モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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Bow『第七章』
いつもの日常(非日常)


 差し伸べられる手は、私にとって縋るしか無いものだった。

 

 

 弟にとっては違ったのかもしれない。

 でも、私はそんな弟も自分の命も自身では守る事が出来ないから。

 

 その手を握るしか無かった———初めはそう思っていた。

 

 

「バカかお前、家族だとか仲間だとかそんな面倒な言葉じゃねーよ。意味を捕らえろ。……俺はな、俺達は、ただお前が大切なんだよ」

「でも私……何も出来ない! 役立たずでお荷物で…………私、ここに居て良いの?!」

「———」

 

 その言葉を聞くまでは。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「これで二勝っすね!」

「くっそぉっ!」

 綺麗に立った金色のモヒカンを輝かせながら、彼———ヒールは勝利を口にした。

 

 

 一方自分はというと、彼に敗北して床に崩れ落ちる。

 いや、ヒールが見た目世紀末だからって別にリアルファイトをしていた訳じゃ無い。

 

 自分とヒールが行っていた勝負事は『オセロ』だ。

 白と黒で別れて順番に盤面に駒を置いていき、挟まれたら色が反転。最終的に残った駒が多かった色の使用者が勝ちとなる単純なゲーム。

 

「何や。何が欲しいんや言ってみぃ!」

「い、いやそういう賭けはやらないっすよぉ!?」

「うわー、シンカイ弱。あ、俺新しい武器買ってくれよ」

 

 自分とヒールはこのゲームで互角の腕があって、こうやって良く暇な時に勝負をするのである。

 ちなみに横で自分の事を笑っているタクヤは我等が『橘狩猟団』でも最弱。おい、人を笑うのは自分が勝ってからにしろ。

 

 

「次は負けへんからな!」

「望むところっすよ」

「シンカイ、俺ともやろうぜ!」

「ほぅ……」

 そう言うタクヤにオセロ板を向けると、ヒールは戦いの準備を手伝ってくれる。

 

 

「俺が勝ったら今日の飯当番を代わってもらうぜ!」

「ならワイが勝ったら厨房で逆立ちしながらニャーニャー泣け」

「ぇ」

 結果は言うまでもなく、自分の圧勝。タクヤは成長はする奴だがあまりにも遅すぎる。

 

 

 

 

「……に゛、ニ゛ャーニ゛ャー」

「アッハ!! アッハハハハ!! 何これ受けるんだけど!! ギャッハハハハ!」

 その結果がこれである。

 

 厨房の壁を使ってなんとか逆立ちしたタクヤはもう半泣きの顔でニャーニャー泣いていた。もはやイジメに見えるレベルで。

 そんなタクヤを見付けて大爆笑するのは腹黒ピンク、サナことサーナリアだった。辞めて、自分が申し訳なくなるから。

 

 

「アカリにも見せたいわぁ、呼んでこようかな?」

「辞めたってくれ……」

 同情の余地しか無い。

 

「く、くそぉ……覚えてろよ!」

 逆立ちを辞めてそう言ってくるタクヤ。

 いや、挑んで来たのはお前だ。

 

 

「つーかなんでこんな事してる訳?」

「タクヤが賭けオセロやろう言うから現実を見せたったんや」

 我ながら大人気ない。

 

「私ともやる?」

「絶対に嫌です勘弁して下さい」

 一ミリも勝てると思わない。

 

 

「ケッ。あ、そーそー、筋肉バカにシンカイ呼んできてって頼まれてたんだった」

「ガイル……? んー、なら行こうか」

「お、俺を置いてく気か!?」

「あんた飯当番でしょー」

「う……」

 そんな訳で、タクヤを置いて厨房から離れる。

 そういえば今日の飯当番はタクヤとアニキのハズだが、そのアニキの姿が見当たらなかった。どうしたのだろう?

