モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
「あんたさ……アカリの事諦めるつもり無いの?」
湖から出てアカリの所に向かいながら、サナはタクヤにそう聞いた。
いや、諦めるのは早いと思う。確かにタクヤはなんかもう酷いが、まだチャンスはある筈だ。
因みにアカリはパラソルの下で日向ぼっこをしている兄のケイスケの横に座っている。
「あ、諦める訳無いだろ! 俺はアカリが……す、好きだから」
口に出せる程本気なのだから、応援したくもなる。
しかし、サナはその逆の様で。
「ふーん……」
「なんや、応援したらんのか?」
「あ、あんた……」
どうしたのだろうか?
「はぁ……」
少し黙ってから溜息を吐いて、サナは何故か自分を見ながら口を開く。
「世知辛いわよねぇ……タクも…………私も」
「「?」」
何言ってるんだ?
「はぁ……ん、ほらタク。アカリに謝ってきなさいよ」
タクヤにアカリの眼鏡を渡しながら、サナはそう言った。タクヤはそれを受け取ると足早にアカリの元へ駆けて行く。
「どうかしたんか? サナ」
「なーんでも無いわよー……」
ふーむ、おかしい。
「ま、アカリの事大切に考えとるんは分かるわ」
とりあえず機嫌を直してもらおうと頭に手を乗っけて撫でてやる。いや、逆効果かもしれないが。
「ば、バッカじゃ無いの……」
しかし、何故か言葉とは裏腹にその表情からはイライラが消えている———ような気がした。
「あ、アカリ……さっきはごめん!」
『私も急に飛びついちゃってごめんね』
二人は恐る恐るそうやって和解する。今は縮まらない距離だが、いつか叶うと良いな。
「よーし、お前ら! 準備運動は済んだろう。今回も遊ぶぞ!」
それから少しして、自分達四人は砂浜でお城を作ろうとしていたのだが。
周りが良く見えそうな場所で、ケイスケがそう声を上げる。何か始まる……?
嫌な予感しかしない。
しかしケイスケの声で皆が一箇所に集まって行く。本当にあのカリスマ性には驚かされるね。
「今回の景品は、一日好きな相手を好きに出来る権利だ!」
そしていきなり提示される景品。何それあんな事やこんな事までして良いって事?!
「ま、待ていや待ていや! ワイ、何も分かってないんやけど?!」
「そうか、シンカイは初めてか」
もう結構馴染んできたが、まだ入団して半年も経ってない。
「毎回この湖で遊ぶ時にな、何かしらのスポーツで全員戦って争うイベントがあるんだよ。で、いつもは粗品があるんだが……」
アニキが横からそうやって教えてくれる。要するに温泉旅館の卓球大会みたいな物なのだろう。
しかしその粗品、多分自分達への武器のプレゼントで無くなった……のでは無いだろうか。そう考えると憂鬱だが、ケイスケにとってそれは誤算でもなんでも無かったのだろう。
「勿論、あんな事やこんな事までして大丈夫だ!」
そう宣言するケイスケは、物凄く笑顔でカナタを真っ直ぐ見つめていた。
「ケイスケあんた最低!」
「これだから男の子は……」
カナタとクーデリアさん大ブーイングである。
「そ、それって……逆もありって…………事?」
「ま、私が勝つからなんの問題も無いけどね。さーて……誰に何してやろうかしら……」
しかしナタリアとサナはそんな反応を見せる。あー、なるほどね。そんな考え方もあるのか。
『頑張ろうね!』
で、この子は多分状況が分かってない。
「俺が勝ったらカナタに日焼け止めを全身隈無く塗ってやる!」
高々とそう宣言するケイスケ。あんな事やこんな事までと言うが、この人達の事だから女の子達が本当に嫌になる事はしないのだろう。
「絶対に嫌よ!」
まぁ、カナタは青ざめてるが。
「なら俺はアカリに……」
「俺はクー姉っす!」
「……サナ」
そして男子が各々自分の願望をぶち撒ける。が、ガイル君サナ狙いだったの?!
