モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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アルビノの誘惑

「氷結晶……? あー……別に私は良いんだけど」

 パーティをあと一人誘う為にケイスケが始めに声を掛けたのはサナだった。

 

 

 倒れたクーデリアさんを介護しながら、彼女はそんな返事をする。

 お、来てくれるんじゃないか。サナが来てくれるなら、なんとかなりそうで心強い。

 

 

「でもお姉ちゃんが心配だし、後でカナカナをしばかないとだからなぁ。あ、でもシンカイは初めてでしょ? 反応見たさあるなぁ……」

 なんて、悩み始めるサナ。いや、カナタの仕業と決まった訳じゃ無い。

 って、え、何。反応見たさって何。

 

 

「んー、他に誰も居ないなら私が行くわ。まぁ……多分私が行く事になるんだろうけどね。準備しとく」

「あぁ……助かる、サナ」

「ま、アレが大丈夫なの私とアカリくらいだしねぇ。全く情け無いなぁ」

「それを言われると面目無い限りだ……」

 サナとアカリだけが大丈夫なアレ……? もう益々意味わからないんだけど?

 

 

「え、なんなん? ねぇ、もう勿体ぶらずに教えてくれや……」

「ニッヒヒ、後のお楽しみって奴だよ」

 まるで玩具を見付けた子供の様な———いや、つまりいつもの表情で彼女はそう言った。

 

 本当……何なんですか。

 

 

 

 

「え、絶対嫌だ」

 真顔でそう言うのはタクヤだった。おい、アカリは来るんだぞ!

 

「アカリに格好良いところ見せるチャンスやで……?」

「は? お前馬鹿じゃねーの?」

 アカリに聞こえない様にタクヤにアドバイスをしてやったのに、帰ってきた言葉はそんな言葉だった。

 

『タクヤ君来ないの?』

「ご、ごめんアカリ……俺ちょっと腹が痛くてさ!」

 

 え、そんなに嫌なの。

 

 

 

 

「え、嫌っすよ」

 あのヒールが真顔で断って来た。

 

「なんでや……」

「い、行けば分かるっすよ……。あ、でもねーちゃんなら……」

 ナタリア?

 

「あ、いや……どうっすかねぇ。いくらアニキの為とは言え…………ねーちゃんアレ大っ嫌いっすから、うーん。あ、俺は絶対に嫌っすよ」

「お、おう、そうか……分かった」

 アレ……?

 

 

 

 

「……断る」

 仲間思いのガイルまでこれであった。

 

「ワイとガイルの仲やろ?!」

「……絶対に嫌だ」

 そう言うガイルの表情は青ざめていた。いやもう自分が絶対に嫌なんだけど。

 

 

 

 

「え、嫌よ」

「俺としてはカナタに来て貰うのが一番嬉しいんだがな。むしろモチベーションが上がる」

「い、嫌よ! 絶対に嫌!」

 何で皆そんなに頑なに拒むの!

 

 

「俺は、カナタが嫌ならその意見を守るだけだ」

 口だけは達者だがとても残念そうな表情をしてらっしゃる。

 

「ん……まぁ、あなた達だけにやらせるってのは罪悪感……だけど、それでも嫌」

 どれだけ嫌なの!

 

「分かった分かった。……ところでナタリアを知らないか? 見当たら無いんだが」

 カナタを宥めると、ケイスケは続けてそう質問を投げかける。

 そういや、確かにナタリアの姿が見当たら無いな。飯の時は居た気がするんだが。

 

 

「あー、ナタリアならケイスケ達の部屋。ラルフの面倒みてるわ」

 おぉ、それはそれは。

 

「なるほど、ありがとうカナタ。お礼に帰って来たら結婚しよう」

「とっとと行け」

「そんなに早く結婚したいのか?」

「その口に竜撃砲打ち込むわよ?!」

 訳、黙れ。

 

「それは困るな……」

「ほら、とっとと行く。……あ、えーと…………気を付けてね?」

「ん、おぅ」

 カナタってアレだよな。ツンデレ。

 

「ところで、親父には聞かへんのか?」

「親父は絶対に来ない。親父でもアレは嫌いだからな」

 あの親父でも嫌いな……アレ。

 

 

 

 

