モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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地獄から来た角竜

 

 ———切り続けた。何度も何度も。

 

 

 

 奴が立ち上がるまで。

 

「ブォォォア゛ア゛ア゛ッ!!」

「なんやと……」

「嘘……」

 ディアブロスは起き上がる。

 満身創痍の状態で体液を地面に垂れ流しながらも悲痛の叫びを上げ、怒りに身を震わせながら立ち上がったのだ。

 

 これがマ王。ここ何年もの間砂漠に君臨した生きる伝説。

 

 

「ブォォォア゛ア゛ア゛ッ!!」

 怒りの鉄槌が振り上げられる。きっとこの場に居た誰もが反応出来ないスピードで振り下ろされたそれは、アニキを軽々と地面に叩き付けた。

 

「アニキぃ!!」

 悲鳴も無く倒れたアニキの元に駆け寄る事も、ディアブロスの振り回される尾が許さない。

 

 そうしている間にも怯んで動けなくなったサナの正面にディアブロスは頭を向け、その鋭く捻れた片方の角を向ける。

 その鋭利な槍がサナの身体を貫こうとした瞬間、

 

「うぉぉぉおおおお!!」

 渾身の力を込めたガイルのハンマーがディアブロスのその角を直撃する。

 

 さっきの猛攻で蓄積されたダメージがあったのか、その攻撃でディアブロスの残り一本だった角は不快な音を立てながら破砕し、地面に突き刺さった。

 

「ブルォォア゛ア゛ア゛ッ!!」

 二本の角が不恰好にも折れ、満身創痍の肉体で、それでも尚立ち続ける悪魔。

 折られた角の有無がその力には関係無いとでも言うように、人の何倍もある頭を回転しながらぶつける頭突きで、ガイルを地面に転がせるディアブロス。

 

 今度こそとサナに狙いを付けたディアブロスの尾が振り上げられる。

 

「サナ!!」

「……っ」

 全力で走って、小さな身体を抱えて飛ぶ。

 しかし頭はからっぽだった。

 

「ブルォォア゛ア゛ア゛ッ!!」

 怒りの視線を送って来たかと思えばディアブロスはまた折れた角と襟飾りを駆使して砂の中に潜って行く。

 今度こそ避けられない。そのままディアブロスに逃げてくれと願ってみるが、その気配が消える事は無かった。

 

 倒れているアニキとガイルに視線を送る。

 もう助からない。諦めかけていた。

 

 

「私が……悪いんだ」

 ボソッと、サナの口からそう漏れる。

 そう口にした瞬間何かを理解してしまったのか、手放した太刀と一緒にサナも地面に崩れ落ちた。

 

「私が今だ……なんて言って、倒せると思って……それで」

 違う。

 

「元はと言えば私が皆を巻き込んだ……ラルフもガイルも…………シンカイも……。……私が…………ぁ……ぁあ……」

 違う。

 

 

「ブルォォッ!!」

 多分最後の奇跡だろう。ディアブロスが砂中から浮上したのは自分達から五十メートル程離れた場所だった。

 だが逃げる訳では無い。姿勢を低くし、最後はお得意の突進で四人をまとめて葬る気なのだろう。あまり時間は残っていなかった。

 

「サナ……それは違うで」

 だから手短に話そう。

 

「まだ誰も死んじゃいない! 終わって無い!」

「シンカイ……?」

「サナは何も間違っちゃいない。むしろ頑張った方やろ? ワイら三人だったらこんなチャンスを作れなかった。勿論アニキもガイルも居たからそのチャンスを物にしたんやけども、サナは一番頑張った」

 双剣を地面に捨てて、サナの太刀を拾いながらそう言う。

 アニキは大胆に振舞って時には仲間を助けてくれた、ガイルはあの恐ろしい角を一本へし折った。

 サナは皆をここまで引っ張って、どうしようも無い状況をチャンスに作り変えた。

 

 何もしていないのは自分だけだ。だからここで何かをなさなければ男がすたる。

 

 

「だから後は任せろ」

「辞めて……」

 大切な仲間を守るためなら、どうなっても良いとも思えた。ねーちゃんは……こんな気分だったのだろうか?

