遅刻した。
朝のホームルームを余裕ですっぽかし、あと数分で一時限目が始まるぞと言う所で俺は教室に到着する。
到着して早々、ホームルームを仕切る平塚に目を付けられることは予想していたのだが、まさか殴られそうになるとは思いもしなかった。
とりあえずなんとか殴られまいと言い訳を口からほいほいと放り出す。
だがまぁ、俺にそんな器用な事ができるはずもなく。
「しょうがないでしょ遅刻は。やっちまったんだから。重役出勤っすよ」
「せめて言い訳ぐらいしろ。君の場合は重役というか組長出勤だろう」
組長出勤とかいうセンスはどうかと思うが、本当にその通りだと思う。
だが、下手な言い訳で殴られるよりも直球で勝負した方が良いだろう。
「それで?なぜ遅刻した」
「妹とゲームしてたんですよ。仲睦まじいじゃないですか」
その答えに平塚はため息をつく。
タバコとコーヒーの、相性最悪の臭いが鼻につく。
あまりにも不快なその臭いにイラッとしてしまった俺は、
「まぁあんたにはそこまでの仲の男はいねぇか、ハハ」
「オラァッ!!!!!!」
平塚の拳が飛んでくる。
何となく予想していたそれをしゃがんで避ける……が。
ドスンッ、という鈍い衝撃がこめかみに響いた。
一瞬だけ意識が飛びそうになるが、堪えて今の攻撃の正体を見極める。
なんと、平塚は拳を振るった直後にハイキックをぶち込んでいたのだ。
これ体罰として十分成立するだろ。
「ドラァッ!!!!!!」
だがそれで攻撃は終わらない。
今度は足を大きく振り上げる……踵落としだろうか。
よく足が上がるなぁ、スカートだったらなぁ、とだらしない事を考えながら、防御に入った。
が、
ゴッ、ドンッ。
ガードを無視して頭にヒールが突き刺さる。
「いってぇ!!!!!!」
頭へのダメージが蓄積して、とうとう俺は尻もちをついて転がってしまった。
これ俺以外の奴にやったら死ぬんじゃないだろうか。
平塚は心底不機嫌そうな顔で俺を見下す。
「この野郎、ちょっと女と惚気てるからっていい気になるなよ」
焚き付けたのは俺だが、妹と戯れている事を惚気と言ってしまうあたり、この人には余裕がないらしい。
ちょっとこの暴力的な面と、男のような趣味趣向を改めれば、男の一人や二人は見つかるだろう。もっとも、いい関係に行くまでにボロが出そうだが。
と、そんな時だった。
平塚が、倒れている俺ではなく、教室の入り口を見る。
うつ伏せから仰向けへ転がってそちらを見てみると、そこには長身でスタイル抜群の、ポニーテールの女がいた。
もちろん制服を着ているのでここの生徒で、おまけにこの教室に入ってきたからにはこのクラスなのだろうが、俺はこんな女知らない。だって友達いねぇもん。
「まったく、このクラスには問題児が多くてたまらんな、川崎 沙希。君も重役出勤かね?」
葉山の事かな?
あ、俺か。
川崎と呼ばれた女は、頭を軽く下げて挨拶。
そしてそのまま自分の席へと行こうとする……おい待てこの野郎、こいつには殴らねぇのか。卑怯だぞ。
俺がそのことを言おうとした、その時。
丁度、俺の横を通ろうとした川崎のスカートの中が見えた。
黒のレース……なかなか際どいもん付けてんじゃねぇか。
「黒のレースなんてエロ画像でしか見た事ねぇなぁ」
笑みを溢しながらそう告げる。
だが、
「馬鹿じゃないの?」
と、バッサリ切り捨てられる。
「本当にバカじゃないのか君は……」
次いで平塚にも。
俺は笑ってごまかし、そそくさと席へと戻って葉山を睨んだ。