小さな泊地と提督の物語   作:村上浩助

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ハワイ解放作戦~敵陣突破~

 港湾(パールハーバー)に到着すると、深海棲艦との戦いが既に始まっている。

 空では、艦載機同士のドッグファイトが繰り広げられ、どちらの陣営も防空に専念している。

 お互い、十分な距離をとっての航空戦で、砲雷撃戦は未だ行われていない。

 いなづまは、腰の哨戒ヘリのダーツに手をかけるも、この段階での艦載機発進をやめた。

 まずは、ESSMで上空をクリアにしなくては……

 

「状況は!?」

 いなづまが思考を巡らせていると、加賀は、彼女の代わりに総旗艦代理として指揮を執っていた瑞鶴に声をかける。

「今、50くらい、深海棲艦を叩いたけど、こっちも10くらいが中破で、輸送艦に急造した臨時工廠で入渠中よ!」

 その報告を聞いた、加賀は頷くと、瑞鶴に向き直る。

「分かったわ。指揮は引き継ぐから、貴女も入渠しなさい」

よく見ると瑞鶴も、ギリギリ小破で踏み留まっている状態だった。

「冗談じゃない!?私は、まだ戦えるわ!」

 流し目で加賀を睨み付けながら、傷ついた引き手で艦載機を放とうとする瑞鶴の腕を、加賀が摑む。

()無理をしてどうするの?撤退戦にも、貴女に動いてもらわなくては。だから休みなさい。()()()()()()()()()()()()()

 真っ直ぐ見つめる加賀に、瑞鶴も折れて頷く。

「わ、わかった……後任せる…加賀……」

「任されたわ。指揮権は引き継ぎます。()()()()()、包囲網を突き崩しましょう」

「はいっ!!」

 武藤司令長官(提督)の駆逐隊が、力強く返事をして海に降りて行き、戦線に参加すると、加賀も降り立ち、艦戦を放ち始める。

 いなづまも、海に降り立ち艤装を展開させるも、耳に耳鳴りのようなエラー音が鳴り響く。

 右目を閉じると、目に浮かぶエラー表示には、SSM-1B、ESSM、CIWS、残弾数ゼロという表示がされていた。

「えっ……?マジなのですか……?」

「どうしたの?」

 隣りにいた加賀が覗き込むと、いなづまは、少し冷や汗をかいた苦笑を浮かべる。

「端的に言うと、ほぼ弾切れなのです」

「はぁ?」

 怪訝な表情を浮かべる加賀に、いなづまは苦笑いのまま答える。

「途中で遭遇した戦艦水鬼との戦闘で、SSM-1BもESSMもCIWSも撃ち尽くして、単装速射砲と三連装魚雷とVLAしかないのです」

「えすえすえむ?いーえすえすえむ?しーうす?ぶいえるえー?よくわからないけど、魚雷が使えるなら大丈夫そうね?そもそも、今のあなたは、()()()()なのだから、前に出る必要もないわ」

 あまり、理解が追いついてないものの、加賀の進言に、いなづまも頷く。

「それもそうなのです。取り敢えず、状況を確認するのです」

 いなづまは対水上、対空レーダーを展開させ、意を決して、腰に帯びていた艦載機SH-60Kのダーツを二本、空に投げて展開させる。

 SH-60K哨戒ヘリは、航空戦の間を縫って、いなづまに対潜を含めた状況を伝える。

 深海棲艦艦隊は、空母水鬼を中心(旗艦)とした大艦隊で、空母水鬼の発艦させている艦載機が大量で、それを止めない限り、砲雷撃戦は厳しい……今は、空母部隊が奮戦して拮抗しているが……

 そんな空母部隊を狙って、側面から潜水艦部隊が迫っていた。まだ、他の艦娘達は気づいていない……!