 まぁ、出来れば死にたくは無い。親父との約束もあるしな。死んだら意味が無い。

 

「もしダメだったとしても、絶対にあのマ王だけは道ズレにするか動きを封じる。だからサナ……生きろ」

 でもさ、こいつだけは守ってやらないと行けない。そう思ったんだ。

 

「辞めて……っシンカイ!!」

 サナの言葉は聞かずに、ディアブロスの方へと全力で掛ける。同時にディアブロスも自分達をまとめて轢き殺そうと脚を一本また一本と前に進めた。

 

 距離にして五十メートル。自分は五十メートル走るのに七秒掛かるか掛からないかだが、ディアブロスは初めの加速こそ遅い物も二十メートル進む頃には空を飛ぶ飛竜のようなスピードで突進してくる。

 勿論まともにぶつかりあったら全身の骨をバラバラにされて即死だろう。何分こちらは防具すらない。それでも自分は脚を止めなかった。

 

 時間にして三秒も無い。あれだけ離れていた距離は一瞬で縮んで、文字通り目と鼻の先にディアブロスの頭が来るまで瞬き一回分。

 そこまで距離を詰めてから自分はサナの太刀の刃先をその目先に向けた。

 

 

 瞬きをせずにディアブロスと睨み合う。本当はほんの一瞬の出来事のハズだが妙に動きがスローモーションに見えるのは自分が死ぬ間際だからだろうか?

 そんな事はどうでも良かった。ただ自分は、為すべき事をするために刃先に全神経を集中させる。目標は自分を睨み付けるマ王の『眼』。

 

 確かな手応えが手に伝わった次の瞬間、これまで感じた事も無い衝撃と痛みが全身を襲った。

 突き飛ばされた感覚が全身を駆け巡り、自分の骨が軋む音が身体中から伝わって来る。

 肺の空気は全部一瞬で押し出され、内臓が出て来るんじゃ無いかと思える程口から大量に空気と血液を吐き出した。

 

 生きて意識がある事にも驚いたが、もしかしたら死んだ方がマシだったのかもしれない。

 地獄に行った奴が味わうような苦しみを覚えながら、それでも生き残った感触を掴んで視界に映る物をハッキリと見定める。

 

 

「ブルォォォオ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

 激痛に叫ぶのは自分だけでは無かった。右眼に『太刀』の突き刺さったディアブロスは脚を止めて悲痛の叫びをあげる。やったのか、やれたのか、良かった。

 

 

 

 眼球と言うのはどんな生物であれ鍛えて堅くできる物では無い。

 ただ、だからと言ってそれを覆う瞼は違う訳で。条件反射で閉じられるだろう瞼を貫通して眼球を突き刺す程の腕力を人間はどれだけ鍛えても得る事は不可能だろう。

 

 ましてや自分は非力な方だ。

 

 だからディアブロスの突進を利用した。相手の走ってくる勢いと自分の勢いも合わせれば、ギリギリ瞼を貫通して眼球に太刀を届かせる事が出来るだろうというカウンター染みた捨身。双剣でなく太刀を選んだのはリーチを確保する為だ。

 一番の問題は綺麗にその太刀の刃先をディアブロスの眼球に合わせられるかといった所だったか。これに関しては何故か自信があった。昨日や今日のサナの反射神経に比べればこの位容易い物だ。

 

 

 あーしかし。もうダメだ。

 身体が動かない。冷たい砂の上で、ただ暴れ狂うディアブロスを見守る。

 頼むから倒れてくれ。不死身のマ王なんて二つ名はもう捨てても良いだろう? そんな満身創痍でまだ戦うつもりなのか?

 

 

「ブルォォオ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」

 しかし、天まで届きそうなその怒りの叫びと共にディアブロスは体制を立て直す。

 嘘……だろ?

 

「ここまで……やって」

 倒れないのか……?

 

 これがねーちゃんを殺したマ王だっていうのか。

 あぁ……今ならねーちゃんの事、許せるわ。

 

 

「まだ……や」

 だとしても。

 いう事を聞かない身体を引きずって立ち上がろうとする。

 

「まだ……終わっちゃいない……っ!」

 まだ誰も死んでない!

