モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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立ち込める瘴気

 狩りの支度といっても、最低限のアイテムを揃えるだけに終わってしまった。

 

 

 その名の通りの効果がある回復薬に解毒薬、そのままの意味の携帯食糧。

 モンスターの位置を探る手懸かりにするペイントボールにここら一帯の地図といったところか。

 

 

「揃ったな」

 リオレウスという飛竜の防具を頭部以外装備し、同じくリオレウスの素材を使ったランスのレッドテイルを背に背負ったケイスケがそう言う。

 

「シンカイは防具無いの?!」

 そう驚くカナタの防具はリオレイアという飛竜の素材を使ったスカートの綺麗な防具だった。

 ケイスケと同じく頭部は外してあり、武器もリオレイアの素材を使ったオルトリンデ。

 

「街から出た時もこれ二本やったからのぅ」

 対する自分はとても動きやすそうなTシャツにズボンである。

  背負う物だけ背負ってさながらハンターごっこ。

 

 

 しかしハンター稼業に必ずしも防具が要るわけでは無い。

 確かにモンスターの素材を使った防具は軽い攻撃なら傷一つ貰わなくなるだろうし、場合によっては致命傷を防いでくれる事もある。

 半面まだ若いハンターにとって防具は他人が想像するより遥かに重く動き辛い。二人が頭部の防具だけ外しているのはそのせいだろう。

 そして必ずしも防具は自分を守ってくれる訳では無く、貰う物貰えば人なんて防具の有り無しに関係無く死ぬ。

 

 

「おいテメェふざけてんのか?」

 予想はしていたがやはり突っ掛かってくるラルフ。

 彼の防具はなんだろう? 見た目では判断できない。武器もスラッシュアックスという事は分かるが素材が特定できない。

 多分この密林近くには居ないモンスターなのだろう。

 

 

「ふざけてたら死ぬだけやろ?」

 だから自分はふざけてなどいない。

 元の理由はお金がないからだが、双剣を選んだ理由は防具が一番不必要だからだ。

 

「……っ。…………勝手にしろ」

「おぅ」

 

「よし、なら行くか」

 ケイスケの言葉で四人は村を出る。

 振り向けば支度を手伝ってくれたアカリがスケッチブックに『気を付けて!』と書いて掲げていたり、タクヤが怨めしそうにこっちを見ていたり。それを見てサーナリアはくすくすと笑っていた。

 他のメンバーも全員見送りには参加していて、この盛大な感じが毎回なのかと思うとこれからが楽しみで仕方がない。

 

 そしてこれが矢口深海のハンター生活第一歩だ。気を引き閉めて行くとしよう。

 

 

 ところでクエストの内容だがこうだ。

 ここ最近村の離れの鉱脈で鉄鉱石等の採掘場にゲリョスが度々現れては採掘場を荒らしていくらしい。

 まだ死人は出ていないようだがこのままでは最悪の事態になりかねないのでギルドにクエストの申し込みをしようとしたとたん我等が猟団が都合良く村を通ったらしい。

 

 ちなみにルーン村の村長と団長のデルフさんは旧友らしく、信頼されてこのクエストを託されたと言う。信頼には答えたい物だ。

 

 

 村を離れて数十分。

 先頭を歩くケイスケが腕を上げてメンバーを止める。何か見付けたのだろうか?

 

「あれはなんだと思う?」

 ケイスケが指差すその先には、密林でポツンと開けた場所に光る鉱石等が集めて置いてあった。

 単に綺麗だと簡単に思ってしまうが、こんな密林の真ん中に鉱石があんなに沢山転がっているのはおかしい。

 

 それに良く眼を凝らすと、何かハンターの武器のような物まで置いてあるのが分かった。

 あれはなんだ? 双剣だな。ツインダガーか?

 

 

「あれは……っ!」

 隣で一緒にそれを見ていたラルフは突然そんな声を出したかと思うと、 鉱石や双剣の落ちている所まで走って行ってしまった。

 

「おいラルフ!」

「あれはマックスのだ!」

 なんだと?

