モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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前略、文字数がいつもの倍あります。


Epilogue
エピローグ


「そっち行ったでアカリ! 一旦退がれ!」

「ん!」

 自分の声に素早く反応して、ヘビィボウガンを折りたたむ少女。

 短くて黒い髪を風に揺らしながら、彼女は難なく現在の居場所から退却する事が出来た。

 

 

「ブルルォゥッ」

 そして、アカリが居た筈の場所に辿り着く一匹のモンスター。

 

 二本の立派な牙と、ボスの特長である白の混ざった立派な毛。

 ブルファンゴのボスであるドスファンゴは、狙撃手を見失った苛立ちを見せるように鳴き声を上げた。

 

 

「……今や、アカリ」

 小さな声で。いや、自分でも出しているのか分からないような声でそう呟く。

 ただ、彼女にはそれは関係無いようだ。

 

 自分の口元を見ていた彼女は、再び展開したヘビィボウガンのトリガーを握る。

 発射される弾丸。ドスファンゴの横腹に命中した火炎弾がその肉を焼く。

 

 

「ブルルォァッ! ブォゥッブォゥッ」

 鬱陶しい狙撃手を再び見付け、突進の構えを取るドスファンゴ。

 

 次の瞬間繰り出された突進は、その巨体で繰り出す大技だ。

 当たればひとたまりも無い。当たれば。

 

 

「ブルルォァゥァッ?!」

 ドスファンゴが大地を蹴った次の瞬間、その巨体が痙攣しながらひっくり返る。

 地面に設置してあったシビレ罠を踏んだ足から、全身に電気が流れて動きが止まったんだ。

 

 

「ラッシュかけるで! サナ! ガイル!」

「……言われなくても!」

「そのつもりよ!」

 待機していた二人に声を掛けて、動きを止めたドスファンゴを三人で囲む。

 ハンマーと、太刀と、双剣が、ドスファンゴの肉を切り命を削った。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、アカリ。上出来上出来、やるじゃない」

 倒したドスファンゴの肉を剥ぎ取りながら、サナはアカリの頭を思いっきり撫で回す。

 一方のアカリは歳下に撫でられても気を悪くせずに、ただ嬉しそうにはにかむのであった。

 

 

「……完璧だったな」

「せやな。さーて、後は帰ってバーベキューの準備や」

 このドスファンゴはギルドの依頼での狩猟だが、剥ぎ取った素材はこっちで有効に使わせてもらおう。

 取り巻きのブルファンゴ達の肉も合わせれば相当な量だ。

 

 

「あんたらはやれて当然でしょ。ここで油断なんかしないの、帰るまでが狩り!」

「勿論分かっとるで」

 気は緩めない。ここは狩場だからな。

 

 

「それじゃ、帰りましょ」

 この世界はモンスターの世界だ。

 

 

 

 空に、陸に、水の中に。

 

 

 森の中に、砂の中に、洞窟に、至る所に彼等は居る。

 

 

 

 この世界はモンスターの世界だ。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「よし! お前ら飲み物は持ったな? コップを上げろ! バーベキュー、スタートだ!!」

 ケイスケの声で全員が飲み物が入ったコップを掲げて声を上げる。

 

 

 

 ここは密林。どこか懐かしさを感じる場所だ。

 

 と、いうか。自分がこの狩猟団に入団したあの場所なんだけどな。

 曰く、ここは絶好のバーベキュースポットらしい。

 

 

 

 

「……タク、見てるかな」

 隣で小さくサナが呟く。肉が刺さった串を取っては、それを空に掲げた。

 

「……どうやろな」

 タクヤが死んだあの日から、一週間が経つ。

 

 

 落ち着きを取り戻した我等が狩猟団は、その足でこの場所まで歩き……今のバーベキューに至る訳だ。

 半年以上前、ここでバーベキューをしていたのはマックスという人物の死から立ち直るためだったと聞く。

 

 今回も、きっとそういう事なのだろう。

 

 

「もし見てるなら、笑ってやろう。あいつが悔しがるように……笑ってやろう」

「……そうね」

 ふっ、と笑ってから、サナは一旦目を閉じる。

 

 

 その脳裏に映ってるのはどんな光景か。

 

 

 

「…………あんたがアカリを惚れさせなかったから、私はアカリにシンカイ取られたんだぞこのアホぉぉおお!!」

 そうして、息を思いっきり吸ったかと思えば、彼女はなんの恥ずかしげも無く大きな声でそう叫んだのだった。

 

「おままままままま、おまえ……」

「……何? 文句ある?」

「ありません」

 なんというか……その……自分が恥ずかしいです。

 

 

「……む」

「お、アカリ。食うか?」

「……む」

 なんかムスッとしてるけど。

 

「……ん!」

『シンカイ君は私のだから!』

 辞めて!! 自分が恥ずかしいから!!

