モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
砂上船キングダイミョウ
嵐の夜だった。
最愛の彼女は自慢の防具と武具を背負い、笑顔で語りかけてくる。
「行ってくるね。ケイスケとアカリの事よろしく」
「態々こんな嵐の日に行かんでも」
彼女は村、いやこの大陸でも名の知れたハンターだった。
彼女がタテガニグループという大企業の家系であるのに関わらずハンターになったのはなぜか、答えは一つだ。
「そこに困っている人が居るなら、駆け付けて助けるのがハンターでしょ?」
「がっはは、それもそうだ。気を付けて行ってこい!」
彼女の腕を信用していた。彼女は俺よりずっと強かったから。狂戦士の二つ名そのままの強さを持っていたから。
嵐の日。名も知らぬモンスターに襲われた村を助けるために出掛けた彼女が家に帰ってくる事は無かった。
そこに困っている人が居るなら、駆け付けて助けるのがハンターだ。
俺はその言葉を忘れやしない。
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「起きろよシンカイ。良く寝るな、お前は」
そう言われながら自分の身体はゆさゆさと揺らされる。
誰だ、この竜車の程好い揺れによる安眠を邪魔するのは。
「起きろ!!」
「あ、アニキ……もう五分」
なんだアニキか。そういや猟団に入ったんだっけ。未だに実感が沸かない。
「おいシンカイ起きねーぞ」
「ラルフ、持ってきてくれ」
「ったくしょうがねーな」
何の話をしているんだ?
「よっこらせっと」
「うぇ?! うぉぉ?!」
次の瞬間、身体が空に浮く感覚で完全に意識は覚醒する。何が起きたかと言えば自分の身体はラルフ・ビルフレッドの肩に掲げられていたのだ。なんてパワーでしょう。
「やっと起きたか」
「おはよう皆さん、皆のアイドル矢口深海です。……あのアニキ、下ろしてくれまへん?」
ずらっと背後に並ぶ皆に挨拶をして、アニキに要望を伝える。寝坊してすみませんでした。下ろしてください。
「いや、寝起きで辛いだろ? 俺が運んでってやるよ」
悪人見たいな顔でそう言うアニキ。このまま人身売買の現場にでも連れていかれそうな雰囲気なんですが。
「全然!! 全然辛くないで!!」
「遠慮するなって」
「恥ずかしいから辞めて!!」
良く見れば見知らぬ村にたどり着いとるし。寝てる間に何処だここ!
そんな中を自分はアニキの肩の上で歩いて村の端にある集会所まで向かったのであった。
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「酷い目にあったで……」
「きゃっはは、滑稽だったわ滑稽! あっはははは」
酒場でジュースを飲みながら項垂れる自分の横で、笑い転げて居るのはサーナリアだ。
殴ってやろうかなこいつ。
「寝坊助は女の子にモテないぜ?」
隣に座りながらそう言うタクヤ。え? そうなの?
「寝坊助じゃなくてもモテない奴居るけどなー」
「今なんつったサナ!」
「え、私何も言ってないよ? もー、怖いなぁタッ君。てへぺろ」
いつか後ろから刺されるぞこの小娘。
「しかし広い村やなぁ」
ここがこの狩猟団の拠点なのだろうか?
グングニールのような街と比べる訳には行かないが、先日訪れたルーンという村と比べればそれなりに大きな村に思える。
密林と砂漠を分けるような場所にあるこの村は北を見れば砂漠、南を見れば密林と面白い風景が見てとれた。
砂漠の方にある集会所。外には砂上船が何隻も止まっていて交流の広い村だと伺える。
そして何より異色を放つ、他の砂上船とは比べ物にならない大きさの砂上船が一つ止まっているのが気になった。
あれは何だろうか? 海でも航海して、漁でもしてきそうな大きさのその船はとても個人の物とは思えない。村の所有物か、ギルドの船かどちらかだろう。
ところで砂上船と言うのはだ。
地域によるが砂漠の砂は普通の砂より非常に細かい。モンスターが簡単に砂の中に潜るのはそのためなのだがそこは割愛しよう。
この砂漠を竜車や歩きで移動するにはかなりの労力が必要な訳だが、この細かい砂で出来た大地と言うのを利用し、水を渡る船で砂を渡ろうと考え作られたのがこの砂上船だ。
どうなっているか構造までは知らないが、普通に海に浮かぶ船となんら変わらないとか聞いた事がある。
砂漠を長期間移動するならばこの砂上船は必須な交通手段なので、この村を拠点としているなら橘主猟団もあの巨大な船とは言わずとも何か小さな砂上船くらい持っているのでは無いだろうか?