 

「ラルフ!」

 走り去ったラルフの名をカナタは叫ぶ。

 ケイスケのような注意の声ではなく、もっと焦ったような声で。

 

「ギョェェエエエッ!」

 次の瞬間、どう考えても人の物とは思えない泣き声がその場の空気を揺らした。

 

「ラルフ!」

 もう一度叫ぶケイスケ。

 

「くっ?!」

「ギョェェエエエッ!」

 木々を薙ぎ倒しながら現れたそのモンスターはラルフの眼前で足を止める。

 奇妙な形のトサカと、鱗が無く藍色の皮膚。体型は丸い方で鳥竜種だが飛竜の特徴よろしく一対の翼がある。大きさはそうだな人十五人分くらいかな、とにかくデカイ。

 特徴はその奇妙なトサカと全身を被うゴムのような性質の皮で弾力性に優れ打撃や電気、水に強く尻尾はしならせる事で元の何倍にも伸びてそれを鞭のように使って攻撃する。

 見た目の割には臆病で賢い。と、いうのが学校の授業で習ったこのゲリョスというモンスターの特徴だろうか。

 

「おめぇだな……」

 その場でスラッシュアックスに手を伸ばすラルフ。

 

「クェッ! クェッ! ギョェェエエエッ!」

 そんなラルフに対抗してか? ゲリョスは頭を高く持ち上げ自分を大きく見せるいわゆる威嚇のポーズを取った。

 良く見るとそのゲリョスの腹部には小さな傷跡が付いている。小さな剣で目一杯切りつけた感じの切り傷だ。

 

 

「一端戻れラルフ! 体制を———」

「うるせぇ! こいつだ。こいつがマックスを!」

 ゲリョスと真正面で対面するラルフはそれにも関わらず叫ぶ。

 何故分かる? モンスターは化け物ではない。この世界に存在する生き物で、その種類に対し個体数は一では無い。

 繁殖し狩り狩られ、人にとっては一モンスターでも彼等は一個体だ。人にとってはそれはどうでもいい事なのかもしれないが、そうでないならそれを分けるのは個体の外的特徴。あの腹部の傷だろう。

 

 

「まったく……。カナタ、俺達で囲んで援護するぞ。シンカイ、お前は俺達より後ろにいて隙を伺って後は好きにやれ。出来るな?」

「当たり前や」

「行こうか」

 ケイスケの指示に二人で返事をして三人で飛び出る。一気にゲリョスに近付きケイスケとカナタは挟むようにゲリョスの両脇に並んだ。

 これでゲリョスはほぼ全方面を警戒しなければならなくなりハンター側からすれば有利を取れる。

 

 モンスターは根本的に人間より強い。

 人が逆立ちしたって土下座したって生身ではモンスターにとって美味しく頂ける餌か羽音がうるさい虫でしかない。

 だから人はこうやって武器を持ち仲間と共に作戦を練る。

 

 

「グェェエエエッ!」

 先に動いたのはゲリョスだった。何かを啄むように何度もラルフに向かって大きく頭を降り下ろす。

 あんなもん喰らったら普通に死ぬ。防具とか関係無い。

「く……っ!」

 右に左に後ろに転がって避けるラルフ。追い掛けるケイスケとカナタだがゲリョスは背後から迫る二人を伸びる尻尾を振り回して近付けさせない。

 

 

「……っ、近付けないな。ラルフ!」

 頼んだ! とばかりに声を駆けるケイスケ。

 

「俺が……やられるかよぉ!」

 ゲリョスの攻撃を避けきったラルフは、その眼前で武器を構える。

 

 スラッシュアックス。

 変形機構によりリーチの長い斧モードと手数で攻められる剣モードに変形できる特殊な武器だ。

 

 

「うぉぉおおお!」

 それを斧モードで抜いたラルフは攻撃を終えたゲリョスの隙に懐に潜り込み、大きな横振りでゲリョスに叩き付ける。

 

「グェォッ」

 しかしゴム質の皮にその攻撃はダメージが通らなかったのか、ゲリョスは見た目無傷でただラルフを睨み付けた。

 

「まだだ!!」

 そんな事は気にせず、ラルフは無理矢理にでも斧を振る。

 何度も叩き付けられる斧に流石に苛立ちを覚えたのか、ゲリョスは羽ばたいて後方へジャンプした。

 あの巨体が本当に一瞬でも空中に浮いたのかと思うと、大型モンスターを初めて見る自分にとっては驚きしか無い。

 

