小さな泊地と提督の物語   作:村上浩助

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ハワイ解放作戦~支援者~

 台場軍港の会議室に、遠征艦隊である天龍、暁、響、吹雪、雪風が集まっていた。

 先ほど、定期航路護衛の遠征を終え、物資を搬入してきたところに、

 台場軍港司令ーー通常は、独立連合艦隊司令長官が兼任しているがーー代理である奈緒から、すぐに会議室に行くように、と言われていたのだった。

 そこに扉が開かれて、日野未来大将、その秘書艦補である時雨が入って来る。

 その後、独立連合艦隊司令長官副官の奈緒と、同じく総秘書艦の雷が入って来る。

 

「日野長官か。良いのかよ、大湊は?こんな長く空けてて、前線じゃねえのか?」

 もう、大湊に帰ってるものかと思っていた天龍が声をかけると、代わりに時雨が答える。

「天龍さん、あっち(大湊)は秘書艦である金剛が、司令長官代行を兼ねてる。大丈夫だよ。膠着状態の大湊よりも、もっと大事なのがハワイだからね」

 その言葉に、吹雪が手を挙げる。

「ということは、ハワイで何かあったんですか?」

 吹雪の質問に、未来は時雨に目配せすると、時雨は資料を配り始める。そこには、()()()()()()()()と、書かれていた。

「何か有る前に、先手を打たなければならなくなりました」

 相変わらずの、抑揚のない声で語り始める未来に、天龍達は訝しげに資料を見る。

 資料にはいくつかの可能性があり、もちろん成功するパターンも書かれているが、()()()()()()()として、わざと上陸させられた上、深海棲艦化した艦娘と市民に全滅させられるパターンが記載されていた。

「お、おい。このEパターン、冗談だろ?」

 天龍は変な汗を自覚しながらも、目の前の()()()()()()()()に問いかけるも、未来は容赦なく答える。

「実のところ、その可能性が高くなりました。幕僚監部の高天原大尉が、裏でどこかに通信を送っていました。今回の作戦を()()()()のも彼女です。全て時雨に調査させました。時雨、続きをお願いします」

 未来がそう言うと、椅子に座り込む。代わりに時雨が敬礼し、未来の説明を引き継いだ。

「大湊警備府司令長官付秘書艦補兼遊撃鎮圧隊長の時雨だよ。この時期に、ハワイを落とす作戦に不審感を抱いた、日野司令長官の命令によって、調査をしていた。残念ながら、作戦の阻止は出来なかったものの、副参謀長に大湊警備府の楊准将を潜りこませることに成功している。不審な点があったら、撤退準備をするよう言ってあるし、電提督は不敗の女神様の後継者と言われてるし、最悪なパターンにはなりにくいだろうね。本題に戻るよ」

 時雨が、ここで言葉を切り、一度全員を見回すと話を続ける。

「高天原大尉について、確証はないものの、次のことが分かったんだ。大尉は高梨中将と同期で、席次は上から10番目、割とエリートな感じで、艦娘本部には入れなかったものの、幕僚監部で順調に出世を重ねている若手の出世頭。ただ日頃から、劣等生の高梨中将に、出世の先を越されたことに危機感を抱いていたようで、同僚にもこぼしていたそうだよ。あと、高梨中将が大工廠で深海棲艦化について話をしていた時に目撃した証言があったり、安藤元准将の演習申請を故・高野大将の頭越しに、幕僚監部で許可を出したのも、西条大将に捩じ込んだのも、彼女だし、旧神波艦隊に不必要な風聞を流して、衝突を目論んだり、高野長官の火災現場の野次馬で発見されたり、呉鎮守府の艦政本部に頻繁に顔を出したりと、色んな所に関わっている」

 その言葉に、天龍が机に拳を叩き付けて立ち上がる。

「その高天原って女が、湊ちゃん提督を狙って、敬一郎提督を死なせて、元長官達を焼き殺し、ハワイ艦隊を陥れた黒幕なのかよ!?さっさと逮捕すりゃいいじゃねえかよ!?それで、横鎮から応援差し向ければいいだろ!?」