「あ、ケイスケ君」

 カナタの言う通り、ケイスケとアニキの部屋には風邪で倒れた兄貴を介抱するナタリアの姿があった。

 

 役得かよアニキ。変われ。

 

 

「ラルフを見ていてくれたのか、助かる」

「え、いや、これは、えっと。丁度手が空いてたから! だから!」

 分かりやすい反応をどうも。

 

「それでも助かるさ。ところで……だが、ついでに頼んでみたい事があってな。いや、勿論……断ってくれても構わない」

「えーと……どうしたの?」

 ベッドで項垂れるアニキの頭に氷で冷やしたタオルを置きながら、ナタリアは首を傾げた。

 こう、なんだろうね。ナタリアってお嬢様気質があって何してても綺麗っていうか。

 

 

「そこにある氷結晶、もう明日の分も残ってないんだ」

「———ぅ」

 そう聞いた瞬間、ナタリアの表情が固まった。

 あ、ダメな奴だ。

 

「え、えーと……三人しか居ないの?」

「いや、誰もいなければサナが来てくれる。だからナタリアは無理をしなくても良いぞ……?」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 氷結晶を取りに行くのがなぜこんなにも苦行扱いされているのか、正直自分には分からないのだが。

 

「でも、サナはクー姉の介抱があるよね……。ラルフ君は……わ、私なんかより他の人に介抱して貰った方が良いだろうし」

 いや、それは無いと思う。

 

 

「……ラルフ君の為、だもんね。私、行くよ! それに……私はこういう時しか役に立たないから」

「……本当に来るのか?」

 何その念押しみたいな質問?

 

「ぅ……」

 なんでそんなに表情が引き攣るの。

 

 

「……な、ナタリアか?」

 唐突に、背後からそんな声が聞こえた。アニキ、かなり辛そうなんだが大丈夫だろうか?

 

「ら、ラルフ君?! 凄い熱なんだから寝てなきゃダメだよ!」

「ぅ……ぅぉ…………すまねぇ……な」

 本当に風邪だったみたいだ。珍しい。

 

 

「私、行くよ。少しでもラルフ君の役に立ちたいから!」

 いや、本当に一途で素敵な思いです。

 

 

「え、ナタナタ行くの?」

 そこに、扉の外から声を掛けてきたのはサナだった。

 

「サナ……? あ、ごめんね準備してた?」

「ん、いや。あんたが行くってんなら……私はお姉ちゃんの事見ててあげたいから残るけどさ。……でも、ナタナタってアレ大っ嫌いだったでしょ?」

 だからアレって何なんですか。

 

「が、が、が、頑張るよぉ……?」

 産まれたてのケルビのように震えてるんだけど。

 

「な、なら……良いんだけど。そうと決まったなら頑張りなさい! このバカとお姉ちゃんは私が責任を持って介抱するわ!」

 このサーナリアさんの頼りになる言葉と来たら———タクヤも見習ってくれ。

 

 

「よし、なら今回のクエストはこの四人で氷結晶の採取だ。二人は分かっているだろうし、そもそもシンカイは防具を持っていないから言わなくても良いだろうが。このクエストの時は全員防具は装備しないのが心得だ」

 ケイスケ、アカリ、ナタリアに自分。と、中々見慣れない面子のパーティが出来上がった訳だ。

 ケイスケとは初めての狩りのゲリョスの時以来だし、実はナタリアとは初めてだったりする。

 

 たかが氷結晶を取りに行くだけだからモンスターと戦う事は無いだろうが、珍しいパーティなのでそこそこ楽しみではあった。

 

 

 ———ただ一つ。皆の不可思議な言動に不安を感じながら。

 アカリとサナ以外の不可解な嫌がりよう、逆にアカリはいつもより活気としているし、防具は要らない……?

