その男、八幡につき。   作:Ciels

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鶴見留美の夏

 

 

 

 

 薄暗い森の中を歩く。

後ろには先ほどの黒髪ロングの少女。

少女は相変わらず下を俯いて、デジカメを大事そうに握っていた。

時折後ろを振り返り、大丈夫か、なんて尋ねるが少女は頷くだけだ。

 

気まずい。

 

自分から少女に手を差し伸べておきながら、何も気の利いたことなんて言えない。

普段ならば相手が同い年だからどうにかなる。

でも、今の相手は小学生だ。しかもそれなりに心に問題を抱えていると来た。

こういう時期の子供は些細な事で傷ついたりするくらい繊細だ。

本来ならば俺が手を出して良いものではないのだろう。

 

それでもこの少女が見捨てられなかった理由は、自身と重なったからだろう。

俺も同じような幼少期を過ごした。

一人で寂しい、ぼっちだった。

 

別にボッチであることをとやかく言うつもりは無いが、誇るつもりも今は無い。

中学の時は色々あれだったから、ぼっちは誇らしいなんて思っていたが……

ただ、世渡りが下手なだけだ。

今ではそれに拍車をかけるように色々な記憶と人格がしっかりと覚醒しているから、褒められたものではない。小町はよくやってるなぁ。

 

 

「……それ、大事なの?」

 

 

ふと、気まずさに耐え切れなくなって話しかける。

少女は手にしたデジカメを指差した。俺も頷く。

 

 

「……お母さんが、友達とって」

 

 

「……そうか」

 

 

しまった、地雷だ。

寄りにもよってそこに触れてしまった。

また沈黙が続く。

 

 

数分歩いて、俺は左右を見回す。

うーん、ここさっきも来たなぁ、なんて考えて地図を取り出す。

分かんねぇ。迷ったなぁ。

 

 

「……ここ、さっきも来なかった?」

 

 

ふと、後ろの少女も気が付いたように言った。

俺は振り返って、気まずそうに周りを見回す。

 

 

「うーん悪い。迷った」

 

 

「は?」

 

 

威圧する様に少女は言った。

この子、大人しそうに見えて結構威圧感凄いな。

やっぱり雪ノ下を小さくしたみたいだ。

 

 

「とりあえず、こっち行こう。な?」

 

 

「……はぁ」

 

 

ため息がもろに聞こえてくる。

そんなのこっちだってしたいよ馬鹿野郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どこだここ?」

 

 

しかめっ面をして辺りを見回し、地図も見る。

気が付いたら川に出ていた。

地図を見てみるが、川が何個もあって役に立たない。

せめてどこの川なのか分かればなぁ。

 

なんて思っていると、少女が空を指差す。

少女の傍に寄ってしゃがみ、目線を合わせて指差す先を見る。

そこには輝く太陽が。眩しくて思わず目を閉じた。

 

 

「眩しいなお前馬鹿野郎、太陽が何なんだよ」

 

 

口調はすっかり元通りになっていた。

ただでさえ暑いし迷ってストレスが溜まっているのに、口調まで変えるなんて器用な真似できない。

 

 

「今、十一時半だから太陽の位置はほとんど南」

 

 

ほー、なんて感心したように頷く。

そういや昔学校でやったな。小学校の時だったかは忘れた。

 

 

「お前賢いなぁ」

 

 

「あんたが馬鹿なだけ、おじさん」

 

 

突き刺すような言葉に固まる。

こいつこのままじゃ雪ノ下みたいな氷属性になりかねない。

あと、俺は高校生だ。

 

 

「おじさんじゃねぇよお前、俺高校生だよ」

 

 

「どうでもいい。ほら、地図みせて」

 

 

見せて、と言った割には俺から地図を奪っていく少女。

今気づいたけど俺には敬語使わないんだなぁ、無礼な奴だよこいつ。

 

少しばかり少女は地図とにらめっこ。

そして後ろを指差した。

 

 

「あっち」

 

 

そう言って少女は歩き出す。俺の地図を持って。

大人の立場を失った俺は渋々黙って少女について行く。

なんだかなぁ。

 

 


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