モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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思いと意志と決意と

 

「ごめん……ね」

 ベースキャンプのベッドに寝かしたカナタは、砂漠の暑さのせいでは無い汗を大量に流しながらそう口を開く。

 カナタの容態は想像よりは遥かにマシな物だった。勿論想像よりは、であって悪い事には変わりは無いのだが。

 

 

「い、いや! 俺が……俺が何も見てなかったから……」

「お前は悪く無い。あそこでティガレックスの乱入を察知出来たのは自分かカナタくらいや。だから、タクヤは悪く無い」

「で、でも……」

 タクヤがそう言うのも無理は無いし、アカリや勿論自分もカナタに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 でも責任を取り合っても押し付けあってもカナタの容態が良くなる訳でも無いし。今はそんな事を言っている場合じゃ無い。

 

 

 色んな偶然と奇跡でなんとかこの状況まで持ってこれたがまだ問題が残っている訳だ。

 

 一つはカナタの容態。悪く無い訳が無い。

 防具ごと押し潰されて胸部の圧迫で肋骨にヒビ———もしくは折れていてもおかしく無い。ハッキリ言って背負ってここまで連れて来て良い状態では無かった。

 とは言えあの時はそれしか方法が無かった。いや、もっと上手くやれたかもしれない。ケイスケなら———無い物ねだりは辞めよう。

 正直に言って、専門家では無いから今のカナタがどういう状況か分からないのが一番の問題だ。何もしてやる事が出来ない。

 

 もう一つ。ベースキャンプ出入り口に居るティガレックス。流石にここまで登ってくる事は無いが、しつこくあの場に残られたらこっちが移動出来ない。

 その場合動ける三人でティガレックスを退治出来るかと応えられれば答えはノーだ。全く自信が無いしそもそもこの二人をティガレックスと戦わせる訳にもいかない。

 

 

「……詰んどるやんけ、クソが」

 思わず口からそんな言葉が漏れる。

 

 情け無いが荷が重い。きっとこの場に居たのが自分で無くケイスケやアニキ、サナなら———考えても意味が無い事が思考を支配する。

 

 

『私がティガレックスを倒してカナタを助ける!』

 そんな、途方も無い事の書かれたスケッチブックが目の前に置かれた。……アホか。

 

 

「あのなアカリ……今はそんなふざけてる場———」

 アカリの無謀な言葉に呆れてその頭にチョップでも入れてやろうとして、アカリの顔が、表情が目に入った。

 

「……」

 真剣な表情。大切な仲間が、家族が危険な状況で。自分の命を投げ打ってでもその家族を助けようとしている。

 

 そんな、真剣な表情。

 

 

「お、俺も! 元はと言えば俺をカナタが助けたから……」

 タクヤもそう口を開く。この二人はアホか———いや、アホは自分なんだろうな。

 

 

 どうしても最善策を考えてしまう癖がある。

 ガイルの時もサナの時も、自分では最善策だと思ってもそれが結局本当に最善策だった事は無いのに。どうしても自分で最善策だという答えを見付けてそれに従ってしまう癖がある。

 

 真剣になり過ぎて無駄に考え過ぎてしまうと言えば聞こえは良いが、要はアホなんだ。考えるのが下手くそ。

 

 

 少し考えれば分かるだろう。今どうするべきか。何をするべきか。

 

 

「……お前ら、アホか」

 とりあえず、そう言い放った。

 

「「……」」

 勿論アカリもタクヤも不満そうな表情をする。でもこれは褒め言葉だ。そう受け取って欲しい。

 

 

「カナタを助けたいのは分かる。でもアカリ、お前はまずボウガンが無い」

「……ぁぅ」

 さっき急いで引っ張ってしまったからヘビィボウガンは落として来てしまった。まぁこれは自分のせいなのだが、ここはあえて利用させて貰おう。

 

「それにティガレックスを倒すとしてカナタを一人にする訳にはいかんやろ? だからアカリにはカナタの事を頼みたい。……ええか?」

「……ん」

 少し考えてから。

 

『それが私のするべき事ならするよ!』

「アカリは偉いな」

 頭を撫でてやる。でも、いつもの調子で無くてその表情は硬い決意が全面に出ていた。

 

