モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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Charge Blade『第八章』
嗚呼素晴らしい夏の始まり


 ただ、死ぬと感じた。

 

 

 絶対的絶望的状況下の中で俺はそう思う。

 ただ親と喧嘩して村を出ていっただけなのにこんな事になるのか。

 

 いや、俺は子供だから仕方無いよな?

 

 

 死の恐怖ってのが、その時———いや、今も分からなかったから。

 もし、死ぬのが怖いって事だと分かっていたら。

 

 ———俺の人生は変わっていたかもしれない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「くらえ!」

 絶妙な腕裁きで少年が投げるブーメランは綺麗な弧を描いて目標に直撃し、少年の手に戻っていく。

 

 

「コクカァァッ!」

 しかし、堅牢な甲殻を持つこの甲殻種———ダイミョウザザミには傷一つ付ける事も出来なかったようだ。

 それでもダイミョウザザミはブーメランが飛んできた方向を見定めると、一本の巨大な大きな角を少年———タクヤに向ける。

 

 それだけでもブーメランを投げたタクヤの行動は意味がある物になった。

 角竜の堅牢な頭蓋に守られた部分はどうしても剣ではダメージをを与え難い。

 

 タクヤが一人囮になる事で、まだ攻撃が通るダイミョウザザミの身体が自分達の方を向く事になる。

 どうしても背を向け続けるダイミョウザザミに対してサナが発案した作戦は大成功という訳だ。

 

 

「うぉぉ?! こっち向いた?!」

 いや、向いては無い。

 

 その角はダイミョウザザミが背中に背負った角竜の頭蓋、つまりはヤド。

 本体であるダイミョウザザミは盾蟹の別名よろしく大きな盾のようなハサミを振り上げ、背後に居るタクヤにヤドを向けて丁度角竜の突進の如く襲い掛かる。

 

 

 ダイミョウザザミ。別名盾蟹。

 赤と白の甲殻が特徴的な巨大な甲殻種のモンスターだ。

 その特徴は背中に背負った角竜の頭蓋。そして前述した通りの盾のような鋏。

 

 普段は温厚なモンスターなのだが、一度戦闘意思を見せると盾蟹という名に相応しくない攻撃性を垣間見る。

 巨大な鋏を振り回したり、体の水分を高圧の泡として吐き出したり、今タクヤにやるように背中のヤドを攻撃に使ったりもする。

 

 

「タクヤ避けなさい!」

「わ、わ、わ、分かってる!」

 ピンクの髪を揺らし、納刀しながら駈け出すのはサーナリア。

 ダイミョウザザミの突進攻撃は背後に向かう攻撃の為狙いが定まらず避けるのは容易い。しかし、その巨体に轢かれれば致命傷は必須だろう。

 

 サーナリアに続いて、自分も駈け出す。背後への突進の後には隙が生まれる、そこを突くために。

 

 

 この数十分間程ダイミョウザザミと戦っていたが、ダイミョウザザミはその別名の通りに守りに徹して固まる自分達に頭蓋を向け続け攻撃が全く通らなかったのだ。

 そこで、サナがタクヤ一人を背後に回してこの作戦に出たのだが。見事に大成功という所だろう、流石サーナリア様。

 

 

 背後では既にヘビィボウガンを構えたアカリがダイミョウザザミの頭に弾丸を叩き付けている。

 黒髪のショートカットに眼鏡。あまり表情が豊かな方では無いが、感情は豊かで今みたいに真剣になるとそれが表情に出て来た。

 

 

「たぁぁっ!」

 先に切り込んだのはサナで、突進攻撃の反動で止まっているダイミョウザザミの右足を通り過ぎざまに斬り刻む。

 

 続いてタクヤが左足に片手剣を叩き付ける。ここ一ヶ月でかなり上達した物だ。

 タクヤはカナタと初めてドスゲネポスを狩りに行ったあの時とは見違える程の剣捌きになっていた。

 構えながらアイテムを使える片手剣という武器との相まり、今のように特技であるブーメランを使った戦術も様になっている。

 

 成長は勿論アカリもしていた。ダイミョウザザミの頭に叩き付けられるのは火炎弾。

 ここぞという時に誰にも言われず、ダイミョウザザミの弱点属性でもあるその弾に切り替えている。

 

 