 

「そうだな」

 そう右から肩を貸してくれたのはアニキだった。

 

「アニキ……?」

「……俺達の勝ちだ」

 左からはガイルが肩を貸してくれる。

 いや、でもこんな事されたら戦えない。

 

「全くさぁ……っ!」

 そう考えている背後から聞こえる可愛い声。

 ハンターとは思えない程小柄で華奢なのに、誰よりも努力して誰よりも頑張った彼女は、自分がさっき捨てた双剣を一本だけ両手で持ってディアブロスの元に歩いていく。

 

 

「サナ……」

「格好つけようとしてんじゃねーよ! 心配…………したじゃん」

 泣き顔で彼女は振り向くと、構えてこう口を開いたのだ。

 

「まぁ、いつもよりちょっと小さいけど行けるっしょ! 何より私、天才だしな!!」

 全く、可愛い奴だ。

 

 

「ブルォォ……ッ!」

「いい加減眠れ……マ王ぉおお!!」

 それなのに彼女は我等狩猟団の中で最強のハンターなのだから、一人で一番頑張ってみせるのだ。

 

 片目の潰れた両角なしのディアブロスの懐に潜り込み、小さな刀身でも適材適所に連続攻撃をディアブロスに叩き付けるサナ。

 その巨体が力を失って行くのが眼に見えるように分かる。しまいには残った片方の瞳からも光が消えて行く。

 

 砂の大地にそれが倒れると同時に日が昇り始め、生きている実感と———勝ったという喜びを胸に焼き付けた。

 

 

「生きてるんやな……」

「あぁ……生きてるぜ」

「……そうだな」

「そう……だね」

 各々感傷に浸りながらその場に崩れ落ちる。全身の痛みも傷もここまで来れば良い思い出だ。

 絶対折れていると思っていたが自分は案外丈夫だったらしく痛みは残っている物もそれ程悪い状況では無さそだし。

 

 こんな所で朝っぱらから倒れている訳には行かないのだが、それでも今は皆で込み上げる思いが止まらずに笑顔を見せる。

 生きている。俺達は勝ったんだと。

 

 

「ギャィッ」

 が、そんな気持ちに水を差す奴が一匹だけ居た。緑とオレンジの縞模様をしたランポスと同種の小型肉食竜のゲネポス。

 ランポスとの違いは体色と一対のトサカに口外にはみ出た牙で、強力な麻痺毒を持つモンスターとして知られている。

 

「げぇ、ゲネポス……」

 

 勿論、この程度の小型モンスターなら今さっき砂漠の王を倒した自分達の敵である事など無いのは確かなのだが。

 全員満身創痍の上座り込んでいる状態だ。咄嗟にアニキが立ち上がるも武器を構える姿はまるでなっていなかった。

 

 

「や、やんのか……?」

「ギャィッ!」

 流石に四人相手で一匹でいるゲネポスも警戒しているのか、鳴き声を上げて自分達を警戒する。が、その次の瞬間だった。

 

「ギャィィッ!」

 背後からの、鋭利な細い武器での突きでゲネポスは勢い良く地面に転がって絶命する。

 何かと思ってゲネポスを追い掛けた視線を戻すと、そこには一人の男と女が立っていたのだ。

 

「げぇ……ケイスケに、クー姉」

 アニキがその名前を呼ぶ。

 

 

「やっと見つけたぞ……まさか本当にやり遂げてるとはな」

「まぁ、俺が居たからな」

「お姉ちゃん……」

 自信満々にケイスケに勝ちを報告するアニキの横で、静かにサナは姉を見ていた。

 

「サナ……」

 その姉はゆっくりとサナに近付くとその頬を引っ叩く。

 

「な、なんだよ……。私はやり遂げたぞ!! 皆と頑張ってお兄ちゃんの仇を討ったんだ!! それなのにお姉ちゃんはなんだよ!! 何もしないで、なんの為にハンターになったんだよ!!」

 怒鳴りながら手に持っていた双剣の片割れに力を入れるサナ。流石に仲裁に入ろうとするがケイスケにそれを止められる。

 

「あんたを護る為に決まってるでしょ!!」

 泣きながら、サナを抱きながら彼女はそう言ったんだ。

 

「直ぐこんなボロボロになるまで無理するあんたが心配だからに決まってるでしょ?! 私は死んじゃった弟より、生きてるあんたの方が大切なのよ!!」

「お姉ちゃ……ん」

 強く、もう離さない。そんな決意が感じられて、見ているこっちも暖かな気持ちになった。

 

「もう……こんな事は辞めてよね……」

「ご……ごめん…………なさい」

 

 