 しかし上手く距離を離されたと思ったが、そこにはケイスケとカナタが既に立っていた。

 まるでラルフの猛攻にゲリョスが距離を置くと分かっていたかのような位置取り。

 

 

「カナタ!」

「言われなくても!」

 次の瞬間、ゲリョスを爆炎が包み込んだ。

 

 竜撃砲というガンランスの特徴の一つで、飛竜のブレスを元に開発された発射までに時間がかかるが高火力の砲撃。

 発射までに時間がかかるとはガンランスにもよるが秒数にして約三秒から五秒。しかしゲリョスが一度飛んでから地面に降りて竜撃砲発射まで一秒も経っていない。

 

 これが信頼と実績という奴なのか。

 流石のゲリョスもその攻撃で地面に横倒しになる。

 

 

 その隙に翼の両方からランスの突き、腹部にはラルフが斧を剣モードにして斬りかかった。

 ならばと自分は弱点である尻尾にこの双剣を叩き付ける。

 

「ギョェエエエッ!」

 体勢を取り直したゲリョスは地面を何度も踏みつけ、口からは毒々しい紫色の吐息を吐いて怒り狂っているように見えた。

 

「一旦距離を取れ!」

 ケイスケの号令でラルフ以外はゲリョスから離れる。

 

 

「うぉぉおおお!」

 しかしラルフは暴れまわるゲリョスに斧モードに戻したスラッシュアックスを降り下ろす。

 それは果敢というよりは無謀だった。

 

「ギョェエエエッ!」

 血走った眼でゲリョスはラルフを睨み付ける。狙いを定めたのか背後に居る三人には見向きもしない。

 

「テメェはマックスの仇だ……俺はテメェを許さねぇ!」

 気持ちは分かった。でもそれは違う。

 

「ギョェエエエッ!」

 さっきのような啄み攻撃を倍速でラルフに繰り出すゲリョス。だがラルフはそれを全て交わしきり、自分の攻撃は当てていく。

 

「おぉぉおおお!」

 一見冷静には見えないが、才能なのか実力なのか。一人で交戦しているとは思えないほどにラルフはゲリョスを圧倒していた。

 

 

「あの兄ちゃんやるな……」

 ただ呆然とそんな言葉が口から勝手に出てくる。

 

「ケイスケ……」

「まぁ……あいつに限って致命的なミスは無いだろうさ」

 不安そうなカナタにケイスケはそう言った。致命的なミスはってどういう事だ?

 

「こりゃわいの出番は無いな……」

「ケイスケの目論見が外れるとわ。ラルフや私にシンカイの実力見せられないじゃん」

「そうと決まった訳じゃ無いだろ?」

 意味深な笑みでそう答えるケイスケ。なんだ?

 

「クェ……ッ! クェ……ッ!」

 そんな会話の中、ラルフ一人に追い詰められたゲリョスは奥の手を使おうと頭を持ち上げた。

 

 

 ゲリョスの特徴である奇妙な形のトサカはただの飾りでは無い。

 その特殊な成分で出来たトサカと嘴の先端を打ち合わせる事でゲリョスは強力な閃光を発する事が出来るのだ。

 

 他の生物の眼から一定時間光を奪いかねない強力な閃光はまさに奥の手と言えよう。

 ちなみにゲリョス自身は自らの閃光に慣れているため強い光に耐性があり自滅にはならないらしい。

 実際の所その閃光をまともに受ければ数分はまともに目が見えない。

 

 しかしラルフは動じなかった。ゲリョスが閃光を放つより前にゲリョスを倒すと言わんばかりに、閃光を放つ準備をするゲリョスに猛攻を仕掛ける。

 

 

「これでトドメだぁああ!!」

 そしてラルフ・ビルフレッドはそれをやってのけた。

 

「ギョェッ……クェェェェ…………」

 ラルフの渾身の一撃を受けたゲリョスは全身の力が抜けたかのように地面に横倒しになる。

 そのまま声も小さくなり、ピタリと動かなくなった。

 

「決まっちゃったけど?」

 意地悪そうな顔をしてケイスケにそう言うカナタ。

 

「……ふ」

「な、何?」

 しかしケイスケは一向に表情を変えずに見透かしたような表情でこちらをちらりと見る。

 カナタは良く分からず首を傾げていた。

 

 まぁ、期待には答えるとしよう。

 

