Q.バカはあっち、テストはこっち。では、召喚獣はどっち? 作:黒猫ノ月
連日投稿どばあっ!
では、投稿です。
Fクラス代表からのいきなりのAクラスへの宣戦布告。予想通り、Fクラスの生徒は皆は戸惑いを浮かべてそれを口にしていく。
「勝てるわけない」
「もし負けてこれ以上設備を落とされるなんて嫌だ」
「姫路さんがいたら何もいらない」
「春野さんを愛でたい」
そんな中、前にいたつみきが振り返り、俺に尋ねてきた。
「……伊御、さっき出ていったのはコレ?」
「ああ、そうだよつみき。明久からの提案で、なんでも俺と姫路さんの為にAクラスの設備にしたいんだって」
「そう……」
「まあ、ほとんどは姫路さんの為みたいだけどね」
「…………そう」
俺の言っていることの意味に気が付いたのかな? つみきの顔が少し赤い。
しかし、雄二はどうするんだろうな? いくら普通のFクラスとは一味違うこのクラスのメンバーでも、流石にAクラスは厳しいと思うが……。
教室のざわめきが静かになっていくのを待って、雄二は自信を持って話を続ける。
「そんなことはない。必ず勝てる……いや、俺が勝たせてみせる」
それでもなお、Fクラスの面々は否定的な意見を覆さなかった。……まあ、そうだろうな。俺もそう思ってるし。けど……。
「……? 何、伊御?」
「ううん。なんでもないよ、つみき」(ぽふっ
俺はつみきの頭に手を乗せ、頭を撫でることで誤魔化す。ついででも、明久の想いは嬉しかった。それに、つみきをAクラスの設備に入れてあげたい。
「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている。それを今から説明してやる」
それでもなお、雄二の言葉は揺るがず自信に溢れていた。流石に何かあるのだと思い始めたのだろう。ざわめきは止まらないが、否定的な意見は無くなっている。
雄二はいつも悪巧みをしているときの不敵で好戦的な笑みを浮かべ、教卓から皆の視線を一身に受けた。そしてその勝つ為の要素であるものに視線を向けた。
「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートの中を覗いてないで前に来い」
「…………!!」(ブンブンッ
「は、はわっ」
必死になって顔と手を振って否定する男子生徒とスカートの裾を抑えて遠ざかる姫路さん。俺はそんな変態な人物を知ってるんだけど……何をしてるんだ、康太。つみきたちの康太に向ける視線が少し冷たいのは気のせいではないはずだ。
顔についた畳の後を隠しながら壇上に上がる康太。……あそこまで恥も外聞なく覗いておいて、今更隠せると思っている康太はある意味すごい。だから“あんな名前”で呼ばれるんだよ、康太。
「土屋 康太。こいつがあの有名な“寡黙なる性職者(ムッツリーニ)”だ」
「…………!!」(ブンブンッ
ああ、雄二が言ってしまった。土屋 康太という名前は知らなくても、そっちの名前はこの一年であまねく生徒に知られているはずだ。事実……。
「ムッツリーニだと?」
「馬鹿な、奴がそうだというのか……?」
「だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠を未だ隠そうとしているぞ……」
「ムッツリの名に恥じない姿なんじゃよ」
Fクラス男子生徒が畏敬の念を康太に向ける。例えどれほど確かな証拠があれど、自分の下心は隠し通す。あの異名はそれを表してる。
「「???」」
ああ、姫と姫路さんの頭に疑問符を浮かべている様子にほっこりする。君たちは純粋なままでいてほしいよ。
「姫路のことは言うまでもないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」
「えっ? わ、私ですか?」
「ああ。うちの主力その1だ。期待している」
姫路さんは確かつみきさえも超える、学年一桁台の頭脳の持ち主のはずだ。それは俺たちの学年では有名なことだ。
「そうだ。俺たちには姫路さんがいる」
「彼女ならAクラスにも引けを取らない」
「姫路さん結婚してください」
彼女を賞賛する中に、熱烈なアタックをする奴がちらほらいるけど……あれはネタだよな? 本気じゃ……ないよな?