 実際どうするのが一番の正解だったかなんて知るよしも無い。

 この中の誰か一人でも止めていれば自分達はマ王と戦う事は無かっただろうが、サナは姉の真意に耳を貸す事は無かっただろう。

 マ王を倒した今だからこそ、生死を賭けた戦いを生き抜いた今だからこそ、こうやって姉の言葉を真に受け止める事が出来ているのだと思う。

 

 だから自分としては、これは間違ってないんだと、そう思えたのだ。

 

 

「……ふ、さぁ! 帰るぞ、我が家に!」

 倒れた不死身のマ王ディアブロスを見てからケイスケはいつもの調子でそう語る。

 その表情はなんとも言えない、いつもの何もかも見透かした表情だった。……なんだ?

 

 まぁ、帰ろうか。我等の狩猟団に。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 忘れていたと言えば嘘になる。

 ただ、あまり気にしたく無かったというか目を背けていたのは事実なのだ。

 

 

 我等が砂上船キングダイミョウに戻った、ケイスケとクーデリアさんを除く自分達四人を待っていたのは歓迎なんて物じゃ無かった。

 外で待機していたのは日光の反射で表情の見えない親父ただ一人。

 

 表情見えなくて怖いんだけど!? 殺される!! 今ならマ王より怖いと感じるその親父の前に自分達は四人並んで立った。

 鉄拳制裁か。死刑か。マ王と戦って勝ったは良いが満身創痍の上この仕打ちだ。はは、割に合わねぇ。

 

 

「ラルフ……ガイル……」

 親父が二人の名前を呼んだ次の瞬間だった。夜中に感じたディアブロスの突進をギリギリで避けた時のあの背筋が凍る感覚がまた自分を襲う。

 

「「ガハッ!!」」

「ひぃぃっ?!」

 隣にいたアニキとガイルは背後五メートルにあった岩盤まで吹っ飛んでそのまま気絶した。

 おい何があった。まさかこの今真横にある親父の右腕が二人を同時に殴り飛ばしたのか?! そんな馬鹿な。

 

「何大怪我してやがる糞ガキぃぃいいい!!」

「ひぃぃっ?!」

 怖い! マ王より断然怖い!!

 

「親父、気絶してる」

「ったく親不孝者が……」

 ヤバい次は自分だ。

 

「シンカイ、サナ……」

 ひぃぃいいいっ!!

 

「良く帰ってきたな」

 が、予想とは裏腹に親父の右腕が飛んでくる事は無かった。

 それどころか親父はその大きな腕で自分とサナを優しく抱擁し、こう続ける。

 

「何より……俺は子供達が怪我するのが嫌なのさ。勿論死んじまうのはもっと嫌だ。だから無事で帰って来たならそれで良い……なぁ、よく帰って来た。よく無事で帰って来た」

 そう言う親父の声はとても優しくて暖かかった。だから、今回の件に関して自分は反省しか無い。

 

 

 もしかしたらここに戻って来れなかったかもしれない。もしかしたら誰か一人でも欠けていたかもしれない。

 

 何が正解かなんて分からないが、何が不正解だったのかも自分は分からない。

 

 

 だからそんな未熟な自分が許せなかった。

 

「殴ってくれ」

「……ん?」

 親父にそう頼む。

 

「ワイも皆の家族や! こうなったのは自分にも責任がある。アニキ達が怪我したのは自分にも責任がある!!」

「ちょ、シンカイ!」

 止めるようなサナの声を無視して続けた。

 結果はどうあれ、この判断をしたのは自分だ。自分はただ運が良くて大きな怪我が無かっただけで、アニキ達となんら変わらない。

 変わらないんだ。自分はもう皆の家族で、サナやアカリや親父やケイスケ達と同じなんだ。家族なんだ。だから違う対応を取られるのが嫌だった。

 

 そんな風に思える程には、もう自分はこの人達に溶け込んでいるんだと熟思う。

 

 

「だ、だったら私も!」

 いや女の子は殴れないだろう。そう思った矢先だが親父は両手を振り上げていた。

 

「オメェら、歯食い縛れ」

 言われた通りにする。自分もサナも、ただ瞳は開けて真っ直ぐに親父を見た。

 振り下ろされたのは拳骨。アニキ達みたいに吹き飛ぶ事は無かったがそれでも頭が割れるかと思う程の激痛だった。

 

