モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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始まる物語

 

 龍は天空を泳ぐ。

 

 空と天界を分ける雲の中を白き龍は閃光の如く走り抜ける。

 霊峰に棲む嵐の化身はなんの気まぐれか、また大地に降り立とうとしていた。

 

 

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「そういえば凄いボウガン捌きだったな。その双剣はまるで飾りのようなくらいに」

 密林を歩く中ケイスケはそう話し掛けてくる。

 

 

 誰も着いていくと言ってないのに、肩を持たれ半分拉致状態である。

 

「いや、あれは……。双剣よりヘビィボウガンのが解決しやすいと思っただけで。お……わいは最強の双剣ハンターやから。本業は双剣やで」

「その言葉を聞いたら余計連れていきたくなったぞ」

 なんでやねーん。

 

 

「そうだアカリ。ちゃんとお礼は言ったのか?」

「……」

 兄が聞くと妹は無言で首を何度も横に振った。無口だなぁ。

 

「ちゃんと言わなきゃダメだろ?」

「……て……も」

 ても?

 

「良いから。怪我じゃすまなかったかも知れないんだぞ」

「……ぅ…………く」

 少女は少し俯いてから。

 

「…………ぁり……と…………ぅ……っ!」

「ど、どういたしまして」

 緊張してるのかな?

 

 

「俺達は猟団として旅をしているんだ。君は? と、いうか君の話を聞きいていなかったな。名前を聞かせてくれ」

「矢口深海や。やっと人の話を聞く気になったか……」

「シンカイか。良い名前だ」

「そりゃどうも。言っとくけどお礼なんか要らんで?」

「そう言うなよ」

 結局聞く気は無いんかい。

 

「で、シンカイ。お前もハンターなんだろう? 何処に住んでるんだ?」

「住んどると言うか……。今朝夜逃げしたばかりなんやけど」

「と、言うと?」

 正直に言いたくない。

 

 

「自分探しの旅に出ようと思って。寝床とかそう言うのは……まぁその日その日で? サバイバル好きやねん」

「素晴らしいな。これはもう偶然を超えて必然だ」

 なんの話?

 

 

「よし、着いたぞ」

 ケイスケがそう言うと密林が開け、広い空間に出る。

 

 洞窟の近くで木々が生えていない場所にアプトノスという中型の草食動物を飼い慣らして荷台を運ばせる竜車が三台並び、近くにテントが何個も張られていた。

 

 

「これは……」

 

「お前ら帰ったぞー」

 ケイスケが自然な感じでテントが集まる空間に歩きながらそう言う。

 するとそこには十人ほど人が集まっていて皆がケイスケに寄って来たんだ。

 

「遅かったな何してた?」

「ドキドキノコあった?」

「飯にしよう」

「アカリー!」

「その人誰っすか?」

 

「あぁ、紹介するよ」

 大勢に囲まれたケイスケはこっちを見ながらこう口を開いた。

 

 

「俺達の新しい仲間だ」

「なんでやねーん!!」

 なんでだ! なんでそんな勝手に話が進んでるんだ!

 

「お、双剣使いじゃん」

 ピンク髪のアカリと同じくらいの大きさの少女が意味深な目で見てくる。

 

 

「どういう事か説明しろ!」

「ん? いやだから俺達は今日から仲間だ」

「ふざけろぉぉおおお!」

 

「おい、ふざけてんのかケイスケ!」

 突然竜車付近に座っていた男が立ち上がりそう口を開いた。

 黒髪でがたいが良い長身の男で、何故かとても怖い表情をしている。ヤバイ怖いチビりそう。

 

「何もふざけてなんて居ないぞ?」

 ケイスケがそう言うと男はさらに表情を悪くして口を開く。

「この腑抜けた面の双剣使いがマックスの代わりだとでも言うのかよ!」

 初対面で腑抜けた面とか言われたんだけど。マックスって誰だ。

 

「マックスの代わりなんて居る訳がないだろラルフ」

「く……」

 今の会話で察せなかったらただのアホだ。

 ハンターってのはそう言う世界なんだから。

 

 

「だから落ち着いて俺に任せろ」

「……くそ」

 ケイスケに言われ、ラルフというらしい男は黙って元の場所に座りに戻る。

 

 

「と、いう訳だシンカイ」

「何がどういう訳やねん」

 この喋り方———ツッコミやすい!