「ええいっ!VL-ASROC発射!」

 いなづまは即座に、その叫びと共に、背部VLSコンテナより、アスロックを発射する。アスロックは勢い良く上空へと昇って行き、潜水艦隊のいる上空に向かって行く……

 そして、短魚雷が切り離され、パラシュートで海面へと着水し、海中に沈んでいった。敵味方共に、それを不思議そうに見るだけだった……

 VLAから切り離された短魚雷は、レーダー誘導され、先頭の潜水艦型深海棲艦に飛び込んで行く。

「!?」

 潜水艦型深海棲艦が気づいた時には、もう既に遅く木っ端微塵となり、水面に大きな水飛沫を上げていた。

「水雷隊!爆発ポイントに対潜爆雷を投下!敵潜水艦隊がいるのです!」

「了解!海の藻屑と!」

「なりなよ!」

 大井・北上等、水雷部隊が殺到して爆雷を投下して行くと、恐怖の象徴である潜水艦が、次々と海の底へと沈んで行く。

 戻ってきたSH-60Kを右手で回収すると、腰のベルトに収納する。

「やったのです!加賀!陣形再編!第三警戒航行序列で、対水上・対空戦闘用意!」

「了解!全艦、第三警戒航行序列!対水上・対空戦闘用意!」

 

 

 いなづまが到着してから、二時間以上が経過していた。各艦の疲労は、既に限界に達していた。

「提督!」

 自らも、速射砲で対空迎撃に加わっているいなづまに、武藤司令長官(提督)の駆逐隊の駆逐艦娘達が前に出る。

「私達に、突撃許可をください!」

「えっ?」

 いなづまは、駆逐艦娘達を見る。二人戦死し、残り四人になった駆逐艦娘達は、強い意志と決意の表情を浮かべていた。

「絶対、沈まないように。いいですね?」

「はいっ!」

 頷いた駆逐艦娘達は、一直線に、左翼の空母ヲ級に向かって行った。

「エスコートなのです!」

 いなづまは、哨戒ヘリを二機飛ばすと、駆逐艦娘に追随して行った。

「不知火ちゃんの仇っ!!!」

 その叫びと共に、艦載機の爆撃を掻い潜って、敵の目前まで突撃して行った。

 援護の為に発艦した哨戒ヘリと、加賀隊の艦載機が、アシストをしている。

 周囲の邪魔な雷巡は、SH-60K哨戒ヘリのヘルファイアⅡ対艦ミサイルにより、既に海の藻屑となっていた。

「沈めぇぇぇぇぇ!!!!」

 駆逐艦娘達の、渾身の力を振り絞った酸素魚雷が、空母ヲ級に向かって行き……

 爆発と共に、空母ヲ級の艦載機が次々と誘爆して行き、海中に沈んで行った。

「やった!!」

 その声の直後、四人全員に砲撃が直撃した。本隊から増援で急行した、戦艦ル級の砲撃をモロに受けてしまったのだった。

「ううっ……」

「退がるのです! 大井!北上!回収を!」

「りょ、了解!」

 大破状態で、沈むのを待つだけの駆逐艦娘達に、いなづまは大井と北上に後退支援を命じながら、哨戒ヘリは持っている爆雷、魚雷、ミサイルを全て発射し、敵を可能な限り沈めて、いなづまの元へ戻る。

 駆逐艦娘達も、大井・北上のフォローにより、なんとか沈まずに本隊に合流して、輸送船に収容され、緊急入渠で補修が行われる。

 

 負傷艦娘が増えて行く中、空母水鬼の()()()()()()()()()()をどうにかするので、精一杯となっていた。

「SSM-1Bがあれば………」

 いなづまは親指の爪を、血が出るくらい強く噛み締める。

 その直後、対空レーダーに()()()()()を感じ取ると、再び哨戒ヘリを飛ばす。

 哨戒ヘリのレーダーが捕捉した、()()()()は、筒状の翼のある噴進弾で、海面スレスレを高速で飛翔していた……あれは……?

「ト、トマホーク……?」

「どうしたの?いなづま……」

 加賀が声をかけたその直後、()()()()()大爆発を起こした。そして、次々と艤装が爆発して行く……誘爆だ……

「加賀さん!電提督! 航空隊が、空母水鬼の()()を確認!」

「く、空母水鬼が爆沈!?何で!?」

「今なのです! 出航!すぐに制空権を取り返して、包囲網を突き崩すのです!」

『おーっ!』

 驚愕した加賀に、割り込むようにいなづまが叫ぶと、艦娘達も叫び声を上げる。入渠中の艦娘達もそれを切り上げ、次々と再出撃を始めている……

 一番重傷の、武藤司令長官(提督)の駆逐隊の艦娘達も、緊急入渠で中破状態に戻り、対空兵装に切り替えて出撃し、航空機を迎え撃つ。

 戦線復帰した瑞鶴も、艦載機を出撃させると、他の航空隊と連携しながら、行き場をなくした艦載機を、次々と始末して行く。

 そして、旗艦を喪失した敵の包囲艦隊を突き崩さんと、人間部隊の乗った輸送船を中心とした、第三警戒航行序列にて、パールハーバーを出航し始めた。

「砲雷撃戦開始!()()()()()()()()()()のです!」

『おーっ!』

 艦娘達の声が、パールハーバーの海域に響き渡った……

 