 

 

「アカリ、私はまだ諦めてないわ。シンカイはいつか私の玩具にする」

『絶対にあげないもん。ずっと一緒に居るって約束したもん!』

「辞めてぇぇえええ!! ワイが恥ずかしいからぁ!!」

 自分を殺す気かこの二人は!!

 

 

「……シンカイ、少し付き合え」

「……ちょっと男同士で話をしようっす」

 物理的に殺す奴等が来たぁ?!

 

「……ははっ。……ちょっとタンマ!」

「「「逃げるなぁ!!」」」

「……むぅ」

 悪いが逃げるが勝ちである。

 

 

 

 

 

 

「シンカイ、慌てた顔してどうした?」

 荷物を積んで来た竜車の裏に隠れると、そこに立っていたケイスケに声を掛けられる。

 なんでこんな場所に居るんだお前は。

 

「ちょっと逃亡を」

「ふ……そうか」

 軽く答えては、ケイスケは何処か遠くを眺めるように自分から視線を外した。

 何か考え事でもしていたのだろうか? 邪魔をしてしまったようだ。

 

 

「懐かしいな」

 その場を去ろうとしたその時、ケイスケがそう言って言葉を繋ぐ。

 

「……せやなぁ」

 もう、何ヶ月も前の話なのか。

 色々あったけど。ここが始まりの場所なんだよな。

 

 

「今だからこそ、お前に会ったのは運命なんだと思えるんだ」

「……偶然やろ、偶然」

 最初はかなり不順な動機でハンターになった気がする。

 

 

 正直、あの時は何も無かったんだと思う。

 

 

 何も先が無くて、何も考えずに外の世界に出た。

 

 

 

「ただ、運が良かっただけや」

「運?」

「あの時ケイスケに誘われたのは、偶然だった。でも、本当に運が良かったんだと思っとる」

 運命なんて物は信じない。ただ、それが無かったんだとしたら……あの日アカリを助けずに彼らに出会わなかったとしたら───今自分はどこに居るだろうか?

 

 いやぁ、考えたくも無いな。

 

 

「まぁ、運命だろうが偶然だろうがどっちでも良いさ。俺は、今ここにお前が居る事を良く思う。それだけだ」

「それに関しては、同意見や」

 橘圭介。なんでも見透かして、結局はコイツの思い通りになる。

 

 それが最初気に食わなかったりしたけども、今じゃそれで良いとすら思えているんだ。

 皆の頼れるリーダー。彼について行けば間違いない。それで良いんじゃ無いかな。

 

 

「あ、ケイスケ此処にいたの? ちょっと来て」

 そんな話をしていると、竜車の陰から赤髪の少女が首を覗かせた。

 なんだ? そう思ってケイスケと共にその少女───カナタの所へ向かう。

 

 

「お父さんがお酒で泣いちゃって……私じゃどーしようも無いの」

「うぅぅ……ぅぉぅぅ…………タクヤぁぁ」

 そこに居たのは、号泣する大柄な竜人族の男性だった。

 こりゃ、お酒で出来上がってるな。

 

 

 記憶では物凄くお酒に強かったハズだが。

 どれ、周りを見てみれば大タルが三つほど空になっている。なんだこれは。

 

 

「飲み過ぎだぞ、親父」

「飲まずにやってられるかってんだよぉ、なぁ? っひ。俺はなぁ、誰とだって別れたくねぇんだよぉ」

 小タルを地面に叩きつけてから、親父は地面に水分を吐き出す。

 おぉ……これはこれは。

 

 

「……アウトやな」

「こんなになるの初めてよ……?」

「そうなん?」

 よっぽどタクヤの事を気に入ってたのか……。

 

 いや、違うな。きっと親父は責任を感じてるんだ。

 あの日、自分が皆と居れば。村を出なければ、タクヤを守る事が出来た。

 