「お、俺は?」

「アカリは今武器が無い。勿論カナタは戦えない。なら……もしゲネポスみたいな小型モンスターがここに迷い込んで来たらタクヤ……お前しか二人を守る事は出来ん」

 まぁ、ありえない事は無いだろうが気持ち的には嘘も方便といった感じ。

 実際の所アカリやタクヤをティガレックスと戦わせる訳には行かない。ならどうするか? 自分がやるしか無い。

 

「お、おぅ! 分かった、任せろ!」

 タクヤも了承してくれたみたいでなによりだ。さて、後は自分が上手くやるしか無いか。

 

 

『シンカイ君はどうするの? ティガレックスと戦うの?』

 まぁ……聞かれるわな。話の流れ的に自分がティガレックスをなんとかするしか無い訳だし。

 

 

「任せろや、とっておきの作戦があるさかい。ティガレックスなんて直ぐに倒してとっとと船に戻ってカナタ見てもらうで!」

 勿論、嘘である。作戦が無い訳では無いがとっておきの作戦という程の作戦では無い。

 

 

『頑張ってね!』

 アカリにそう言われるとなぁ……。なんとかするしか無いか。

 

 

「ほ、本当に大丈夫なのか……?」

「察しろ……アホ」

 アカリには悪いが、タクヤには小さな声でそう伝えた。このくらいの小さな声だとアカリには聴こえない。

 

「お前……」

「まぁ……なんとかする、絶対に。だからその間アカリとカナタを頼んだで」

 だけど今は何か考えている場合じゃ無い。他の奴ならもっと上手くやるんだろうが、自分にはこれが精一杯だ。

 本当は……いざベースキャンプエリアから出たらティガレックスは居なくなっていた。なんて事に期待してるんだけど———ありえないだろうな。

 

 

「カナタ……ちょっとだけ我慢してといてくれや」

 ベッドで苦しそうに呻き声を上げるカナタにそう伝える。さっきよりは辛そうでは無いが……何分どうなっているか分からないんだ。油断は出来ない。

 

「…………行っちゃ……ダメ」

 して、カナタの口から出たのはそんな言葉だった。

 ま、まぁ……そう言いたい気持ちは分かるんだけどな。

 

 

「逆の立場だったらカナタはどうするんや……?」

 もっと上手い方法があるなら教えてくれ。

 

「……ちが…………ぅ」

「何が違う……?」

 どうしたんだ?

 

「お、おいカナタ大丈夫なのか?!」

「……か……ぁ」

 二人も心配だろうな。うん、この二人にならカナタを任せられる。

 

 

「…………行っちゃ……メ…………前も……シーラ…………あの……たいに」

「無理して喋らんでえぇ……文句ならカナタが元気になったらいくらでも言ってくれて構わへんから。せやから今は安静にしとれ……」

 絶対に助けるからな。そう思ってその場から立ち上がろうとすると、カナタに手を掴まれた。

 そんなに心配か。分かるんだけど、今は自分の心配をしてくれ。

 

 カナタって本当に他人優先だな……。

 

 

「…………ダ……メ」

「……ん!」

 その手を無理矢理にでも外したのはなんと意外にもアカリだった。

 

「……アカリ?」

 

「ん!」

『シンカイ君に任せるの!』

 今のカナタでも読めるような大きな字で。そう書かれたスケッチブックをカナタに押し付けるように見せるアカリ。

 

 おぅ、任せろ。

 

 

「…………っ」

 そんなスケッチブックを見て何を思ったのか。

 カナタはゆっくりと目を閉じて気絶するように意識を落としてしまった。

 

 息は荒いが、まだ大丈夫の……筈だ。

 

 

 迷ってる暇は無いな。

 

 

 

「……行ってくる。タクヤ、二人を頼んだで」

「お、おぅ!」

 出来るだけ早く奴を仕留めるか行動不能、最悪でも撃退させる。とりあえずそれだけを考える。

 

「し……か……くっ!」

「……アカリ?」

「ん!」

『本当に大丈夫? 無理してない? ごめんね、何も出来なくて』

 優しいな、アカリは。カナタには心配させないように、あぁ言っておいて自分にはこうか。

 

