モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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温泉と言えば卓球

 

『橘狩猟団恒例温泉と言えばタッグ卓球大会だよ!』

 ガイルとの一件の後貸切の旅館に辿り着き、ケイスケに近況を報告する。その後何かケイスケが始めたかと思えば、そんなカンペがいきなり目の前に現れた。

 それのカンペを抱える、浴衣に着替えたアカリの姿はころっとしていて可愛い。アカリはふわっとした姿が似合うな。

 

 

「卓球大会……?」

 卓球とはボードの真ん中に網を張ってピンポン玉をラケットで打ち合う勝負の事だ。

 

「そんなんやるんか?」

『毎回やってるんだよ!』

 なぜだかとても楽しげなアカリ。卓球が好きなのだろうか。

 

「俺達十二人でダイダロスに寄る度に行われる恒例の行事だ。優勝チームには草食獣の温泉卵が贈呈される」

「おーら! 今日も持ってきたぜ!」

 ケイスケの説明が終わると同時に、その場に居なかったアニキが化け物みたいな大きさの卵を抱えて旅館の広場に現れた。

 え、なにその卵。本当に卵なんですか?! 人の頭ぐらいの大きさしてるけど?!

 

「これが旨いんだなぁ。ちなみにチームは毎回くじでランダムだ。さーて、チームを決めるぞ!」

 ケイスケがそう言うと皆が一斉に一列に並ぶ。毎回思うがこの統率力は凄いと思う。

 

 そうして簡単に作られた割り箸のくじでチームが決定される。

 

「よーし決まったぞ。まずはAチーム! ラルフとタクヤだ!」

「よっしゃ勝つぜタク!」

「任せとけってアニキ!」

 アニキとタクヤか、タクヤが足を引っ張りそうだな。そしてなぜかお隣でナタリアさんがガッカリしている。あまり話す方ではないが分かりやすいよねこの人。

 

「タクヤ、アカリとじゃなくてええんか?」

「ん? あー、いやだって勝ちたいじゃん」

 お前屑だな。

 

「そんなに旨いのか……草食獣の温泉卵」

 この屑をここまで執着させる卵。食べてみたい感じはある。

 

「続けてBチーム! ヒールとクーデリアだ!」

「よろしくっす!」

「温泉卵は私達の物よ!」

 強そう。

 

「Cチーム! アカリとサナだ!」

『頑張ります!』

「やるかー」

 弱そう。

 

「Dチーム! ナタリアと俺だ」

「よろしくね、ケイスケ君」

「あぁ、任せろ」

 残りはカナタと親父とガイルと自分か。

 

「Eチーム! 親父とカナタだ!」

「がっはは! わりぃが温泉卵は渡さねーぞ」

「あの温泉卵を料理に使いたいなぁ……」

 大人気ないよ親父。てか最強のパーティーじゃね? あとカナタやい、今聞き捨てならない台詞を聞いたぞ?

 

「そしてFチーム! ガイルとシンカイだ!」

「……勝つぞ」

「おぉ、やる気やな」

 神のイタズラかケイスケの罠か。

 

 しかしいつになくやる気のある表情をしている気がする。

 

「……カナタに温泉卵を渡す訳にはいかない」

 震えていた。

 

「…………せやな」

 そりゃもう満場一致な答えですわ。

 

「第一試合! Aチーム対Bチーム!」

 アニキとタクヤのチーム対ヒールとクーデリアのチームの対決か。

 ちなみにトーナメント方式で、シード権は年齢の低いパーティに渡されるらしい。

 

 Aブロックシードはアカリ達でBブロックシードは自分達やな。親父と組むと絶対にシードにならないバグ。

 

 試合の結果はというとやはり強かったアニキがタクヤを引っ張って圧勝したのだった。

 こりゃAブロック勝ち抜いて決勝に来る奴だな。

 

「す、すまないっすぅ……」

「大人気ないわよラルフ君……」

「クー姉のが歳上っすよね」

「あ、アニキ!?」

「ハッ!」

「そうよ歳上よ! 二十歳よ! この年でなに言ってんだって言いたいの?! どうせ私は売れ残りよぉぉ!!」

「悪かった! 悪かった!! 俺が悪かったぁ!! クー姉はわけーよ!! な?! そうだろタクヤ! ヒール!」

「「そ、そ、そう!」」

 酷いものを見た。

 

 続いてケイスケとナタリア対親父とカナタの試合。なんと親父、ピンポン玉をラケットで破壊して失格。

 

「がっはっは! またやっちまったぜ! 前回は力の加減上手くいったんだがなぁ!」

 怖いよ! なんでピンポン玉が粉々に粉砕するの?! どんな腕力してるの?!