「っしゃぁ!」

 自分は、ダイミョウザザミの正面に立って双剣を構えた。

 右手で切り付け、左手で切り裂き、両手で足の付け根を抉る。

 

 

「シンカイ無理しない!」

「分かっ———うぉ?!」

 もうダイミョウザザミの体力は無いものだと思い込んでいたから、まさか反撃が来るとは思わなかった。

 サナの言葉にダイミョウザザミの動きに集中すると、その巨大な鋏を広げて自分を掴もうとしていた所だった。

 

 これは避けれん。物凄く痛い思いをしそうだ。

 多分、アカリやタクヤの成長に焦っていたのかもしれない。なんて、冷静に考えていたその直後。

 

 

「これでも挟んでな!」

「クカァァッ!」

 ダイミョウザザミの盾のような巨大な鋏は自分ではなく他の生き物の骨を掴んでいた。

 

 砥石で削られた『く』の字のそれはブーメラン。タクヤが投げたのだろうそれをダイミョウザザミは挟み、その間に自分は距離を取る事が出来た。

 

 

「あっぶねぇ、助かったでタクヤ!」

「おぅ!」

 

 次の瞬間、ダイミョウザザミの鋏に挟まれていたブーメランが嫌な音を立てて砕ける。

「「あ、ブーメランがっ!」」

 コレは怪我どころじゃすまなかったかもしれない……タクヤには今度何か驕ろう。

 

 

「バカやってんじゃ無いの!」

 そんなツッコミついでに放たれた回転斬りの果てに、ダイミョウザザミはついに動かなくなった。

 

 

 

 

 ここ最近は、この四人で狩りに出る事が多い。

 歳も近くて部屋割りも同じで、今では多分この四人が自分の中では一番心地の良い物となっていた。

 

 勿論、他の皆も大切な仲間だが。それでもこの四人でいる時は一番———そう、楽しかった。

 

 

「今回もクエストクリアだな」

 船に戻るとケイスケがそう言って労ってくれる。

 

 ここ最近はこのパーティでドスガレオスやラングロトラ、ダイミョウザザミ等色々なモンスターと戦って来た。

 アカリとタクヤの成長が目に見えるようで、自分の立場の危機感を覚えながらもやはり教えた事をグングン吸収して行く二人を見ていると嬉しい。

 

 まぁ、狩りでの立ち回りはほとんどサナの教えな訳だが。

 

 

「へっへ、まぁ俺強いからな! 今日なんてシンカイの事助けてやったんだぜ?」

「お、マジか。てーか何してんだお前は」

 タクヤの自慢に感心しながら自分の頭にチョップを入れたのはアニキ。長身からのチョップは軽めでも普通に痛い。

 

「た、たまたまーやで? うん。たまたまー」

 弁明もございません。

 

 

「調子はどう? サナ」

「お、サンキュー。んー、まーまーかなぁ。タクにしては上出来。アカリはシンカイが良く教えてるわ」

 サナに差し入れで飲み物を渡しながら、パーティの調子を聞いてきたのはカナタだった。

 サナの返事に「ほぉ」と腕を組みながら笑顔になる。また一緒に狩りに出るのだ楽しみなんだろう。

 

 

「んーや、とりあえず腹減ったわ飯にしようで飯!」

『そうだね!』

 出発が昼だった今回の狩りが終わる頃には既に日が沈み始めていた。

 船に戻った今となっては辺りは真っ暗で夕飯には丁度良い時間帯となっている。

 アカリの賛成も得たし決まりだな、うん。

 

「悪いが飯は後回しだ」

「なん……やと……」

 何か予定でもあるのだろうか?

 

 

「船がもう少しでダイダロスに着くから、それまで我慢してくれ」

「え、またダイダロスに行くんか? この前氷取りに行ったばっかりやんけ」

 アレから二週間も経ってないと思うんだがな。

 

 

「まさかまた氷が……」

「そういう訳じゃ無い。ま、明日を楽しみにしておけ!」

 そう言うケイスケの表情は、言った本人も楽しみにしているようなそんな表情だった。

 いつもの悪い予感はしない。ならば、何なのか。

 

 日が沈んでもまだ残った熱い空気を吸って腹を空かしながら、船がダイダロスに着くのを待つのであった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 暑い。

 

 

 とにかく暑い。

 

 