 

 そう思ってるんじゃ無いだろうか。

 

 

 

「親父は悪く無い……。親父は皆を助けてくれたやないか」

「んぁ……? シンカイ……」

「だから、そんな気にせんといてくれや。誰も親父を責めたりはせーへん。家族やろ?」

「ぐぉ……ぐぅぅ……シンカイ…………うぅぅぉぉおお!!」

「辞めろぉぉおお!! 抱きしめるなぁああ!! 物理的に死ぬ!!」

 橘デルフ。

 この橘狩猟団をこれまで支えて来たのはなんの間違いもなくこの親父だ。

 ずっと息子達の事を考えて来た彼に責任を押し付けるのは流石に気が引ける。

 

 

「シンカイ、まだ悪いのは自分だとでも思ってる訳?」

 そう呟くのは、目を細めて自分を見るカナタだった。

 

「いや……そういう訳や無いんやけどな」

 これに関しては答え辛いの一言だ。

 

 

 

 確かに、正直に言えばタクヤが死んだのは自分のせいだと思っている。

 でも親父もそうであるように、きっと誰もがそう思ってるんじゃ無いだろうか。

 

 

「あんたは見た目より考え込むよね。よしよし」

「一つしか違わんのに年下扱いすなや」

 自分の頭を撫で回すカナタの優しい手。

 本当は嬉しいが、恥ずかしいからそう言って辞めさせる。ケイスケが怖いし。

 

 

「シンカイってさ、責任感がちょっと強過ぎるんだよ。自分がなんとかしなきゃって……格好良いけどさ、それでシンカイが倒れちゃったら私はやだぞ」

 道輪叶多。

 頼れる皆のお姉さんは、物事を確り見ている優しい少女だ。

 彼女には頼ってばかりな気がする。こうやって注意してくれるのは、いつも彼女なのだから。

 

 

「……肝に銘じとく」

「そーしなさい」

 デコピンは辞めてくれ。

 

 

「カナタ、俺も撫でてくれ」

「ゔぉぇぇぇ……」

「その前にお父さんを川に連れてこ……」

 その前にって事は撫でてやるんですか?

 

「ワイも手伝おうか?」

「シンカイは遊んでなさい。ほらケイスケ反対側支えて」

「っと。そうだな、シンカイは遊んでいろ。皆を頼んだぞ」

 まぁ、二人きりにしてやろうか。親父居るけど。

 

 

 

「と、は言ったものもなぁ」

 ガイルとヒールに見付かるのは不味い。

 

「何こそこそしてやがる?」

「きゃいん?! って、アニキかい」

 突然話しかけられたせいで変な声がでてしまった。振り返った先に居たのは、大きなこんがり肉を持ったアニキだった。

 

「きゃいんってお前。きゃいんて」

「脅かすなやぁ!」

 心臓が口から出るかと。

 

 

「なーにしてんだか。食うか? 美味いぞ」

「あー、それドスファンゴの肉か。ちょいと食いたい」

 アニキが持って居たのはドスファンゴの足の肉を焼いた物だった。

 突進の為に鍛えられた筋肉は張りがあって、こんがりと焼かれた後でも引き締まっているのが分かる。

 

 

「頂きぃ」

 ちょっと硬めの歯応えが癖になりそうな味わい。

 ふむ、アカリ達と頑張って狩った甲斐があったな。

 

 

「これ、アカリと倒したんだってか?」

「まぁ……サナとガイルも居たし。余裕っちゃ余裕やったけどな?」

 それでも、アカリの成長には目を見張るものがあると思う。

 結局あの時だって、ネルスキュラから自分を助けてくれたのはアカリだった訳だし。

 

 

「ずっと思ってたんだけどよ、一つ聞いて良いか?」

「んー? なんや」

 こんがり肉を食いちぎってから返事を返す。食べ応えがある歯応えが食を進ませるのだ。

 

 

「お前って初めからそれなりに強かったよな。ここに来る前から、ハンターだったのか?」

 そんな質問を落としてから、アニキは自分から肉を奪って噛み付いた。

 豪快な食いっぷりに感服しながら、その質問の意味を考える。

 

「一応、ハンターの基本については小さな頃に習ってた。身体が覚えてるくらいには、必死にやってた訳や」

 姉が死んだと言われるまでは、自分もハンターになるんだと……そりゃ必死になって勉強していたんだ。

 

