小さな泊地と提督の物語   作:村上浩助

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今回と次回は残酷な描写が特にあります。


お気をつけ下さい


鮮血の砲雷銃撃戦

「きゃあああっ!!!」

「えっ!?」

 

 加賀が、悲鳴が響いた食堂の方を見ると、突き当たりにある食堂の扉のガラスに、()()()()が飛び散ってるのに気づく。すぐにM93Rを構えながら、管理棟の中に飛び込んでいった。

 食堂に向かう途中にも、悲鳴は鳴り止まない。加賀は食堂の前に立つと、扉を開けようとする。だが、中から鍵がかかっていて、開けることが出来ない。

「開けなさい!何があったの!?」

 加賀が必死にドアを叩いて叫ぶも、悲鳴しか聞こえて来ず、やがてその悲鳴も途絶えていく……

 加賀が、即座にM93Rのバーストショットでドアノブを破壊し、ドアを蹴り開け中に飛び込むと、噎せ返るような血の臭いが立ち込めている。

 第3艦隊の艦娘達が、安藤艦隊の艦娘達に()()()()()()……いや、()()()()()()()だった……

 一歩足を進めると、何かを踏んだ感触がする。加賀が足元を見ると、無残に切り裂かれた駆逐艦娘の死体だった……恐怖の表情で、目を見開いたままで、まるで加賀を見上げているようだった……

「これは!?」

 加賀ははっとなり、顔を上げると、安藤艦隊の艦娘達が、口と両手を赤く染めながら、深紅の瞳で狂ったような笑みを浮かべて、こちらを見ている……

 その近くに倒れている、第3艦隊の艦娘達の首筋には、()()()()()()()()()()()が見える……

 そして、安藤艦隊の艦娘達には、両手に()()()()()が付いていて、既に艤装が展開されている……()()()……!

「艤装!?……っまずい!」

 すぐに、バックステップで退がると、窓を体当たりで破って管理棟の外に躍り出る。その直後、大きな爆発音と共に、管理棟のドア付近が噴き飛んで、大きな穴が空く。

 そして、扉と共に破壊された外壁の大きな穴から、()()()()()()()が加賀に向けて迫ってくる。

 零式艦戦の機関砲が加賀を襲うが、加賀はそれから逃げつつも、M93Rのバースト・ショットで数機を撃ち落とす。更に襲い掛かってくる艦戦に舌打ちすると、弾切れになったM93Rを投げつけながらソードオフ・ショットガンで対空攻撃を続ける。

 片っ端から撃ち落とすも、加賀もリロードの合間に、機関砲の弾幕で被弾して、負傷していた……

 加賀の白い弓道着に、赤城の色と同じ、赤い色が染み出していく……

「どうも、これはヤキが回ってきたようね……ごめんなさい…赤城さん…」

 自嘲じみた苦笑いを浮かべ、空を見上げると、連続した銃声と共に、艦戦が全て爆発四散していく……

 はっ、となった加賀が銃声の方を見やると、ミニミ軽機関銃を構えた、赤城が立っていた。

「赤城さん!?」

「加賀さん、大丈夫ですか!?」

 加賀が赤城の元へ駆け寄ると、安藤艦隊の艦娘達が、砲撃で出来た穴からのろのろと出てくる。その艦娘達を見やると、赤城も()()()()なのだ、と判断できた。

 なぜ、赤城がここまで早く駆けつけることが出来たか?というと、居酒屋で一人晩酌をしているも、急に加賀を誘いたくなって、一旦泊地に戻って来たのだった。

 その直後、砲撃音が聞こえた為、砲撃音の聞こえた管理棟の途中にある防御隊詰め所で、ミニミ軽機関銃とありったけの弾薬を拝借して、駆け付けたのだった。

「赤城さん……おそらく、彼女等は()()()()()しています……」

「……分かりました。私が弾幕を張ります。加賀さんは、ショットガンで狙撃してください」

 二人が顔を見合わせて頷き、両サイドに身を躍らせると、二人がいた場所は、砲撃の集中砲火を受けて、大きな穴が開いていた……

 赤城は、狙いを絞らせないように走りながら、ミニミ軽機関銃の5.56㎜NATO弾をばら撒いていく……砲撃で、管理棟の建物には、大きく穴が開いていく……

「赤城さん、加賀さん、無事ですか!? 防御隊、安藤艦隊艦娘を()()と判断!鎮圧せよ!」

 そして、反対側に遅れて駆け付けた、各務原大尉率いる防御隊が到着し、安藤艦隊の艦娘達に容赦無い銃弾を浴びせるも、傷一つ付いていない……

「チッ……」

 舌打ちをした駆逐艦が振り向くと、防御隊へ砲撃を加える。各務原大尉は回避して無事だったが、その砲撃で、防御隊に多くの死傷者が出てしまっていた……

「大尉!こっちは良いです!早く逃げてください!」

「すまない、後退する」

 その駆逐艦娘の足の魚雷へ、ショットガンを放ちながら、加賀は各務原大尉へ警告を発する。各務原大尉は頷くと、部下に命令して負傷者と共に後退して行く……

 後には、明らかに助かりそうもない者達だけが、残されていた……

 加賀のショットガン射撃は、初弾で足に装備された魚雷に命中して、誘爆を起こさせていた。足を失い、倒れ込んだ駆逐艦娘の背中へ、スラッグ弾を放つと、背中にぽっかり大きな穴が開いた駆逐艦娘は、動かなくなっていった……永遠に。