『カラドボルグという砂漠と密林を繋ぐこの村は砂上船での交流や物資交換が盛んで、二つの地形をすぐに往き来出来て何かと便利なのでハンターで無くても人気の村です。観光地でもあったりして、観光名所は村の中央つまりここにある巨大サボテン! 全長三メートルに達するこのサボテンは推定百才超えとまで言われています。他にもオアシスや菜園など観光スポット盛り沢山です』
そうスケッチブックにズラリと書き列ねたアカリは笑顔でそのスケッチブックを見せてきた。
心無しかはしゃいでいる気がする。気がする。
「サボテンやべーよサボテン!」
「確かにでかいな」
妙にサーナリアもはしゃいでいる。
「よしお前らクエストの仕度は済んだ。夕方には出発する」
そう言いながら現れたのは、デルフさんと並んで集会所の受付に行っていたケイスケだった。
「え? もう出るんか?」
拠点に着いて早々に出発だと? もしかして結構忙しく活動してるのだろうか。
まだ自分の住む家も決まって無いのに。
「あ、もしかして勘違いしてる?」
玩具を見付けた子供のような眼で、自分を見ながらそう言うサーナリア。
な、なんだ? 何を勘違いしてると?
「なんだ、拠点の事これまで誰にも聞いてなかったのか」
ケイスケも笑いを堪えるような表情でそう言う。え? 何? ドユコト?
「このカラドボルグ言う村が拠点や無いんか?」
「違うな。俺達の拠点……家は他にある」
これまでにまして不適な笑みを浮かべるケイスケは眼で皆を諭すと乗船場のある方へ歩き出す。
拠点で、家だと? そしてこの方向。この人数を収納し拠点となり得るような船の大きさ。
まさか———まさか?!
「なん……だと……」
思わず出た声はそんな驚きの声だった。それ以外に言葉もでなければ感想も無い。
海で漁でもするんじゃ無いかと思えるような巨大な砂上船。確かにこれならこの人数のハンターの拠点になり得るだろう。
そう、それはさっきまで全く関係無く他人事だと思っていた巨大な砂上船の事だった。
「がっははは、驚いてるな。そうだ、これが俺の……いや俺達の船! キングダイミョウよ」
なんて前衛的な名前。
その名前の由来なのか、船の先端をダイミョウサザミという甲殻種のモンスターが宿にする角竜の一種であるモノブロスの頭骨が飾っていた。
しかしダイミョウは宿としてモノブロスの頭蓋を『背中』に背負うので、これではキングダイミョウというよりキングモノブロスである。
そんな細かいところはツッコミを入れてはいけないのか。皆自然と船に乗り込んでいく。
それを見て、本当にこの船が彼等の拠点なのだと思い知らされた。
「ほら、お前も乗るんだよ」
デルフさんはそう言い、大きな手で自分を引っ張る。
甲板に上るとその大きさをまた感じる事が出来た。村を一望出来る高さでも、帆を入れたならここは一番高い所という訳でもない。
ははは、見ろ人がごみのようだ。とか、思わずそう言いたくなる。
「改めて改めてようこそ、橘主猟団へ」
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「帆を上げぃ!」
荷物の詰め込み等が終わると、デルフさんのその合図で巨大な砂上船キングダイミョウは動き出した。
良く考えれば大名の王、的な名前なんだが大丈夫なのだろうか。
砂上船はゆっくりと進みだし、村を離れていく。あんなに大きかったサボテンも直ぐに眼に見えなくなった。
ここが、この砂漠が、この船が、この橘狩猟団の拠点なのか。地平線の彼方までもが砂に覆われる風景を三百六十度拝みながらそう思う。
「シンカイにまずは船内の案内をするか。誰にやらせるのが最適だ? 誰に頼みたい?」
顎に手をやりながらケイスケはそう言う。
案内待ってました。んで、選べるなら女の子が良いな。
「カナ———」
「カナタだけは選ぶなよ」
眼が怖いよケイスケさん。
「じょ、冗談や。ほなアニキに頼もうかな」
この選択肢は完全にバットエンドルートな気がするが、焦ってしまった。
「俺かよ! お前ホモなのか?!」
「ちゃうわ! ケイスケが怖いから!」
「カナタは俺の嫁だ」
眼が本気だもん。
「分かった、ラルフとアカリに頼む事にしよう」
「なんだと?!」
アカリの名に反応するタクヤ。あ、これまた敵意向けられる奴だ。
「と、いう事で二人にクエストだ。船の案内をシンカイに頼む。報酬は50ゼニー」
回復薬も買えんがな。
「クエストスタートだ!」
大した任務では無いのだが、気合を入れたケイスケの合図にアカリも答えて気合を入れるのだった。
第二章の始まりです
今回狩りはありません!()
二章というよりは物語の登場人物達を紹介する話になりそうです