 

 

 どんな武器でも使えるようになって、ヘビィボウガンを使う姉と肩を並べる。

 

 その為に色んな事を練習した。

 だからか、大抵の武器はそれなりに使えるようになって居た。

 

 

「なるほどな……。正直よ、初めてあった時はお前の事を信頼してなかった」

 アニキは頭をかきながら申し訳なさそうにそう言う。

 

「知ってた」

 そもそも態度で出ていたどころか、口でお前なんて認めないと言われたんだからな。忘れようにも忘れられない。

 

 

「…………今だからもう一度言うぜ。……悪かったな、あの時は」

「気にしてへんし。それに、あの時言ったやんか。アニキは間違ってない。ワイは……マックスの代わりになんてなれへん」

 誰も、誰の代わりになんてなる事は出来ない。

 

 

 

 マックスの代わりは居ない。

 

 

 タクヤの代わりも、居ないんだ。

 

 

 

「だから、もう誰も失わない。その為に……強くなる。それが今の目標やな」

 あの頃は、目標なんて物は何も無かった。

 

 でも今になってやっとそれが出来たんだ。

 ここからが始まりなんだと思う。

 

 

 これからが、自分の物語なんだと思う。

 

 

 

「ふっ、そうだなぁ! 俺達は強くなる。最強の猟団になって、いつか古龍だって倒してみせる。良いじゃねーか……俺は付き合うぜ」

「アニキが居れば百人力や!」

「任せろっての!」

 ラルフ・ビルフレッド。

 皆の頼れるアニキは、いつも真っ直ぐで力強く皆を引っ張ってくれる。

 熱い本物の魂は男共の憧れだろう。勿論、その男共に自分も入ってるんだけどな。

 

 

 

「……見付けたぞ」

「そんな所に隠れてたっすか」

「ゲェッ?! 見付かった」

 逃げるが勝ちか。

 

「アニキ、シンカイを捕まえて欲しいっす!」

「よし任せろ!」

 ぇ、ちょ、アニキ?、

 

「悪いな、可愛い家族の頼みなんだ」

「ワイも家族やけど?! 裏切ったな糞がぁぁぁ!!」

 こなくそぉ!! 力強いんだよくそぉ!!

 

 

「くっくっく、もう逃がさないっすよ」

「……シンカイ、歯を食いしばれ」

「ガイルだけ真面目なの怖いから辞めて?」

 本当こいつは読めん。何考えてるのか全然分からん!

 

 

「なんだ? お前ら喧嘩か? 何したんだシンカイ」

 人を捕まえておいて事情を今になって聞くアニキ。早く離せ。

 

「シンカイだけモテてずるいっす」

「首を出せ」

「あ、そういう事な」

「納得したなら離せや! ワイは無実!」

 確かに若干二人に好かれている気がするけども……。……いや、だって、ほら、ねぇ?

 

 

「そういう事なら加勢するぜ」

「あ、アニキ……。分かってくれたんか」

 流石アニキ。

 

 

「シンカイは俺がこのまま止めておく。お前ら気が済むまで殴れ!」

「この糞野郎!! 言っとくけどアニキもこっち側やからな?! ヒールも知っとるやろ?!」

「よっしゃ二人まとめてぶん殴るっす!!」

「誰かそこのバカを止めろぉぉおお!!」

 いや本当、楽しい奴等だよ。

 

 

 ちなみに騒いでたらナタリアに怒られて止められました。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「で、どうなん」

「どうなんすか」

「……別に恋愛感情なんて物はない」

 少し時間が経ったバーベキュー。ガイルに問答するのは自分とヒールの二人だ。

 

 

「嘘こけ」

「自分に正直にならないとダメっすよぉ?」

 偶にヒールが見た目通りの行動に出ると逆に心配になるよね。お酒でも入ってるの?

 

 

「……いや、だから。俺はサナに勝ちたいだけだ」

 問答の内容はガイルがサナをどう思っているか、だ。

 彼自身そうは言っているが、周りから見ればどう見てもほの字である。

 

 だって歯を食いしばれとか言うんだもん!