 

 

 

「よ、よし……クエストスタートだ!」

 さてさて、何が起こるやら。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 砂漠の夕日は綺麗だ。最近は本当にそう思うようになってきた。

 

 

 街のように周りを壁に囲まれてなければ、生い茂る木々に光を遮られる事は無い。

 オレンジ色に輝く太陽が地平線までどこまでも伸びる砂を照らす。

 

 季節が季節だけに夕日が落ちていくこの時間でも砂漠はクーラードリンクが欲しくなるほどの気温だが、なぜかアイテムポーチにはクーラードリンクでは無くホットドリンクが入っていた。

 あ、勿論あの時みたく間違えた訳では無い。

 

 

 見ての通り時刻は夕方だ。

 砂漠は日光を遮る物も無いが、地表に溜まった熱を遮る物もまた無い。

 昼間のうちに温められた空気は直ぐに上に登ってしまい、そこからこの砂漠は極寒へと姿を変えるのだ。

 

 

「よーし見えてきたぞ」

 目的地が見え、ケイスケはホットドリンクの蓋を開ける。

 

 この砂漠には幾つもの地底洞窟があって、今回の目的地もその一つだった。

 地底洞窟は太陽の光が届かず、温められた空気に晒される事もないので常に夜の砂漠のような気温であったりする。

 

 その為のホットドリンクで、ポーチの空きを作る為に帰りもクーラードリンクが入らないこの時間に出発したのはケイスケの計算高い所だろう。

 

 

 

「ほぉ……これが」

 洞窟に入ると、肌寒い感覚を覚えると共にそんな歓声のような声が上がった。

 

 静かな空間だ。

 広い空間の真ん中にポツンとあるのは小さな池で、砂漠中の地底洞窟に繋がっているとか。

 場所によっては足場より水場の方が多い洞窟もあるらしく、砂漠の下の広大な世界に胸が踊る。

 

 物音の反響する空間で、足音をコツコツと立てながら自分達は洞窟の周りを探索する。

 目的は氷結晶。岩の割れ目にあったり大きな結晶が出来てたり、時には地面に小さな結晶が落ちているらしい。

 

 それらを探して洞窟の周りを回っているのだが、どうしてかケイスケは岩の割れ目を無視して氷結晶を探していた。

 そこからは出ないのか……?

 

 

「……どうやら、掘るしか無いらしいな」

 決意を込めた声で、洞窟を一周したケイスケはそう言う。

 

「……う、うん……そう…………みたいだね」

 背負って持って来たピッケルを持ち、ナタリアも寒さのせいか震えた声で口を開いた。ホットドリンク、忘れたのか?

 

『頑張ろう!』

 で、二人とは対照的な笑顔でアカリはそう書かれたスケッチブックを掲げる。

 ピッケルを持つ彼女の表情はいつもに増して活気に溢れているように見えなくも無い。

 

 

 アカリと他の二人の違いは何だ……?

 

 

「な、なぁ……二人は何をそんなに憂鬱に感じとるん? 気になるんやけど」

「そうだな……なら、そろそろ答えをやろう。そこにある岩の割れ目をピッケルで叩いてみろ」

 ケイスケに言われるままに、ピッケルを持って岩の割れ目の前に立つ。

 

 な、何が起きるというんだ。

 不安と期待でよく分からない心境の中、自分は大きくピッケルを振り上げて———振り下ろす。

 

「……」

 甲高い音が洞窟中に広がり、岩が少し削れて鉱石や崩れた岩が足元に転がってくる。

 

 

 しかし、それだけで。普通にピッケルで砂漠の岩を掘った時の感覚とさほど変わりは無い。

 

 

「何も……ならへんけど?」

 二人は何をそんなに憂鬱になっているのか。まるで分からな———

 

「———って、痛!」

 振り返ってケイスケに説明を求めようとすると、足の方に急な痛覚を感じた。

 騒ぎ立てるような痛みでは無いのだが、何かにいきなり噛まれたような痛みに声を上げてしまう。

 

 

 なんなんだいきなり。

 

 そう思って痛みのする足を見てみると、そこにはとんでもない生き物が居たのだった。

 

 

「———ぇ、えぇぇ?! な、なんやこの生き物!! ひぃぃっ?!」

 自分の足に噛み付いていたのは、眼球も無ければ手足も無い。真っ白な細長い生き物だった。

 

 皮はブヨブヨしていて、頭らしき部分は大きく裂けた口があるだけで他の器官が見当たらない。

 大きさは自分の手首と同じくらいで、白い皮から透けた血管がその不気味さをより引き立てていた。

 

 

 素直に一言で言うならば、とてつもなく気持ち悪い生き物。

 

 

