モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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Shield and Sword『第九章』
あなたが好きだ


 ——俺……さ。お前の事がさ——

 精一杯。自分の本気を伝えようと思った。

 

 

 単純な、俺の独り善がりだ。

 

 

 ——好きだ……アカリ……っ!——

 ただ、気持ちを伝えたいだけだった。

 

 

 アカリの事なんて考えてなかった。

 

 

 ——……っ。……ぉ……さぃ——

 バカだよな俺。

 

 

 

 分かってたっての。

 

 

 

 アカリが他に好きな人が居るくらい、さ。

 

 

 

 アカリにとって、彼奴はヒーローだもんな。

 俺は、ただのガキだよな。

 

 

 

「くっそ……っ! くっそ……っ!」

「ギョェェェ!」

 スラッシュアックスを持って、夜の森に入れば直ぐにモンスターに見付かった。

 

 俺がもっと強くて、格好良かったら……アカリは振り向いてくれたかもしれない。

 

 

「くっそ……っ! くっそぉ! くっそぉぉおお!」

「ギョェェェ!!」

 こんな奴くらい……俺一人だって……っ!!

 

 

「うぁぁあああ!!!」

 

 

 

 畜生。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「タクヤが見付からねぇ……」

「…………は?」

 アニキのその言葉に、自分は寝起きで相当間抜けな声を出したと思う。

 

 

 一晩経っても、アニキが村中探しても、タクヤの姿は見付からなかったらしい。

 そんな事があるのか……? 確かに村としては大きな村だ。それでも、人が一人消えるなんて。

 

 

「こりゃ……マズイかもな」

「どういう事や?」

「彼奴森に入っていったのかもしれねぇ」

「んなアホな」

 そんな、自暴自棄じゃないか。

 

 

 タクヤはそこまでバカじゃない。

 

 

「タクはそこまでバカじゃ無い……とか思ってる顔ね」

 ふと、寝室の扉の奥から声が聞こえる。

 

 呆れたような表情で扉に立つのは、我等がサーナリア様と———アカリだった。

 

 

「アカリに全部聞いたわ」

「「ギクゥッ」」

 アニキとそろって、自分は情け無くも固まってしまう。

 いや、だって、その、ね?

 

 

 

「タクヤの防具も武器も無くなってた」

 そして、続くサーナリアの言葉は自分達の考えの甘さを指摘するような言葉だった。

 防具も武器も……?

 

 自暴自棄……では無いにしろ。

 あのバカ、憂さ晴らしにモンスターを狩りに行ったのか?!

 

 

「き、気にもしなかった……。まさか森に一人で入っていくなんてよ……」

「直ぐ探しに行った方がええな……」

 くそ……最低最悪じゃないか。

 

 

 よりによって日が昇ってからやっと動き出すなんて。

 

 

 もしかしたら……もう———

 考えるのは後だ。

 

 

「闇雲に探しても無駄よ……。三人ずつで別れて森を探すって、さっきケイスケに言っておいた」

 流石サーナリア……手回しの早い事。

 

 

「ラルフはヒールとナタリアと北側。カナタとガイル、ケイスケは西側。私とアカリと深海で東」

 ぇ……このタイミングでアカリとか。タクヤを仕向けた分気不味いが、そうも言っていられない。

 

 

「おねーちゃんには村に残って色々して貰う。……ったく、皆に迷惑掛けた罪は重いわ。後で三人纏めて縛り上げるから」

「「は、はい」」

 厳しい言葉だが、自分にはこう聞こえたんだ。

 

 

 絶対に、タクヤを生きたまま連れて帰る———って。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 場所は変わって森の中。

 

 

 流石に砂漠には向かわないだろうと、砂漠の方面は無視した探し方をしているが。

 この広大な密林で人っ子一人を探すのは中々に無理がある。

 

 だが、サーナリアはなぜか確信めいた表情で無口で歩いていた。

 

 

 

 いや、辞めてくれ。喋ってくれ。

 今この責任を感じながらアカリと話すのはキツい。

 

 そんな事を考えていると、横からツンツンと何かに肩を突かれる。

 何かと言わず、それはやっぱりアカリなのだが。

 

「あ、アカリ? どうしたん?」

『昨日ね』

 区切るような、短文。

 自分が頷くのを待って、彼女は同じページに言葉を書き連ねて行く。

 

『タクヤ君に、愛の告白をされた』

 辞めてぇぇ! 聞いてるこっちが恥ずかしくなるから辞めてぇぇ! 許してぇぇ!!