 ここ最近季節も夏になってきて、日が昇りきる頃には視界が歪む程に暑い。暑いのだ。

 それは、町であるここダイダロスでも同じ事で。旅館から出ればそれはもう狩場の砂漠と何ら変わらぬような(言い過ぎ)暑さだった。

 

 

「旅館に帰って扇風機様と遊びたい……」

「バカ言ってんじゃ無いの。ほら、クーラードリンク」

 グダグダ言っていると隣からサナがクーラードリンクを差し入れしてくれた。まさか狩場以外でこれを飲む時が来ようとは。

 

 ちなみに扇風機様とは電気の力で羽を動かして風を自動的に作り出す画期的な機械の事だ。

 ダイダロス程の町になれば電気が町中に通り、電気の力で作られた明かりで夜も町は明るい。

 

 人類がここ数世紀で得た科学技術の発展のたわもの賜物である。

 

 

「そもそも全員で買い出しって何するんや……。この人数でぞろぞろと出掛けて買うもんなんてあるんか?」

「あるんだな、これが」

 結局、自分は昨日ケイスケが言っていた明日を楽しみにしておけを全く理解出来ていない。

 毎度の事だがイベントの度に新人はこうやって振り回されるのだろうか。

 

 またフルフルベビーみたいなトラウマイベントは勘弁だぞ。

 

 

 そんな事を思いながら橘狩猟団は全員でぞろぞろと町を歩いて行く。

 道行く人々からの視線は大柄な親父への物か、はたまた稀に見るイケメンのケイスケへの物か。

 

『楽しみだね!』

 今日のお楽しみの事を差してか、隣を歩くアカリはそう書かれたスケッチブックを見せてくる。

 スケッチブックの裏側にある表情はとても緩くて、今日のお楽しみとやらが本当に楽しみなんだろうと感じた。

 

 だがむしろ不安になるのは、先日のフルフルベビーの件があるからだろう。

 

 

「なーにビビってんの? 今回はあんたが思ってる事は無いわよ」

「本当やろなぁ?」

「私が嘘を付くとでも?」

「サナやからなぁ……」

「あん?」

『サナは嘘なんて言わないよ!』

「まぁ……騙されたと思って信じてみるかぁ」

「それ信じてないわよね?!」

 なんて会話をしていると、目的地に着いたらしく猟団の足が一斉に止まる。

 それに合わせて自分も歩みを辞め、目の前にある大きな建物に視線を移した。

 

 

「……服屋?」

 見た感じ、色々な服を売っている場所のようだ。

 科学技術の発展により布の加工が容易になって、ここ数世紀で服と言うものは色々な種類の物が作られるようになった。

 それこそハンターの防具より形や色があって、街行く人も数世紀前と比べて十人十色な格好をしている。

 

 それはそうとして、この人数でまさか服を買いに来たのか?

 服なんていつも皆は小遣いの範囲で自分で買ってくる物だが。

 

 

「まだ分かってない顔してるわね」

「そら……な?」

「着いてけば分かるわよ」

 そう言われて、賑やかに話しながらお店に入っていく皆に着いて行く。

 

 そして歩く事十数秒。辿り着いた場所で見たものは———女の子の下着だった。

 

 違うから! 決して視線が自動的にそっちに行った訳じゃなく! むしろここにはそれしか置いてない!

 

 

「な、なんやここ……」

 鼻の奥がツーンとなる感覚を覚えながら、隣にいたタクヤにそう聞く。

 するとタクヤは凄い笑顔———ってか気持ち悪い笑みを見せながらこう答えてくれたのだ。

 

「水着だよ」

 とわ、遊泳または潜水時ようの衣服である。

 古来では水遊びは下着や普段の衣服、もしくは全裸で行う物だったのだが近年の技術の向上により水中での行動用に適した衣服が開発された。

 

 水分を吸収するし過ぎない素材で出来ているそれは下着のようにも見えるがいざ付けてみれば水中での着心地が全然違うらしい。

 まぁ、つまりだ、簡単に言えば水遊びの時の正装という事だ。

 

 

 男用は地味なズボンが多めだが、女の子の水着は色々種類があってこれをオシャレに着込むのがこの夏の女性達の楽しみでもあるようで。

 女性陣はこぞって水着を選び出し男性陣はそれは笑顔で見守っていた。笑顔というかニヤけ顔で。

 

 

「毎年この時期になると新しい水着新調すんだよ、親父の計らいでな」

「と、いう事は……? お楽しみって?」

 説明してくれるアニキに期待を込めた質問を返す。

 

「砂漠のオアシスで水遊び、だよ」

「マジか!」

 女の子が全員露出の多い水着を着てキャッキャウフフしてそれに混ざれちゃうとかいうあの都市伝説みたいな遊び。水遊びが今日開催されるというのか?!