 

 

 

 

「ガイル、呼んでってまさか……この為に?」

「……こい」

 ガイルの部屋(ヒールと共同)に入ると、彼は何故か腕相撲の姿勢を一人でとって待っていた。

 短い銀髪は汗で濡れていて、先程まで筋トレでもしてたんだろうなと簡単に予想が付く。

 

「なんか猟団の皆を倒すのが目的らしいわよ。ま、既に何人かに負けてるけどね」

 クスクスと笑いながらサナはそう言った。ガイルって本当たまにどこか抜けた意味の分からない事をやりだす。

 

 

「へぇ、誰がガイルに勝ったんや? あー、サナか」

「あんた私をなんだと思ってんの?!」

「いや、サナなら何か勝つ裏技とか知ってて、なんて事ありそうやん?」

 どうやらそんな裏技は無いらしいが。

 

「んなもんある訳無いでしょ。私みたいなか弱いレディがこんな筋肉ゴリマッチョに力比べで勝てる訳無いっつーの。ま、それ以外なら余裕で勝てるけどね!」

 か弱いレディはそんな口答えしません。

 

 

「まぁ力比べはええんやけどな。ワイとやっても意味無いで」

 勝てん勝てん。

 

「……そうか。なら最後に親父とやる」

 親父ともやるのか。

 

「あんた、死ぬわよ」

「……死にはしない。…………ハズだ」

 不安要素しか無い。

 

「んじゃ、私は無様に吹っ飛ぶ筋肉バカになんか興味無いし。タクの手伝いでもして来るわ」

 そう言って部屋を出て行ったサナに次いで、自分とガイルは親父の部屋へ。

 

 して、親父との腕相撲か……。どうなる事やら。

 

 

 

 

「ガッハッハ! いいぞ、力比べか。よーしかかってこい!」

 事の成り行きを話すと、親父はやる気満々で机に肘を着けた。

 

 ハンター達の間ではこの腕相撲というのは一種の競技のような感覚で広まっている。

 単純な力比べで勝敗もハッキリしていて、力自慢のハンター達からすればこれほど自分の力を誇示出来る物も少ない。

 

 この腕相撲のためだけに専用の机が用意された集会所まである訳だから、この競技の知名度は言うまでも無いだろう。

 

 

「どごぅっはっ?!」

 ちなみに開幕ガイルは地面に叩きつけられた。親父、手加減無しか。

 

「ガッハッハ! まだまだ鍛えが足りんな!」

「……う、うす。精進する」

 どれだけ頑張ったら勝てるんだ。物理的に無理な気がするんだが。

 

 

「シンカイ、お前もやるか」

「腕が折れるわボケ」

「お前も言うようになったな! ハッハ!」

 笑顔でそう言う親父は、家族にどんな態度を向けられてもそれを受け入れる大きな器の持ち主だった。

 ただ唯一言えないのは「ハゲ」って事だけ。いや、誰も言ってないから怖いんだよね。気にしてたら嫌だし。

 

 いや、この親父が髪の毛の事なんか気にしているとは思えないんだけど。

 

 

「さて、そろそろ飯の時間じゃねーのか? 行くぞおめーら!」

 そう言うと親父は立ち上がる。竜人である所の彼だが、身長は二メートル超えで中々立つだけで迫力満点だ。

 

 そんな見た目恐ろしい親父にもそこそこ慣れて来たけどな。

 あ、でもやっぱり時々怖いよね。ディアブロスの時とか本当殺されるかと思った。

 

 

 

 

「頂きます!!」

 合わせる手から風圧を感じながら、親父のその言葉に皆が同調して手を合わせる。食材と自然に感謝を、と。

 

「あれ? アニキは?」

「上で寝てるわよ」

 そう答えてくれたのはサナの姉、クーデリアさん。妹と違ってスタイル抜群の大人の女性は、何の変哲も無い焼き魚を食べる姿も綺麗だった。

 

 しかし、上で寝てる? アニキ、今日飯当番だったハズなんだけど。

 別に飯当番だけがこの人数のご飯を作る訳では無く、気の乗った人が手伝う事はしょっちゅうな訳だが。

 

 アニキが珍しくサボった穴を誰が手伝ってくれたのだろう?

 まさかカナタじゃないだろうな?

 

「カナタ、飯に触っとらへんやろうな?」

「え? あー、うん。私は触ってないわよ?」

 カナタ本人に聞くと、彼女はキョトンとした顔でそう答えてくれる。なら良いのだが。

 

 

 しかし、焼き魚を食べた後クーデリアさんがお茶を飲んだその次の瞬間。カナタの言葉を疑いたくなる事案が発生したのだった。

 

「———グフォッ」

 二十代の女性が出して良いとは思えぬ声のような何かが隣から聞こえる。

 驚いて振り向いてみれば、彼女は泡を吹きながら机に突っ伏していた。

 

 

 カ ナ タ ?!