 

「俺達と一緒に旅をしないか?」

「なんでそう言う話になったんや! わいはただ成り行きであの娘を助けただけやなんやで?!」

 確かにこの提案に魅力を感じていた自分が居るのは事実だった。

 

 

 猟団と言うのは、何人かのハンターが集まって気慣れたメンバーでお互いをフォローしつつ要所要所に仕事を振り分け生活していくグループの事だ。

 猟団に居ればとりあえず衣食住に困る事は無い。幸いこの竜車の数から見て規模の大きな猟団な気がするし。

 

 

「衣食住には困らないぞ」

 痛い所を着いてきた。

 

「なんでや! なんでわいをそんなスカウトするんや?」

 自分にそんな価値は無い。

 

 

 矢口深海という男はただ仕事が嫌になってモテるからという理由でハンターになろうとした、ただのダメ人間。それなのに、なぜや?

 

 

「俺の直感が告げたんだ。お前はでかくなる」

「成長期なら止まったで」

 

「ハンターとしてな」

 違う。あれは、ヘビィボウガンは違う。

 

 

「後詳しい理由は入ってから教えてやる。どうだ? シンカイ」

 このダメ人間に衣食住が与えられるチャンス。

 

 気にくわ無いけど、なぜかここは人生の転機だと自分は思った訳で。

 

 

「分かった分かった、わいの負けや。ここで世話になることにする。お願いします」

「決まりだな」

 

 こうして、この狩猟団への入団が決まったのだった。

 

 

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「さっきも言ったが。俺は橘圭介、武器はランスを使っている」

 んで、始めにやる事と言えばやはり自己紹介なのだろう。

 ケイスケが一人ずつメンバーを紹介してくれるらしい。

 

 

「こいつはお前の前に入ってきたタクヤだ。武器は片手剣を使っている」

「タクヤ・アルファードだ。宜しくな!」

 元気の良い黒髪の少年が挨拶してくる。多分年下だろう。

 

「宜しく」

 

 

「こいつはガイル。ハンマー使いだ」

「……ガイル・シルヴェスタだ」

 腕立て伏せをしながら銀髪の筋肉質な男が挨拶をしてくれる。何この人強そう。

 

「私はサーナリアって言うの。気軽にサナって呼んでね」

 ガイルさんを見ていると横からひょこっと子犬みたいな女の子が挨拶をしてくる。

 ピンクの髪に小柄な身体。こんな少女もハンターをやっているのか。

 

「サナは太刀使いだ。あ、こいつこう見えて腹黒だから気を付けろ」

「は? 何言ってんだテメ———って、あは! なんでも無いよぅ!」

 もう遅い。

 

「お、おう……」

 

 

「こらサナ、新人君が引いてるわよ」

 同じピンクの髪をポニーテールにした女性がサナにそう話し掛ける。

 

「うるせーよババァ」

「あん?」

 何この人達怖い。

 

「彼女はクーデリア。狩猟笛使いでサナの姉だ」

「姉妹なんか。なるほど」

「クーデリア・ケインよ。宜しくね」

 ならサーナリア・ケインか。

 

「若く見えるが二十歳過ぎだ」

「ちょ! ケイ君?!」

「キャッハハ! ざまぁ無いぜババァ! っと……あは、なんでも無いよ」

 この娘に近付きたくない。

 

「ん、まぁ。宜しくな」

 

 

「あっちの二人も姉弟だ」

 そう言ってケイスケが指差す先には金髪の男女二人組がオセロをやっていた。なんでオセロ。

 

「ちーす」

 金髪のモヒカンの男がそう口を開く。

 なんで一人だけ世紀末。

 

「あいつはヒール。ライトボウガンを使っている」

「ヒール・サウンズっす、宜しく」

「宜しく」

「こっちは双子の弟。んで、そっちが姉だ」

 

「ナタリア・サウンズよ。宜しく」

 金髪セミロングの綺麗な女性が挨拶をしてくれる。

 なんというかお嬢様的な気品がある。可愛い。

 

「彼女には我が猟団の会計を頼んでいる。使ってる武器は弓だ」

「なんでオセロしてるん?」

「「こいつを倒すため」」

 ここの兄弟仲悪すぎ。

 

 

「んで、あそこに居るのが俺のマイエンジェルだ」

 急にケイスケのキャラが変わった。

 

「ん? なんやて?」

 マイエンジェル?