 

「はぁ……はぁ……や、やったぞ。マックス……仇は…………」

「凄いのー、ほぼ一人やん」

 そう話ながらラルフの方に向かっていく。

 

「ラルフ、大丈———」

「待て」

「え?」

 背後から続くカナタをケイスケが止めたのを聴いて確信した。

 橘圭介という男は計算高い男だなと。

 

 

「マックス……」

 ラルフはこちらの台詞は無視して、鉱石が集められた場所にポツンと置いてある双剣を拾い上げる。

 

「ゲリョスの特性に、光り物を巣に集めるって生態があるんや。理由は雌へのアプローチだとかなんとか。……それ、マックスって人が使ってた双剣なんか?」

「……新入りか。あぁ、そうだ。お前と同じ双剣使いのな」

「それでわいが認められんと?」

「マックスの代わりなんて俺は要らねぇ!」

「人を勝手に代わりにして下さんなや」

「喧嘩売ってんのかテメェ!」

 怖!

 

「もう一つゲリョスの特性について教えたろうか?」

「あ? ゲリョスなんざどうでも良い。俺はマックスの仇を討てた、今はそれで……」

「討ててないで」

「なに?」

「ゲリョスはモンスターの中でも賢い方でな。こうやって」

 ラルフの腕を着かんで引っ張りゲリョスから離す。

 

 そして丁度良くゲリョスはその場で死体がいきなり生き返ったかのように、その場で暴れだしたのだ。

 

「死んだフリをして外敵をやり過ごしたり不意打ちを喰らわすんや」

「な……に……?」

 そのままマックスの双剣を見て黄昏ていたらあんたは今こうやって暴れまわるゲリョスの下敷きだよ。

 ケイスケはそれを知ってて、ラルフがゲリョスの死に真似を見抜けないと分かっていたのだろう。

 

「クェ……ッ! クェ……ッ! クェェェッ!!」

 そしてゲリョスはさっきの続きだと言わんばかりに閃光を放つ。

 辺り一面を一瞬真っ白な世界が包み込んだように見えただろう。自分はちゃっかり地面に顔を伏せたので分からないが。

 ケイスケやカナタは盾で防いだだろうが、何よりゲリョスの生存に驚いていたラルフはやはり間に合わなかったらしい。

 

「ぐぉっ……く、またかよ! くそ! くそ!!」

 閃光をもろに喰らい、眼を庇いながらその場に崩れ去るラルフ。

 

 

「ギョェエエエッ!」

 チャンスだと、思ってるんだろうな。

 

「く……そ! 逃げろ新人!」

「なんや、認めて無いんや無かったのか?」

「そんな事言ってる場合か! お前もマックスみたいに……」

「仲間の代わりなんぞこの世界に一人でも居るかいな!」

 叫びながら、双剣を地面に投げ付ける。

 

 ケイスケめ、この状況は想定内なのだろう。ここで自分の力を証明しろという事なのだろう。

 

 

「お前……」

「わいはシンカイや、矢口深海。もう一度言うで? 誰かの代わりなんぞこの世界のどこにも居ない。仲間に代わりは居ない」

「シンカイ……」

「自分にとってマックスの代わりは無いかもしれへんけどな? わいにとって自分の……ラルフ・ビルフレッドの代わりはおらん。だから守るんや、仲間を」

 もう、誰も失わないために。

 

「だ、だとしても辞めろ! 双剣じゃ無理だ!」

「誰が双剣でモンスターと怠慢なんかするかいな。借りるで、これ」

 ラルフのスラッシュアックスを拾いながらそう言う。

 

「ギョェエエエッ!」

 その嘴で押し潰そうと言うのか? 大きく頭を降り下ろそうとするゲリョス。

 

 少なくともゲリョスが死に真似をするのは自分の生命の危機を感じてからだ。

 だからこいつは確実に弱っているハズ。

 

 そしてこのスラッシュアックスにはガンランスの竜撃砲と同等の威力を持つ必殺技がある。

 

 

「おらぁああ!!」

 スラッシュアックスを斧モードから剣モードに変形させながら足を踏み込み突き上げる。

 次の瞬間スラッシュアックスは内部に組み込まれた属性付きのビンから大量の属性を放出しだした。

 