「ヒール君~、分かってるのかな~?」
「俺は本能に忠実に生きる獣っすよ、クー姉」
ヒール君が初めて見た目通りのセリフを吐いた。
「あ、あんたどういうつもりよ!」
「……俺は常日頃お前に勝てない。だから、今日は俺が勝つ」
道理がおかしい。
さて、なら自分が勝てたらどうするか。
まぁ……正直このメンバー達に勝てると思わないのだが。
「さて、各々のモチベーションも上がった所で。今回の協議の説明をする」
そう言いながら、普段は船の広間に置いてある掲示板を立てるケイスケ。
いつもはクエストや今後の予定等、皆に目を通して貰いたい内容が貼られているだけなのだが。
今日は大きな紙にこのオアシスの拡大地図のような物が印刷され、それをでかでかと貼り付けられていた。
そして現在居る場所に赤丸、その正反対側に青丸が書いてあるのを見て大体何をするのか理解出来る。
「この赤丸がスタートライン、参加者は一斉にここからスタートして青丸を目指す。青丸で待ってるラルフが卵をくれるから、卵を割らずに一番に戻って来て待機している審判に渡した奴が優勝だ!」
アニキに何かの卵を渡しながらケイスケはそう説明した。ルールは至って簡単、シンプル。
だがシンプルなだけに色々と裏技がある。
「このルールさえ守れば後は何をしても良いぞ。勿論妨害もな」
ケイスケは意味深にカナタを見ながらそう言った。妨害はそうだが必ず湖の周りを走る必要も無ければ必ずアニキに卵を貰いに行かなくても言い訳だ。
これは色々と裏技があるな……。さて、どうするか。順当に考えるなら右から行くか左から行くか、どちらが早いか考えるべきだろう。
「アニキは参加しないんすか?」
ヒールが率直な質問を本人に投げかける。そういや、そうなるよな?
「俺は特に誰かに何をしてくれって願望は無いからなぁ。それに、こういうのは年長者の役目だろ?」
「やっぱアニキってホモなんすか……?」
「どうしてそうなる?!」
疑わしさはある……。
「出場しない奴は申し出てくれ。審判をしてもらう代わりの報酬と言ってはなんだが余った卵を贈呈する」
要らん。自分の欲望はただ一つ、女の子の身体だ! ———いや、しょうがないよね。男の子だもんね。
『私審判やるね!』
「ま、私もサナに任せるわ……。歳下には興味無いの」
と、いう訳でアカリとクーデリアさんが審判に回る事に。親父とアニキ、アカリにクーデリアを覗いた全員が参加する事に。
正直言って、このメンバーの時点で何が起こるか想像つかないんだが。
「よーし全員、位置に付け!」
ケイスケの呼び掛けで参加者全員が位置に着く。アニキは湖の反対側まで右から走って行った。確かに見た目から単純明快に右側の方が短い気がする。
アニキが走って一分程の距離。全力疾走を続けるには自分には少し辛いな……。
アニキが位置に着くと、背後にはアカリとクーデリアさんが立って。アカリは『よーい』と書かれたスケッチブックを掲げていた。
「ケイスケにだけは絶対に勝たせない……」
「なら、俺を押し倒して止めておくんだな」
なんて会話をする二人。それはそれで多分ケイスケにとっては幸せな事なのだろうが……。
「なるほど、そうしようか……」
「ならば俺は止まっておいてやろう」
「言ったわね? 絶対に動くんじゃ無いわよ」
「おぅ、どんとこい!」
なんでケイスケってカナタが関わるとダメになるの。
「……サナ、俺を止めたければ———」
「あ、うん。分かった」
「お前らもかい!!」
「スタート!!」
そして突如クーデリアさんがそう宣言して、この欲望丸出しのレースの開幕。開幕起こった事を一言で表そう。
「「クボゥッハッ!!」」
ケイスケとガイルはカナタとサナに蹴り飛ばされ湖に沈んだ。……酷い。
そしてサナは蹴りの勢いまで使ってスタートダッシュ。自分と同じく右から走って行く事を選んだようだ。
サナに着いていけば間違いは無いのだろうが、むしろサナに着いていくという事は同じ方法でサナに勝たなければならないという事。ハッキリと言おう、無理だ。
振り向けば。タクヤとヒールは湖に飛び込んで、ナタリアは左側を選んだらしい。カナタはケイスケさえ勝たせなければそれで満足なのか、アカリ達の元へ向かっていた。
確かに湖を泳げばアニキの所まで一直線だ。だとしても湖を泳ぐのと陸を走るのでは訳が違う……あの二人は素直過ぎるところがあるからタダのミスだろう。気にする事は無い。
問題はナタリアだ。目測からして右からの方が早く感じるのだが、ナタリアは左を選んだ。何を考えている……?