 

「誰がマイエンジェルだボケぇ!」

「ゲボァ!」

 綺麗で長い赤い髪を揺らす女性が、 ケイスケの頭を地面に埋める勢いで殴り倒す。

 

「なぁぁ?!」

 殺された!?

 

「ふ……くく。痛いじゃないかカナタ」

 生きてた。

 

「死ね」

 直球?!

 

 

「彼女は俺の嫁の橘叶多だ」

「だ、誰が嫁だぁぁ!!」

 顔を真っ赤にしている辺り、満更でも無いのだろうか?

 ツンデレ?

 

「ゲボァ!」

 ケイスケ?!

 

「道輪叶多よ。ガンランスを使ってるわ、宜しく」

  手を出して挨拶をしてくれるカナタさん。

 

「おいシンカイ……その手に触れるにはまず俺の許可をだゲハォッ!」

 生きている辺り凄いと思った。

 

「宜しくね」

「宜しく」

 

 

「アカリ、こっちへ来い」

 突然さっきまでの調子に戻り、妹のアカリを呼ぶケイスケ。

 

「……」

 少女はこくりと頷くと、早足でこっちに向かってくる。

 真っ白で華奢な身体に黒髪ボブと眼鏡。整っているが所々幼い身体つきで可愛い女の子だ。

 

「橘小明だ。使っているのはヘビィボウガン。二度目だがまたお礼を言わせてもらう。ありがとう、シンカイ」

「……」

 兄がそう言うと妹は無言でペコリと頭を下げる。本当に無口だな。

 

「あんたが妹から目を話すなんてどうしたのよ」

 と、カナタさん。

 

「少し気になる物を見付けてな……。……いや何でもない、俺のミスだ」

「気になる物?」

「まぁ、気にする程の物でも無かったが」

「ふーん」

 

「後は……ラルフと親父か。アカリは着いて来てくれ」

「……」

 少女は無言で頷くとケイスケの後ろをひょこひょこと着いていった。

「シンカイも行くんだよ?」

「いやだってラルフって……」

 

 

 

「ラルフ・ビルフレッドだ。武器はチャージアックスを使っている」

「言っとくが俺はまだお前を認めた訳じゃ無いからな」

 この怖い兄ちゃんやろ?

 

「お、おぅ……」

「まぁ、そう言うなラルフ」

「うるせーよ」

 これは認めてもらうのに時間が掛かりそうだ。

 マックスねぇ。

 

 

 

「後は親父だな」

「親父?」

「俺達兄弟の父親でもあり、我等猟団の団長であり、皆の親父だ」

 そう言うとケイスケは並んでいる竜車の一番後ろの荷台に向かう。

 

 

「親父、紹介したい奴が居るんだ」

 ケイスケがそう言うと竜車からとても大きな人が出て来た。

 

 身長は二メートルなんて優に超え、とても人とは思えないがたいの良さ。頭はボウズでよく見れば耳が妙に尖っている気がする。

 

 

「な、なんや?!」

 とても息子や娘に似ても似付かない。

 

「こいつは双剣使いのシンカイだ。今日から仲間になって貰った」

「ほぅ、良い逸材を見付けたか」

 巨人のような親父さんは手を伸ばしながらそう言う。

 

「え、あの、えーと?!」

 この人はなんなんだ?! 本当に人間なのか?

 

 

「…………ぉと……さ……ん……」

 アカリがとてつもなく不満げな顔をしている。なぜだろう。

 

「おっと自己紹介が遅れたな。俺がこの橘狩猟団の団長、橘デルフだ。大剣を使ってる」

「よ、宜しくお願いします」

 どうしても固くなってしまうのは、この団長の希薄のせいか。

 

「ハッハッハッ! そう固くなるな!」

「え、いやぁ、あはは」

 怖いもん。

 

 

「まぁ、しょうがねーわな。この辺りじゃ竜人なんてのは珍しいだろうさ」

 竜人?

 

 そう言えば聞いた事があるな。

 人と似て居るが全く人とはかけ離れた存在。人より長寿で技術もあり、長身だったりその逆だったり。

 ともあれ人と似ては居るが全く別の存在らしい。アイルー達みたいな物だ。

 

 人口は少なくて見掛ける事の方が少いからか、本物を見るのは初めてだった。

 

 

「人間の中には俺達を嫌う奴も多いからな。おめーはどうだ?」

 嫌いも何も無いけども。

 

「別に嫌いだろうが構いやしねぇ。本音を言いな本音を」

「興味が無い、が本音やな。まぁ……初めて見たさかいビックリした」

「興味がない、ほぉ。ガッハッハ!」

 答えを間違ったか?! 殺されるか?!