 

 

「お姉ちゃん?!」

 倒れる姉に駆け寄るサナ。それぞれが一堂に事の権化だろうカナタを見詰める。

 

「触ってない言うたやん!」

「ちょ、何でもかんでも私のせい?! 本当に料理には触ってないわよ!」

 しかし彼女はそう反発してきた。いや、しかし、飯関連でこんな事カナタが犯人としか思えない。

 

 

「タクヤ、本当にカナタはなにもしてないんやろうな?」

「お、おぅ……」

 マジか。これはもうむしろミステリーだぞ。

 

 逆にカナタが関わっていてくれた方が納得が行く辺り、ある意味信頼されている。

 

 

「———うぐぉっ」

「ハッ?! お姉ちゃん?! しっかりして!! お姉ちゃぁぁん!!」

 

「え? 何? 私が悪いの?」

 どうなのだろう。本人もタクヤも、そもそも料理には触ってないと言っているし。

 密室ミステリーかのような事件だな。

 

「とりあえず上に運ぶっすよ!」

 今回は奇跡的に難を逃れた不運の持ち主ヒールの指揮で、クーデリアさんを部屋に連れて行く一同。

 結局、クーデリアさんが倒れた原因は分からなかった。クーデリアさんが食べた料理を自分も食べてみたが何の変哲も無い美味い料理だったのだから。

 

 はてはて、何だったのだろうか?

 

 

 

 

「……困ったな」

 珍しく困り顔を見せて頭を抱えるのは我等がリーダーのケイスケ。

 クーデリアさんを運び終え、食事と後片付けを済まして自由な時間を過ごしている自分の前に態々現れ、彼はそう言葉を落としたのだった。

 

 確かに困った表情をしている。困った表情をしているのは良いのだがなぜ態々自分の前でそれを言うんだ。

 絶対裏がある。聞くな、聞くんじゃない。何が困ったか聞いた瞬間その困りの種に巻き込まれる!

 

 

「お、よくぞ聞いてくれたな」

「いや聞いてないけど! 何も聞いてないよな?! なんか自分喋りました?!」

 面倒事は嫌いなんだが? にしてもゴリ押しし過ぎじゃありません?!

 

「いや、シンカイじゃない後ろだ後ろ」

 そう言うケイスケの指差す方に視線を向けると、張り切った表情でいつものスケッチブックを掲げる黒髪眼鏡の少女が居たのだった。

 

「アカリ……」

 彼女———アカリは、自分に任せろといった表情でスケッチブックを掲げていた。

 

『困った様子でどうしたの? お兄ちゃん。私に出来る事があれば手伝うよ!』

 なんて書かれたスケッチブックを自分は睨み付ける。

 あぁ、これはやられた。付き合わされる奴だ。

 

「うんうん、我が妹ながらその気持ちは高く評価出来るな。俺は嬉しい。して、シンカイ……この場に居合わせたついでに話を聞いていくか?」

 ほら見ろ。

 

 

「あ、はい。聞きますとも。聞けばええんやろう」

『シンカイ君が手伝ってくれるなら百人力だね!』

 あぁ……はい。ありがたい言葉をありがとうございます。

 タクヤと変わってやりたいよ。

 

 

「お前らはラルフが風邪で寝込んでるのは知ってるか?」

「え、風邪だったん?」

 クーデリアさんが上で寝てるって言ってたのは覚えてるけど。まさか風邪を引いていたとは。

 風邪引くようなひ弱な身体には見えないんだが、そんな事もあるのだろう。

 

 

「で、さっきクー姉も倒れてしまった」

 謎のミステリーでな。

 

「しかもダイダロスから出て結構な日付が立っていて、物資の中で足りなくなっているものが出てきたんだ。勿論、それは二人の介護に必要不可欠。それが何か分かるか?」

「なんや……?」

「ん! ん!」

 元気満々に手を挙げるアカリ。多分アカリに悪気は無いんだろうが、ここまで全部ケイスケの計算通り進んでいるんだろうなと思うと歯痒い。

 

「アカリ、なんだか分かるようだな」

『氷です!』

 自信満々な表情でそう描かれたスケッチブックを見せるアカリ。

 氷。あー、風邪ひいたりしたら頭冷やしたいしな。

 

 それに氷はこの砂漠で暮らすには必要不可欠だ。

 いわばそれは生命の源水でもあり、食材の品質を落とさないようにする為にも使え、室温の低下にも使える代物だ。

 

 

 氷結晶というとても溶け難い、氷がある。溶けないというのは誤解で、内部の特殊な鉱石の影響により常温では固まった水分が個体であり続けるという物体だ。

 故に氷結晶の本体はその鉱石であるのだが。氷が無くなるとその鉱石も一緒に消えてしまうためリサイクル出来る物でも無く、また研究も進んでいない。要するに謎の物体。

 

