モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
「密林の奥で嵐、ねぇ」
ゲリョス二匹の討伐を成したその日の夜。
皆で集まって食事をするなか自分と兄貴はケイスケからこの密林で起きている不可解な現象の話を聞いた。
「そうだ。此処最近、密林の奥……樹海で度々不可解な嵐が起きる事があるらしい」
ケイスケの話によれば、つい三ヶ月ほど前からその嵐とやらが起き始めているとの事。
三ヶ月ほど前というと、自分が猟団に入った位の時だ。
そういや、ジンオウガの変な死体を見たその日も雨が降ったな。
まさかとは思うか、関係があるのだろうか?
「まさか、嵐なんかでゲリョスがビビって逃げてきたってのか?」
そう言うアニキの考えも納得が出来る。むしろ、そう考えるのが普通だ。
しかし、一つ気になる点があるとすれば。それはクエスト帰りに見たあのゲリョスの異様な死体だろう。
「密林の奥でその頃に嵐の雷で火事が起きたらしい。それで、そこに住んでいた多くのモンスターが移動したのでは? なんて憶測は一応考えられてはいるんだがな」
まぁ、ゲリョスは火に弱いからな。
だけど、あの死体と村の近くまでゲリョスが現れる理由に説明がつかない。
「そこで、親父はその嵐が起こる場所に調査をしに行く事にしたらしい」
「一人でか?」
「あぁ」
それまた、どうして?
考えられるのは一つか。
「クシャルダオラかも……って、話なんか?」
嵐を纏うとされている古龍。クシャルダオラ。
親父の嫁さんの仇かもしれないそのモンスターが、もしかしたらその場にいるのかもしれない。
ならば、度々起こるらしい嵐には納得が行く。
「少なくとも親父はそう考えてるんだろうな……。だから、俺達は連れていけないそうだ。親父が戻って来るまで、俺達はこの密林の不安定な狩場を毎日なんとかする。それで決定だ」
「そういうこったぁ!」
ケイスケが話し終わると、唐突に親父が背後から声をかけてくる。背中には何やら大量に荷物を抱え、既に出発準備が整っていた。
「も、もう行くんか?」
「おぅ! 奴は待ってくれねぇかもしれねぇからな。その間、猟団は任せたぜ、ケイスケ、ラルフ、シンカイ」
なぜ自分が入っているのか。
「任せろや! ……気をつけるんやで?」
「おぅよ! こっちの事は任せたからなぁ!」
ただ、単純に頼られるのは嬉しくて。そう答えて親父を見送るのであった。
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「……は? 告白だぁ?!」
「声がデカい!!」
結局、チャージアックスは使いこなせなかったがアカリに格好良い所は見せられた訳で。
タクヤはアカリに告白する決意を固めた事をサーナリア様にご相談。
しかし、サナの反応は……意外では無かったのだが難しい物だった。
まるで「お前に娘はやらん」と言い放つ父親の様な表情をしている。
「良いじゃねぇか。あいつも中々成長してるのは、お前も良くわかってるだろ?」
アニキがそう諭すが、サナはまだ渋い顔。
「いや、でも…………ねぇ。アカリは……」
「少しくらい応援したったらどうや……」
「アンタがそれを言うかぁ……」
なんで呆れられてんの。
「とりあえず、私は断固反対タクにも言っときなさい! 絶対に無理だから!」
そう言うと、サナは溜め息混じりにその場を後にしていってしまった。
「……そう言われると」
「……引き下がれないのが」
「「男だよなぁ?」」
流石アニキ、分かってる。
「シンカイ、お前はアカリをサボテンの所に誘っといてくれ。タクヤから大切な話があるって言ってな」
「な、なんでワイが?!」
「タクには心の準備が必要だろうからな……。ま、あいつの事は俺に任せろ」
重要な役割を担ってしまった気がする。
まぁ、自分がタクヤを勇気付けられるかと言えば難しいだろうから。こっちの方が気が楽で良いのかもしれない。
「……分かった。そなら、時間はどうするんや?」
「サナは何も無ければ九時に寝る。今日はサナには何も無いし、サボテンではしゃいで疲れてるだろうから寝るだろ」
「良い子かよ」
いくらあの歳でも本当に九時に寝る子なんかそう居ないと思うぞ。
いや、もしや身長の事を気にしているのだろうか……。アカリより大きいから、年齢的には気にしなくても良いとは思うが。
「だから、サナに邪魔されないように余裕を持って行動するなら十時だな」
「アカリは悪い子なん?」
「悪い子だな」
それが普通なんだけどな。
「よし、そんならアカリの事は任せろや! 祝杯のジュースとかも用意しとかんとな!」
「今日は二人で寝させてやるか」
それは流石に早過ぎる。
そんな訳で、自分とアニキはタクヤとアカリの幸せの為にお互い陰で奮闘する事に。
いや、しかし……もし成功すればこれ程めでたい事も無く。そんなめでたい事に力を貸したと言う経験もまた青春なんだろうな、とか思うね。
ただ、やっぱり青春するなら自分も恋……したいなぁ。なんて、ワガママを思っても見る。
「ぉ、アカリ!」
そんな事を考えながら、探していたアカリを発見。
夜の村の観光名所であるあの巨大サボテンの下にあるベンチで、一人で座って読書に勤しんでいる少女。
本に集中しているからか、聴力の弱いアカリは自分の声に気が付かなかったようだ。たまにアカリが殆ど聞こえて無いのを忘れてしまう……。
タクヤ、大丈夫だろうか。
「……アーカーリー」
「……ほぇ? はっつぁっ?!」
背後に回って、頭を指で突いてやると間の抜けた声を出してから振り向いたと思えば驚いてひっくり返るアカリ。
え、そんなに?!