まぁ、今は良い。当面の目標はサナに距離を離されない事。どこかで彼女を抜かなければ勝利は無いのだが、今はチャンスを待つしか無い。
自分には切れるカードが無いのだから。
「って、なんやアレ?!」
スタートしてからアニキのところまでもう半分くらい。
ふと湖の方を見てみると、自分達とほぼ横並びでタクヤとヒールが湖を泳いでいる姿が目に入った。
「ヒャッハー! 姉さんのメロンは俺のもんだぁぁ!!」
いや誰だよあいつ! ヒールか?! いつかガノトトスにモヒカンを潰された時と同じ反応をするヒールの姿が湖に。
「え?! 何アレ?!」
「あいつ……自発的にモヒカンを崩してネオヒールを呼び出したのね」
前を走るサナはそう淡々と冷製に分析を述べている。
「いやネオヒールって何?!」
あの状態のヒール君の事?!
「うぉぉぉっ!」
しかもそれに追従するようにタクヤが泳いでいるのにも驚きだ。サーナリアさん、タクヤに何を教えたんですか……?
このままだと少し湖を泳いでる二人が早いくらいで折り返し地点に到着してしまうだろう。
しかし、自分にはやはり切れるカードは無く。ヒール、タクヤ、サナの順番で自分より先に三人がアニキの元に辿り着いてしまう。
アニキは手早く到着順に卵を渡していく。自分が着く頃にはヒールは湖に飛び込もうとしていた。く、妨害も無理か?!
そう思った時だった———
「タク、歯を食いしばりなさい」
「え」
「良いから」
「え?!」
自分が到着する寸前に、二人はそんな会話をしていた。そして、自分が到着すると同時にサナの右脚がタクヤのお尻を直撃する。
「———なんっでぇ?!」
「メロンメロンメロ———ドフェッ?!」
見事にタクヤミサイルはヒールに直撃し、二人は湖の底に沈んでいくのであった。
タクヤの卵は蹴られた反動で割れていたし。もうこの勝負サナと自分の二人の勝負なのか……?
「鬼だ……」
「この世は弱肉強食よ」
「いや、てかアレ助けないと危ないんやない?」
「ラルフが助けるわよ」
「俺かよ!」
そう口を落とすとサナはその場を走り去ってしまう。う、出遅れた……やはりサナが優勝か?
そう思いながらもアニキから卵を貰おうと手を伸ばす。視界に一瞬ナタリアが移ったが、やはり自分より遅く到着していて。左を選んでも勝てなかったのだろうなと、悔しい思いが募るだけだった。
しかし、ナタリアはアニキから卵を貰うことなく通り過ぎる。どうしたかと思って振り返って見れば、まだスピードに乗ってないサナに追い付き、その背後を取ってサナが持つ卵を盗みとったのだった。
「え?! ナタナタ?!」
「ふふーん、これで優勝は私!」
バランスを崩したサナは湖に音と水しぶきを上げながら落ちて行く。ナタリアの奴やってくれたな?!
態々反対から回って来たのは自分から意識を逸らしつつ、速度を維持しながら速度を出す前の誰かに背後から近付くため。
最短距離だけを考えていた自分達以上に彼女は頭を使っていたという事だろう。なんてこった、アニキの貞操が危ない。
「おー、ナタリアの奴凄いな」
「感心しとる場合や無いで、アニキは」
「あ?」
分かってないのが憎たらしい。
「ほな卵貰ってくで!」
ここからのどんでん返しはかなり難しい。それこそ奇跡が起きなければ無理だが、猟団メンバーほぼ全員が参加していたこのレースも折り返しのこの時点で残り二人しか生きていないこの状況。
覆すのは困難———だと、思っていた。
「ふぇぇ?!」
前方を走るナタリアの悲鳴。
水飛沫と共に現れたのは湖に沈んだ筈のガイルだった。
居るはずの無い人がいきなり現れるものだからナタリアは腰を抜かして底に倒れ込んでしまう。
「……こいつは貰う」
そしてガイルはナタリアが手に持つ卵に手を掛けた。
くっ、サナの蹴りで沈んだと思っていたのにまさか待ち伏せしていたなんて……。
ここまでする信念がガイルにあった事に驚きだ。いや、ガイルは自分と同い年。当たり前といえば当たり前だった。
「い、嫌っ! 私はラルフ君にあんな事やこんな事するんだもん!」
「何爆弾発言しとんねん!」
そんな所で自分は座り込んでいるナタリアに追い着いた。
このまま抜き去ってやりたかったのだが、口を開かずには居られなかった。この喋り方をし出してからツッコミに回る事が多くなった気がする。
「……俺もサナにあんな事やこんな事をする」
「真顔で言うなや! サナ居ったら殺されるで!」
ガイルのイメージ変わるわ!!