 

「気を付けてよクソジジィ!」

 カナタさんクソジジィ呼びなの?! それともブチギレてんの?!

 

「これで今日の晩御飯は安定ね」

「カナカナに卵が行ったら地獄だかんねー」

「ナタリア……サナ……あんたら私を何だと思ってるの?!」

 

「任せろカナタ」

 トーナメント表に自分のチームの勝ち上がりを書いて来てからケイスケはそう口を開く。

 

「俺が買ったら卵はお前に渡す」

「お前ら絶対にケイスケに勝たせるなよ!!」

「「「おー!」」」

「あんた達ねぇ!!」

 毎回これやってんの?!

 

 第二試合。シードのアカリとサーナリアチーム対アニキとタクヤのチーム。

 いくらタクヤがヘッポコでも最年少女子チームにアニキを連れて負ける事は無いだろう。

 

 

 なんていうのはフラグでしか無かった。

 

 

 アカリは普通なのだが、なんとサーナリアさんは化け物染みた強さを見せ付けてくれる。

 アニキとご互角に打ち合い、タクヤは相手にならない。おいおい嘘だろタクヤ……。

 

 いや、サーナリアさんが強いのだろうか?

 

「タクよっわぁ!! きゃっははは!」

「アカリの前でこんな無様に……てめぇ……」

 まさかの決勝進出チームに驚きを隠せない。そういやサーナリアとはまだ一緒に狩りに出た事が無かったな。

 

 さーて次は自分等の番かと気合いを入れ直していると後ろからツンツンと誰かが指で着いてくる。

 振り向くとそこには勝ち上がれて嬉しそうなアカリが居ていつものスケッチブックを掲げていた。

 

『シンカイ君頑張ってね! 決勝で戦おうね!』

「おぅ、任せとき」

 次の対戦相手アカリのお兄ちゃんなんだけどこっちを応援してくれるんかい。

 

 それはそうと、そんなアカリを見て灰になるタクヤを自分は見ていられなかった。

 

 

「ついに俺と戦う時が来たようだな、シンカイ」

 なぜかラスボスの雰囲気を出しながら歩いてくるケイスケ。いやお前ラスボスと違うから。ラスボスあの腹黒幼女だから。

 

「言っとくけどなケイスケ」

「なんだ?」

「ワイは普通に強いで」

「ふ、それはこっちの台詞だ。俺にはカナタに温泉卵を渡すという義務がある」

 確かにケイスケは強いだろう。強者のオーラがひしひしと伝わってくる。

 だが、ケイスケの相方はナタリアさんだ。

 

「ケイスケを勝たせるなよ!」

「分かってるっすよね? ナタリア」

「勿論」

「……ん?」

 試合は圧倒的差で自分達が勝った。

 なぜかって? あぁ確かにケイスケは強かった。だがこれはチーム戦、相方のナタリアにやる気がなければ一人がどれだけ上手くても勝てる訳が無いのだ。

 

「裏切ったのかナタリア……っ!」

「ごめんねケイスケ君。カナタに温泉卵を渡す訳にはいかないから」

「俺はカナタに温泉卵を渡さなきゃいけなかったのに……」

「ねぇ私の扱い酷くない?」

 いつもは完璧超人とも言えるケイスケだがカナタが関わると突然ダメになるな。

 

「よくやったぞナタリア!」

「ふぁっ、ら、ラルフ君……わ、わたひは別に何も」

「何もしなかったのがよくやった!」

 もう訳分からないから。

 

 

 そして決勝戦。

 

 

「まさか新人が上がってくるなんてね」

 余裕の表情で対面に立ってそう言うのはサーナリア。アカリはやる気満々といった表情で構えている。

 

「まぁ実際何も頑張っちゃいないんやけどな」

 シード枠で準決勝の相手は自滅だからな。

 だから本番はここからというか、最初からクライマックスというか。

 

「とっとと地に這いつくばって私に温泉卵を少しでも分けて下さいと土下座しなさい! そしたら多少は分けてあげても良いかもーなんてーきゃはは!」

「誰がするか!」

 そうまでして食べたくないわ。

 

「……シンカイ、負けたら土下座しよう」

 えぇぇ?! そうまでして食べたいのぉ?!

