放課後、奉仕部。由比ヶ浜は今日も来ない。
俺は椅子に座り、本も読まずにただ俯いて時間を過ごす。
いつの間にか標準装備と化しているサングラス越しに見る世界は暗い。
暗く、先が見えない。
見えているのは、テーブルに置かれたマッ缶。
それと時々見える、本を読む雪ノ下。時折チラチラとこちらを覗くが、話しかけてはこない。
時計を見る。もうすぐ下校時間だ。
「……由比ヶ浜さん、最近来ないけれど。喧嘩でもしたの?」
「……うるせぇよ」
久しぶりの雪ノ下との会話。
由比ヶ浜とは喧嘩していないが、雪ノ下とはやや喧嘩腰で話す。
聞かれたくない事を聞かれると、どうしてもこうなる。
無視してもいいが、どうしても歯を向けてしまう。
そう、と雪ノ下はあっさりと引く。
そのあっさりさがどうも気に入らない。
俺は雪ノ下を睨んだ。それでも彼女は動じない。
俺が、彼女を気に入っている部分の一つ。
「……お前、由比ヶ浜からなんか言われたか」
「……怒ったり尋ねたり、忙しいわねあなた」
にやりと笑みを見せる。
「ないわね。そもそも会ってすらいないわ」
「お前らしいな」
「どういう意味かしら」
ケタケタと笑う。
雪ノ下は相変わらず冷静さを貫いている。
こういう所だ、俺が落ち着いていられる部分は。
名前の通り、雪ノ下という女は冷たい。
俺は携帯を取り出す。
そしてアドレス帳を開き、数少ない名簿の中から由比ヶ浜を選択する。
スパムメールのような名前を鼻で笑いながら、アドレス部分を見た。
0618。
四ケタの数字が連続して並んでいた。
それだけを確認すると、また携帯を制服の内ポケットへとしまう。
「おい雪ノ下」
再び静寂が蔓延る部室に、声が響く。
「何かしら」
「お前明日暇か?」
そう尋ねると、雪ノ下は訝しむような目で俺を睨んだ。
「警察を呼ぶわよ」
「なんで俺が何かやらかすこと前提なんだ馬鹿野郎。……由比ヶ浜、誕生日近いだろ」
パタンと、雪ノ下が本を閉じる。
よく見れば栞をしていない……まだ読み途中だったはずだが、いいのだろうか。
「ええ、そのようね。あなたが携帯を見たのはその確認かしら?」
頷く。
「プレゼント、選ぶの付き合ってくれ」
そう言うと、雪ノ下は驚いたような顔をした。
というより、確実に驚いている。
「驚いた……あなた、意外と気が利くのね」
罵倒とも感心とも取れるその言葉に、俺は笑みを見せた。
しばらくして、とうとう下校時間がやってきた。
俺と雪ノ下は帰る準備をして部屋を出る。
こっそりポケットに隠していたタバコを確認し、鍵を閉める雪ノ下を待つ。
鍵を閉め終え、俺と雪ノ下は廊下を歩く。
「あなたまで着いてこなくていいわよ、危険だから」
「そりゃ俺の身を案じてるのかバカにしてんのかどっちだ」
小言を言い合いながら、また歩く。
……若干の物足りなさを感じながら。
途中、平塚と出くわして何か言ってきたので、結婚できないことをネタに遊んでいたら殴られた。
やっぱり、あの子がいない奉仕部は、物足りない。