 それでも、暖かい。

 

 

「もうするんじゃねーぞ」

 優しい表情で親父はそう言うと船に振り向いて背を向ける。

 でっかい背だなぁ。

 

「出発だぁ!!」

 親父がそう言うと同時に船からアカリが全力ダッシュで何かを持って駆けて来た。

 何も無い所で途中で転けて心配になるが、それを笑ってやっていると起き上がったアカリは頬を膨らませてまた駆けてくる。

 

 そんな他愛無い光景を見て「あぁ、帰って来たんだな」と初めて実感できたのかもしれない。

 そういや、昨日のアカリが当番の晩飯食べれなかったなぁ。

 

 

『サナ! シンカイ! これ昨日のご飯の残りだよ!』

 頬を膨らませたまま事前に書いていたのだろうそのスケッチブックとおにぎりを二つ抱えるアカリ。

 食べ損なったご飯を食べられるのは嬉しいがスケッチに書かれた言葉と今の表情がまるで合わなくてまたサナと二人で失笑してしまう。

 

「……んっくぅぅ」

 あぁ、怒ってるアカリも可愛いなぁ。

 

「あはは、ごめんてごめんて。態々ありがとな、アカリ」

「もっと謝りなさいよシンカイ」

 お前も笑ってただろうがい。

 

「……ふむぅ」

 頭を撫でてやると何とか機嫌を取り直してくれたのか膨らんだ頬を縮ませて、アカリは珍しく口を開いた。

 いや、きっと珍しいなんて事は無いんだろう。アカリも口にしたい事がもっといっぱいある筈なのだから。

 

 だから、そっとその言葉に耳を傾ける。

 

「……ぉ……かぃ」

「あぁ、ただいま」

 約束は守れたかな? そんな事を考えながら気絶したガイルを背負って船に戻る。

 

「ねぇ……シンカイ」

「なんや? サナ」

「……いや、何でもない」

 複雑そうな表情でサナはそう言った。なんだ?

 

「親友の王子様を取るのもな……」

「なんの話……?」

 

「んーとさ、その背中で眠ってるバカと、そこ伸びてるバカにも伝えといて。あとあんたにも」

 こう続けてから少し早めに歩いて前に出て、振り返り満面の笑みでこう言ったのだ。

 

「まぁ私一人でもやれたけど?! 今回は無駄なお節介ご苦労様ぁ! ってね!」

 そしていつものドS腹黒少女の顔に戻ると一目散に船に走っていく。

 

「ったく……」

 走りながら「皆ありがとう」なんて言っても誰も気付きやしないっての。

 

「……可愛く無い奴」

『それがサナだから! 照れ隠し照れ隠し』

 

 

 

 余談ではあるが。ケイスケが言うには自分達四人が相手したディアブロスはマ王御本人では無かったらしい。

 なぜ分かるかと言うとケイスケが自分達を探している間に本物のマ王を目撃していたからだ。

 

 でわ、あのディアブロスは何だったのか?

 答えは簡単。マ王により片角をへし折られ、身体中ボロボロに痛めつけられ弱った普通のディアブロスだった訳だ。

 ただ、マ王と戦って生き残れただけでも個体としての能力は高かったのだろう。あの生命力と力量にも納得が行く。

 

 

 つまり、本物のマ王はアレより強い。

 この事は今は自分とケイスケの秘密になるだろうが、いずれまた本当のマ王と戦う事もあるだろう。

 

 だが今は、満身創痍の普通のディアブロスにも手こずっている状態だ。自分も伝説のハンターなんてまだまだ先の話だな。

 

 だから強くなって、また本物のマ王に相見える。その時は誰一人傷付く事なく、欠けることなくまたここに帰って来よう。

 

 

 

「クックククククク……ブロォォォォォゥゥゥウウウ!!!」

 

 そんな決意を胸に、我等が狩猟団はまた砂漠の航海を再開する。

 いつか戦う事になるだろうその鳴き声を背に、今は前に進むのであった。





長くなってしまい、すみません。

そしてとんでもないオチでした←
マ王との本戦を書くことはあるのだろうか?

これで長々とやってきた今章も終わりです(´−ω−`)
お付き合い、ありがとうございます。

次回も張り切って書いたので、お暇があればまたお会いしたいと思います。でわ、また会う日まで。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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