 

 

 

「正直に吐けば楽になるっすよぉ? ほれほれぇ」

「……ふんっ!」

「ギャフンッ!」

 殴られはしなかったが平手打ちを喉に食らったヒールは地面をのたうち回った。

 まぁ、そりゃそーなるわな。

 

 

 

「……俺は、強くなりたいんだ。皆を守れるくらい……強く」

 そうして静かに呟くガイルは、真っ直ぐと自分を見て来た。

 

「強く……か」

 強いってなんだろうな。

 

 

 サナみたいに、狩りが上手い奴の事だろうか?

 

 ケイスケみたいに、頭の良い行動が出来る事だろうか?

 

 アニキやカナタみたいに、芯の通った行動が出来る事だろうか?

 

 それだけじゃないと思う。

 

 

 

「ガイルは強いと思うで?」

「……?」

 首を傾げるガイル。

 

 

 強さにも、色々あると思う。

 人には皆長所と短所があるように、強さと弱さがあって個性に繋がっていくんだ。

 

 

「ガイルは本当に仲間想いやん。仲間がピンチの時、いつも一番に声を上げるのはガイルやろ?」

「……それは」

 大切な人を無くした彼だからこそ、必死になるんだろう。

 ガイルが筋肉バカな理由だって、その優しさに含まれてるんだから。

 

「そこはガイルの良い所なんやから、もっと胸を張ってもええと思うで」

「……そうか」

 ガイル・シルヴェスタ。

 仲間の事を一番に考えられる、心の優しい奴だ。

 筋肉バカなのが欠点か。その欠点も長所だと思えるくらいには、彼は仲間想いで出来ている。

 

 

「だから自分に正直になれや。サナはガイルの事認めとると思うで?」

「……っな、だから違うと!」

 まー、顔真っ赤にしてまー。

 

 こりゃ、確定だな。今後が楽しみだ。

 

 

 

 恋愛……か。

 

 

 ここに居た数ヶ月で色んな物を見て来たが、案外家族って感じのこの狩猟団でも皆異性を気にしたりするんだよな。

 

 

 ケイスケはともかく、カナタもなんだかんだケイスケの事好きなんだと思う。

 

 タクヤもそうだったように、ガイルのように好きだけど表には出さない(バレバレだけど)奴も居るし。

 

 アカリやサナは、なんでか自分の事を好いてくれて居る。それが恋愛なのかどうかは……少し分からないが。

 

 

 そういや、もう一人居たな、恋する乙女が。

 

 

「恋愛といえば、うちのねーちゃんが全然進歩しないんすよね」

 ガイルの攻撃で倒れて居たヒールが立ち上がってそう言葉を繋げる。

 

 ナタリアさんねぇ、アニキが鈍感過ぎるからねぇ。

 

 

「そこんとこ、ヒールは応援とかしとるんか?」

「全くしてないっすね」

 鬼か。

 

「いや、違うんすよ。ねーちゃんの事はほっとこうかなってのが俺の答えなんすよね」

「やっぱ鬼やん」

 応援してやろうよ。

 

 

「今が一番幸せなんじゃないかなとか思うことがあるんすよ」

「……と、言うと?」

「恋してる時が一番ドキドキしてるって感じっすか? そのー、ねーちゃんには今の気持ちも大切にして欲しいんすよ。ほら、俺達捨て子っすから……愛情とかしっかり表現するの難しいんすよね」

 ヒール・サウンズ。

 周りに一番気が効く彼だからこそ、一番大切な存在の事を一番に考えて居るんだろう。

 偶にキャラがぶっ飛ぶけど、基本は周りをよく見て居る気さくな奴なんだヒールは。

 

 

「私の事読んだ?」

 と、そんな話をしてる最中に間の悪い事に本人が登場する。

 クーデリアさん付きで、女子二人が話しながら寄って来た。

 

 

「……ナタリア、お前の恋───ゴフッ」

「なんでもないでぇ!」

 ガイルを地面に叩き伏せながら話を誤魔化す。お前の無神経さはもう呆れるわドァホ!