 

 

『それでね』

「……それで?」

『私は断っちゃったの』

 そう『言う』彼女の表情は、申し訳なさそうなそんな表情で。

 自分が何を押し付けたのか。その重みをやっと理解したのかもしれない。

 

 

『タクヤ君は本当に優しいし、良い人だと思う。最近頑張ってるのも知ってるし。だから、私は本当は嬉しかった』

「なら、なんでや?」

『分からないの』

 分からない……?

 

『でも、タクヤ君に好きだって言われてね。変な涙が出て来たの。ここで答えてしまったら、ダメだって思っちゃった』

「ダメ……か」

 それ……もしかして生理的に無理とかそんな理由って事じゃ無いでしょうな……?

 

 

「……はぁ」

 なぜかそこで溜息を吐いたのはアカリでも自分でも無くサナだった。

 ジト眼で自分達を見比べるその眼は、物凄く呆れた物を見るような表情でなんだか気に触る。

 

 

「……なんやねん」

「鈍感野郎と内気な女の子ってなんでこうも発展しないかなぁ、とか。私にもチャンスあんのかなぁ、とか。……そんな下らない事を考えてる」

 ……はぁ?

 

 

 ちょーっと待て。どういう事だ。

 

 

「えーと……つまり?」

「殺すぞ」

 サーナリア様ぁ?!

 

 

「あんたが初めてアカリを助けて上げた時からずっと、優しく気ままに気が効くあんたをずっと見てた娘が居たりする訳」

「ぇ」

 ……ぇ?

 

「———ち、ぁ……たょ?! ……ぁ?!」

 アカリー、落ち着けー。

 

 

「えーと……」

 アカリも落ち着くべきだが、正直言って自分も相当こんがらがってる。落ち着くべきは自分かもしれない。

 いや、でもね? まさかね? だって自分だよ?

 

 

 

「はぁ……」

 そんな固まっている自分を見てまたもや溜息を吐くサナ。

 彼女は一旦目を瞑り、何かを決意したようにその目を開いてから口を開いたんだ。

 

 

「ねぇ、シンカイ」

「な、なんでしょうか……」

「私あんたの事好き」

 

 …………

 

 

 ………………

 

 

 ……………………は?

 

 

「———はぁぁあああ?!」

 え、いきなり?! この状況で?! サナが?!

 

「そ、そんなに驚かないでよ……」

「いやいや、だって、ねぇ?!」

「ぇ、ち、ぉ、……ぁ?!」

 頭が真っ白になる自分の後ろで、声にならない声を出すのはアカリだった。

 自分の気を紛らわせる為に、アカリに顔を向けるのだが———当のアカリは号泣したいる。なぜだ!

 

 

「じ ょ う だ ん よ ! !」

 先頭をスタスタと歩いて行ってから、サナは振り向いてそう大声を上げる。

 少し複雑そうなその表情を見ながら自分とアカリは口を開けてポカンと佇んでいた。

 

 

 

「な、何よ! 間に受け過ぎ! もぅ、なんなのよもう……」

 一人で大声を出して一人で気分を害している彼女はドコドコと歩いて来て、アカリの両肩を掴んで声を上げる。

 

「もう少し頑張りなさい……」

「…………ぅ……」

 サナがアカリに怒ってるのは珍しい光景だな……。

 

「あんたは!」

「ん?」

 次は自分の肩を掴んでくるサナ。心なしか目が充血してる気がする。怖い。

 

 

「今の事を忘れなさい」

「ぇ、ぇぇ……冗談なんやろ……? なっはは……」

「忘れろ」

「あ、はい。分かりました」

 とは言ったものも……ね?

 

 

「な、なぁ……サナ?」

「あぁぁぁっあぁぁぁっ! 黙ってぇぇ!! もう少しで多分着くから!!」

「「……?」」

 着く……? さっきまでの話は終わったのだろうか。

 

 

 さっきから闇雲にタクヤを探していた訳だが。

 サナには何か手掛かりが掴めていたのだろうか?

 

 

「こっち……か」

 真剣な表情で、サナは木陰から前方の様子を伺っている。

 そんなサナを不思議に思っていると、何やら鼻の奥に来る匂いを感じるようになった。

 

 なんだ……これ?