 

「……だがまずは勝つ事を考える」

「せ、せやな」

 

 

「決勝戦! シンカイガイルチーム対! アカリサナチーム! 試合スタートだ!」

 

 

「よーし初めからやってやあげる! サーナリア様サーブ略してトリプルS!」

 なんて痛い事を言いながらボールを構えて打つサーナリアさん。

 

 そういえばこれまでマトモな試合をしてこなかったからかこの卓球というスポーツがどんな物か話す機会が無かったのでここで話す事にしよう。

 卓球は二人で一対一か四人で二対二でやるのが基本のゲームで、さっき簡単に説明したように机の上でピンポンを打ち返し合い戦う。

 もしピンポンを相手に返せなかったり、返しても机にボールが着かずにあらぬ方向に飛んでいってしまうと相手に点が入って、この大会では先に十五点取った方が勝ちとなる。

 打つ順番も四人では決まっていて、今回はサーナリアから順番にガイルで次にアカリで次に自分からサーナリアに球を返して行くのだが。

 

 

「……」

 何か風圧を感じてガイルの方を見ると、ガイルの頬から血が出ていてピンポン玉は既に背後で煙を吐き出しながら転がっていた。

 

「うそーん……」

 何が起きたんですか?

 玉が見えなかった。なんだ今のは。サーナリアお前一体何者なんだ。

 

 

「……流石だな」

「あいつタダの腹黒ロリじゃ無いんか!!」

『サナは橘狩猟団の一番のエースなんだよ!』

 対面でアカリがそんなカンペを自分の事のように誇らしげに見せてくる。

 うそーん……。

 

「……試合は終わっていない」

「っぁ?!」

 だが次の瞬間そのカンペをピンポン玉が吹き飛ばした。はぁ?! どんな威力?!

 

「ガイルぅぅ?! アカリにも手加減無しなん?!」

「……これは戦いだ」

「あんた!! アカリが怪我したらどーすんのよ!!」

 ガイルは怪我してるんですけどね。

 

「……身体は狙わん」

 だからといって今のは卑怯だと思います!

 

「……ん!」

 アカリのサーブ。かなり緩くて打ちやすいな。やっとラリーが始まると思いながらもミスを誘えるように強めにボールをサーナリアに返すが———しかし。

 

「この下郎!」

「……グハッ」

 結構強めに打ったハズのボールだがサーナリアは簡単に、しかもガイルが吹き飛ぶくらいの強さでボールを返して来た。嘘……だろ?!

 

 

「ガイルぅぅううう?!」

 人が飛んだんだけど。物理的にありえない事が起きたんだけど。

 

「……負ける訳にはいかん」

 もう棄権した方が良いじゃ無いですか……?

 

「……ふぇ?!」

 そしてやっぱりアカリには打てないサーブを放つガイル。そのアカリのサーブを返してそのボールでサーナリアはガイルを吹き飛ばす。

 

「オラァ!」

「……オブォッ」

「ガイル?!」

「……フン!」

「んぁ?!」

「アカリに当たったらどーすんじゃボケェ!」

「……ん!」

「えい」

「オラァ!」

「……オグォッ」

 なんて事を繰り返すだけの作業。この大会まともにラリーしてた事無いんですけど。

 

 見ての通り交互に点を取って行き、お互いが十四点を取った時にやっと気がつく事が出来たのだった。

 このまま続けていたら負ける。

 

 お互いにサーナリアかガイルがボールを打つ度に必ず点が入って、初めに相手側が点を取ってからそれがループしていた訳だから、先に十四点目をサーナリアが取って次に十四点目をガイルが取った。

 今からアカリのサーブを自分が返してそのボールをサーナリアが打つという事は十五点目が入るという事だ。つまり負ける。もう負ける。このままつまらない試合のまま負ける。

 

 

「ぬぅ……なんか悔しいのぅ」

 相手が女の子二人とかそういうのじゃなくて、ただ負けるという事実が悔しかった。

 