「この事実で、黒幕だと断ずることは無理だ。だから残念だけど、まだどうすることも出来ない。加えて言うなら、横須賀鎮守府と大湊警備府に、幕僚監部から出撃禁止命令が出ている。だから、大垣さんも大鳳さんも動けない」

「くそったれが!もういい。オレがぶちのめして……!」

「天龍さん!」

「ダメよ!天龍さん!」

 憤りを禁じ得ず、再び拳を叩きつける天龍を、両脇から吹雪と暁が腕を摑む。

「天龍さん、私だってブチ切れてるんだよ。静かにしてくれないか?」

 その後ろで静かにいう響に、天龍は「すまねえ」と素直に座る。それを見た時雨は、未来に向いて頷くと、未来が再び立ち上がる。

「そこで、あなた達の出番です。独立連合艦隊は、連合艦隊本隊とあなた達遠征艦隊があり、独立行動権を有していて、それを阻止できるのは()()()()()()()()()になっています。さて、質問です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、どなたでしょうか?」

「ふぇ?あたし?」

 未来の声に、素っ頓狂な声を上げる奈緒。未来はわざとらしく、大きな溜め息を吐く。

「30点。しっかりしなさい、次席卒業生。という訳で、現状動けるのは、あなた達遠征艦隊だけ、になります。幕僚監部が防衛省に根回しをして、出撃禁止命令になる前に、大村大佐が出撃を命令してください。後は禁止命令、撤退指示が出ても、通信が届かないとかなんとか言って、放置すればいい、遠征艦隊側も通信は全てカットし、傍受のみで進撃すればいいです」

「了解です。という訳だから、艤装の換装と補給が済み次第、緊急出撃。天龍、任せていい?雷も出撃してちょうだい」

 未来の言葉を理解した、次席卒業生(奈緒)は頷くと、天龍への正式な命令を下す。

「おう、わかったぜ!」

「了解よ、この雷様に任せなさい!」

「分かったわ!」

「了解」

「わかりました!」

「了解しました!」

 口々に立ち上がりながら言うと、すぐに工廠へと走っていく。

 それを見送ると、未来は立ち上がる。

「時雨はたった今より、一日の期限付きで、台場軍港司令補佐官として出向。後はお任せします。私は出かけてきます」

「了解。僕に任せてよ」

「大将閣下はどちら……へ?」

 頷く時雨とは対照的に、不安そうに声をかける奈緒は、未来の顔を見て言葉に詰まる。

 さっきから同じ無表情だが、何か()()()()()()()()()()()()()()()()を感じたからだ。

「ゴミ掃除です。大村大佐は目が悪いのですから、時雨とおとなしく執務をしていてください。司令長官の帰還まで、執務に穴を開けないことも、()()()()()です」

「大村大佐、今の(ブチ切れた)未来長官に何も言わないほうがいい。仕事場に案内してくれるかな?」

「あ、はい。分かりました。時雨、執務室に案内するよ」

 奈緒は、未来の言葉と時雨の助言に従い、時雨と共に司令長官執務室に向かう。

 そして、彼女もまた会議室を後にした……

 

 

「はい。それで現地の工作員と合流を……はい、ご無事で……大東少将」

 海軍幕僚監部にある、西条大将に用意してもらった作戦部の個室で、高天原大尉は何やら通信を行っていた。通信相手は、ハワイ艦隊副司令長官の大東のようだった。

「お話は終わりましたか?高天原」

 通信が終わったのを見計らって掛けられた声に、ぎょっとして振り返ると、黒い軍服に身を包んだ未来が立っていた。腰には軍刀、腕には死神をあしらった腕章……元佐世保鎮守府・鎮圧隊の腕章が着けられていた……