「いんや、アカリの力はちゃんと借りるで」

 丁度良くあの場所にはあのヘビィボウガンが落ちている。かの雌火竜の亜種の素材を使ったあのヘビィボウガンが。

 

「……んぇ?」

「アカリのおかげでティガレックスなんか勝ち確定や。任せとき」

 ハッキリ言って勝率は五分だ。やれるか分からないし自信は無い。それでもやってのけるしか無い。

 

 

 家族を守るために。

 

 さて、見せてやるか。あのティガレックスに。

 

 

 

 ねーちゃんの強さを。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 担ぐは双剣。残るアイテムにロクなものは無い。

 アカリから譲り受けたボウガンの弾と、閃光玉が残り四つ程。

 

 

 だから、いざベースキャンプを出ればティガレックスが居なくなっていました。なんてオチをやはり期待してみたのだが全くそんな事は無かった。

 なんとティガレックスの奴、ゲネポスが散り散りになってこの場が安全だと思い帰ってきていたアプケロスを捕食していやがる。

 

 それ食ってお腹一杯になったのなら帰ってくれないものだろうか。

 まぁ、こっちにはそんな余裕は無い訳だが。

 

 

「とっととご退場頂こうか……」

「……グゥゥ……ギァィィッ!」

 自分に気が付いたティガレックスは食事を中断し戦闘態勢に移る。勝てるのか……アレ。

 

 

 人間の武器は知恵と文字通りの武器のこの二つだ。

 

 ここにあるのは街の加工屋で市販されている五百ゼニーの双剣。

 それにカナタの落としたガンランス、アカリの落としたヘビィボウガン。

 

 

 いくらでもやりようはある。

 

 

 正直、ヘビィボウガンを触るのはだいぶ昔まで気が引けていた。どうしようも無い状況でも無い限りは関わりたくも無いとまで考えていた。

 ねーちゃんの使っていた武器。ねーちゃんが教えてくれた武器。……自分に一番合った武器。

 

 だから、帰って来なかったねーちゃんが嫌いになって。同時にヘビィボウガンも嫌いになっていた。

 でも、皆の家族になって、皆の事を知って、ディアブロスと戦って、そんな思いは少しずつ薄れて行ったんだ。

 

 

「深呼吸……」

 ねーちゃんはきっと護りたい人を護った。その為に出来る事を全力でやっても、足りなかった。

 誰にだってある若い過ち。誰にだってある大切で護りたい物。ねーちゃんは立派なハンターだったんじゃ無いだろうか。

 

 

 ならその気持ちだけは次ごう。勿論、自分は双剣使いだ。この剣の愛着を捨てた訳では無い。

 

 

「ギャァァアアア!!」

 全力で突進してくるティガレックスの突進を岩場を背にして寸前の所で交わして走る。

 

 ティガレックスは勢い余って岩場にそのまま突進。運の良いことにその岩場に牙を立てて抜けなくなってしまっていた。

 その間に全力で走る。アカリが落としたヘビィボウガンの元へ。

 

 

 

「こうやって……撃つんだよ、か」

 身体が覚えていた。アカリと初めて会った時もそうだったが、やっぱりこの武器が自分には一番合っていると分かってしまう。

 

 ねーちゃんとの記憶が蘇る。まだ小さかった頃の記憶だ。

 自分はねーちゃんみたいなハンターになりたかった。一緒に隣でヘビィボウガンを担ぎたかった。

 

 でも今は違う。

 尊敬してるし、今でも一番強いハンターだって思ってる。けど、ねーちゃんみたいにはならない。

 

 

 ねーちゃんを超えなきゃな。死んだら意味が無いんだ。そこだけは譲らない。

 それが、皆と出会って自分が導き出したハンターとしての心得だった。

 

 

 

 ねーちゃんみたいなハンターになって、それでいて仲間も自分も誰も死なせないハンターになる。

 

 

 

「さーて……ならまぁ、一狩り行きますか」

 

 




主人公に小さいけど大きな目標を持ってもらった。
自分がどうなりたいか、どうしたいか。

目標は大切だと思うのです。と、言っても私はそう教えられただけなのですが。
自分の目標は、この作品を少しずつでも良い方向に持って行って、ちゃんと完結させる事です。それまでお付き合いして下さると嬉しい限りですね。


また来週、会えたらお会いしましょう!

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