「お、一匹だったか運が良いな」

「運が良いってどういう事やねん! てか離れろ! この! くそ!」

 何度も足を振り回していると、この不気味な生き物も噛み付くのに疲れたのか足から離れてまた岩の割れ目の中に入っていく。

 手足も無いのに身体をくねらせて動くその姿はどうオブラートに包んでも気持ち悪い。

 

 

「な、な、な、なんなんやアレは!」

「フルフルベビーだ」

「アレがぁ?!」

 

 

 フルフルというモンスターがいる。

 さっきの生き物と同じく眼球の無い大きく裂けた口だけの頭とブヨブヨの身体が特徴のモンスターなのだが、フルフルは飛竜だ。

 翼もあれば足もあるし、確かに不気味な姿はまるで変わらなかったが生き物として形が違い過ぎる。

 

 

「フルフルって……小さな頃はあんな姿をして少しずつカエルみたいに成長するらしいよ……?」

 青ざめた表情でナタリアはそう説明してくれた。え、何それ。フルフルって飛竜だよな? カエルじゃ無いよな?

 

「つまり……皆がこのクエストを嫌がったのはアレが出てくるからか」

「あぁ、さっきは運が良かったが酷いと十何匹と同時に出て来たりする」

 何その地獄絵図。

 

 

 猟団の皆が挙って拒否してきたのも分かる。親父でもアレは気持ち悪いのだろう。

 

 

「ナタリア……サナが言うにはアレ嫌いなんやろ? 大丈夫なんか?」

 いや、そもそも好きな奴の方が少ないんじゃ無い———ちょっと待て。

 

「そりゃ……見るだけで全身寒気がするけど。……ラルフ君の……為だし」

「なる……ほどね。いや、しかしだな……」

 ナタリアと話している途中でふと頭に過ぎった疑問を口にしようと、その疑問の根源を目で追ってから口を開こうとする。

 

 

「……ん……ょっ!」

 その根源———アカリは、物凄い笑顔で岩の割れ目にピッケルを叩き付けていた。

 

 

「あ、アカリ…………嘘やろ」

 何その笑顔見た事無いぞ。何が嬉しかったらそんな笑顔になるんだ。

 

 さも、道端で見付けたアイルーがゴロゴロとこっちに愛嬌を振り向きながら寄ってくる。

 そんなアイルーを見つめるような、果てしない癒しを与えられた者がする表情を彼女はしていたのだ。

 

 

 頭がおかしくなったんじゃ無いだろうか。

 

 

「……っふぁぁ」

 そして割れ目から出てくる二匹のフルフルベビーを見てはさらに表情を緩くして、両手を広げ彼等を招き入れるアカリ。

 二匹はそんなアカリを食べ物としか思って無いハズ。それなのに、自分を食べようと器用に飛んでくるフルフルベビーを彼女は慣れた手つきでその胸に抱え込んだ。

 

 え、触るの。

 

「……ふぇっへ」

 満面の笑みとはこの事か。普段そこまで表情の豊かな方では無いアカリがこの表情。

 その胸に抱く生き物がもしアイルーとかならどれだけ微笑ましい事か。

 

 いかんせん、しかしその胸の中でくねくねと身をよじらせる生き物は白くて不気味なフルフルベビー。

 

 

 

「……アカリはフルフルやフルフルベビーが物凄く好きらしくてな」

「……後サナも、アカリ程じゃないけど。私達みたいな苦手意識は無いらしいよ」

 実の兄も、優しいナタリアも、今のアカリを見る表情は青ざめていて狂気な物を見る物だった。

 

 

「……っ……へぇ」

 満面の笑みで気味の悪いその生き物を抱える少女を目の前に、自分も苦笑いが止まらない。

 

 

「さ、さて。俺達も始めるか」

「「お、おー……」」

 幸せそうな彼女を他所に、自分達三人はピッケルを持って全く無い意気込みを形だけでは表すのであった。

 

 




最近この作品も少しずつではありますがお気に入りが増えて来て、少し舞い上がってる作者です。
今さっき、一人減ったんですけどね……(´・ω・`)

フルフルベビー、似た幼体のギィギと違ってゲームに姿が出る事は無いですよね。
確かこんなような姿をしていたしていたハズです(間違っていたらどうしよう……)。

今回はネタ回になりそうです(´−ω−`)


それではまた来週、お会い出来たら嬉しいと思います。

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