「加賀さん!赤城さん!」

 駆け付けてきた北上と大井は、腰に帯びていたコルト・ガバメントで、艦娘達に射撃をくわえる。

 頭に数発当たった駆逐艦娘が、倒れて動かなくなる。

 しかし、航空戦艦がギロリと振り向くと、二人に向けて、容赦なく主砲副砲を放つ。

 北上は避けようとするも、先ほど倒れた駆逐艦娘の艤装の残骸に足を取られる。

「しまった!」

「北上さん危ない!」

「っ!」

 大井が、北上を突き飛ばして身を挺してかばうも、目の前に主砲と副砲が着弾する。

「ぁぁっ!!」

「大井っち!」

 直撃は避けたものの、大井が着弾の衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩き付けられて意識を失った。慌てて駆け寄る北上に、再び砲撃を加えるが、飛びつくように大井を抱き寄せて、地面を転がりながら回避する。

 そして、立ち上がろうとして、激痛に顔を歪める。足を見ると、自分の足があり得ない方向に曲がっていた。激痛に歯を食いしばりながら、抱き締めている大井の鼓動を感じると、弱々しい声で加賀達の方に向くと、

「後お願い……」

 と、意識を手放していった……

「加賀さん! 航戦をなんとかしてください!」

 ベルト一本撃ち尽くして、遮蔽を取りながらリロードしている赤城は、同じく遮蔽を取っている加賀に叫ぶ。

「わかりました!」

 加賀は散弾・散弾・スラッグ弾の順番で、弾を装填し直すと一直線に航空戦艦艦娘の方に走り、二発の散弾を叩き込む。その散弾によろけた隙に、更に距離を詰めると、頭にショットガンを突き付ける。

「これで、終わり(ジ・エンド)よ。あの子達の仇……私が取らせてもらうわ」

「キ……キサマアア!」

「さようなら」

 無表情で加賀は引き金を引く。航空戦艦艦娘は頭部にスラッグ弾の直撃を受け、倒れて動かなくなった……

 すぐに加賀は、倒れている大井と北上の方へ走る。

 残った軽巡の方へ、赤城が軽機関銃をばらまくも、それに怯まず、あちこちから血を流しながら迫ってくる。赤城は恐怖に竦んで、トリガーを引いたまま動けなかった。

「赤城さん!避けて!」

 軽巡の鉤爪が、赤城に突き立てられる直前に、赤城は加賀の声で我に返って軽機関銃を手放し、身体を捩って回避する。左肩をざっくり抉られながらも回避すると、軽巡艦娘もそのまま倒れて、動かなくなった。

 残るは、正規空母艦娘と軽空母艦娘だったが、全機を喪失した、足の遅い二人は、負傷したとはいえ、まだ動ける一航戦の二人の敵ではなかった。

 パイファーツェリスカをホルスターから抜いた赤城と、ソードオフショットガンを構え直した加賀が、お互い牽制と狙撃を繰り返し、二人を地面へと沈めていった。

「大丈夫!?」

 最後に駆けつけてきた陸奥を見て、加賀ははっと気づいたように、

「陸奥さん、提督は!?」

「今、長門が向かってるわ!ごめんなさい、私達睡眠薬を盛られていて……」

「分かりました。私達も……ぐっ……」

 加賀は、今まで麻痺していた痛みが押し寄せて、顔を歪めながら膝を着く。黒いニーハイは血に染まっており、赤城も手に持っていた拳銃を投げ捨てて駆け寄り、抱き寄せる。

「赤城さん、すみません……」

 歯を食いしばって、痛みに耐えながら言う加賀に、首を横に振ってから、加賀の様子を見る赤城。

 右肩左腕と腹部に、撃たれた痕跡が服に残っていた。太ももにも一発。そして、失血して顔が青白くなって来ている。艦娘とて、負傷をすれば痛いし、出血が過ぎれば死ぬ。

 赤城は、陸戦隊詰め所に常備してあった、艦娘用鎮痛剤の注射器を取り出すと、右腕に手早く注射していく。

 加賀も、痛みが和らいでいくと、安心したかのように、意識を遠くに手放していく。

 

 陸奥は、倒れている安藤艦隊の艦娘を見やると、凄惨さに顔を歪める……

「陸奥さん。食堂に……まだ生きてる子達が……いるかもしれません!」

 赤城は、自らも腕を負傷しながら、加賀の応急手当を始めつつ、陸奥に食堂を見てもらうように頼み込むと、陸奥は頷き、デザートイーグルを片手に、食堂へと足を進めていった。

  

 食堂に踏み込んだ陸奥は、あまりにも酷い惨劇に、顔を顰めていた。

「これは酷いわ……」

 倒れている艦娘達に触れてみる。ひんやりと冷たくなっていて、既に死んでいる事がわかる……

 そんな中、食堂の奥のテーブルから、カタンと物音がする。

「誰?出て来なさい」

 デザートイーグルを構えながら声をかけると、そのテーブルの下から、第3艦隊の駆逐艦娘である、雪風が出てきた。

「む……陸奥さん……わたし……皆を助けられなかったです……」

 雪風は、陸奥に抱きつき泣き始める。この惨劇をずっと()の当たりにしていたのだった……

「大丈夫よ、もう大丈夫………」

 ぎゅっと抱き締めながら、泣き止むまで頭を撫で続けていた。

「陸奥さん……」

 入口の方を振り返ると、赤城が立っていた。雪風は、陸奥の腕の中で泣き疲れて、眠っていた。

「赤城さん、雪風が無事だったわ。それより、すぐに第2艦隊の遠征中止を」

「そうですね………加賀さんと大井、それに北上は、防御隊が担架で、詰め所まで運んで行きました。

 私達も詰め所に行きましょう」

 雪風を抱きかかえた陸奥は、赤城を伴い食堂を後にした……

 




やばい誤字があったので直しました

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