 

 

「良い本音が聞けたぜ」

 そりゃどうも。

 

「一つ聞いてええか?」

「聞く前に答えてやるよ。ムスコ達はハーフさ、俺と人間のな」

 一番気になってた事をそう簡単に話すデルフさん。

 

 なるほどハーフ。人間と竜人の……マジか。

 

 

「嫁さんは?」

「死んだよ」

 人生で今一番後悔しています。

 

「す、すみません……」

「きにすんなぁ。誰もが認める最強のハンターだった。それこそ狂戦士とまで呼ばれる程の腕のあいつが死んだのは誰でもない俺のせいだ」

「親父……」

 

「おめーは竜人と人のハーフをどう思う?」

「どうもこうも、興味がないって言うたで」

 デルフさんの質問にそう答える。

 

 ふとアカリを見ると何か怯えたような表情をしていた。

 

 

「どうしたんや?」

「…………ぃ……ゃ」

「アカリ、仲間なんだから」

 後退りするアカリをケイスケが止める。

 

「ケイスケはまぁ、人間の身体で生まれたんだがなぁ。アカリは少し竜人の血を受け継いじまったんだ」

 デルフさんがそう言い終わると、アカリを捕まえたケイスケは彼女の髪をかきあげる。

 

「…………っ」

 その下にあったのは人とは違う尖った耳だった。

 

 

「可愛い耳やな」

 昔、女の子はとりあえず誉めろと言われたのでとりあえず誉めた。

 

「……っぁ?!」

 照れた。

 

「そう来たか」

「ガッハッハ! 面白い奴だ。話し方も変だし、キャラも立ってる」

 この話し方をバカにするのは許さへんで!

 

 

「しかし娘さんは無口やなぁ」

「いや、聞こえないんだ。アカリは」

「ん?」

 聞こえない?

 

「幼い頃に……この耳の事で里の子供に苛めを受けてな。俺が守れなかったばかりに……」

 小さな声でそう語り出すケイスケ。

 それで、さっき不満そうな顔をしていたり怯えていたのか。

 

「鼓膜が完全にやられてしまってな……。このくらいの声だとアカリには聞こえもしないし、自分の声もアカリは聞こえない」

「そうなんか……」

 そうとは知らず悪い事を言った。

 

 

「……?」

「悪かった!」

 アカリに向かってきちんと頭を下げて謝る。このくらいの声なら聞こえるだろう。

 

「アカリ、こいつも別に怖くないだろ?」

 ケイスケがそう言う。

 

「……」

 無言で頷いた後、アカリはなぜか突然後ろを向いてしゃがむ。

 え? どうしたの? お腹でも痛いの?

 

 

「……んっ!」

 キリッとした表情で振り替えったアカリは手にスケッチブックを持っていた。どこから出した。

 そこには何やら文字が書いてある。

 

『今日は助けてくれてありがとうございます! ヘビィボウガンの使い方がとても上手で尊敬しました。そんな人が仲間になってくれて私嬉しいです! これから仲間ですね! 皆良い人で楽しいところなのでシンカイさんもきっと楽しく居られると思う! 耳……可愛いってどういう事ですか? シンカイさんは変な人ですね。後話し方も変です。耳聞こえなくて迷惑かけるかもしれないけど仲良くしてくれたら嬉しいです。えーと、これから宜しくお願いします!』

 

「全然無口じゃ無いやないかいぃぃいいい!」

 この自分でも良く分からない話し方が良かったのかクスクス笑うアカリ。

 

「おっと、握手がまだだぜ。改めて団長から言わしてもらおう。これからこの橘狩猟団での活躍を期待してるぜ。宜しくな、シンカイ」

 そう言いながら手を出すデルフさん。

 

 その手に答え、この瞬間から矢口深海の橘狩猟団としての生活が始まったのであった。

 

 

 

 物語が始まる。




ここまでがプロローグと言う事で。

ここまで読んで下さった方々ありがとうございました。
これから始まる物語を楽しんで頂けたら幸いです。


登場人物や独自設定とかまとめた方が分かりやすいと思うんですけどやり方が分かりませんすみません。

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