「ウチの主力その2とその3、御庭 つみきと音無 伊御だってそうだ。この2人もAクラス相手に十分戦える」
俺たちの名前も呼ばれた。ってことで2人揃って壇上に上がる。
「御庭さんと音無か。……分かっているな?」
「あの2人は黙ってニヤニヤ見守ること……常識だ」
「そうだ。あの微妙な距離感を微笑ましく眺めるのだ」
「あそこまで来ると、妬みも嫉みも湧いてこないからなぁ」
「早く自覚しろよにぶちん」
「ばっか。あの悶々とする感じがいいんだろうが」
「御庭さんファイト」
……何だろう。康太と姫路さんと違って、なんか生暖かい視線が向けられるのだが。って痛い痛い。つみき、なんでかは分からないけど頭を噛まないで。
「そして主力の最後の1人。春野、来てくれ」
「ふえっ? わ、私もですかぁっ!?」
「もちろんだ。Cクラス並みの実力は、科目によってはAクラスに匹敵する。頼むぞ」
「は、はひぃ。……が、頑張りますっ!」
姫がおどおどしながらも、雄二の言葉にしっかりとした返事を返す。姫は持ち前の天然を出さなければ、しっかりと実力以上の力を出してくれるはずだ。
「木下 秀吉だっている」
秀吉は学力こそ低いけれど、こと演劇に関することではおそらくこの学校で右に出るものはいない。……康太の時点で気付いていたけど、秀吉の名前を出すってことはまともな戦い方をしない気だな雄二のやつ。
「片瀬 真宵。……知らない奴はいないよな?」
「「「「「ああ」」」」」
「んもーぅ。照れるんじゃよっ☆」
違う真宵。皆はお前に対してある意味恐怖の視線を送っているんだ。……何をしでかすか分からないから。この一年で真宵の起こした事件は数知れず。軽いお巫山戯から重い悪戯まで多種多様だ。やっぱり雄二は正々堂々戦わないつもりだ。
「当然俺も全力を尽くす」
「確かに何だかやってくれそうだ」
「坂本って、確か昔は神童って呼ばれてたんじゃないか?」
「なら、振り分け試験では手を抜いていたのか?」
「やれるっ! これだけのメンツが揃えばAクラスだって……!」
徐々に熱気を帯びていくFクラスの教室。……うん。まともに戦えばDクラスまでは行けるかな。そこからは雄二の策に期待しよう。……そういえば、明久は呼ばないのか? だって明久は……。
「それに、吉井 明久だっている」
…………シンッ…………
一気に熱気が冷めていくFクラスの教室。……あれ? 明久のことって有名じゃなかったのか?
「ちょっと雄二! どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ! 全くそんな必要ないよね!」
「誰だよ、吉井 明久って」
「聞いたことないぞ」
「ほら! 折角上がりかけた士気に翳りが見えてるし! 僕は雄二達と違って普通の人間「「「それはない」」」馬鹿なっ!?」
明久が普通の人間な訳ないだろう。世迷いごとを言うんじゃありません。
「そうか。知らないようなら教えてやる。こいつの肩書きは『観察処分者』だ」
俺達知ってる組が大きく頷く。うん。それなら皆知ってるだろうね。……明久がなんで言ったのっ? みたいな顔してるけど、これは言わないとダメだろう。
「……それって、バカの代名詞じゃなかったか?」
教室の誰かがそんなことを口にした。やっぱり知ってるよね。
「ち、違うよっ! ちょっとお茶目な16歳に付けられる愛称で「「そうだ(じゃよ)。バカの代名詞だ(じゃよ)」」肯定するな! バカ雄二と真宵さん!」
ある事件の後に押された烙印なんだけど……よく退学にならなかったなぁ明久。まあ、滅多に課せられるものでもないから相応の処分なんだろうけど。
俺が物思いに耽っている間に、姫路さんに雄二が『観察処分者』について説明しているようだ。
「凄いですね。試験召喚獣って見た目と違って力持ちって聞きましたから、そんなことができるなら便利ですよね」
「あはは。そんなに大したもんじゃないんだよ」
姫路さんはキラキラとした視線を明久に向けている。その視線には羨望と尊敬が込められてるみたいだけど……それは決して現在進行形で処罰を受けている状態を指す明久に向けていいものではないよ、姫路さん。
それに、この召喚獣にはそれ相応のデメリットが存在する。それは召喚獣の負担が何割かフィードバックして使役者に返ってくること。痛みさえフィードバックするから、処分としてはかなり重い。
ほら。『観察処分者』について詳しく知っている人達がデメリットについて話している。明久もあまり試召戦争に参加するつもりはないみたいだけど……。