「うぉぉ?! だ、大丈夫かアカリ! 怪我とかしとらんか?」
タクヤに殺される……。
「……っぁ、ん、んん」
しかし、アカリは起き上がると首を横に大きく振ってからいつものスケッチブックを取り出す。
いや、なんとも無かったのなら良かったのだけど。申し訳ない事をした。
『ごめんねシンカイ君! 本読んでて、集中してたから気付かなくて。ごめんなさい!』
そう書かれたスケッチブックを、頭を下げながら見せて来るアカリ。
「あー、いやいや。謝るのはワイや。急に話し掛けてすまんな」
「んん!」
もう一度首を横に振るアカリ。
アカリは優しいなぁ。だからこそ、タクヤも恋に落ちたのだろうが。
『どうかしたの?』
それで、やっぱりと言うべきか聞かれてしまった。
タクヤが告白しにくるから十時までここで待っていてくれなんて、そんな直球で言えたら何も苦労はしない。
自分の事では無いのになぜかこう、恥ずかしいのだ。
だから、こういう時は世間話から行くのが当たり前だよな。
「何読んどったん?」
「……ほぇ?」
キョトンと、首を掲げるアカリ。
突然現れたかと思えばそんな質問されたらそんな反応もするだろう。
自分のコミニケーション技術の低さが憎い。
『えーと、モンスターの生物学的分類と進化の過程っていう本だよ!』
「ごめん、聞いたワイが悪かった。話を変えようか」
え、物語とかじゃ無いの?! なにそれ、ハンター学校でもそんな題材の本無かったよ?!
「???」
悩ましげに首を傾けるアカリにとっては、その手の本は普通なのか。
そういえば、皆と会ってからもう半年近く経ったのか。それでもまだ、知らない事ってあるんだな。
「アカリはさ、好きな人が出来たらどうする?」
「ふぇ?!」
自分のそんな何気無い質問に、彼女の顔は真っ赤になって身体は跳ねた。
そんなに驚くような質問だったのだろうか。
自分的には、アカリが読んでいた本の方が驚く物だった訳だが。
「ぇ、と」
フルフル亜種みたいな色の顔になりながら、アカリはペンを走らせる。
相当恥ずかしいのか、ペンもいつものより遅く動いていて。何故か力が篭っているようだった。
『好きになって貰えるように努力する!』
なんて、素敵な返答。
「せやな」
「ぁぅ……」
その頭を撫でてやる。
うん、そうやって努力してる奴がアカリのすぐ側に居るんだ。
「アカリ」
「……?」
「ちょっと、十時くらいにここで話して欲しい奴がおるんやけど」
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「……いけると思うか?」
「……半々、やな」
巨大サボテンが見える、村の茶屋。アニキはそこの常連らしく、店主にお願いして店を開けて貰って自分と二人で座り込む。
窓から見える大きなサボテンの直ぐ近くのベンチには、さっきのモンスターの生物なんたらかんたらとかいう本を読みながら座っている一人の少女の姿があった。
そして、その少女の元に———なぜか垂直に動きながら近付く少年の姿。
「……半々か?」
「半半々くらい……かな」
頑張ってくれよ、頼むから。
少年は少女に声を掛けるけど、少女は聞けえてないらしく気が付かなかったようだ。
あいつ、自分と同じ間違いを犯してやがる。
内心笑いそうだったが、今回は一世一代の勝負なのだ。頑張ってもらわねば困る。
負けじと、少年は彼女の目の前に立ってもう一度声を掛ける。
少年の表情は見えない。
だけど、少女の表情を見ればそれとなく真剣な表情で話し掛けたんだなと思えた。
少年は少女に促されるまま、ベンチの横に。
数秒間をおいて、少年が少女の方へ向くと少女は初めから少年をしっかり見ていてくれて。
それに驚いた少年は一瞬目を逸らしそうになるも、そこは男を見せて止まった。
少年の口が開く。
なんと言ってるかは、ここからじゃ分からない。
ただ、真剣な表情は見えて。少女もその話を、真剣に聞いてくれていた。
少しだけ立って、少女が立ち上がる。
少年に目を向けて、空を眺めたかと思えば目を閉じて。反転して、少年の方を向いた。
その頭が下がる。
お願いしますか?