 

 

「れん?」

「レンコンなら無いわよ」

 バーベキューの話じゃ無いです。

 

 

「せっかくのバーベキューなのに皆バラバラで食べてるのはどうかなー、って思うんだけど。ねぇ、お父さんとケイスケ君にカナタ……あと…………えと、ラルフ君知らない?」

 なんでこの人こんなに分かりやすいかなぁ。

 

「アニキは裏。残りは川に芝刈りに」

 ゲロ流しに行ったとは言い難い。

 

「芝……刈り……?」

 あーもぅ。真面目だからそういう反応する。

 

 

「最後にやきそば作ろうと思うんだけど、皆を集めたいからお父さん達の居場所を知りたいな」

 ナタリア・サウンズ。

 個性派揃いの皆を確りと纏める我らが猟団の会計係さん。

 多分彼女が居なければ猟団の生活はバラバラでメチャクチャになって居るだろう。感謝しても仕切れないな。

 

 

「あっちの方の川に行っとる筈やで」

「ありがとう、呼んでくるね」

 ゲロもう終わってると良いけど。

 

 

「ついてこうか?」

「シンカイ君はあっちよ」

 そう言って肉焼きセットの方を指さすのはクーデリアさんだ。

 その先にいるのは……サナ。

 

「ねーちゃんには俺が付いて行くっすよ」

「……アニキは俺が呼んでくる」

 あぁ……そういう事する? ははーん。

 

 

「サナのこと、頼んだわよ」

 クーデリア・ケイン。

 親父を抜くと最年長の頼れる姉御。狩りには殆ど参加しないが、良く怪我をした仲間の介護をしたりするのは彼女だ。

 二十歳超えの知識はバカにならないのである。それを言うと彼女は怒るんだけど。大人の魅力って素晴らしいと思わない?

 

 

「それじゃ、あとよろしくね」

 んな、無責任な。

 

 

 

「……さて」

 まぁ、責任は取るかな。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「……よ、よぅ」

「……よ」

 肉を焼きながら一人で居るサナに声を掛ける。

 

 

 二人きりでゆっくりと話す機会はいつ振りだろうか。

 そもそも大世帯だからな。二人きりっていうのが珍しい。

 

 

「……アカリは?」

「今は私の番。こんな時までアカリの名前を出さないの」

 そんな無条理な。

 

 

「……すまん」

「別に良いんだけどさぁ……。もうあんたとアカリはくっ付いてる訳だし」

「……っぅ」

 あ、改めて口に出されると恥ずかしい。

 

 

 

 ネルスキュラ討伐後、確りとした告白を自分からしたのは記憶に新しい。

 

 若干パニックだったからか、詳しい事までは覚えてないが。

 その場で了承を貰って、ちょっとだけ大人の階段を登りました。柔らかかったです。

 

 

 そんな事はさておき。

 

 

「ニヤけんな」

「ごめんなさい」

「はぁ……自分が情けない」

 こんな奴を好きになったのが?

 

 悪かったな……。

 

 

「アカリを消してでもあんたを手に入れておくべきだったか……」

「なんで物騒な話に?!」

 お前ら親友だろ?!

 

「冗談に決まってるでしょバカじゃ無いの」

 ぶっ飛ばすよ?!

 

 

「でもそのくらい……好きだったって事。てーか、今も好き。今ここであんたを押し倒して襲いたいくらいには好き」

「最近サーナリアさん台詞がぶっ飛んでませんか? 少し落ち着いて?」

 変だよ?

 

 

「冗談よ」

 人間不信になりそうだ。

 

 だって、全然冗談って顔してないんだからな。

 

 

「……ごめん」

「あんたが謝る事じゃ無い。私に魅力が無かった、ただそれだけの事」

 そんな事は……無い。

 

 

 ただ、自分がアカリを選んだのは───

 

 

「ねぇ、私の方がおっぱい大きいよ」

「ブハッ」

 何言い出すのこの人?!

 

「もっと大きくなる予定だし、身長ももう少し伸びる。アカリみたいなサラサラな髪が良いって言うならなんとかするし、眼鏡掛けろってんなら眼鏡掛ける。…………それでも、私じゃなくてアカリを選ぶ?」

 真剣な表情で、真っ直ぐと自分の目を見てそう言う一人の少女。

 

 

 

 サーナリア・ケイン。

 彼女はいつもそうだ。誰よりも真剣で、誰よりも一生懸命で、誰よりも努力をする。

 そんな彼女が大好きだ。ずっと隣にいて欲しいと思う。

 

 

 でもそれは、異性としてではなく───仲間としてだ。

 

 

 

「……ごめん」

 だから、自分の答えは決まっていた。

 

 どんな事を言われても、こう答えると決まっていた。

 おっぱいに一瞬心が動かされたとか、そんな事は全く無い。

 

 

「……知ってた」

 少女は瞳を濡らしながら、目を逸らしてそう言った。

 多分サナ自身も分かっていたんだと思う。

 

 

 

「てーか、その返事じゃなきゃアカリは任せられないし? それでも即答じゃ無かったのは何? おっぱいで揺らいだ訳?」

「ななななななななな訳あるかーい!」

「……」

 辞めて! そんな目で見ないで!