「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ。こんな雑魚でも使い道がある」
「雄二。フォローがフォローになってないよ!」
やっぱり。雄二は明久も使い潰す気だ。……仕方ない。
「大丈夫だよ明久。俺がちゃんとフォローするから」
「い、伊御っ!」(うる目
「おいおい。あんまり甘やかすなよ伊御。伊御の役割もちゃんとあるんだからな」
「ああ、任せろ」
俺は雄二に向けて頷く。
「さて、勝利への要素は揃えた。これより、俺達の力の証明としてまずはDクラスを征服してみようと思う」
雄二の言葉に各々がやる気を見せながら立ち上がる。
「皆、この境遇は大いに不満だろう?」
「「「「「当然だ!!」」」」」
「ならば全員筆を執れ! 出陣の準備だ!!」
「「「「「おおーーっ!!」」」」」
「俺たちに必要なのは卓袱台ではない! システムデスクだ!!」
「「「「「うおおーーっ!!!」」」」」
「「お、おー……」」
クラスの雰囲気に押されながらも、姫と姫路さんも小さく拳を作り掲げていた。……2人の様子にほっこりする。
「明久にはDクラスへの宣戦布告の死者になってもらう。無事大役を果たせ!」
雄二がこの盛り上がった流れで明久に大役を任命した。なんだかんだで明久のことも考えてるんだよな、雄二は。
「……下位勢力の宣戦布告の使者って大抵ヒドイ目に遭うよね?」
「大丈夫だ。奴らがお前に危害を加えることはない。騙されたと思って行ってみろ」
「本当に?」
「もちろんだ。俺を誰だと思っている」
それでも少し逡巡する明久に、俺が声をかける。
「明久。折角雄二が任命してくれたんだ。行ってきなよ」
「……わかったよ。それなら使者は僕がやるよ!」
「ああ、頼んだぞ」
クラスメイトの歓声と拍手に送り出され、明久はDクラスに向かった。
「ナイスフォローだ、伊御」
「? 何がだ雄二?」
「……まさか無自覚だったのか」
「なんのことだ?」
「伊御さん、明久さんは神風となったんじゃよ」(ビシッ
「……え?」
●○●○●○●○●○
「騙されたぁっ!」
這々の体で転がるように教室に入ってくる明久。……凄いボロボロだ。
「やはりそうきたか」
その様子に平然と頷く雄二。……お前を信じた俺がバカだったよ。
「やはりってなんだよ! やっぱりヒドイ目に遭うことは予想通りだったんじゃないか!」
「当たり前だ。そんなことも予想できないで代表が務まるか」
「すこしは悪びれろよっ!」
肩を怒らせる明久に俺が頭を下げる。
「ごめん明久。俺はこうなるって知らなくて……」
「い、伊御は謝らなくていいんだよ! 伊御がこんな腹黒ゴリラみたいに騙したんじゃなくて純粋に想ってくれたのは分かってるから!」
「でも……」
「ほんとにいいから! これ以上伊御に謝られると僕の精神がガリガリ削られるっ!」
「……うん、ほんとごめん」
「……伊御、さすがに俺もクるものがあるからその辺で頼む」
雄二が顔を背けてそう言ってくる。……なら最初からしなければいいのに。
「優しい人代表の伊御さんにあそこまでさせたら、そりゃあ堪えるにゃあ」(ボソッ
「そうね。坂本も思わぬカウンターを食らったわね」(ボソッ
真宵とつみきが何やらボソボソ言っている横で、姫路さんと島田さんが明久と話している。……なんか明久が腕を抑えてバタバタし始めたけど、どうした?
「そんなことより、今からミーティングに向かうぞ」
雄二がそう言って教室から出て行く。ここでは話し合いをする気は無いようだ。真宵や姫、秀吉や姫路さんがそれぞれ明久を慰めてから雄二の後を追った。
「伊御、行こ?」(くいくいっ
「うん。行こうかつみき」(ぽふっ
「……うん」(ネコミミぴこぴこ
俺もつみきと一緒にその後に続いた。
【おまけ】
「…………」
「全く。ムッツリーニは本当に性に関する知識だけはズバ抜けてるね」
「…………!!」(ブンブンッ
「……うん? どうしたの島田さん?」
「……どうしたらあんなふうに親しく……」(ボソッ
「島田さん?」
「うぇっ!? な、何よ吉井!」
「えっ。みんなで話し合うから移動するんでしょ?」
「え、あ、そうね。……行きましょうか」
「???」
「……素直じゃ無い」
如何でしたか?
いやー、伊御さんは難しいっ!
違和感がなければ良いのですが……(汗
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