ごめんなさいか?
少年の表情が見えなくて、なんと言われたか想像が付かなかった。
しかし、ほんの一瞬で少年の顔を拝む事が出来た。
少年は何に反応したのか、勢い良く立ち上がったのである。
「おぉ?!」
「ど、どっちや?!」
正直、行けたと思った。
だってアイツ、笑ってたから。
しかし、頭を掻きながら笑っているソイツは一向に動く気配も無く。
少女も、少年の方を向いて動く気配も無く。
自分とアニキが顔を見合わせて、不思議に思っているとやっと少年は動いたのだ。
どうしたかと言うと、だな。
「「え?!」」
走って、視界から消える少年。
この時点で可能性は二つ。
大成功して、恥ずかしさのあまりに走って行ったか。
大失敗して、逃げるしか無かったか。
ただ、タクヤは笑っていたのに。
なんでか後者の方な予感がして。茶屋の主人に礼も言わずに自分は店を飛び出していた。
「……っ、あ、アカリ……タクヤは?」
「……ぅっ……っ…………ぁ」
自分の無神経な質問に、少女は泣き」声で返して来る。
振り向く少女の表情は、申し訳なさとか辛さとかの負の感情でいっぱいで。
とても、嬉しかったとかそんな表情には見えなくて。
「…………ごめん」
「……て、しか、ゃ……ぅの?」
なんでシンカイ君が謝るの?
そう言っているように聞こえて、胸が痛くなる。
アカリは優しいから。きっと、タクヤの気持ちはキチンと伝わったんだと思う。
でも、アカリにはそれを断るだけの何か理由があって。
タクヤの気持ちを彼女に背負わせた。そんな事、考えもしなかったんだ。
失敗してもタクヤが辛い思いをするだけだと、そう思ってたんだ。自分達は。
「…………ひっ……っ」
「ごめん……ごめんな、アカリ」
なんで、サナの言う事をちゃんと聞かなかったのか。
あいつが一番、彼女の事を分かっている親友だっていうのに。
「勝手に行くなよシンカイ。で、タクヤは?」
「あ、アニキ……あ、いや…………分からん」
「ったく……って、アカリ……。あぁ……お前はアカリを貸家に連れて行け。タクは俺が見付けるから」
「お、おぅ……悪い。アカリ、歩けるか?」
これは、本当に悪い事をしたな。失敗したなと、思った。
ただ、それだけしか思わなかったんだ。
次の日になったら、軽い思い出話になるような。そんな大失敗。
ただ、それだけの話に収まると思ってしまっていたんだ。
次の日になって、こう言われるまでは。
「タクヤが見付からねぇ……」
「…………は?」
一晩経っても、一晩アニキが村中探しても、タクヤの姿は見付からなかった。
今年は色んな事がありました。
ハーメルンで小説を書き出したり、読み出したり。
Twitterの方で作家さんたちと関わったり、先日はモンハン飯のしばりんぐさんと会ったりと半年でとんでもな所に立っていたりします。
とりあえず皇我リキとしては、このお話が今年の締めの更新です。明日はハン退を更新するのですがね(笑)
この作品は私の始まりの作品です。どんな形であれ完結させたいので、読んでくれている方は宜しくお願い致しますm(_ _)m
今年はありがとうございました。
来年が皆様にとって素晴らしい年になります様に。