 

 我が船キングダイミョウにはその氷結晶を仕舞っておく倉庫があり、毎度ダイダロスによる度に一月分ほど買い足しているのだ。

 季節が夏という事や、カナタの暴走のおかげで今回はその氷結晶が切れるのが早かったという事だろう。

 

 

「だとして……ダイダロスに早めに向かうしか無いんやないか?」

 解決策としてはそれしか無いと思うのだが。それか近くの村で分けて貰うという手があるが、砂漠の村での氷結晶の価値など言うまでまでも無い。

 

「ダイダロスは今から向かうと四日かかるからな」

 この砂漠は広い。砂上船でも砂漠の端から端まで渡るのに十日はかかる程に。歩いたらどうなる事やら。

 

 そして今船がある場所はダイダロスからそこそこ遠いらしい。それはそれは困ったな。

 

 

 だが、ケイスケが困った表情で困った困ったと言うために話しかけて来るわけが無い。

 何か氷結晶を手に入れる手立てがあるのだろう。

 

 

「まぁ……もう勿体ぶらずに結論を言えや。今回のクエストは?」

「話が早くて助かる。この近くに氷結晶が取れる地底洞窟があってな、そこで氷結晶を現地調達しようって訳だ」

「なるほどなるほど。はいはい行けばええんやろ行けば」

 だが一つだけ疑問が残る。なぜ、自分なのか。

 別にそのくらいのクエスト他の誰でも出来る訳で。

 

「落ち着け早まるな。今回は俺も行く……」

 またも困り顔をしてそう口にするケイスケ。ケイスケ自ら? これはまた疑問が増えたぞ?

 

 

「流石にこればかりは人に任せるのは忍びないからな」

「おい待てならなんでワイに話しかけた!!」

「お前なら事情を知らないだろうからついて来てくれると思うからだ」

 いつもの調子でそう言うが、いつものような理にかなった話じゃ無いぞどうしたケイスケ!

 

 

「あと、アカリはついて来てくれる……よな?」

 兄とは思えない弱々しい表情でアカリの返答を待つケイスケ。おい待ておい待てもうこの時点で嫌な予感しかしないぞ。

 

『うん! 勿論だよ!』

 しかし、アカリの表情は元気満々だった。むしろいつもより明るい気がする。

 なんだ……? なんなんだ……?

 

 

 

「あ、なんか急に腹痛———」

「逃がさんぞ」

 トイレに逃げようとすると凄い力で肩を掴まれる。え?! えぇ?!

 

「待て! 怖いんやけど! もう怖いのは少し前にあったから夏の怪談的には全然十分なんだけど!!」

「誰もが一回は通る道だ諦めろ!」

 こんなに真剣で必死なケイスケ久し振りに見たんだけど!!

 

「く……。わ、分かった……分かりました」

「よし。まぁ……多分この三人で行く事になるだろうな。一応皆に声は掛けるが誰も来ない物だと思って準備をしよう」

 え?! 何?! その洞窟に何があるの?! 怖いんだけど!!

 

 

「なんなんや……なんなんや……」

『楽しみだね! シンカイ君!』

 そう笑顔で語るアカリを他所に不安要素しか無い自分は青ざめ、なぜかケイスケも凄く嫌そうな表情をしていた。

 

 

 な、なんだ……なぜだ。なぜアカリだけこうもテンションが高い。むしろケイスケのテンションの下がり方が異常だし。

 

 

 氷結晶を採取するだけのクエストのハズなのに。何があるって言うんだ……?

 そんな不安が消える事も無いまま、自分はクエストの準備に取り掛かるのであった。

 

 




ほい、なんと三十話です!
良くもまぁここまで書いてるなぁと自分でも思ったりします。この調子で行くと週一更新を続けられたとしても完結に一年掛かる計算です。

もし付き合って下さる方がいらっしゃいましたら、お付き合いして下さるととても嬉しく思います。

せっかくの三十話なのでほとんどのキャラを出してみました。(たまたまなんだけどね)
キャラクターが多いと大変だなって、他の作品を書きながら今更後悔している所であります。

そんな、他の作品ですが。同時に更新したモンスターハンターRe:ストーリーズも宜しければどうぞ!(宣伝)


でわ、また来週お会い出来ると嬉しいですm(_ _)m

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