 

「………これでよし」

 その戦場から、遥か遠い海上で、顔だけを出している艦娘が居た。自身が発射した、トマホークミサイルの着弾を確認すると、再び潜航しようとして……

「おい、待てよ?」

 声をかけられた。振り向くと、天龍等増援艦隊だった。当然ながら、増援艦隊の接近は把握していたが、わざと()()()()()()()()のだった。

「なっ……?」

 ()()()を見た天龍は、驚愕で声も出なかった。無理もない。半年以上前、海に落ちた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ。

「お久しぶりですね?天龍」

 高梨湊。いや、()()()()、みなと型潜水艦一番艦みなとが、優しく声をかける。

「やっぱり、湊ちゃん提督なのか?こんなところで何やってるんだよ!?皆がどれだけ心配したと……」

 詰め寄る天龍を、浮上して水上に浮かんだみなとは、優しく抱き締める。

「記憶を…無くしてたんですよ。()()()私は、とある人のところで保護されていました。そこで私は、()()()()を知ることとなりました……」

「その真実とは、何ですか?司令官?」

 吹雪が声をかける。

「私は、()()()()()・戦艦三笠を元にして、遺伝子操作を受けた第二世代艦娘の、()()()だったんですよ」

 その告白は衝撃的で、一同は、言葉を発することが出来なかった。

「失敗作?どういうことだい?」

 なんとか冷静を保っていた響が、怪訝な表情を浮かべながら問い掛けると、みなとは、

()()は、艤装を展開できなかったんです。それで、“双子の姉”の第2計画共々、計画は破棄。第3の計画にて、今の建造・ドロップ浄化システムが出来たんですよ。私は、()()()()()()という記憶を植え付けられて育てられた。まあ、士官学校に入って、艦娘に関わることになったのは、()()()()()()()()()()()ようですが?」

「でも、今は()()()()()動けるじゃない?」

 その暁の言葉に、湊の表情は暗くなる。

「助けて保護してくれた、海賊艦隊の皆は死んでしまいました……どうやら、私の軍服に発信機が付いていたみたいで、それを辿った呉鎮守府の艦隊によって……直木提督も、神通さんも、伊勢さんや日向さんも青葉さんも……皆……私だけを逃がしてくれました……その時の悲しみと怒りで、艤装が展開できるようになったんです。私も、怒りに我を忘れてしまって、反撃で艦娘を撃沈させて、この太平洋の深海で、何ヶ月もずっと隠れて居ました。もしかしたら、私は追われる身かもしれませんし……」

「な、何ヶ月も!?酸素は!?食料は!?大丈夫なんですか!?」

 驚く雪風に、みなとは少し苦笑いに戻る。

「酸素は供給されてますよ。私、()()()()()()()()()()ですから。食事も……まあ、何とかしました」

 流石に、携帯食料が尽きた後は、生魚を食べていた、とは口にできないみなとだった。

「表向きには、まだ湊ちゃん提督はMIAのままで、二階級特進したままだから、まあ大丈夫だろう?」

 天龍の言葉に、首を振るみなと。

「戦艦三笠……いえ、呉鎮守府司令長官三笠元帥は、とても恐ろしい方だ、と直木提督は言っておられました。もしかしたら、私が逃げ延びたのを、知っているかもしれない」

「それでも、電も私も姉さん達も吹雪も天龍も、連合艦隊の皆も、日野長官や大垣長官が守るわよ!」

 力強い雷の言葉に、暁型の上の姉二人も頷く。

「私はまだ、希望を持って良いんですか?」

 その言葉と共に雷を真っ直ぐ見るみなと。その目を見た雷は、一瞬心が塗り潰されそうになっていた。みなとの目は、悲しみに満たされていた……

「どんどん持っていいわよ!希望が足りなかったら、皆が分けてあげる!もっと、私達を頼っていいのよ!」

 それでも、八重歯の見える笑顔を絶やさず、胸を張る雷に、みなとは抱き付くと、声を上げて泣いた……泣き続けた……

 そんなみなとを、雷はずっと抱き締めて、頭を撫で続けていた……

 

 

 

 

 


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