 

「……シンカイ」

「な、なんや?」

 そんな事を考えていると隣からガイルが話しかけてくる。

 

「……俺を信じろ。俺はお前を信じる」

「ガイル……」

 そうだ。自分がガイルに言ったんじゃないか、仲間を———自分を信じろと。それなのに自分がガイルを信じなくてどーする。

 

 

「分かったでガイル! お前に賭ける!」

「ハッ! 何したって無駄よ! さーアカリ、私が終わらせてあげるからやっちゃって!」

「ん!」

 やる気満々に撃ってきたアカリのサーブをこれまで以上に強く返す。自分にはこれくらいしか出来ない。

 でも、自分の出来る事を最大限やったつもりだ。だから後はガイルを信じる!

 

「終わりじゃぁ! 吹き飛べ脳筋バカ!」

 吹き飛ばす気なのか?!

 

「オラァ!」

「……グォァアッ」

 自分は出来る限りの事をしたつもりなのだが、やはりボールは簡単に返されてしまった。ありえないスピードで飛んで来たボールは本当にガイルを壁まで吹き飛ばす。

 そんな馬鹿な。物理学ってなんだっけ。アタリハンテイ力学ってなんだっけ。摩擦ってなんだっけ。

 

 

 負けてしまったのか、そう思った瞬間だった。

 

 

 ボールが目の前を通過して、アカリの方に緩やかに山形に飛んで行く。

 

「な?! 返したぁ?!」

「……後は……頼む」

 ガイルの野郎最後の最後にやりやがった?!

 だけど流石に緩すぎてアカリでも簡単にあのボールは返せる。自分がそれを返しても次はそれをまたサーナリアが打つ。

 

 いや、頼まれたんだ。信じて託したんだ、ガイルは。

 

 

「任せろ!!」

「む、無駄だし! アカリ、それ返したら私がまた終わらせるからね!」

「ん!」

 最初で最後のラリーが繋がる。ガイルの繋げたボールは、アカリが自分にそこそこ強めに打ってくるが歳下の女のそこそこ強め程度だ。自分の思い通りに打てる。

 

「お前に託されたこのボール、繋ぐで! ガイル!」

「な、何したって無駄!」

 出来るだけ今の自分に出来る最大の強さで、打つ———振りをした。

 

 ギリギリ最後のとこまで力んで、相手をその気にさせる。返された事に焦ったて居るのだろう、サーナリアは強いボールを警戒して台から少し離れる。

 

 それが分かっていたから自分はゆっくりと、ラケットを振る。ボールはアホみたいに山形に、ネット付近で小さく跳ねた。

 

「うっそ……っ!」

 強いボールを警戒して机の中央から離れていたサーナリアは、そんなボールに反応出来なかったのだろう。ボールはそのまま返される事なく地面に転がったのだった。

 

 

「ま、負けた……」

「「「おぉぉぉぉおおおおお!」」」

 歓声が上がる。

 

「勝者! シンカイガイルチーム!!」

 

「……ありがとう、シンカイ」

「こちらこそや」

 ガイルが自分を信じて全力を尽くしてあの化け物サーナリアさんのボールを返してくれなければ、自分達は負けていた。

 全部お前のおかげだ、ガイル。

 

「……グッ」

 が、そのまま気絶するガイル。

 気絶するほどってサーナリアお前は何者なんだ。

 

「ガイルぅぅううう!?」

「優勝者にはこの草食獣の卵だ」

「うわ目の前で見るとやっぱデカ!! いやそうじゃなくてガイルがだなアニキ!!」

「サナのボールを受けたんだから肋骨の一本はいってるかもな」

「あいつ何者なん?!」

「ガイルは食えないだろうからこの卵は全部お前の物だぜ」

「こんなもん一人で食えるかい!!」

 

 

 この後、草食獣の卵は皆で美味しく頂きました。

 

 

 いや全く———飽きない場所だなぁ、ここは。

 

 




狩りから逃げました←
何してんだろ自分……そろそろ真面目にやらないとな


と、いう事で次回からテコ入れ開始です。
キャラ紹介や環境の紹介も終わったしちょうど良いのです。

次章から本気出す!()
暖かく見守って頂けると嬉しいです……すみません。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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