 

「……アホ」

「……すいません」

 笑えん。

 

 

 

「ね、シンカイ」

「……なんや?」

 これ以上虐めないで下さい。

 

 

「アカリと居るって事は、これからもずっとこの猟団に居るってことよね?」

「そりゃ、勿論」

 この猟団を離れる理由が無いしな。

 

「それなら……良いのよ」

 サナはどこか遠くを見ながら、小さくそう言った。

 

 

「いつか、ディアブロスと戦ったじゃない?」

「あったなぁ、そんな事」

 懐かしいな。

 

 

「私はあいつをマ王だと思ってたけど、実際は違ったらしいわね」

 あの時はサナには隠していたハズだが、いつの間にかネタバレされていたようだ。

 

「私の目標は、あの時のパーティで本物のマ王に勝つ事。だから……あんたには私の隣にいて欲しかった」

「んなもん、言われなくても隣に居るで? 家族やろ」

「……そうね。むしろ、このままの方が良かったのかも」

 サナとどうこう……ってのは考えなくも無かった話ではある。

 

 

 実際、サナは可愛いし中身だって最高だ。

 

 彼女とだって多分、幸せになれたと思う。

 

 

 

「ん」

 無言で左手をグーで上げるサナ。

 

 やりたい事は分かっていた。

 

 

「これからも宜しくね、シンカイ」

「勿論やで、サナ」

 お互いの拳がぶつかり合う。気持ちの良い音がなって、お互いに何が面白かったのか笑いあった。

 

 

 

 最高の仲間。

 

 

 最高の家族と笑うこの瞬間が、自分は一番好きなのかもしれない。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 橘小明という正直は耳が聞こえ辛い。

 

 

 それだけではなく、恥ずかしがり屋で身体も小さくて力も弱い。

 

 

 

 ただ───彼女は一生懸命で、明るくて、勇気があって、芯がしっかりしていて、優しい女の子だ。

 何もかも中途半端な自分にとって、それだけ確りした少女は自分なんかよりも遥かに上の存在に見えた。

 

 何より彼女の事を気にするようになったのは、彼女がヘビィボウガンを使っていたからだろうか。

 

 

 

 武器を背負うのも大変そうな彼女がほっとけなかった。

 

 

 

 いつか、なぜヘビィボウガンを使うのか聞いた事がある。

 

 

 彼女はこう答えた。

 

『憧れの人がヘビィボウガンを使っていたから』

 

 それが誰だか知らないが、アカリの使うヘビィボウガンはその憧れの人が使っていた物と同じ種類の物だそうだ。

 そんな偶然があるかどうか分からんが、まぁ……まさかな?

 

 

 

 気が付いたらそんな彼女を目で追っていたのはいつからだろうか?

 

 

 タクヤが好きな彼女だからという訳ではない。

 

 

 ただ、この気持ちが何なのかあの日まで分からなかったんだよ。

 

 

 

 でも、あの日分かった。

 

 

 

 タクヤが死んで、サナも失ったと思っていたあの日。

 

 

 アカリに自分なら出来ると言われた。

 

 

 

 あぁ……そうか。

 

 

 自分は、あの人の影を追っていたんだな。

 

 

 あの人に追いつきたかったんだな。

 

 

 

 憧れを移す鏡はそこにあって、そこに彼女自身が映った時に……それはまた別の感情へと変化した。

 

 

 

「アカリが好きだよ」

 何でもかんでも中途半端だったから、中途半端じゃないこの家族の皆が大好きになった。

 そんな中でも自分の憧れに目が行って、アカリを良く見るようになった時。彼女の良い部分が沢山見えてきて、必然的に好きになっていた。

 

 

 何より……ほっとけないんだよな、アカリは。

 

 

 

『おっぱいで揺らいでた』

「グハッ」

 耳が聞こえない代わりに口パクで大体何行ってるか分かるから、遠くにいても何を話していたか分かるのだろう。

 盗み聞きならぬ、盗み見していた訳だ。ヤバイ。

 

「お、お許しを……」

「んー」

 態とらしく首を傾げるアカリ。その表情が可愛いったらなんのね?