 属性解放突きというスラッシュアックスの大技の一つ。

 

「終わりや」

 属性ビンのエネルギーを貯めつつあいてにダメージを与え、最後に一気に解放された属性が爆発しフィニッシュとなる。

 

「グ……ェェ…………ッ」

 既に瀕死の状態だったからか、ゲリョスは今度こそ地面に倒れて絶命した。

 

「双剣じゃ……確かに無理やわな」

「お前……今、俺のスラッシュアックスで?」

 まだ眼が直ってないラルフは倒れるゲリョスの鳴き声だけを聴いてそう口を開く。

 

「せやで」

「お前……何者なんだ」

「シンカイ! スラッシュアックスも使えたの?!」

「良くやった、シンカイ」

 走って向かってきたカナタと共にラルフは驚きを隠せないといった表情をしていた。

 ケイスケは何も驚いて無いみたいだが、どこまで見透かされてるのか怖い物だ。

 

「わいは矢口深海、伝説のハンターになる男や」

なんてな。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「マックスは……俺を庇って死んだんだ」

 ゲリョスを狩猟した後の帰り道。ラルフはマックスの片身である双剣を胸にそう語りだす。

 

 

「閃光を避けきれなかった俺の前に立ってマックスは俺を守ろうとした。さっきのお前みたいにな」

「マックスにとって、あんたは大切な仲間だったんやろ」

「だからって……あんな無茶をして…………バカ野郎」

「そんなあんたも、そのマックスの仇を前にあんな無茶な戦いをしていたじゃないか」

「う……」

 気付いて無かったのか。

 

「かけがえの無い大切な仲間のためなら、人間自分の事なんか見えなくなる物やで……。あんたが認めてくれんでも、自分にとってはかけがえの無い仲間なんや……あんたは」

「シンカイ……」

 

「まぁ……あんたがまだ心の踏ん切りが着かないってなら、わいの事はじゃがいもか何かとでも———」

「あんたじゃねぇ……」

 かなり低い声でそう言うラルフ。しまったこの人そう言えば歳上だった。

 

「ラルフだ。チビ共からはアニキって呼ばれてるが勘違いすんな、俺の名前はラルフだ」

「んなもん知ってるわ……アニキ」

「生意気なガキだな、シンカイ。お前は」

「良く言われるで」

 

 

「ここまでは計画通りって? ケイスケ」

「さぁな」

「ふーん」

 

 

 その日、ゲリョスを無事狩猟した事を村長に告げると猟団は報酬を受け取り村を後にした。

 ラルフ……アニキとの距離も縮まったという事で今日の夜の移動はアニキとケイスケ、カナタ、アカリと自分の五人で竜車に乗り込む。

 

 

『ラルフが元気になって良かった』

 そう書かれたスケッチブックを見せてからアカリはページを捲る。

 

『四人が無事に帰ってきて良かった』

「わいが居ればゲリョスなんぞなんとでもなるで」

 正直大型モンスターを見るのすら初めてだったので内心恐怖しか無かったが。

 

「あぁ、助かったぜ」

 ネタやから肯定しないでアニキ!

 

「これからも期待しているぞ、シンカ———あれは」

 期待の言葉を掛けられたかと思えばケイスケは竜車の外に眼を向けてそっちに集中する。何かを見付けたのだろうか?

 

「またジンオウガ……?」

 ケイスケが指差す先には大きな四足歩行のモンスターが倒れて居るのが見えた。

 竜車は止まらずに進んで行くが、五人はそのモンスターを凝視する。

 

 暗くてモンスターの特徴は見れないが、明らかにおかしな所がこれだけ離れていても分かる。

 腹部に人が潜れそうな程の大穴が空いているのだ。そういうモンスターという訳では決してない。ならば何者かに空けられたと考えるしか無いが……。

 

「昨日みたジンオウガの死体と同じだ……」

「あんなのが他にもあったのか?」

「なんなの……あれ」

 

 今思えば、この時見付けた物があのモンスターの仕業だったんだと……思い出す事に思う。

 

 

 その日の夜中は雨が降った。




第1章はこれで完結です。
ここまで読んで下さった方々ありがとうございました。

ここまでは一気に書きましたが次からは落ち着く予定です。
もし楽しんで頂けたのならこれからも温かい目で見守って頂けたらうれしいです。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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