を赤らめて、そんな態度をとっている二人を見た電は、隣にいた守に声をかける。
「と、言うことらしいのですが、大垣長官はどうなのです?」
「どうって……いや、俺としては、
困っている守に、電は大きな溜め息を吐く。だったら、何も問題ないじゃないか、と考えながら……
「だったら、今すぐ二人を抱き締めて来るのです。あと、ちょっと耳を貸すのです」
しゃがんだ守に、
「ちょっとまて、電少将。お前は、何を言い出すんだ?」
「
満面の笑みを浮かべた電に、がっくりと項垂れてから立ち上がり、二人のところに行き、抱き締める。
「きゃ…!」
驚いて声を上げる二人だったが、おずおずと抱き締め返す。
「お前達の気持は、良く分かった。こんな俺で良ければ、一緒にいて欲しい」
「はい……っ!」
「一件落着なのです」
電は、未だに金剛に抱き締められている未来に、声をかける。
「全くです。仕事の話が吹き飛んでしまいましたね。ところで……金剛」
「何なのデース?」
「人の見てる前で、服の中に手を入れるのは、やめなさい」
「あっ……」
少し後、司令長官執務室隣の応接室に、一同が座っている。
「西条幕僚長は、警察で保護していただくことにしました。彼は大事な証人です」
未来が口を開くと、続いて大垣が、重々しく口を開く。
「呉の三笠元帥が、湊さんの身柄を要求している。俺は
『なっ……!?』
絶句する一同だったが、湊が頷く。
「私は、直木智也さんから資料を預かっています。呉鎮守府で、深海棲艦の遺伝子を交配させて艦娘を強化していた、という証拠になります。そして、第13泊地前司令官の片桐英治元准将は、戦艦三笠と共に深海棲艦と戦って来た方で、彼女と決別した後、第13泊地で同様の研究を行っていたそうです」
「やはり、
そう呟く守に対し、電はずっと黙ったままだった。
「電、これは貴方の口から話すべきだ、と思います」
電に向き直ると、湊は諭すように語りかける。電は、少しの躊躇の後立ち上がって、皆を見回す。
「電は……
「ちょっと待て。何故、完全解体をする必要があった?」
守が、割り込むように電に問いかける。電は座り直してから、
「第三世代に移行する際に、軍は二つの仕掛けを施しているのです。一つは、
「………」
第三世代艦娘の大鳳、金剛、時雨は、俯いたままぐっと手を握っている……特に大鳳は、
「そして、第二世代の艦娘が残っていることを恐れた軍は、失敗した第1計画の艦娘であった、湊さんの記憶をロックし、第2計画の艦娘だった未来さんは、軍で飼い殺そうとし、第3計画の艦娘達を完全解体したのです。片桐提督は、それに反対したそうなのです。ですが、それに従った三笠元帥と、決別することになった……そして私は、匿われたのです。今まで第三世代の艦娘の
そこまで語る電に、湊は頭を撫でてから続ける。
「結局のところ、深海棲艦の侵攻は、
「わかっている。その前に、
大垣が、湊に割って入るように言うと、全員が守の方を向く。
「まず、独立連合艦隊についてだ。司令長官に電少将、主席副官に大村奈緒大佐、そして参謀長に、高梨湊准将を充てる。総旗艦は加賀、副旗艦は瑞鶴、水雷戦隊旗艦に北上を充てる。艦隊も、旧武藤艦隊を加えて、水雷戦隊を新設する。それから、電少将と湊准将の、
『えっ……?』
二人が戸惑っているのを見ると、大鳳が脇に抱えていたクリップボードを、テーブルに置く。
「まずは、「いなづま」の消費資材です。燃料750、弾薬900、ボーキサイト1500。ミサイル系の補充が、殆どこれです。次に、「みなと」の消費資材ですが、燃料は0でしたが、弾薬1200、ボーキサイト1000、そして、
『プッ……プルトニウム……』
絶句する一同に、守がすまなそうな顔をする。
「すまないが、そんなもの
「わかったのです。私達は、
何も言えない湊に代わって、電が頷く。
「そして、新たに編成された独立連合艦隊の初任務は、旧第13泊地の奪還だ。奪還後、独立連合艦隊の拠点は、第13泊地とする」
その守の言葉に、電と湊は立ち上がり敬礼する。
「謹んで拝命いたします」
その二人を見ると、未来が立ち上がる。
「詳しい話は、後日でもいいでしょう。さあ、金剛に時雨。食事に行きますよ。電さんも、一緒に行きましょう。独立連合艦隊の皆さんにも、ご馳走しますよ」
「人の恋路を邪魔したら、馬に蹴られます、なのです」
からかうように同調する電に、大鳳と湊と守の顔が赤くなる。そんな三人を生暖かく見守りながら、未来達は部屋を後にする。
「……俺達も官舎に戻るか?」
立ち上がると、それに釣られて立ち上がった、二人の手を握り締める。
「はい……守さん」
「守……よろしくお願いします」
二人の手を繋いだ守は、愛する二人を伴い、司令長官官舎へと消えて行った……
「司令長官、呉鎮守府の内偵調査が終わりました……って、またですか?」
舞鶴鎮守府総秘書艦兼総旗艦の
司令長官執務室には、多数のエレキギターが飾ってあり、草加拓哉大将の格好も、革ジャンに金髪を逆立てた、もはや
「明日、バンドのライヴなんだよ。で、どうだった?」
そんな拓哉の態度に、吹雪は大きな溜め息を吐く。
「はいはい、ライヴのチケットくださいね。それで
その報告に、拓哉は舌打ちする。
「あの糞ババアか。
「それは、ただの私怨ですよ」
憤慨する拓哉に、裏手でツッコミを入れる。
「ともかく、明日のライヴが終わったら、俺達も横須賀に行くぞ?」
「はい。雪菜はちゃんと、お義母さんのところに預けていきますので、私も行きますね。あと、髪は
「おう、わかってるぜ」
そして、横須賀へ集結する……
第ニ章 完
次回予告
電「ゆうべはお楽しみでしたね」
湊「ちょっ!」
最終章「独立連合艦隊編Ⅱ~第13泊地奪還~」
第1話「Restart」