「どうしても通してくれないんだね……。これは私の卵だから!」
「……いや、俺の物だ」
謎の睨み合い勃発。
「元はと言えばその卵も人のやろ……」
「ならここはオセロで決めましょ!」
「……良いだろう。受けて立つ!!」
「なんでオセロ?! じゃんけんとかじゃダメなんか?!」
『はい、オセロだよ!』
そしてなぜか背後から現れたアカリが二人の間にオセロ板を置く。その準備の良さは何?!
「絶対に負けないんだから!」
「……望むところだ……っ!」
「…………置いてこ」
こいつら、自分も卵持ってるって事忘れてるな?
まぁ、良い。これで自分以外全員脱落したような物だ。
勝利は知らず知らずの内に我が手に収まっていた。歩いていたって勝てる勝負。
だから自分は優雅に歩きながら考えていた。誰に何をしてやろうか、と。
オイル塗り、膝枕、頭を撫でてもらう、手を繋いで夜景を見に行く。我ながら臭い願いが滝のように降って来る。
「おかえり。まぁ、シンカイ君なら変な事はしないでしょうけど」
出迎えてくれるクーデリアさんはそんな事を言うが、残念ながら変な事しか考えて無い。
クーデリアさんが挙げる手に卵を渡そうとする。さてさてさて! 何をしてやろうかなぁ?!
「そうやなぁ、変な事というより———」
「俺の勝ちだぁぁあああ!!」
クーデリアさんの手に卵を置くほんの一瞬、ほんの一瞬前だった。その卵は背後から飛んで来た木の棒に破られて黄色い中身をぶち撒ける。
中身が飛び散りクーデリアさんに掛かった絵面的にはなんかエロい事になっているんだが、問題はそこでは無い。
「わ、わ、ワイの……卵が?! 卵がぁぁ!!」
勝利は目前。あんな事やこんな事も目前だったというのに。だ、誰だこんな事をしたのは?!
いや、一人しかいない。遠距離から木の棒なんかでこの卵を割るような奴は一人しかいない。
「……っ、タクヤ?!」
「へっ、危ねぇ危ねぇ」
こいつ……っ!
だが落ち着くけ。こいつは卵を持っていない。さっきサナに蹴られた時に割れていたからな。
ならばまだあそこでオセロをやっているバカ二人から卵を奪えば勝利の可能性はある!
そう思って走り出そうとしたその時だった。
「どこ行くんだよシンカイ。もう、勝負は決まったぜ?」
そう口走るタクヤの手に持たれていたのは、紛れもなく卵。卵だった。
「ど、どうしてや……? お前の卵は割れたはず」
「人のでも良いんだろ?」
「いや、だとして誰の———ヒールか?!」
あの時一緒に沈んだ筈のヒールの卵まで割れたとは考えにくい。
ま、まさか……タクヤに負けるなんてな。
「タクヤ……」
アカリに嫌われん程度にしておけよ、と。後で伝えて置こう。
まさか、あのタクヤがここまで頑張るとは誰が思ったか。ここは素直に賞賛の言葉を贈るのが良いか。
「俺の……勝ちだぜ!!」
おめでとう、タクヤ。
ストックが無くなってきたので、最近また書き始めたのですが。どうやって書いていたか忘れてしまって困っている作者です。
年末までしか在庫がありません。なんとか書けると良いのですが……。
水着回も大詰めですね。モンハンとは。
男の子ならこういう事になって欲しいんですよ()
また次週もお会い出来ると嬉しいです(´−ω−`)
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。