 

 嫌な匂いなのは確かなのだが、良く感じる匂いだ。

 

 

 

 これは———

 

 

「あった……ゲリョスの死体」

 サナが、答えを口にする。

 

 木々の間から見える紫。

 広い空間に出ると、そこは真っ赤に染まっていた。

 

 

 紫の巨体は腸を飛び出させ、もう二度と動かない屍となっている。どう見てもお得意の死んだフリでは無さそうだ。

 

 ———匂いの正体はゲリョスの亡骸と体液の匂いだったって訳だ。

 

 

「二人は周りを警戒してて」

 そう言ってサナはゲリョスの死体の元に歩いて行く。そのまま腸を触ったり、身体を触ったりとゲリョスを調べる彼女の表情は真剣そのものだ。

 さっきの言葉が何だったのか、聞けるようなタイミングでは無いな。

 

 

「しかし……なんでサナはゲリョスがここで死んでる事が分かったんやろな。そもそもワイらが探しとるのはゲリョスやのーて、タクヤやろ?」

「ん……んぅ」

 アカリはさっきの焦りが抜けてないのか、少したじろぎながらスケッチブックにペンを走らせる。

 

『サナに昨日の事話して、タクヤ君が村に居ないって事を知った時。サナは皆に言う前に千里眼の薬を飲んでたよ?』

「千里眼の薬……」

 確か、五感を敏感に働かせてモンスターの位置を把握する事が出来る様になるアイテムだ。

 

 

 確か、匂いと風が乗ってきた方向まで感じ取ってほぼほぼモンスターの位置が分かるようになるんだよな。

 使った事は無いけど、どんな感覚にならのだろうか。そういう胡散臭いアイテムは怖いからあんまり使った事がなくて、分からん。

 

 

 しかし、やはり腑に落ちない。

 

 探しているのはタクヤであって、ゲリョスじゃ無いし。

 

 

「まだ死んで間も無かったわ」

 そして帰って来たサナはそんな事を言った。ゲリョスの亡骸の死亡時間なんて知っても———まさか。

 

「タクヤが……?」

 自棄になったタクヤが出会ったゲリョスを倒したって言うなら、ゲリョスを探したサナの行動の意味が分かってくる。

 

「分からない」

 ただ、サナから帰って来た返事はそんな言葉だった。

 

 

「分からないって……」

「タクヤが居なくなったの確認してから、私は直ぐに千里眼の薬を飲んだの」

「それは、さっきアカリに聞いた」

 その行動力は本当に凄いと思う。

 

「付近のモンスターの気配を感じて、一箇所不自然な方角を感じた。それが、今私達が居る村の東側」

「不自然……?」

 あのゲリョスの事か?

 

 

「ゲリョスが何匹も死んでるの。この東側だけで、ね」

 何匹も……? つまり、あのゲリョス以外にも何匹かこの付近でゲリョスが死んでるって事か?!

 

「なら、やっぱりタクヤはこの付近におるんや無いか? どないしてワイら三人だけで探しとるんや」

「タクヤだけで何匹もゲリョスを殺せると思う?」

「ぇ、いや、それは……」

 そう言われてしまうと、確かにおかしい。

 

 

 タクヤは確かに成長した。

 一人でゲリョスを倒す事だって出来るかもしれない。

 

 だが、それが何回も続くとなると話は別だ。

 タクヤがどうだとかじゃなくて、人一人が一晩のうちにゲリョスを何匹も殺すなんてまともな人間なら不可能である。

 

 

「私が千里眼の薬で感じた異変はそれくらいだった。……私もあんたみたいに、もしかしたらタクヤがって思って私達が東に行くようにケイスケに言ったんだけどね。不確定要素だから、全員を連れて来る事は出来なかったけど……どうやら正解だったみたい。宛が外れたかも」

 所詮は、自分達が村に来る前からあった森の異変と被っただけなのかもしれない。

 

 

 だけど、それならタクヤは何処にあるのだろうか。

 

 

「所で、関係無いと思うんだけど」

「「?」」

 

「あのゲリョスの死体、なんか変なのよ。まるで何かに腸を喰われたみたいな……歪な死に方をしてるの。死に方っていうか……死んでから腸を喰われたみたいな」

「「……っ」」

 アカリとお互いに顔を見合わせる。

 

 

 そんな妙な死に方をしたゲリョスの時点でおかしい。

 おかしいのだが、この世界はまだまだ謎が多いんだ。そのくらいの事はあったっておかしく無い。

 

 問題はそこじゃ無い。

 

 

 自分達は昨日同じように妙な死に方をしたゲリョスの死体に見覚えがあった。

 それが別個体で、まだ他にもゲリョスの死体は周りに転がっているなんて話だ。

 

 その全てがこの妙な死に方をしていた所で何が分かるかといえば、何も分からない。

 

 

 ただ、それが普通じゃ無い事だという事は頭の悪い自分でも良く分かるのだった。

 

「なぁサナ。きになる事があるんやけど———」




あけましておめでとうございます(`・ω・´)

証拠にも無く毎週更新してますが実はストックがギリギリです←
モチベが、ね(´・ω・`)
でもちゃんと完結させたいので、頑張って更新していきたいと思います。

厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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