 

 

『冗談だよ』

 許された。

 

 

『でも浮気したら怒る』

 許されなかった。

 

 

 

「ん?」

「勿論しませんよっと」

 頭を撫でてやると、アカリは気持ちよさそうに目を瞑った。

 こういう素直な所が可愛いんですわ。惚気ばかりで申し訳ない。

 

 

「ん」

「なんや?」

『色んな事があったね』

 そうだな、色んな事があった。

 

 

 突然猟団に誘われたり。

 

 

 突然ゲリョスと戦わされたり。

 

 

 でっかい船に驚かされり。

 

 

 魚とかガノトトスとか釣ったり。

 

 

 卓球したり。

 

 

 ディアブロスと戦った。

 

 

 幽霊とあったり。

 

 

 フルフルベビーと戯れたり。

 

 

 湖で遊んだり。

 

 

 誰かを失ったり。

 

 

 誰かを救った。

 

 

 

 他にも、いろんな事があったな。

 

 

 

『こらからも、色んな事があると思う』

「せやな」

 でも、この物語はこれで終わりじゃない。

 

 

 

 物語は続いていく。皆んながいる限り、何処へでも続いていくんだ。

 

 

 

『これからもずっと』

「い……し、に、いて、く、れ、ぅ?」

「当たり前やろ。ずっと一緒だ」

 この物語は続いて行く。これから始まるかのように、続いて行く。

 

 

 

「おーい! 新しい逸材を連れて来たぞ! 今日からまた一人仲間が増える。皆挨拶をしてくれ! ちなみに俺は橘圭介、ランスを使っている」

「俺は橘デルフ。大剣使いで、この橘狩猟団の団長だ。気安く親父と呼びなぁ!」

「私は道輪叶多。ガンランス使いね」

「ラルフ・ビルフレッドだ。スラッシュアックスを使っている」

 物語は始まったばかりだ。

 

 

「ヒール・サウンズっす、ライトボウガンを使ってるっすよ!」

「これの姉のナタリアっていうの。弓を使ってるよ。宜しくね」

 ここで語られた物語は、これから紡いで行く物語のほんの初めに過ぎない。

 

 

「……ガイル・シルヴェスタだ。……ハンマーを使っている」

「クーデリア・ケインよ。あんまり狩りはしないけど、一応狩猟笛使い」

 おっと、物語を語る前に自分のステータスというのを話しておかなければならない。

 

 

 これはプロローグのような物語で、自分が何者か見付けだした一人の男の回想のような物だ。

 

 

 

 

「サーナリア・ケイン。太刀使いよ。……ほーら、あんた達も早く来て挨拶さなさい!」

 

 

 矢口深海。これは自分の名前だ。

 可もなく不可もなく五十点というところだろう。

 身長は百七十五程度。髪は栗色。顔立ちは普通。歳は十七。

 

 どこにでも居そうな普通の人間だ。

 

 

 

「んぇ、……ん!」

『橘小明だよ! ヘビィボウガン使いです。これから宜しくね!』

 

 

 

 さて、ここまで来て初めの一文に戻るとしよう。

 物語を語る上で必要な自分のステータス。

 

 

「矢口深海、武器は双剣。あんたは何を使うハンターなんや?」

 橘狩猟団所属───ハンター。

 

 

 これが矢口深海という男であった。

 

 

 

 

 

「そうか、これから宜しくな」

 

 

 

 物語は続いて行く。きっと、どこまでも。




ご愛読ありがとうございました。
皇我リキの次回作に期待して下さいm(_ _)m

無事、完結させる事が出来ました。皆様の応援のおかげです。
自分の作品では初めての作品で、初めての完結作品になります。全五十三話、約一年間の連載になりました(前回の更新の前の日に知らない間に一周年が終わってました)。


いやぁ……なんだか考え深いです……。


さて、深い所までは活動報告にでお話をさせて頂きます。土日には更新する予定なので、そちらも覗いてやって下さい。



それでは、これにて完結になります。



重ね重ねになりますが。



読了、ありがとうございました!!

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