 

 

「生きてて良かった!!」

 自慢じゃ無いが我ら橘狩猟団の女性陣は皆可愛い。偏差値高めである。

 そんな彼女達が一堂にもう下着姿と変わらぬ姿になってそれを拝みながらこの炎天下の中冷たい湖にプカプカと浮かんでいられる。

 

「天国かよ!」

 明日死ぬのかな?!

 

「良いノリだな。そーと分かればお前も水着買え! 今回は小遣いからでなく猟団費から出るからな」

 何このイベント、優しい世界。

 

 

 これまでガノトトスを釣ったり命賭けの卓球をやったり君の悪いフルフルの赤ちゃんと戯れたり散々だったが、ついにここまで来てこんなに楽しいイベントが起こるとは。神様ありがとう。

 

 

「とっとと選べよ。お前とタクヤは他にも寄るところあるからな」

「寄るところ……?」

「それも後の楽しみだ」

 そう言われるのもなんだか良い気分だ。

 

「ちなみに男ならこの水着だろ」

 そう言ってアニキが買おうとする水着は、ブーメランパンツだった。漢だ……。

 

「わ、ワイは普通の長ズボンでええわ……」

 流石に自分の体格でそれは恥ずかしい。

 

「ったく、分かってねぇなぁ」

 すみません。

 

「……俺もこれにしよう」

 そう言ってアニキと同じタイプの水着を手にするのは自分と同じ身長だが体格の良い銀髪のガイルだった。

 あぁ、ガイルくらいなら似合うとも思う。

 

「よし、じゃあ俺もこれにするぜ!」

「タクヤ、お前は待て」

「なんでだよ!」

「絶対に似合わへんから!」

 もう少し色々と大きくなってからにしな?

 

 

「俺は男になるんだ!」

「ヒールなんとか言ってくれ!」

「良いと思うっすよ!」

 そう返事をして来た金髪モヒカンのヒールが持っていたのも、ブーメランパンツだった。

 

「なんでやねん!!」

 なんだこの流れは! 嫌やで? 嫌やで?!

 

 

「好きな奴を買えば良いさ、だから好きにさせてやれば良い」

 そう言うケイスケだけが、普通のズボンタイプの水着を持っていた。よ、良かった仲間が居たぁ。

 

「ケイスケ様一生ついて行きます」

「どうしたんだお前……」

 さて、女性陣はどんな水着を選んでいるのだろうか?

 

 

「サナー、どんなの買う———」

 疑問に思って女性陣の集まるコーナーに行こうとすると途中で身体が空に浮いた。

 

「え?! 何これ?! え?!」

「ガッハッハ! ダメだろシンカイ! そうあうのはお楽しみに取っておくんだよ」

 そう言いながら自分を持ち上げ、地面に再び下すのは身長二メートルを超す竜人———団長であり皆の親父橘デルフ。

 

「お、親父か……ビビったわ……」

 いきなり身体が浮くんだもん。

 

「ガッハッハ! 今見るよりな、水場で着ているのを一斉に観た方が心に綺麗に映るもんだ!」

「なるほど……確かに、一理あるな。分かったで、後の楽しみにしとくわ!」

「それで良い! それにタクヤとお前はちょっと早めに行かねーと、昼までにはダイダロスを出るからな」

「早めに……行く?」

 そういやアニキがなんか言ってたな。もう一つのお楽しみ。

 

「ケイスケとラルフに着いていきな! 終わったらキングダイミョウに集合だ!」

 そう言う親父の言葉に従い、自分はタクヤを連れてケイスケとアニキに着いてお店を出て行く。

 

 

 さーて、どこに連れて行かれるやら。




さーて、新章突入です。

ここに来てやっと、あの無駄かと思われていた近未来設定が出て来ました。
多分、これがやりたかったんです()


今回は俗にいう水着回。
キャッキャウフフな、お話を……書けてると良いなぁ。

でわでわ、また来週お会い出来ると幸いですm(_ _)m
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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