「っ……、高梨さん!?いや……日野大将!」

「残念でした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何を証拠に………」

 そう言いつつ、腰に身に着けていた銃を取り出そうとして……その銃が、床に転がった。手首ごと……未来は、軍刀で高天原大尉の手首を落としていた。

()()()()が、証拠じゃないでしょうかね?」

「ぎゃああああああ!!!!」

 手首を押さえて転げまわる高天原大尉に、未来は手首を強く踏み付ける。飛び散った高天原の血が、未来の顔にも飛び散る。

「ぎゃあぎゃあと、まあ煩いものです。もうちょっと静かにしてもらえないと、お話できませんよ?」

 そう言いながら、手首を踏み付けたまま、左足で鳩尾を蹴り上げる。

「ぐぼっ……おえええっ!」

 今度は、吐瀉物を吐き出しながら蹲る、高天原大尉。

「だいたい調査済みです。別に、貴方がハワイ艦隊を葬ろうとしても、神波中将を殺しても、高野元長官を殺しても、()()()()()()

 足で顔を踏みつけ、自分を無理やり見上げさせる。無表情の未来は、その高天原に絶対零度の視線を向けていた……

 その目の瞳孔は開かれており、ゴミでも見るような目で見下ろしていた……

()()()を付け狙って、行方不明にさせたことは、()()()()()()()

 高天原大尉は、恐怖のあまり失禁していた。もはや恐怖で精神をやられてしまったらしく、言葉にならない叫びを、何度も繰り返している。

「精神が壊れたからって、許されると思うなよ?クソ外道」

 

 数時間後、血まみれの個室で、バラバラにされた高天原の屍を、西条大将が発見することになる。

 恐怖に満ちた表情の生首には、()()()()()()()()()()()()()()()()が咥えられていた……

 

 

 

 その頃、白色の第二種軍装に着替え直した未来は、さっさと幕僚監部を後にしようとしていたが、廊下の壁にもたれかかっていた大男、大垣守大将に呼び止められる。

「日野、あまりやり過ぎるなよ?」

「大垣さんですか。どうも、高天原とハワイ艦隊の大東は繋がっていたようです。楊に期待しましょう」

 そう言って、立ち去ろうとする未来の肩を、大垣が摑む。

「何ですか?私は、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「一つだけ聞かせろ?」

 振り向いた未来は、じっと守を見るが、守は臆することなく視線を合わせる。

「何でしょう?」

「お前は、湊さんの双子の姉妹だな?」

「………」

 答えない未来に、ぐっと摑む力が強まる。

「答えろ」

「知らない方が、身の為ですよ」

「俺は()()だ。死ぬのが怖くて、軍人なぞやれるか」

「ならば………」

 その言葉の直後、守は肩を離し後ろに飛び退く。未来は、既に刀を抜いて、横薙ぎに刀を振るっていた。

「殺気もなしに、刀を抜いて斬りかかるとは恐れ入る。だがそれでは、人は斬れんぞ?」

 そう。守の指摘の通り、刃を返した(峰打ち)状態で、振るっていたのだ。

「ええ、殴り伏せて止めるつもりでした。繰り返します。これ以上、首を突っ込むのは……」

 言い終わる前に距離を詰めて、未来を壁に押し付けて、顔の横に片手を乱暴に置く。

「くどい。何度も言わせるな。本気の喧嘩(ころしあい)なら、俺の専門だ。大横濱同盟(暴走族)の三代目総長を、あまり舐めるな」

 その言葉に、無表情ながら、視線が少し和らぐ。

「湊に嫌われますよ?」

「かもしれん。だが俺は、こういう男だ」

 ポケットからフェイシャルペーパーを取り出すと、未来の頬に残っていた、乾いた血を拭う。

「まだ血が付いていた。少しスッとするが、我慢しろ」

「……貴方は本当に馬鹿です、大馬鹿者です」

「だろうな………お前には負けるが」

「かも知れません」

 守から、ぷいっと顔を背けて言う未来の言葉に、守は少し笑みを浮かべると、

「ならバカ同士、仲良くやろうや。台場軍港に、明石と増援の工廠要員と物資を手配した」

「感謝します」

 素直に礼を述べると、守は、“行くぞ”と、裏口に繋がる方向へと歩き始める。

 未来は、その守の後ろに従いていった。

 




ドライアイスプリンセスじゃないので高天原の最期はエグすぎるため省略しました。

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